定年後の働き方   (平成20年12月21日)

いま60歳になる人は、厚生年金に1年以上加入していれば、
60歳から「特別支給の老齢厚生年金」の、報酬比例部分がもらえます。

そして会社からも、このまま働いて欲しいと言われたら、
以後、年金と給料をもらうことになります。

そうなると、
『給料の額によっては、年金が減らされるんでしょ?』
『雇用保険から「高年齢雇用継続給付」をもらうと、この分に関しても年金が減らされるんでしょ?』

『まだ家のローンもあるし、今は手取りが多い方がいい』
『どのような働き方が一番得なの?』

と疑問がわくでしょう。

とは言っても、定年後の働き方を決める際、税金や雇用保険、家族の社会保険料、
自分の健康等を考慮しなければならないので、一概に「この働き方がいい」とはいえないのです。


ということで、年金を減らされない働き方についてお話します。

年金をもらっている人が、
 ・厚生年金に加入しながら働くと、
 ・その報酬額によっては
 ・老齢厚生年金が減額されます。

これを「在職老齢年金」と言います。

逆に、この要件を満たさない形で働けば、年金は減らされないということです。


具体的に見ていきましょう。

◆厚生年金に加入しながら働くと年金が減らされるのだから、 
 厚生年金に加入しなくてもいい働き方にすればいいのです。

 たとえば、
 ・1日または週の所定労働時間が正社員の約3/4未満   または、
 ・月の所定労働日数が正社員の約3/4未満

というような働き方が該当します。 
  (ただし、社会保険事務所の調査が入ると、その“実態”によっては
     否定されることがあります。)


そうすれば、厚生年金に加入しなくてもいいので、
在職老齢年金による減額は適用されません。
体力的にも、パートで働くほうが楽です。

しかし、給料の手取りは、やはりフルタイムの方が稼げます。 (税金は増えますが)
それに、扶養家族がいるのであれば、健保や厚年に加入しないことで
あらたな保険料負担が出て来ることもあるでしょう。

それに、厚生年金に加入し続ければ、会社を辞めてからの年金額は、その分増えます。

などなど、両者とも一長一短があるので、
これらのことを十分考慮してから、定年後の働き方を決めてください。

他には、

公務員になって共済年金に加入する、
個人商店に就職する、 起業する、 という方法もあります。 
 
つまり、厚生年金の被保険者になりさえしなければ、
在職老齢年金で減額されることはない、ということです。

 
◆厚生年金に加入しながら60歳以降も働くのであれば、
 その報酬額がカギとなります。

 「報酬額」とは、  月給 + (過去1年間の賞与額÷12月) です。

 そして、その「報酬額」と「毎月の年金額」の合計が28万円を超えると、
 その28万円を超えた額の半分が、年金から減らされるのです。(60歳台前半の場合)

 たとえば、報酬額+年金額=30万とすると、 30万−28万=2万 
 この2万の半分、つまり1万円が、年金額から減らされるということです。

 ですから、定年をまもなく迎える人は、まずは社会保険事務所で年金の見込額を
 出してもらってください。 そこから対策を練りましょう。

 ちなみに、計算する際の年金額には、厚生年金基金の「代行部分」も含めてください。

 
老齢の厚生年金だから、減らされる。 これが障害や遺族の年金なら減らされません。
 在職老齢年金で減らされるのは、 あくまで「老齢厚生年金」だけです。

 ですから、遺族や障害の厚生年金を受けられる人は、あえてそちらを選ぶという手もあります。
 遺族や障害の年金は非課税ですし。

 いずれにしろ、一度、社会保険事務所で相談してみてください。


<余談です>

 年金は1回の説明で理解できるほど簡単ではありません。

 せめて50歳を過ぎたら、基本的な年金の勉強をしておいたほうがいいと思います。
 その方が、相談する際、しっかり内容を理解でき、今後の生活設計に活かせるからです。
 誤解したままだと、損をするのが年金です。


              *           *


次に、
この在職老齢年金に、雇用保険が絡むとどうなるのか? についてお話します。


●まず、60歳で会社をスパッと辞めたケース。

 この場合、老齢厚生年金を受ける権利に加え、雇用保険の基本手当を受ける権利も発生します。
 しかし、残念ながら両方はもらえません。 この場合、年金がストップします。
 
 こういう人が職安で基本手当の手続をすると、職安は定期的に、その情報を社会保険事務所に流します。
 それにより社会保険事務所は、その間、年金をストップさせます。
 そして、無事、基本手当をもらい終われば、その情報も職安から社会保険事務所に流れるので、
 自動的に年金が復活します。 事後精算もなされます。
  

●次は、定年後も働き続けるケース。

 再雇用か転職かとなれば、ほとんどの場合、給料は下がります。
 その額が、原則、60歳時点の給料の3/4未満にまで下がれば、
 雇用保険から給付金がもらえます。

 これを「高年齢雇用継続基本給付金」と言い、65歳に達した月まで、
 要件に該当すればもらえます。

 国としては、原則の年金がもらえる65歳までは、企業になんとか面倒を見てもらいたいのです。
 そして、企業に義務を課すのだから、国も、事業主の負担を少しでも軽くしようと、
 このような給付金を支給しています。
 労働者も、お金が少しでも補助されるのであれば、「ま、いっか」となります。

 しかし、手放しでは喜べません。 なぜなら、この場合、
 年金も少し減らされてしまうからです。(厚生年金に加入している人のみ)

 つまり、在職老齢年金の調整に加え、高年齢雇用継続基本給付金によっても
 年金が減らされるということです。 ダブル減額 です。

 
以上、相当ざっくりお話しました。

細かい内容はわからなくても、年金に雇用保険が絡んでくると、ますます複雑になって、
年金がストップしてしまう、または、年金がダブルで減額されることもある、という
アバウトな内容だけ、とりあえずは押さえておいてください。

そして、定年後の働き方を検討する時は、これらのことも考慮するといいのではないでしょうか。

定年後の働き方は、人によって様々です。いろんな選択肢があるので、とても迷うところです。

損か得か、だけに着目すると、人の寿命や、健康状態、失業等、予測できない要素が絡んでくるので、
後に「こんなはずではなかった・・・」と後悔することもあるかもしれません。

ですから、損か得かのものさしは、あくまで働き方を決定する際の参考要件にするぐらいにして、
定年後、やりたいことがある、自己実現したい、という夢があるのであれば、その思いを土台にして、
働き方を決めるのが一番いいように思います。

雇用保険は有期給付ですし、年金は長生きした時の生活保障です。

それぞれの給付の特徴を把握し、定年後の生活設計に上手に活かしていけるといいですね。




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