女性が働き続けられる会社とは 〜セクハラ編〜
 (平成20年10月12日)


セクハラについてお話します。

平成19年の均等法改正で、男性に対するセクハラも禁止されました。
つまり、男女とも、被害者にもなるし加害者にもなるということです。

今回は、圧倒的に多い、女性に対するセクハラを中心に書きます。


セクハラとはいっても、パワハラ等と同じように、
結局は、相手に対する配慮や思いやりの欠如が根本原因なんだと思います。

それが異性相手ならセクハラ、 部下相手ならパワハラ。

自分より立場の弱い相手に嫌がらせが向かうところに
この問題の根の深さを感じます。


まず一番の問題は、
どういうことをするとセクハラになるのか? 


私も過去いくつかの職場を転々としました。
その経験から言わせていただくと、

セクハラ的な発言をする人の特徴は、
それが、セクハラにあたるんだ、 という意識がないことです。

そういう発言を聞く側が、それをどのように受け止め、どう感じるか、
という配慮が欠如している男性に、セクハラ的発言をする人が多かった気がします。

悪い人ではないのですが、つまり、 思慮の浅い人、
というのが、セクハラ発言をする人の特徴のような気がします。
あくまでも個人的な感想です。

確かに、単に想像力が足りないだけで悪意はない、
とはわかっていても、それによって傷つく人はいます。

厚生労働省も、

「相手が拒否しなければセクハラには当たらない、 ということではなく、
誰もが不愉快になる、という平均的な受け止め方が、セクハラか否かの基準になる」

と言っています。

ということは、その平均的な基準を教えてあげることが大事になってきます。
その言動は「セクハラ」ですよ! と注意をすること、気づかせること。


では、

●職場におけるセクハラってなに?

 ・職場において、

 ・労働者の意に反する性的な言動が行なわれ、

 ・それを拒否したことで、その労働者に対し不利益な取扱をしたり、

 ・被害労働者自身を不快にさせ、悪影響を及ぼすこと です。


 ◇『職場』とは?

 ・普段働いている場所
 ・取引先の事務所
 ・打ち合わせをするための飲食店(接待含む)
 ・顧客の自宅
 ・出張先、車中、取材先
 ・アフターファイブの宴会(職務の延長と考えられるもの)

 どうでしょう?  「職場」の定義。
 いつの間に、こんなに広範囲になったの? って感じではないでしょうか?

 社内じゃないから大丈夫、なんて思っていたら
 あとでとんでもないメに遭いますよ。


 ◇『労働者』とは?

 正規労働者、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員など。
 ちなみに、改正均等法では、派遣社員へのセクハラ禁止規定も強化されました。

 派遣社員だから・・・と軽く考えている派遣先の社員、
 しかも、要職に就く人にこのような考え方をしている人は実際います(いました)。

 「派遣社員」だと思ってバカにすんなよ! って感じですね。
 派遣先の方、くれぐれもお気をつけください。


とはいっても、
セクハラがいけないことは知っているが、どこからがセクハラなの?

と、女性社員とのコミュニケーションに
不安を覚える男性は多いのではないでしょうか?


職場におけるセクハラって?
 ・職場において、
 ・労働者の意に反する性的な言動が行なわれ、
 ・それを拒否されたことにより、その労働者に対し不利益な取扱をしたり、
 ・被害労働者を不快にさせ、被害者自身に悪影響が及ぶこと



『性的な言動』とは?

