「練法師の道」


「はぁ?話を聞くだけで、相手を見ないで肖像を描くんですか?」

 フィーは困惑した。
 ここはダングス公王朝の首都、オリナミウムの外縁部である。フィーはその街角で店を広げ、肖像描きをやっていた。そこで、通りがかった老人から「孫の肖像画を描いて欲しい」と頼まれたのである。だが、その孫らしき者はどこにもいない。
 最初フィーは、家に呼ばれてそこで絵を描くのかと思った。だが、そう言うわけでもないらしかった。

「……いったいどういう事ですか?」
「はぁ……。実は孫がかどわかされましてな……。そこで、孫を探す手がかりになれば、と……。」

 フィーは納得した。この老人は、誘拐された孫を探すために人相書を作ろうというのだ。

「正直お金はそれほど払えないのですが……。」

 そういって老人は、懐からなけなしのゴルダ銀貨、ゴルダ銅貨を引っ張り出し、フィーに差し出す。見たところこの老人は貧乏とはいえないまでも、それほど豊かな生活をしているようには思えない。
 ちなみに、一般の都市生活者の平均月収はゴルダ銀貨5枚ほどである。それからすれば、彼が差し出した金額はそれこそ血の滲むような思いで貯めたものだろう。だが、実のところこの金額では、フィーの絵を買うことはとうていできない。絵師に肖像画を描いてもらうというのは、そこそこ小金を貯めこんだ小規模な商人ぐらい以上の余裕を持った輩に許された贅沢なのだ。それがたとえフィー程度の駆け出しの絵師であっても、である。
 フィーは多少黙考する。そして、老人が差し出した貨幣の中から数枚だけ取り上げる。

「……これだけ頂いておきましょう。使う画材の分ぐらいは必要ですからね。さて、お孫さんの特徴を詳しく聞かせてください。」

 そういってフィーはにっこり笑った。



「……どうせなら、ただで描いてあげれば良かったんじゃない?どうせあんた、お金はたっぷりあるじゃないの。」

 街外れの木賃宿へ戻ってきたフィーは、夕食の時に仲間達に向かって例の老人の事を話した。そのフィーにむかってシャリアはそのように文句を付けたのである。
 だが、ブラガが止めに入る。

「おいおいシャリア、それはいかんぜ。同情したからと言って、ただで仕事をしたんじゃあ、まっとうな職人とは言えねえぜ。
 それに、まったく金を取らなかったら、そのじーさんかえって恐縮したり、逆に傷ついたりするもんだぜ?フィーは良くやったと思うぜ。」

