「初陣」


 ゼロ・ムラサメに憑依して数日。その間、みっちりと訓練や実験を行い、自分がゼロの能力を完全に扱える事を再確認した。
 ゼロの能力は凄まじく、MSに搭乗した場合はおろか、生身においても並の連邦軍兵士達など相手にならない。更に人工的に引き出されたニュータイプ能力は非常に効率的に働き、相手の動きを先読みできる。先読みできるだけでなく、ちゃんとそれに反応して正確に理性的に対処できるのだ。
 だが慢心はできない。この世界にはジオン軍にもシャア・アズナブルやらシャリア・ブルやらララァ・スンやらクスコ・アルやらマリオン・ウェルチやらの強力なニュータイプ能力者達が居るのだ。それ以外にも、もしかしたらクルスト博士が作り上げた対ニュータイプ用OS・EXAMが実用化でもされていたら目も当てられない。私が強化人間という兵器である以上、そう言った相手に真正面からぶつかる事を求められるだろう。
 更にそれ以外の問題もある。ニュータイプ研究所によって人為的に植えつけられたジオンへの憎悪や、空が落とされる事への恐怖。そして何よりも、まるで蛇が頭の中を這い回っているかの様な頭痛に似た感覚。これらがほぼ常時、ゼロを……私を苛んでいるのだ。何処か強化人間の副作用の治療法を研究してくれる場所は無い物か。ニュータイプ研が母体となって設立されるムラサメ研究所や、オーガスタ研究所は駄目だ。こいつら……研究者どもは私達実験体の事なんか、文字通り実験動物程度にしか考えていない。
 やはり時期を見計らって反乱を起こし、脱走するべきだろう。こいつらの下に居ては、何時まで経っても私は実験動物のままだ。だがまずは、一年戦争だ。まず地球連邦をなんとかして勝利に導かなければならない。だがどうやって?ううむ……。



 そんなある日、ついに私に出撃命令が下った。ジャミトフ・ハイマン大佐からの直接命令だ。大佐本人は宇宙に出ているため、レーザー通信によってその命令は下された。通信端末の前に、私と開発担当のマコーマック博士が並ぶ。画面の中のジャミトフは博士としばらく話をしていたが、やがて私に声をかけた。

『貴様がプロト・ゼロか。』
「はっ。」
『貴様には大いに働いてもらう。期待している。』
「はっ。」

 私はジャミトフに形ばかりの敬礼を送る。正直ジャミトフの事は、私は好きになれない。後にティターンズを設立するとなれば、なおさらだ。ティターンズは、はっきり言って大嫌いである。奴らがエリート面をしている事もまず気に食わない。だがそれ以上に、奴らが将来起こすであろう30バンチ事件の顛末は許容しがたい。たかだか反地球連邦政府デモを鎮圧するためだけに、サイド1の30バンチコロニーに使用を禁止されていたはずのG3ガスを注入、1,500万人もの全住人を虐殺するなど、まったく冗談では無い。一年戦争当時のジオンを彷彿とさせる行為であり、常軌を逸している。……『ギレンの野望・ジオンの系譜』では30バンチ事件はサイド6の30バンチコロニーだったかな?まあ、どちらにしても、コロニー住民を虐殺するのは間違いの無い事だ。
 その他にもジャブローの核自爆やグラナダへのコロニー落とし未遂、サイド2の25バンチコロニーへのG3ガス攻撃未遂、サイド2の18バンチコロニーへのコロニーレーザー攻撃等々、ティターンズの行った――違う、これから行う予定だった――その暴挙には、枚挙に暇が無い。……まあ、Ζガンダムのアニメでの悪役だったわけだから、好きになれと言う方が無理なわけだが。
 ジャミトフは、マコーマック博士と詳細について話をしている。どうやら、レビル将軍の前で私の……強化人間の価値を見せつけるつもりの様だ。レビル将軍はキリマンジャロ攻略の前に、その周辺地域の敵戦力掃討を行うらしい。そこに連邦側の増援として、私のG−3ガンダムを送り込もうと言うのだ。既にミデア輸送機に、私のG−3は積み込まれているらしい。マコーマック博士がジャミトフとの通信を終えて、私に向き直る。

