悪用される「みなし労働時間制」 (平成20年7月20日)


JTB子会社は、派遣添乗員をみなし労働時間制で働かせることにより、
相当なサービス残業を強いていました。

そして、東京労働局中央労働基準監督署から、
未払い残業代を支払うよう、是正勧告を受けていたことが明らかになりました。(7/2)

みなし労働時間制(以下、「みなし」とする)は、
営業や在宅勤務、記者などのように、会社外で働くことが多い業務であり、
それゆえ、使用者が具体的な指揮監督が出来ず、労働時間が具体的に把握できない
場合に適用されるものです。

そして、その場合、所定労働時間働いたものとみなします。(原則)
所定労働時間とは、会社の就業規則で規定されている労働時間のことです。


ここで、「みなし」の対象になっている方は、チェックをしてみましょう。

□会社外での仕事に上司が同行している
□携帯電話等で上司から指揮命令を受けている
□朝、会社に出社して具体的な指示を受け、業務終了後は帰社し、日報等を書いている

このような場合、使用者は労働者の労働時間を把握でき、また、
具体的な指示も行っているので、「みなし」は適用できません。

それでも「みなし」を悪用し続け、それが発覚した場合、
その間の未払い残業代を2年遡って支払いなさい! と
先のJTB子会社のように、監督署から是正勧告されることになります。


JTB子会社に話を戻します。

みなし適用の大前提である「使用者が労働者の労働時間を具体的に把握できない」という要件に、
派遣添乗員の働き方がマッチしていれば、みなし適用を疑う余地はなかったかもしれません。

しかし、実態はとんでもないものでした。

今回告発したのは、元派遣添乗員であった女性ですが、
 ・派遣先企業(使用者)は旅程を把握しており、
 ・派遣添乗員たちに具体的な指示を出していた。

・・・どうでしょう。 使用者は労働時間を十分把握できますよね?
しかし、「みなし」が適用されているので、日当は、何時間働いても9000円。

実際に、正規のやり方で残業時間を算定したところ、
多い月で100時間にも及んでいたそうです。

きっとその頃の体はボロボロだったことでしょう・・・。
せめてその働きに見合った賃金であればまだしも、どんなに働いても日当9000円。

よく皆さん我慢していたと思います。
そして、残念ながらよくあることです。

ここまでボロボロに使われ、クタクタになっていれば、お客様に行き届いたサービスは出来ないでしょう。
規制緩和政策による値下げ合戦。利益を確保するためのコスト削減。

そのターゲットが『人件費』と『安全』です。
そろそろ企業も目を覚ます時だと思います。


メルマガ12号で取り上げました。長寿企業が心がけてきたこと。
信用の「信」。 誠実の「誠」。 目指す社風は「和」。


今回のJTB子会社の問題は、

◆「みなし」は、あくまで労働時間が把握できない場合に、
  所定労働時間働いたことにするという例外措置であり、人件費を削減させるための方策ではない。

◆労働時間が派遣先企業によって把握できる今回のケースに、「みなし」は適用されない。
  よって残業代は支払うべき。

◆旅行は夢。その夢のお手伝いをする添乗員が過酷な労働を強いられれば、
  満足なサービスも安全管理もおぼつかなくなる。
  そのことを、企業は告発されるまで気づくことが出来なかった。


お客様は、楽しい思い出をつくるために高いお金を払います。
そのお客様を満足させるためには、企業はまず、従業員を満足させなければならない。
心が満足している従業員は、やはり心からお客様をおもてなしすることができ、
それが、顧客満足につながっていきます。

また、従業員もエンドユーザーです。 悪い評判は口コミで広がります。

価格競争、利益追求だけではなく、
そういった中長期的な視点にたった従業員営業も必要ではないでしょうか。

親会社のJTBは、今回の是正勧告を前向きに受け止め対応を検討する、としています。



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