 そう言ってブラガは肉の塊を食いちぎる。そしてもぐもぐと咀嚼しながら再度フィーに向かって言う。

「……だけど、お前も変わった奴だよな。金はたっぷりあるんだから、何もわざわざ街に出て絵描きで稼ぐ必要はあるまいに。」

 そう、彼らは今充分に金持ちなのだ。
 彼らはジャクオーウァ国の手から逃れ、ニラデル地域を脱出し、数日前にようやくここに辿り着いたところである。そして、フィーが操兵鍛冶組合へ出向き、前回の戦利品であった従兵機アズ・キュートの仮面を売り払った。そしてとある操兵鍛冶組合とは直接の関わりを持たない操兵鍛冶師を見つけ出し、フィーの狩猟機ジッセーグ・マゴッツの修理と改装を依頼し、残った金を皆で分配した。ちなみに狩猟機の改装を依頼した理由は、その操兵が奪ったものだと言うことがばれないように、である。なお従兵機の仮面を売り払って得た金額は莫大で、シャリア、ブラガ、ハリアーの3人はしばらく硬直してしまった程だった。
 ちなみにシャリアは自分の分け前のほとんどを実家へ送金してしまった。なお、送金には信頼のおける評判の良い商人を選び、為替を組んでもらった。
 ハリアーは金を使わず貯め込んでいる。どうやら聖刻教の教会が見つかり次第、そこへ献金するつもりらしい。なお、このあたりは東西の交易路であるカグラ・ルートの終点近くであり、東からの隊商のために聖刻教の教会も僅かに存在している。
 フィーはフィーで、若干防具の類を買い込んだ他は、操兵が壊れた場合など、いざという時のためにしっかり貯めている。もっとも、坊ちゃん顔に似合わぬ苦労人であるらしいフィーは、金の一部は日常用の銀ゴルダ、補助貨幣の銅ゴルダにして、残りは宝石――それもかなり高価な――に替えて衣類に縫い込んでおいた。全額を交易用のゴルダ金貨のままで持ち歩いているハリアーとは、用心深さがまったく違う。けれど、そういう事をフィーがハリアーに教えていないのは別に意地悪ではなく、ただ単に「そうするのが当然である」ということをハリアーも知っていると思っているからだった。
 ブラガはブラガで、この辺りを取り仕切っている盗賊匠合――と言っても、高度に組織化された匠合は北部ぐらいにしかなく、南部のそれは実際のところ田舎ヤクザの集まりに過ぎない――に顔を繋ぎに行った。そう言った盗賊匠合は縄張り意識が強く、下手にブラガが「仕事」をすると、あっという間に殺されてしまいかねないのだ。詳しくは話さなかったが、連絡場所を探したり、贈賄などでかなりの金を使ったらしい。しかも、その金が「生きる」とは限らないのだ。盗賊と言うのは、正直割に合わないものである。
 一番金遣いが荒かったのはなんとクーガである。一人で街に出て、うろうろと歩き回っていたかと思うと、宿に帰ってきたときには分け前の七〜八割を使い果たしていた。何を買ったのかと言えば、数本の古ぼけた棒きれであった。どうやら、古代の美術品の類らしかったが、クーガは詳しいことは語らなかった。そのクーガは、会話に加わらず一人黙々と手書きのメモを見ている。そのメモには細かい文字がびっしりと書き連ねてある。しかも、その文字は普通の西方語ではないようだ。クーガはそのメモを懐にしまうと、茶をすすった。

「ブラガさん……。
 いいじゃないですか別に。絵を描くのは俺の本業なんですから。腕を磨く必要があるんですよ。」
「ま、わからんでもないな。俺だって、腕はいつも磨いておかなけりゃ……。」
「変なところで磨かないでくださいね。」

 そう言ってブラガを睨みつけたのはハリアーである。聖刻教の伝道師であるハリアーは、ブラガが盗賊であるという事をつい先日知ったばかりである。

「嬢ちゃんがそういうの嫌いだってのは知ってるよ。だからやんねーってばよ。ま、ちょいとその事で相談があるんだがな。」

 ブラガは皆のほうに身を乗り出して言った。

「あのな、お前らこれからどうするんだ?どっか行く当てでもあんのか?……なんだったらよ、俺達このまま組んで一仕事しねーか?」

 その言葉にハリアーは目を剥く。

「ブラガさん!あなた私達にも盗みをしろって言うんですか!?」

 ブラガは慌ててその口を押さえる。そしてキョロキョロとあちらこちらを見る。幸い、他の泊り客はこちらの話を聞いていないようだった。

「……頼むわ嬢ちゃん。そういう事、大声で怒鳴らんでくれや……。
 だからちがうって。俺はそういう事やらねーって言ったろ?そうじゃなくて、俺達が組んで、山師として活動しないか、って言ってるんだよ俺は。」

 山師とは、いわゆる冒険を生業とする者達の総称である。
 このアハーン大陸には古代において、現在よりもはるかに進んだ文明があったことがわかっている。例えて言えば、現在作られている操兵などはその古代文明の技術の残滓でしかない。はるかな古代の遺跡からは、過去に製作された操兵が発掘されることがある―それらは大概もう修理のしようが無いほどに壊れているが―が、その構造は現在の操兵など問題にならないほど精巧かつ精密である。山師とは、その古代の遺跡などから財宝の類を発掘して一攫千金を狙う者達である。
 もっとも一般人達から見れば、ならず者と変わりが無く思われているのも事実である。それに、古代の遺跡はここ南部では比較的多く発掘されるとは言っても、そう多く存在するものではない。だから山師達は、いつもは便利屋のようなことをして暮らす者や、場合によっては追い剥ぎ同然の行為に手を染めている事も多い。