「ゼロ・ムラサメ。出発だ。」
「了解。」
「現地に着いたなら、私はミデアからデータを取らせてもらう。おおまかな指示は出すが、戦闘の詳細についてはお前にまかせる。期待させてもらう。」
「はっ。」

 私はマコーマック博士と共に、ミデア輸送機へと向かった。いよいよ初陣だ。……そう、いよいよ私は人殺しになる。それに耐えられるだろうか。……いや、私はなんとしても生きていかねばならない。たとえ他人を殺しても、だ。死ぬのは嫌だ。死ぬのは御免だ。何としても、生き抜いて見せる。



 実際のところ、すぐに戦闘と言うわけでは無く、それからしばらくは空の上だった。当然の事だろう。ニュータイプ研はムラサメ研の母体となった研究所であり、ニホンにあるのだ。アフリカまでは遠い。連邦の勢力圏上空を、ユーラシア大陸を横断する形で移動し、アフリカ入りする頃には、マコーマック博士共々かなり疲労が溜っていた。例の頭痛もしている。流石に休憩を殆ど取らずに空中給油で飛び続けると言う強行軍は、かなり来るものがあった。博士は、次の連邦軍基地で一日休憩を取ると言っている。正直、ほっとした。
 ミデア輸送機が、アフリカ北部にある連邦軍の基地――かつてはジオンが占拠していたが、ごく最近奪還された――に着陸する。私は、これでようやく休憩が取れる、と思った。砂漠の中にあるその基地に降り立つと、乾いた空気が感じられる。私は伸びをした。そこへ、先程までミデアの無線端末で基地の司令と話をしていたはずの博士が走り寄って来る。私はそちらへ振り向いた。博士の顔には焦りの色が窺える。

「ゼロ!出撃だ!」
「!?」
「レビル将軍がピンチらしい!急行できるのは我々だけだ!」
「……了解!」

 私は先程降りたばかりのミデアへと飛び乗った。その後をわたわたと言った感じで、マコーマック博士が追いかけて来た。私は博士に事情を尋ねる。

「状況は!?」
「レビル将軍はジオンの罠にはまったらしい。敵の手に落ちた基地を奪還するために手勢のMS部隊を率いて出撃したんだが……。敵に伏兵が居たらしい。現在包囲されているそうだ。」
「レビル将軍を罠にかけるとは……。了解。敵中に突入し、レビル将軍を救出します。」

 博士は頷いた。私は内心焦る。強力なプロトガンダムに乗っているとは言え、包囲下に置かれてしまえばいつか力尽きる。レビル将軍が倒されてしまえば、『ギレンの野望』的に言えばゲームオーバーだ。この戦争は勝てなくなってしまうだろう。なんとしてもレビル将軍には戦後まで生き延びてもらわねばならない。アニメ版機動戦士ガンダムの様に、連邦軍の勝利がほぼ決まった状態で死なれるのも、やはり困る。“史実”における戦後のごちゃごちゃした状況を鑑みるに、カリスマであるレビル将軍が居なくては、連邦軍上層部も連邦政府も腐ったままだろう。
 私はミデアのカーゴルームに降りて、G−3ガンダムのコックピットに搭乗する。ミデアのコックピットから通信が入った。画像がややノイズで乱れている。この至近距離でこれとは、相当ミノフスキー粒子が濃い模様だ。これでよくレビル将軍と連絡が取れたものだ。

『ゼロ……。もうすぐ目的地上空だ。降下したらすぐに戦闘開始しろ。詳細はまかせる。なんとしても包囲を破って、レビル将軍を救出するんだ。』
「了解。」
『レビル将軍の部隊を目視にて発見。降下用意しろ。』