 ・性的な冗談やからかい

  この手の発言は、公私混同タイプに多い気がします。
  職場が私生活の延長になっているんですね。
    
  しかし同じことを口走っても
  「しょうがないわねぇ」と軽く流されてしまう人と、
  「許せない!!」と思われてしまう人がいます。

  日ごろの行い、人間性、人望のあるなしで
  女性の反応に差がついてしまうのでしょうか。
  お気の毒としか言いようがありません。

  日ごろ、女性の反応が厳しい、とお感じの方は、
  極力、この手の発言はお控えください。 身のためです。  
  

 ・食事やデートなどへの『執拗な』誘い
  
  単なる恋心なのか、立場を利用しての誘いなのか、
  それを相手にどう受け止められるのかが、境界線のような気がします。
  
  ここで肝心なのは、
  相手が嫌がっていたら、断られたら、
  「あ、迷惑なんだな」と諦める方がいいと思います。

  とはいっても、顔で笑って心で嫌がっている人もいれば、
  逆の人もいます。

  人によって感じ方、考え方が違うので一概には言えませんが、
  判断に迷ったら、あくまでここは職場なんだという大前提で、
  潔く引き下がった方が無難です。
  少なくともそれ以上のトラブルには発展しないと思います。
 
  あとは自己責任でお願いします。  
  

 ・容姿や結婚、妊娠などに関する発言。
  
  これも難しいですね。。。
  いずれにしろ、受けた側が不快に思い、それによって仕事がしづらくなった、
  モチベーションが下がり仕事に集中できなくなった、ということであれば、
  セクハラになる場合があります。

  例えば、
  人事考課の時に、独身の女性社員にだけ 「結婚はまだ?」 「結婚したら辞めるんでしょ?」
  という話をする上司がいます。
  女性社員はすごく悔しがり、不愉快になります。
  結婚退職を待っているってこと? やる気がなくなった・・・など。

  今のご時世、結婚したら即退職、とはならないと思いますが、
  中小零細企業では、未だあり得るかもしれませんね。 特に、男尊女卑体質の会社だと。

 ここまではイエローカード1枚、という所でしょうか。


 ここから先は、イエローカード2枚となる危険地帯です。 (あくまで私の感じ方ですので。。)
   
 ・性的な事実関係を尋ねる
 ・身体への不必要な接触
 ・性的な噂を意図的に流す
 ・わいせつな図画の配布
 ・性的関係の強要 など

 このレベルになると、加害者の確信犯的な悪意を感じます。
 嫌がらせというより、一歩間違えると犯罪行為です。

 人権にも触れることなので、会社側の最初の対応いかんでは、
 とんでもなく大きなトラブルに発展する可能性があります。
 その結果、会社は多大な損害を被ることになるでしょう。


 このように、セクハラ問題は、個人間の問題だけにとどまらず、
 内容によっては、会社の使用者責任や、労働者の就業環境に配慮しなかった
 という債務不履行責任まで問われる危険性をはらんでいるのです。

 これは、パワハラに関しても同様です。


セクハラが規定されているのは、「男女雇用機会均等法」の一部分ですが、
実務だと、会社の対応いかんでは、爆弾にもなる存在です。

また、「働く人の電話相談室」への相談で一番多かったのは、
セクハラ・パワハラに関することだったそうです。

これを踏まえ、どんな会社でもセクハラの種は存在するんだという意識で、
事前に対策を講じておくことが、一番のトラブル防止になります。


では次に、
●加害者となりやすいのは?

 事業主 上司  同僚 派遣先の社員 取引先の社員 顧客  など

 つまり、「立場を利用して」 とか、 「断ると不利になるよ」 という
 「相手の弱みにつけこめる」立場の人が加害者になりやすい、ということでしょうか。

 で、実際に弱みにつけこむと、 『卑劣な人』 となるのでしょう。
 
 
●そして、その卑劣な人が何をするとセクハラになるのか?

 被害者が、その加害者の性的な言動に対して
 『やめてください!!』 と拒否します。

 そこでやめればいいものを、プライドが傷つけられた腹いせか何か知りませんが、

 ◇被害者に対し、解雇、降格、減給、不当な配置転換をする(対価型)

 ◇また、被害者自身がその性的な言動のせいで深く傷つき、
   仕事に集中できない、職場に居づらくなるなど、職場環境が乱される(環境型)

 など、これら一連の行為をし、このような結果になると 「セクハラ」となってしまいます。


●被害に遭った人は、どうすればいいのか。

 ◇はっきりと拒絶する!
  そして、「この行為はセクハラですよ」と、相手にきっぱり伝えてください。
  曖昧な態度は厳禁です。相手は調子に乗ります。いじめと一緒です。
  