「なるほど。そういう事ね?あたしはかまわないわよブラガ。一人で傭兵やってても、女だからって甘く見られたりとか、色々あるからね。」

 シャリアが賛同する。

「フィーはどうだ?お前の操兵扱う腕があれば、仕事にあぶれる事ぁねえと思うんだがなあ。
 あ、何も絵師をやめろって言ってるわけじゃねぇぞ。ただ、お前けっこう頼りになるからなあ……。俺らを手伝ってくれると嬉しいんだが。」
「あ、ちょ、ちょっと考えさせてください……。」

 ブラガは頷く。

「いいぜ。すぐに返事もらえるなんぞ思ってなかったし。……お前の本業は俺達とは毛色が違うしな……。
 クーガはどうだ?お前さんは随分頭が回るし、色々な事知ってるから、一緒にやれると嬉しいんだが……。」

 クーガは僅かに眉をひそめる。どういう意図なのかはよくわからなかったが。

「……私も少し考えさせてくれるかな?そう長くは待たせないつもりだが。
 それとブラガ……。」
「あ?何だ?」

 クーガはあいかわらず眉をひそめながら言った。

「そろそろハリアーを放してやってはどうかね?見るからに苦しそうだ。」

 ハリアーは口をブラガに押さえられたままだった。問題なのは、うっかり口と一緒に鼻まで押さえつけていたことだ。どうやらクーガが眉をひそめていたのはこれが原因だったらしい。ハリアーはほとんど窒息寸前だった。



「……まったく!ブラガさんたらどうしてああガサツなんでしょうか!……それは私もうかつでしたけれど、あんなにギュウギュウとやらなくてもいいじゃないですか!死ぬかと思いましたよまったく!」
「まあまあ、そう怒らないでよハリアー」

 シャリアとハリアーは夜道を街の中心部へ向かって歩いていた。
 あの後解放されたハリアーは、烈火のごとく怒り狂い、いつものように相手の話を聞かずにまくし立てたのだった。普通はブラガあたりが仲裁に入るのだが、今回はそのブラガが責められている本人なのだからしてどうしようもない。そこで、気を利かせたフィーがシャリアに耳打ちして、ハリアーを連れ出させたのだ。とりあえず散歩でもしてきて、頭を冷やさせようと言うのだ。
 このあたりは大国の首都なので治安が比較的良く、夜でもそれほど心配せずに歩き回れる。これがもっと田舎、例えばモルアレイド海岸諸国や、旧王朝諸国と言われる比較的先進国であっても、シュバンデの王国あたりの小国になるとそうはいかないが。ちなみに、ここダングス公王朝も旧王朝諸国の一つで、かつその中でも1、2を争う大国である。
 もっとも、いかに治安が良くとも、犯罪者がいないわけではない。

「……何かしら、あれ?」

 シャリアは怪しい人影を見つけた。その人影は黒尽くめで、何やら布に包んだ大きな荷物を抱えている。
 その荷物がもぞもぞと動いた。どうやら人間、それも大きさから言って子供のようである。

「……!!人攫い!?」

 シャリアは誘拐犯を追いかけて走り出した。ハリアーも一歩遅れて状況を理解し、シャリアを追う。
 誘拐犯はずいぶん足が速かったが、それでも子供を抱えている分どうしても遅れる。2人はじりじりと追いついていった。その時、誘拐犯が急に足を止め、子供を手放した。

