退職を撤回したい
  平成21年4月19日
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会社に日ごろから不満があり、ある時ついに
「会社を辞めます!」 と、退職願を出した経験はどなたにもあると思います。

しかし、その後で、
・次の転職先から内定を取消された  とか、
・辞める原因だった嫌な上司が転勤になった  などで、

「やはり、退職したくない」となった場合、
はたして、退職を撤回することが出来るのでしょうか?


退職を申し出たその人、その状況、会社側の思惑等々で、
結果が違ってくるとは思いますが、
法的には、どのようになっているのでしょう?



退職の意思が固まった場合、
直属の上司に、まずは口頭で伝えていると思います。

この、口頭での退職の意思表示は有効ですが、

退職後、「退職じゃなく、解雇されたんだ」 とか、
「退職するつもりはなかったんだ」 などというトラブルになることが多いので、
やはり、書面は交わしたほうがいいでしょう。

ということで、会社は労働者に退職願を提出させます。



退職を撤回できるかどうかの決め手は、

退職願が、
・人事の決裁権を持つ人に承諾されたか、
・会社の承諾が、本人に伝えられたか、 です。

過去の裁判例でも、
 退職願の効果は、会社の承諾により発生するので、
 それまでの間は、原則、撤回できる。
 ただし、その撤回が会社に損害を与えるなどの
 特段の事情がない場合に限る。(昭和自動車事件 ほか多数)


ですから、
退職願を、いつまでも決裁権限のない直属の上司が
預かったままにしていると、退職の撤回が有効になってしまいます。

その部下を辞めさせたくない場合はいいでしょうが、
そうでない場合は、さっさと決裁権者に承諾してもらい、
本人にもその旨伝えましょう。
そうすれば、労働者もあきらめがつくでしょう。

また、承諾はしたんだが、そのことを本人に伝えていない、という場合も、
退職の撤回が有効になってしまうことがあります。(泉州学園事件 S57)

手続は、最後まで手を抜かず、きっちりと行いましょう。



とはいっても、このような手続を踏んでさえいれば、
間違いなく、退職は有効に成立するのでしょうか?

たとえば、
その退職願が、本人ではなく、父親が会社に協力する形で
作成された場合、退職は認められません。
 (住友ゴム工業事件 S57.5.27 神戸地裁)

また、たとえ、その退職願を、
本人が作成したものであったとしても、

・その退職の意思表示が、反省の意を強調するためのものであり、
 その事を使用者側も知っている場合、「心裡留保」により、
 退職は無効となります。(昭和女子大学事件 H4.2.6 東京地裁)

・懲戒解雇になると誤信させて退職願を提出させ、そのことを
 使用者も知っていた場合、要素の錯誤で、退職は無効となります。
              (徳心学園事件 H7.11.8 横浜地裁)
 
・使用者から退職願を提出するよう強迫されて提出した場合、
 退職は無効となります。
 

これらの退職強要行為は、
たとえ裁判で退職自体が有効とされたとしても、

会社の言動に行き過ぎがあれば、労働者に対する人権侵害で、
損害賠償責任を問われることも十分ありえます。

リスクの高い解雇ではなく、自主退職に持ち込みたいからと、
強引に退職願を取ることだけに固執し、退職を強要することは、
厳に慎みましょう。


このような退職強要は別としても、
一旦、退職の意思表示をしてしまうと、
裁判をしても、なかなか覆ることはありません。

退職は、くれぐれも慎重に。
意に沿わない退職は、しないようしてください。


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