 ミデア輸送機のカーゴルームのハッチが開く。通信機から博士の声が響いた。

『3……2……1……いけ!』
「ゼロ・ムラサメ、出る!」

 私はG−3を大空へと飛び出させた。G−3のメインカメラが、はるか下の地上の様子を読み取る。ドムを主体としたジオン軍MS部隊に、主に陸戦ジムで構成された部隊が包囲攻撃を受けている。戦力比はおおよそ3対1。無論少ない方が連邦軍だ。
 その陸戦ジムの中に、黒で塗装されたガンダムタイプが存在するのを私の感覚は捉えていた。ビームライフルのエネルギーや、マシンガンの弾薬が尽きかけているのか、連邦軍側からの火線は数少ない。黒いガンダムタイプ……プロトガンダムが、ビームサーベルを抜く。どうやら突貫しようと言う気らしい。周囲の陸戦ジム達もそれに倣った。

「ちぃっ!」

 私はG−3にビームライフルを撃たせた。その火線は、過たず1機のドム――レビル将軍のプロトガンダムを撃つべく、ジャイアントバズを構えていた――を捉える。そのドムは一瞬後、爆散した。私の人工的ニュータイプ感覚には、その瞬間人の命が消えたのがはっきりと捉えられた。思わず怯むが、頭を振りその怯懦の感情を振り払う。
 ランドセルのスラスターを吹かして落下速度を殺し、私のG−3は敵包囲網のやや外側に着地した。レビル将軍の部隊が突撃を敢行せんとしているちょうどその場所だ。ビームライフルは既に右腰のマウントラッチに固定してある。私はG−3の空いた右手に、ビームサーベルを抜かせた。そして敵機……デザートザクが動き出す前に斬りかかる。デザートザクは肩口から斬りおろされて二つになり、これもまた爆散した。瞬間、右斜め後ろから圧縮された様な殺意が『視え』た。私は機体を右に横滑りさせる。今までG−3の機体があった場所を、ドムが撃ったジャイアントバズの砲弾が行き過ぎていった。私は機体を振り向かせざま、頭部バルカン砲を一連射させた。その弾丸は、ドムのモノアイを撃ち抜く。動きの鈍ったドムを、私は両断した。
 一連の攻防で、私には敵機のパイロットが断末魔に放つ絶叫が、心の耳に『聞こえて』いた。ニュータイプ能力と言うのは良い事ばかりではない。どこかで聞いた話だが、戦闘機パイロットや戦車兵などは、敵を倒すのにほとんど抵抗を感じないと言う。実際に人を殺していると言う感覚が小さく、敵機をほとんどゲーム感覚で倒せるのが理由らしい。だが私の場合、人工的に引き出されたニュータイプ能力がどうしても敵兵の最期を捉えてしまう。故にその心理的抑圧は耐え難い物がある。
 私は自分に言い聞かせた。こいつらはジオンだ!敵だ!殺さなければならない!……皮肉な事だが、ニュータイプ研がゼロに植えつけたジオンへの憎悪が私を助けてくれた。おかげで罪悪感が多少ならず薄れるのがわかる。
 私の奇襲で、敵部隊は統率が乱れた。そこにプロトガンダムを先頭にして陸戦ジムが斬り込んで来た。プロトガンダムのビームサーベルが、1機のドムを葬る。そのプロトガンダムを狙った別のドムの砲撃を、陸戦ジムの1機がシールドで防御する。シールドは大破、崩壊したが機体そのものに損傷は無い。私はG−3にビームライフルを抜かせると、今レビル将軍の機体を狙ったドムを狙撃して沈めた。
 私はレビル将軍のプロトガンダムに通信回線を繋ぐ。