「……観念したのかしら?ならその子供をこっちへ……。」
「シャリアさん!危ない!」
「え?」

 シャリアは気付かなかったが、その誘拐犯は子供を放すと同時に両手を高速で複雑に絡み合わせ、呪文のようなものを呟いていたのである。次の瞬間、空中に直径10リット(40p)ほどもある火の玉が出現し、シャリアの方に飛んできた。シャリアはよけ損ねて真正面から火の玉にぶつかった。
 次の瞬間、火の玉は炸裂し、あたり一面に火の粉を散らしてから消滅した。シャリアは火だるまになって、その場に倒れ伏す。

「!…………。」

 ハリアーは両手を胸の前で組むと朗々と声高に神に祈りを捧げ、右手を力強く前へ突き出した。その右手から、稲妻のようにも見える眩い閃光が迸る。
 誘拐犯は稲妻に撃たれると、あきらかにひるんだ様子を見せた。そして、足元の子供を拾うと踵を返して逃げ出した。
 ハリアーは後を追おうにも、重傷を負ったシャリアを放ってはおけない。逃げ出す誘拐犯に向かい、歯噛みをしながら見ているしかなかった。



 女性達が宿泊している部屋の扉が開き、ハリアーが出てくる。彼女は難しい顔をしていた。多少顔色が蒼白い。

「ハリアーさん……。シャリアの具合は?
 まさか……」
「まさか、おっ死んじまったなんて冗談は無しだぜ!?」

 ドアの外で心配しながら待っていたフィーとブラガは口々に話し掛けた。

「……いえ、もう大丈夫です。……火傷もほとんど治しました。今はぐっすり眠っています」

 その言葉にブラガは溜息をつく。

「あー驚かせんなよ。妙に難しい顔してるわ、変に蒼い顔してるわ、本当に“まさか”と思っちまったじゃねぇか……。」
「あ、いえ……。多少術を使いすぎて疲れましたから……。
 クーガは?」

 その言葉に、フィーとブラガは顔を見合わせる。

「あ、クーガさんは……。」
「あの野郎はお前さんがシャリアかついで帰ってきてすぐ、どっかに出掛けてったぜ。まったく薄情だったらありゃしね……。」
「私がどうかしたかね。」

 フィーとブラガは飛び上がるほど驚いた。彼らのすぐ後ろには当のクーガが泥だらけで立っていたからだ。
 クーガはハリアーに持っていたものを差し出す。薬草の知識があるハリアーには、すぐにそれが何だかわかった。

「これは……。『心静め』じゃないですか。それに火傷に効く薬草も何種類も。」

 『心静め』とは精神の疲労を軽減する効果を持つ、比較的珍しい薬草である。抜いてすぐの内に使用しなければ効果が無くなってしまうので、クーガは根のまわりの地面ごと掘り出して来たのだ。クーガはシャリアの火傷のひどさを見て取り、ハリアーが倒れる直前まで術を行使するであろう事を見越してこれを採取しに行ったのである。

「その薬草を早く使いたまえ。顔色が悪いぞ。」
「あ、ありがとうございますクーガ……。」

 ハリアーは呆然としつつ礼を言った。クーガがこういう親切をしてくれるとは、ハリアーは夢にも思っていなかったのだ。先ほどまでクーガのことを薄情だと言っていたブラガと、口には出さずとも同じように思っていたフィーは、一様に気まずそうな顔をしている。
 そのような事はかけらも気にした様子を見せず、クーガはハリアーに尋ねた。

「ハリアー、いったい何があったのかね?先ほどは急を要する様子だったので何も訊かなかったが。」
「そ、そうだぜ。あんな全身大火傷して帰って来るなんて、なんなんだよ一体。」
「一体全体、何があったんです?」

 ブラガとフィーも口々に訊く。それには答えず、ハリアーはクーガに向かって言った。

「……クーガ、お話があります。皆さんへの事情の説明はそのあとで。」

 ハリアーの表情は今までに無く厳しい。フィーとブラガは気圧されて口をはさむことが出来なかった。

「わかった。では男用の部屋へ行こう。フィー、ブラガ。シャリアの様子を見ていてくれたまえ。」

 クーガは踵を返すと、自分達の部屋へ歩き出した。



「……ブラガさん、よしましょうよ…盗み聞きなんてほめられた事じゃないですよ。」
「んな事言ったってよ、お前は心配になんねぇのか?クーガとハリアーの様子、ただ事じゃなかったぜ。
 あいつらを心配すればこそ、あいつらが何話してるのか聞きてぇんじゃねーかよ。」

