出張とは (平成20年9月21日)


知人はたびたび出張に行きます。海外だったり、国内だったり。

出張の移動日が土日にかかっても、会社からは、
休日出勤のような割増賃金は出ないので、みんな不満を抱えているとのこと。

さて、出張はどのように取り扱われるのでしょう。


出張を2つに分けると
 『移動時間』 と 『労働時間』になります。

出張現場での『労働時間』には、当然、通常の賃金が発生します。
そして、その労働時間が8時間を超えたら、
超えた分は残業時間となり、割増賃金が発生します。

しかし、出張の場合、現地での労働時間を把握することが
困難な場合もあるでしょう。

それに備えて、出張時は『みなし労働時間制』を適用させる
会社もあります。(労基法第38条の2第1項)


次に『移動時間』。

移動時間の考え方にはいくつか説があり、難しいところです。

◆移動時間=通勤時間 とする説
  つまり、移動時間は労働時間ではないので、賃金は発生しないし、割増賃金もない。

◆労働時間 とする説
  業務命令の出張に付随するものだから「労働時間」。

 とはいっても、移動中は「使用者の指揮監督下」にはない。
 つまり、現場に向かっている車中では、新聞を読もうが寝ていようが、
 本人の自由ですよね? 時間的には拘束されるが、何をやるかは自由。

 これは、労働しているとは言えないので、
 労働基準法上、この移動時間は労働時間に当たらないと解釈されます。

しかし、運送業務のように、その移動自体に業務性がある、
という場合は労働時間とされるなど、本当にケースバイケースです。

つまり、
 ・移動時間の過ごし方自体を、会社に管理されているか、
 ・移動時間の過ごし方自体に、業務性があるか、
 が、移動時間の判断基準になるのでしょう。


判例では、
 ◆出張の移動時間は通勤と同一視する(日本工業検査事件)
   というものもあれば、
 ◆業務に付随するんだから労働時間とする(島根県教組事件)
   というものもあります。


通達(S33)では、
 出張の移動時間が、休日や早朝、深夜になったとしても、
 純粋な移動時間である限り労働時間にはならず、
 労働時間でない以上、割増賃金も発生しない、

という解釈をしています。


今のところ『移動時間=通勤時間』 とするのが多数のようなので、
疑義がある場合は裁判をするしかないようです。


では、長時間移動を強いられる海外出張はどうなるのでしょうか?

結論は、

たとえ海外出張であっても、原則、移動時間=通勤時間 とみなすようです。。。


これに納得出来ないのは、当の労働者でしょう。
いくら移動中に労働していないとはいっても、
貴重な時間(休日)が、仕事のために拘束されているのは事実なのですから。

そこで会社側も、日当を出すようにしているのです。
満足出来るものかどうかはわかりませんが。

ちなみに日当は税法上、非課税です。ご安心ください。

就業規則や出張旅費規程等で規定しているはずなので、
一度確認してみるといいかもしれません。


以上、出張と労働時間との関係だけを見ましたが、
出張、特に海外出張に関しては、健康面での配慮も必要になってきます。

ここからは、出張者の健康面を中心にお話します。

バブル崩壊後、安い労働力確保のため海外に工場を建設したり、
外資系の子会社となった、
取引先が海外に多い、など、
時代の流れとともに海外出張も増えてきました。

海外出張は、長時間移動の負荷だけではなく、
高所恐怖症の人やエコノミークラス症候群の人には
飛行機に乗ること自体が相当なストレスになります。

それに加え、時差、食事、環境の違いなど、
想像以上に過重な負荷がかかります。

海外旅行が出来ていいじゃん、などとお気楽なことでは済まされないのです。

会社側が、海外出張者に過重な負荷がかかっているかどうかを判断するには、
 ・海外出張の頻度、
 ・宿泊施設の状況
 ・出張中の睡眠や休憩の状況  等を基準にするといいでしょう。

出張には、先のような「労働時間かどうか」の問題もありますが、
出張社員の健康に対する会社側の配慮があるかどうかの問題もあります。
これを怠ると、のちにとんでもない事件に発展してしまう危険性があります。

このような裁判例があります。

海外出張の多い労働者が、帰国後過労で倒れました。
監督署長は労災認定をしませんでしたが、裁判では「過労死」と認定されました。
(H13.2.8 横浜地裁 アジア海測事件)

この労働者の死は、
 ・海外出張による疲労と職務のストレスが原因で、死に至るほどの不整脈が発症し死亡したこと、
 ・それ以前にも、長期の海外出張や国内出張が続いており、疲労が相当溜まっていたこと、
 ・出張先は、ゆっくり休息できる状況ではなかったこと、  等により、労災と認定されました。
 

このような不幸な事件を踏まえ、会社側は、
労働者から申出があれば、または無くても、
 ・休暇を与える
 ・出張を減らす、
 ・出張の内容を見直す、
 ・1人にばかり出張を課さない   等の、労働者の健康を考えた対策が必要です。

また、休暇を与える場合も、出来れば『有給の特別休暇』にするなどの配慮
が望ましいと個人的には考えています。

先ほども触れましたが、会社側には、労働者の健康を気遣うという
「安全配慮義務」が課せられています。

今年の3月に施行された「労働契約法」では、
この「安全配慮義務」が明文化されました。(同法第5条)

いくら労働契約上は対等といえども、実際は、使用者に命令されれば、
海外出張だろうとなんだろうと行かざるを得ないのが労働者です。
ですから、使用者にはそれなりの配慮義務が生じるわけです。

会社側は、労災事故だけではなく、
労働者の「健康」にも配慮しなければならない、ということです。

会社のために慣れない土地に出かける労働者に
気持ちよく仕事をしてもらえるよう、会社側の優しい対応を期待します。 

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