「レビル将軍!ご無事で!?」

 返答はすぐに来る。ミノフスキー粒子の影響で、ノイズが混じってはいるが、内容はほぼ聞き取れた。

『うむ、ザッ……助かった。君は?』
「ニュータイプ研のゼロ・ムラサメ少尉です!ここは僕にまかせて、脱出を!」
『うむ!ザザッ……』

 レビル将軍のプロトガンダムとその取り巻きの陸戦ジム達は、ランドセルのスラスターを吹かしてジャンプの体勢に入る。逃がしてたまるかと、ドムの1機がホバー走行で走り寄った。だがそれは私のG−3が、ブーストダッシュで割り込んで止める。

「させるかっ!」

 G−3の振るったビームサーベルに両断され、ドムは爆散する。爆発に巻き込まれない様に後退すると、背後から殺気が走るのが『視え』た。機体を回頭させつつ、殺気の走る線に沿ってシールドをかざす。シールドに衝撃が走る。グフだ。ヒートサーベルで斬りかかってきたらしい。更にグフはヒートロッドを叩きつけて来ようと、右腕を振り上げる。だがそうはいかない。頭部バルカン砲で牽制しつつ、ビームサーベルでヒートロッドを斬り払う。グフは怯んだ様に後退した。そこへ私のG−3はビームサーベルで突きかかる。狙い過たず、ビームサーベルはグフのコックピットを貫いた。『聞こえて』来る断末魔の叫び。だが私は早くも随分と慣れてしまったようで、多少顔をしかめた程度で済んだ。
 私はちらりとレビル将軍の方を見やる。彼と彼の直属部隊は長距離ジャンプを繰り返して、既にかなりの距離を稼いでいる。これならばもう、離脱成功と見て良いだろう。私は素早くG−3の機体をチェックする。ビームライフルのエネルギーゲージはまだたっぷりある。あまり使わなかったので、若干回復しているぐらいだ。ビームサーベルのコンデンサもまだまだ大丈夫だ。頭部バルカン砲の残弾は多少心もとないが、もともと弾薬の搭載量は少ない上に、所詮これは補助火器だ。
 大物を逃がして苛立っているであろう残敵にG−3を向き直らせると、私は小さく呟いた。

「……さて、あまり気は進まないが。……続きを始めるとしようか。」

 一斉に駆け寄って来るジオン軍MS部隊に、私はG−3を突入させて行った。



 戦闘終了後、迎えに来たマコーマック博士のミデアと合流し、私は基地へと帰還した。我ながら、強化人間の力とG−3ガンダムの能力は凄まじかった。シールドを多少損傷したもののMS本体にはほぼ傷ひとつ無い。そして敵であるジオンのMS部隊は若干逃がしてしまったものの、ほぼ壊滅させる事ができたのだ。
 だが私の気は晴れなかった。戦闘が終了し、気分の高揚が治まって来ると、抑え込んだはずの『人殺しをした罪悪感』が再び襲ってきたのだ。更に言えば、症状が軽いとは言え、いつもの頭痛も治まらず続いている。痛みに似た、蛇が頭の中でのたうち回る様な感覚は、とても気持ちが悪い。罪悪感とこの頭痛のダブルパンチが、私を打ちのめす。だが、マコーマック博士の前で、下手な様子は見せられない。私は平静を装う。幸いな事に、博士は今回の実戦におけるデータの解析に忙しく、こちらを気にしている様子は無かった。
 そこへ、レビル将軍からの呼び出しが来る。突然ではあったが、唐突なわけではない。私は首を振ると、襲いかかって来る罪悪感と頭痛を噛み殺し、椅子から立ち上がった。マコーマック博士もまた、データ解析を中断してこちらへ来る。私達は連れ立って、レビル将軍の元へと出頭した。
 マコーマック博士の後に付いて、基地の廊下を歩いて行く。すると、あるドアの前に歩哨が2人立っていた。博士は歩哨の1人に話し掛ける。するとその歩哨は部屋の中に入って行き、すぐに出てくると私達を部屋へと導き入れた。
 部屋は会議室の様だった。その中には、位の高い将官や佐官級の士官が数人居て、何やら重要そうな議題を話し合っていた。その中にただ1人、パイロットスーツ姿の老人が居る。間違いない。レビル将軍だ。彼は部屋に入って来た私達に気づくと、こちらに向き直った。私達はレビル将軍に向かい敬礼する。彼は答礼すると、私に話し掛けて来た。