 フィーとブラガは、男用部屋の扉の前でしゃがみこんでいた。クーガとハリアーの密談をこっそり聞こうというのである。ブラガはコップを扉に押し当て、それに耳をつけて中の様子を探った。

「……よく聞こえねぇな。ずいぶん小声で話してやがる。」
「だからやめましょうって。」
「静かにしろって。ますます聞こえなくなるだろ。」

 その時、いきなり扉が開いた。ブラガはもろに顔面を扉にぶち当ててしまった。

「ぐわっ!」

 そこには顔中を怒りで真っ赤に染めたハリアーが立っていた。

「ブラガさん……。フィーさん……。あなた方何をしてらっしゃるんですか……。」

 ブラガとフィーは顔面蒼白になった。

「あ……。いや、はは、何その……。」
「お、俺たちは……。は、ハリアーさん顔が恐い……。」

 そこへクーガの声がかかった。

「ハリアー、その追求は後回しにしたまえ。今はやるべき事がある。ブラガ、君に頼まねばならん仕事がある。」



 深夜、皆が寝静まった頃の事である。シャリア達の寝ている部屋の窓の木枠がかすかな音を立てて切り外された。そして窓枠がそのまま外側にそっと引き出される。
 そして、本当にかすかな、ミシリという音とともに何かが部屋の中へ入ってくる気配がした。だが、確かに気配はするのに侵入者の姿は見えない。
 シャリアとハリアーはぐっすり眠っているのか、身動き一つしない。次の瞬間、ドスっという音がして、シャリアの毛布に穴があいた。続いて、ハリアーの毛布にも同様に穴があく。まるで、刃物で突き刺されたような穴だ。だが、2人はうめき声も上げなければ、身動き一つしない。
 突然毛布がはねのけられる。その下にあったのは、ボロ布を丸めた物だった。ボロ布をまとめて、人の身体のようにみせかけていたのだ。虚空から、舌打ちの音が聞こえる。
 次の瞬間、天井から何かが降ってきた。それは網だった。荒縄で編まれた目の粗い網が、目に見えない何者かを絡めとる。同時に、扉からシャリアとフィー、ブラガが飛び込んできた。

「あんたら!さっきはよくも……。な、なに!?網が人の形に……。なんで……!?」

 シャリアは重傷を負わされた怒りにまかせて、敵に切りかかろうとした。だが彼女は、相手の姿が見えないという事に驚き、唖然として動きを止めてしまった。そのシャリアをブラガが叱咤する。

「こいつらは妖術師だ!妖術ってのは、お前がやられた火の玉出したりするだけじゃねぇ!姿を妖術で透明にしてやがるんだよ!」

 そういいつつ、ブラガは小剣で突きかかる。相手の姿こそ透明だが、からみついた網のため、どこにいるかは一目瞭然だ。どうやら、相手は2人いるようだ。フィーも破斬剣を突くように使って、相手の片方を串刺しにする。

「ぎゃあああぁぁぁっ!!」

 断末魔の悲鳴が響いた。直後、網が切り裂かれてもう1人の敵の場所がわからなくなる。

「ど、どこだ!どこにいきやがった!」
「みんな!背中合わせに集まって!後ろから襲われないようにするんだ!」

 フィーの指示で3人は部屋の中央に背中合わせに集まる。しばらく時が過ぎた。

「……あ。見て!」

 網に包まれた敵の1人が、その姿をあらわす。その敵は、大量の血を流して絶命していた。

「……どうやら、妖術の効果が切れたようだな。……もう1人は逃げたか。」

 ブラガがため息をつく。

「でも、クーガさんの発案で罠をしかけておいて、よかったですね。姿の見えない敵に寝込みをおそわれるなんて、ぞっとしませんよ。
 でも、よくこいつらが仕掛けてくるってわかりましたね」
「クーガの話だと、妖術師ってのは自分達の痕跡を一般人に知られるのをひどく嫌うんだと。で、もしかしたら程度の話だが、奴らが誘拐の目撃者のシャリアとハリアーを殺しに来る可能性もあるってよ。特に2人には妖術を使うところを見られた挙句に仕留め損なったからな。」
「冗談じゃないわよ……。」