 ◇会社の窓口に相談する
  1人で解決しようとせず、会社の相談窓口や信頼できる上司に相談し、
  会社として対応してもらいましょう。
  取引先や顧客、派遣先などからセクハラを受けた場合も同様です。

  労働組合がある場合は、組合に相談するのもいいでしょう。


 ここで注意点ですが、

  会社側は、被害者から相談されたら、誠実に対応してください。

  加害者である上司を、事実確認もせず、はなからかばうような言動、
  被害者を一方的に責めるような発言は、厳に慎みましょう。
  更にこじれることとなり、その怒りの刃は、今度は会社にも向けられるからです。

 
 ◇雇用均等室(労働局)に相談する

  会社で対応してもらえない場合や、社外で相談したいときは、
  労働局にある雇用均等室に相談することも出来ます。

  専門の相談員さんが、問題解決に向けて力を貸してくれます。
  相談はすべて無料ですし、プライバシーも守られます。
  行政を上手に使うのも、時と場合によっては有効かもしれません。
  
  また、相談に際し、そして、こじれた場合の訴訟をも見据えて、
  いつ、だれが、どこで、何をした、等の記録を必ず取っておきましょう。


●雇用均等室に相談するとどうなるのか?

 まず事業主に、早く何らかの対策を取るようにと、行政指導が行われます。

 また、労働局長に「どうにかしてほしい」と相談すれば、局長は、両当事者から事情を聴いて、
 助言や指導、注意をしてくれます。 しかし強制力はありません・・・。 

 でも、労働局長から問い合わせがあっただけで、会社側はビビルと思います。
 私の経験上、すねに傷持つ会社は、異常に、行政機関からの電話に過剰反応していました。
 
 他に、調停という方法もあります。 しかし、解決の見込がないと判断されれば
 打ち切られてしまいます。

 そうなったら、次は労働審判でしょうか。


●労働審判は、原則3回、期間は3,4ヶ月ほどで結審すると言われています。
 短期決戦です。

 裁判上の和解という効力があり、強制執行を申し立てることも出来ます。 

 それでダメなら、もう裁判しかありません。



たった一人の卑劣な行為の、会社に与えるダメージは計り知れません。
真面目に仕事をしている人を傷つける。会社も、貴重な人材を失います。

また、職場の風紀も乱れます。労働生産性も落ちます。
トラブル解決のために、何人もの貴重な時間が奪われます。
金額に換算したら、いったいいくらの損害額になるのでしょう?

裁判で負けることにでもなれば、
今まで頑張って蓄えてきた大事な利益までも、失うことになります。

そして、会社のイメージダウン。
社会的制裁を受けることもあるでしょう。


しかし実際のところ、

裁判なんて、そんな簡単に起こされないよ。大丈夫、大丈夫。
費用対効果を考えたら、お金のない労働者は裁判なんてムリムリ。

と、根拠のない自信をお持ちの経営者もいることでしょう。

本当にそうなのでしょうか?


みなさんは、職場で何らかのハラスメントを受けたことはありますか?

人間、窮地に追い込まれ、辞める覚悟を決めた時のエネルギーは相当なものです。
行政に申告するのはもちろん、個人加盟のユニオンに入って、団体交渉を申し入れ、
数百万円の示談金をせしめた話を私は聞いています。

つまり、会社を、相手を困らせてやりたいのです。謝らせたいのです。

「どうしても許せない! 謝らせてやる!!」
というところまで感情がこじれてしまったら、
被害者は迷わず、加害者を、人権侵害に基づく不法行為責任で訴えるでしょう。

会社の対応も悪く、会社にさらに傷つけられたら、今度は会社の使用者責任を、
そして、ちゃんと働けるよう職場環境を改善してくれなかったという債務不履行責任ででも、
会社を訴えてくるでしょう。