「やあ、君がゼロ・ムラサメ少尉か。そちらは?」
「は、私はゼロの開発責任者のメレディス・マコーマック技術少佐であります、レビル将軍!」
「開発……。うむ、御苦労。……ゼロ少尉、先程の救援、御苦労だった。実に助かったよ。私だけでなく、部下も助かった。」
「いえ……。任務を果たしただけです。」

 私はできるだけ表情を消して答える。だが、その時私は突然めまいの様な感触を覚えた。私は眉を顰める。ふと気付くと、レビル将軍もまた眉を顰め、眉間に指をやっていた。私は思う。これは……もしかすると……ニュータイプ能力による感応か?そう言えば、『ギレンの野望』系ゲームでは、レビル将軍はニュータイプ能力に覚醒するはずだ。確かアニメにおいても将軍は、かすかではあってもニュータイプ能力の片鱗を顕していた。もっともゲームのキャラクターとしてのレビル将軍は、何度も何度も繰り返し戦わせて経験を積ませ、限界まで成長させなければ覚醒しなかったが……。
 私は精神を集中させ、心でレビル将軍に話しかけてみた。正直、この様な経験など無かったため、上手く行くかどうかは分からなかったが、やってみる価値はあるのではないか、そう私は考えた。もっとも深い考えがあったわけではなく、ただの勘であったが……。

(レビル将軍……。)
「ゼロ少尉、君は……?今のは君が……?」
「はい。」

 私の思念に反応を返したレビル将軍に、小さく頷いてみせる。私は更に思念で語り掛けた。

(レビル将軍。僕はニュータイプ研究所の強化人間です……。人工的なニュータイプ能力者です。)

 私のその思念に対し、レビル将軍は困惑した様な反応を示す。

「……強化人間?確かにそう聞こえた……。だが……よく聞き取れない。」
「そうですか……。閣下にもニュータイプ能力の才能が、僅かながらあるようですね……。」

 私はレビル将軍に向かい、小声で言った。聞き取れるかどうかはわからなかったが、どうやら将軍は聞き取る事ができた様だ。彼は小声で呟く。

「私が……ニュータイプ?」

 だが私はその将軍の言葉に、首を左右に振る。そしてできるだけはっきりと思念を将軍に送ろうと、強く、強く、言葉を思い浮かべる。

(いえ、違います……。ニュータイプと言うのは、宇宙時代に適応した『新しい考え方』の基に友愛を結びあう事ができる人間だと、僕は思っています。言わせていただくなら、閣下も、僕も、決して『新しい考え方』ができているとは言い難いです。
 少なくとも僕は、そんな者ではありません。人工的に非道な手段でニュータイプの力だけを引き出された実験動物に過ぎないんです。)

 レビル将軍は、私の『非道な手段』『実験動物』と言う思念に混ぜた、苦痛と憎しみのイメージに、目を見張った。同時に、私はいつも感じている例の頭痛のイメージや、『空が落ちる』恐怖、植えつけられたジオンへの憎しみ等のイメージも混ぜてやった。それが伝わったのか、レビル将軍が一瞬狼狽するのが感じられる。私は続ける。

(僕はニュータイプの力だけを持ったオールドタイプ、強化人間に過ぎません。おそらくは閣下も同じでしょう。ニュータイプの力を持っただけの、オールドタイプ、だと思います。
 ……このニュータイプ能力と言うのは、ニュータイプとしての在り方を『補助する力』に過ぎず、ニュータイプそのものを現す物では無い、と思います。そしてそんな力が無くとも、『新しい考え方』ができる人ならばニュータイプだと思います。
 ……『新しい考え方』なんて、どんなものか想像もつきませんが。だからこそ僕は自分がオールドタイプ、なんだと思います。)