 げんなりした様子でシャリアが吐き捨てる。

「あたしが何悪いことしたってのよ。悪いのは、子供をかどわかしたこいつらじゃないのそれを逆恨みして……。」
「あ、いや……。シャリア……。逆恨みとかどうこういう話じゃないと思うけど……。」

 シャリアの見当はずれな台詞に、フィーはどう答えて良いか悩んだ。それを無視して、ブラガは部屋を見回した。彼は呟く。

「とりあえず、この始末をどうにかつけちまわねーと。あ〜あ、宿屋のオヤジに怒られるぜ?」



 路地裏を、黒づくめの人間が走っていた。その服装は、シャリアとハリアーを狙って来た刺客と同じもの……。いや、まちがい無く、逃げた刺客の片割れだろう。
 その前に1人の女が立ちはだかった。ハリアーである。

「…待ちなさい。逃がしませんよ。」

 ハリアーはそう言うと長剣を構えた。黒づくめは素早く両手で印を組むと、低い声で何事か呟いた。
 すると、突如として空中に火の玉が出現し、ハリアーに向かって飛んだ。しかしその火の玉は、ハリアーが輝く掌を掲げると、その掌を避けるように微妙に方向を変えた。ハリアーはそのおかげで難なく火の玉を避ける。

「無駄です。貴方の術は私には効果がありません。」

 そう言い放つとハリアーは、剣をかざして黒づくめに迫る。黒づくめは気圧されたように後ろに下がり、再び両手で印を組み始めた。その口から、低い呟きが漏れる。
 だが、唐突にその呟きが途切れた。そして黒づくめは泡を食ったように周りを見回した。
 物陰からゆっくりと立ち上がったのはクーガである。その右手がひらめき、黒づくめの右の腿に短剣が突き立つ。そこへハリアーの剣が振るわれ、黒づくめは倒れ伏した。

「…ふう、ありがとうございましたクーガ。相手の術を妨害してくだすったんでしょう?」
「うむ、だが今回うまく妨害できたのは正直な話、運が良かったからだ。そう何度も上手く行くとは期待しないでくれ。ところでこいつはまた姿を消して逃げようとしたらしいな。」

 そしてクーガは死体の傍らに腰を下ろした。そのままざっと死体の持ち物を探り、いくつかの品物を取り上げる。が、その中に身元の分かりそうな物は当然ながら入っていなかった。
 クーガは落胆した様子も無く、その指を複雑に絡めて印を組みはじめた。彼の口から低い呟き――詠唱が漏れる。それは先程この死んでいる男がやっていた“術”と酷似していた。

「……正直なところ、そういうやり方はあまり好きではありませんね。……死者を冒涜しているようで。」

 ハリアーは眉間に皺をよせながら、そう言った。
 クーガはそれには答えず、死体の上の虚空に向かってなにやら語りかけていた。しばらく後、クーガは立ち上がるとハリアーに向き直った。

「奴らの本拠地……。というより、今回の小児誘拐のための拠点だな。それがわかった。一度宿に戻り善後策を検討しよう。」

 そう言って、クーガは先に立って歩き始めた。ため息をつきながら、ハリアーは後を追う。
 クーガはしばらく無言だった。しかし、宿が見えてきたとき、彼は小さな声で呟いた。

「……君が私のやり口を気に入らないのはわからぬでもない。私の門派は俗人どころか他の門派の者にまで蔑まれているからな。君のような聖職者であれば、なおさらだ。
 だが、私が生きていく上で『これ』をやめるわけにも行かん。」

