企業の『安全配慮義務』 (平成20年4月20日)
●ホテル日航大阪に勤務していた大庭義明さん54歳は、過労により脳出血を引き起こし、
右半身マヒや重度失語症等の後遺症が残ってしまいました。
大庭さんは、昭和57年に入社、平成15年に発症、平成16年3月に労災認定されています。
神戸地裁は、この4月10日、過労が原因として、同社に約5500万円の支払を命じる判決を下しました。
大庭さんは、発症前の残業が月にして約198時間あったそうです。
裁判長は「長時間労働が心身の健康を損なうことは周知の事実。
負担を軽くする措置が不十分だった」と、会社側の『安全配慮義務違反』を認めました。
●NTT東日本の男性社員当時58歳が、持病の心臓病を悪化させ亡くなりました。
男性は、平成5年、心臓病の手術以後、残業や宿泊を伴う出張は出来なくなりました。
しかし、会社のリストラ計画に伴い、配置転換を前提とした宿泊研修を、
平成14年4月から約2ヶ月間受けなければならず、帰宅した6月に亡くなりました。
遺族は、この宿泊研修が死亡原因だとして、損害賠償を求め訴えました。
最高裁は、「過労死」と認め、会社側に約6600万円の支払を命じた1,2審判決を支持しつつも、
死亡原因は、過重労働と持病の両方にあり、会社側のみに損害の全部を負わせるのは不公平であり、
男性側の過失分を減額すべきと、審理を札幌高裁に差し戻しました。
◆この3月1日に『労働契約法』が施行されました。
第5条『使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ
労働することができるよう、必要な配慮をするものとする』
◆平成18年の通達では、
・2〜6ヶ月の平均で、月80時間を超える残業・休日出勤 または、
・1ヵ月に100時間を超える残業・休日出勤 は、健康障害を引き起こすリスクが高くなると言われています。
また、労災を認定する際の目安にもされています。
これだけ長時間労働、過労死が増加している就業環境の中、
いつ自分が、家族が、当事者になるかわかりません。
また、被害者となるだけではなく、管理職という立場で加害者になる可能性もあります。
長時間労働が会社にとっても労働者にとっても、よくないことだということは、
みなさん十分にわかっていることと思います。
労働者にとっては、心や身体の健康を害する、自身の時間を奪われる、
家族との時間が持てない、などの障害があり、
会社側にとっては、損害賠償のリスク、公にされることでのイメージダウン、
監督署の調査、従業員の離職等、何もいいことはありません。
また、事件にならないまでも、恒常的な長時間労働、サービス残業は、
光熱費のロス、労働者の時間や、心と身体の健康を奪い、そして、失業者の雇用の機会をも奪っています。
では、どうすればこのような問題を解決できるのか・・・。
まず、すぐにでも取組めそうなことを考えてみました。
◆業務の見直し
業務のたな卸しをし、業務の見える化、 平準化に今すぐ取組む。
さしあたって、そのプロジェクトチームを立ち上げ、社長、全社員を巻き込み、その効果を訴え続ける。
はじめは 「今のままで十分うまく回っている」 という部署のベテランからの反対攻勢に遭うことでしょう。
しかし、会社やみんなにとっていいことをしているんだ、という自負を持って ひるまずに訴え続けてください。
◆管理職の意識を改善する。
管理職は名前だけではないはずです。大事な部下の労働時間を管理する責任があります。
特に中間管理職の方は、ただでさえ自分の仕事だけで手一杯。
部下がいつ出社したか、退社したかなど、いちいちチェックできないのが現状だと思います。
でも、それを言っていたら何も変わりません。
まず、 『管理職は、部下の労働時間や健康状態を管理する責任があるんだ!』
という意識を、今一度、植えつけ直さなければなりません。
これは、業務改善の荒療治と並行して行います。
その際、慣習だけで行なわれている、誰もがムダと思えるような会議は
止めてもらうよう、会社側に働きかけましょう。
さらに上司は、部下に対してこれから毎日、
・仕事が終わったらさっさと帰るよう促す(愛情をもって)、
・疲れているようなら、有休でもとって休むよう気遣う、
・仕事を抱えすぎている人がいれば、みんなで助け合えるようリードする、
など、『各管理職』が 『各職場』を きちんとマネジメント出来れば、
今のような長時間労働が、少しは改善されるのではないかと思います。
これらのことを最後までやり遂げるには、やはり、社長の強い意志が必要です。
◆労働者側も自分の健康に気をつける。
暴飲暴食をしない、睡眠時間はきちんと取る、疲れたら休む、適度な運動をする、
体調が悪ければ会社を休んで治療に専念する。
会社でパワハラ、セクハラ、モラハラなどの理不尽な扱いを受けているなら、
しかるべき人、機関に相談する。
精神的におかしい?と感じたら早めに心療内科を受診する、など、
自己管理をきっちりすることも、あらゆる悲劇を生まないことにつながります。
会社側、労働者側双方の協力が必要です。
会社を守るため、労働者を守るため、労働者の家族を守るために、今すぐにでも
みんなで取組めることは取組んでいかなければならないと思います。
業務のムリ・ムダの排除 ⇒ 見える化、平準化を実行し ⇒ 自己管理・部下管理
の徹底 ⇒ チームワーク力の向上 ⇒ サービス残業・長時間労働の減少
⇒ ゆとりが生まれ社員満足 ⇒ 顧客満足 ⇒ 売上向上
と、このような『正のスパイラル』は、一朝一夕にはできませんが、
取組んでみる価値はあると思います。
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