 私の思念のどれだけがレビル将軍に伝わったかは分からない。だが少なくとも、幾許かなりは伝わったと思う。将軍の様子が、それを如実に表していた。将軍は沈痛な表情で、私に向かって言葉を紡ぐ。

「……強化人間、か。済まんな、ゼロ少尉。だが、我々はそれでも君の力を必要としている。……済まんな。」
「いえ……。」
「……済まんな、ゼロ少尉。」

 レビル将軍は、私に謝罪した。そうだ。強化人間の開発計画を推し進めたのはジャミトフでも、それにGOサインを出したのは、このレビル将軍なのだ。マコーマック博士はセリフの前後の事情がわからず、将軍と私の顔をきょろきょろと眺める。いや、博士だけでなく周囲の将官、佐官達も同様だ。私はレビル将軍の言葉に、ただ顔を伏せる。そうだ、今はまだ仕方無い。ジオンを叩く事が何より優先されるのだ。
 レビル将軍は頭を振ると、懊悩を振り払った様で、真っ直ぐこちらを見つめた。彼はマコーマック博士に向かって言う。

「マコーマック技術少佐。ゼロ少尉を私の直属部隊に配属したい。かまわないかね?」
「は!はい、い、いえしかし将軍……。ゼロはまだまだデータ収集の段階にあり……。」
「そこを押して頼みたい。無論、戦闘データはニュータイプ研究所へ提供する。」
「は、はあ……。了解しました。ただ、できますれば私も何らかの形で付いていかせていただきたいのですが。」
「わかった。後方のビッグ・トレーに君の席を用意しよう。それでかまわんな?」

 私は事の成り行きに驚き、目を丸くした。私がレビル将軍の直属部隊に?レビル将軍はこちらを見つめると、深く頷く。それで私も肝が据わった。考えてみれば、都合が良いかもしれない。自分は、言い方は悪いがただの実験動物だ。そんな自分がどう頑張った所で、この戦争の行く末を左右できるわけがない。だがレビル将軍はどうだ?彼は間違いなく地球連邦軍を引っ張っていっている一代の英雄だ。そんな彼を護る事ができれば、ジオンに対する勝利に貢献できるのではないだろうか。
 私は自らの視線に強い意志を込めて、将軍を見つめ、頷いた。この意志は、ニュータイプ能力など使わなくとも相手に伝わったらしい。将軍は再び頷く。

「よろしい、それでは下がって休みたまえ。御苦労だった。」
「はっ!」
「それでは失礼します!」

 私と博士は将軍に敬礼をする。将軍も答礼をした。私達は会議室を後にする。博士は歩いている途中、私に話しかけて来た。

「将軍と話している時、何があったのだ?将軍の台詞、前後関係がよくわからなかったのだが。お前にはわかっている様だったが?」
「いえ、単に話を合わせていただけです。」
「そ、そうか……。」

 私はすっとぼけた。だが心の中では堅く誓っていた。この先自分のためにも、ジオンに勝利するためにも、レビル将軍を護り抜く事を。いつの間にか、人殺しをした罪悪感は随分と小さくなっていた。


あとがき

 ゼロはなんとか初陣を乗り切りました。おそらくは、人殺しにもこのまま慣れていってしまうのでしょうね。ただ戦後、社会復帰できるかどうか、怪しくなってしまいますが。もっとも彼は、強化人間として実験動物扱い。このままでは社会復帰もクソも無いのですが。
 ちなみにニュータイプに関してですが、私はガンダムに登場するニュータイプ達の殆どは、真の意味でニュータイプでは無いと思っています。彼等は、ニュータイプの能力を持ったオールドタイプだと思います。シロッコもハマーンも、そうでなければああも戦いを煽る様な事をするわけが無いでしょう。解り合えるのがニュータイプなのだとすれば、相手を叩き潰すという手段しか取れなかった彼等は、ニュータイプでは有り得ないと思います。
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