 ハリアーは一瞬驚いた顔をしたが、ふっと顔を伏せてしまった。クーガは振り返らなかったので、彼の表情は見ることができなかった。どうせいつも通りに、何の表情も浮かべてはいないのだろうが。



「……しかしなあ。……あまりそういう無茶はやめてくれねーか?たった2人で妖術師に立ち向かうなんざ……。おまえら2人とも剣はあまり使えねーだろ」
「それは大丈夫だ。ハリアーがいたからな。ハリアーのような僧侶の使う術は、妖術に対してかなり有効な対抗手段だ。」

 愚痴るブラガに対し、クーガは返事を返した。一同は今、明かりも持たずに夜道を進んでいた。敵の妖術師達を早急に殲滅することを、クーガが強硬に主張したためである。
 その理由とは、このまま放っておけば妖術師たちは何度でもシャリアとハリアーの命を狙うであろうと言う事。そして今度は、事情を知ってしまったほかの仲間たちも、確実に狙われるであろうと言う事である。
 そして、それにシャリアとハリアーも賛成した。シャリアが賛成した理由は、痛い目に合わされたお返しがしたいと言う事がひとつ。そしてもう一つの理由は、これはハリアーとも共通するが、誘拐された子供達を助けてやりたいと言う人道的な理由である。
 フィーも積極的に賛成したわけではなかったが、子供達を助けてやりたいとは考えていたようである。ブラガは気乗りしなかったようだが、さりとてクーガの意見には一理あり、放っておくのが危険すぎる事は理解できたようだ。
 やがて彼等は、町外れにある、1軒の廃屋へとたどり着いた。周囲は同じ様な廃屋が立ち並ぶスラム街である。クーガは一同に注意を促した。

「あの廃屋だ。あそこの地下室に、例の妖術師達の根城がある。そこに誘拐された子供達が捕まっているとの事だ。」
「で、どうやって奴らを退治するんでぇ。」

 ブラガがクーガに訊ねる。クーガは少し考えてから答えた。

「奴らは、いざと言うときのために、入り口とは別に脱出口を用意している。逆にそちらから侵入するのはどうだ。」
「なるほどね、それはいいかもしれないわね。不意打ちにもなるかもしれないし。それにこっそり動けば捕まってる子供達も助けられるかも。」
「待てよ、本来の入り口の方はどうするんだ。」

 シャリアは即座に賛成したが、ブラガは反論する。そこへフィーが口を挟んだ。

「だったら二手に分かれるのはどうです?片方が正面から侵入して気を引いて、その隙にもう片方が裏口……その脱出口から入り込むんです。」
「だったらどう組分けする?」
「私とハリアーの組、そしてシャリア、フィー、ブラガの組に分かれるのはどうかね?表から侵入するのは私達がやる。ブラガ、君が居れば裏口から入り込むのも容易いだろう?」

 クーガの意見で話はまとまった。クーガはブラガに脱出口の位置を教える。そこは目標とは別の廃屋に繋がっており、目立たぬように出口は隠されているとの事だった。フィー達3人はかたまって移動していく。クーガとハリアーはそれを見送ると、目的の廃屋へと近付いていった。



 ブラガは廃屋の前まで来ると扉に近づき、荷物の中から取り出したコップを押し当てた。そしてコップの底に耳を当てる。しばらくしてから、彼は言った。

「おう、大丈夫だ。何も聞こえねえ。気配もしねえから、誰もいねえよ。」

 彼は扉に仕掛けが無いかどうか、確認していく。そんな彼に、シャリアが軽口を叩く。

「けど、そのコップって何よ。なんか貧乏くさいわね。」
「うっせえ。専用の聴診器が欲しいとこだけど、手に入らなかったんだよ。
 それよか、念のために身構えてろよ。扉開けるから、よ。」

 ブラガは扉を開けて、その開けた扉に身を隠すようにする。シャリアとフィーは剣を抜いて身構えたが、中から何か出てくる様子は無い。ブラガは先頭に立って中に入って行った。