ですから、リスク管理の上からも、人権を侵すようなトラブルが発生しないよう、
また、発生した場合でも迅速に解決できるような対策を講じておく必要はあると思います。


過去のセクハラ裁判例ですが、

有名どころでは、
◇北米トヨタ自動車セクハラ訴訟(H18)
 これは、同社の元社長秘書が、同社社長と会社双方を訴え、
 和解により数十億が被害女性に支払われたと言われている事件です。

身近なところでは、
◇アイフルセクハラ事件(H18)
 勤務時間後の食事会等で、上司からセクハラを受けていた被害者が、
 その上司と会社に、不法行為に基づく損害賠償を請求し、
 京都地裁はそれを認容したという事件です。


このように、セクハラは犯罪です。人権を軽く見る行為です。
また、被害者の心が病んでしまったら、今度は労災も関係してきます。

たかがハラスメント、では済まされない事の重大さを
わかっていただけたでしょうか?



では、このようなハラスメントを起こさないためには、
会社はどのような対策をとればいいのか?
どういう職場に改善していけばいいのか、を考えてみます。


●まず、一番大事なのは、

「セクハラは許さない!」

 という会社の、社長の方針を、全社員に周知徹底することです。

 就業規則に規定するのはもちろん、
 定期的に掲示するとか、管理職研修に盛り込むなど。

 また、世間でセクハラ事件が取りざたされるたびに
 社内報にて注意喚起するのもいいでしょう。


 人間というのは、どうしても忘れやすいものです。
 喉元過ぎれば熱さを忘れる。

 ですから、繰り返し教育することが
 急がば回れ、一番の近道ではないかと思います。


 ・・・それでも、
      起きる時は起きてしまいます。


●その際は、迅速に対応できるよう、社内に、苦情処理窓口を作っておきましょう。

 作るだけではダメです。 その存在を全社員に周知し、
 ・プライバシーが守られる、
 ・メールや手紙等で相談できる、
 ・人事査定には影響しない、など
 被害者の立場に立った「機能する窓口」にしなけれぱ意味がありません。
 なぜなら、社内の窓口を信用できずに、結局、外部機関に相談してしまうからです。

 また、相談窓口担当者を選ぶ際、その人の人望、人間性も考慮してください。
 もし適任の人がいないのであれば、多少お金がかかっても、
 外部の専門家に依頼するのもいいかもしれません。

 過去に、社内に相談窓口を備えている職場がありましたが、社員はほとんど相談しません。

 なぜか?

 人事の査定を気にするからです。 情報が漏れるのを恐れるからです。
 つまり、会社を信用していないのです。

 そういう意味でも、外部の専門機関を活用するのも、
 社員の福利厚生を考えたら有効かもしれません。

 
●迅速に解決に向けて動いてください。

 とにかく被害者は、早く解決して、仕事に専念したいと思っているはずです。
 それが出来れば、事件はこれ以上、大きくならないと思います。

 その際、加害者を一方的にかばうような対応は、厳に慎んでください。
 そして、公平にジャッジし、加害者に非があれば、注意、出勤停止、部署異動、懲戒解雇等、
 何らかの処分をしてください。 (就業規則の規定は必要です)

 なんらかの罰が相手に下されただけでも被害者は満足し、
 その振り上げた拳をおさめてくれるかもしれません。

また、最悪裁判となった場合でも、
会社としてはこれだけのことをやったんだ、という事実があれば、
会社の使用者責任や債務不履行責任が、少しは否定されるかもしれません。

こんな大事になっているにも係わらず、なんの対策も取らない、
上司を一方的にかばう、という対応をする方が、罪が重くなる傾向にあるようです。


セクハラ・パワハラに関する争いは増え続けています。
役職者に加害者が多いことから、
社長が本気になって「ハラスメント撲滅」に取組む姿勢を見せることが肝心です。
それが社内に浸透すれば、お互いの目がブレーキになります。

職場を一歩出れば、みんな対等な人間です。
そして、上司も部下も同僚も、みな会社の利益、ひいては自分の利益のために
一緒に働く仲間です。パートナーです。

相手を尊重し、人権を傷つけることのない明るい職場にしていくことが
ハラスメントのない職場への近道のような気がします。


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