「ち、暗ぇな。」

 ブラガは予め用意していた種火を取り出す。ランタンの明かりが灯された。シャリアは驚く。

「明かりなんか、つけていいの?」
「急ぎだからな。」
「クーガさんとハリアーが表から突入しているんだ。見つかるかもしれないけれど、暗がりをおっかなびっくり歩くよりも、明かりを点けて急いだ方がいい。」
「それに暗いと罠とかもわからねぇしな。」

 ブラガとフィーは口々に言う。シャリアは納得した。ブラガは床板にコップを押し当て、その下の地下道の様子を窺う。

「……よし、開けるぞ。武器構えろ。」
「うん。」
「はい。」

 床板の一部を、ブラガが持ち上げる。すると、そこにはぽっかりと手掘りの地下道が現れた。降りていけるように梯子がかけてあるが、一人が通るのがやっとの狭さだ。

「……これじゃ、フィーは武器振るえないわね。あたしには長剣の他に小剣もあるけど。」
「じゃあフィーは真ん中だな。俺が先頭に立って、様子を見ながら行くからよ。」
「ええ、わかりました。殿、シャリア頼むよ。」

 彼らは順番に、地下道へと潜り込んで行った。と、途中でブラガが言葉を発する。

「ちょい待て。糸が張ってある。鳴子かなんかだとは思うが……。うまく跨いで通れよ。」
「はい。」
「わかったわ。」

 彼らは糸をまたいで先を急ぐ。やがて地下道は行き止まりになり、梯子がかけてあるのが見えた。ブラガは声を出さずに手で後ろの2人を制する。そして彼は梯子を上っていった。
 梯子の天辺で、ブラガは天井板に再びコップを当てようとする。だが、それには及ばなかった。音で気配を探ろうとか考えるまでもなく、どたばたと何者かが争っているような音が聞こえたからだ。人が叫ぶ声も聞こえる。

『無駄です!貴方達の術は私には効きませんよ!』
『……!?待て、ハリアー!仮面持ちがいる!気をつけろ!』

 ハリアーとクーガの声だった。ブラガは焦る。彼は小声で後ろの2人に呼びかけた。

「おい、飛び込むぞ!」
「え?あ、は、はい!」
「わかったわ!」

 ブラガは天井――地下道の蓋を跳ね上げると、そこから飛び出した。



 ハリアーとクーガは廃屋にわざと音を立てて飛び込んだ。数人――おそらくは3〜4人ばかりが騒ぐ気配がする。彼らはずかずかと進むと地下室への階段を降り、扉の前に立った。
 ハリアーは一時的に精神力を回復させる術を自分に使うと、続けて術法に対し耐性を得るための術を唱えた。これでハリアーは妖術の使い手達に対し、かなりの防御力を備えた事になる。
 彼女は後ろに控えているクーガに向けて頷くと、扉を蹴破った。そこへ数本の炎の矢が集中して襲ってくる。だがハリアーが光る掌を掲げると、その炎の矢はあさっての方角へと向きを変えて飛んで行った。

「……これは火事になるな。」

 クーガがボソリと呟く。炎の矢は廃屋の壁に着弾し、そこに着火していた。
 ハリアーは叫ぶ。

「無駄です!貴方達の術は私には効きませんよ!」

 だがそのとき、クーガもまた叫んだ。顔はいつも通り無表情だが、その声には驚愕の色がありありと浮かんでいる。

「……!?待て、ハリアー!仮面持ちがいる!気をつけろ!」

 ランプや蝋燭の灯りに照らされたその部屋には、攫われて来たらしい子供達が10数人ばかりいた。彼らは皆一様に正気を失ったかのように、うつろな表情で座り込んでいる。そしてその向こうに、3人ばかりの妖術師……練法使いが、今しがた術を放ったばかりの体制で立っている。そして更にその向こう、部屋の一番奥に、一人だけ明らかに格の違う人物が立っていた。リーダー格である人物のその顔には、複雑な文様の描かれた精巧な仮面が着けられている。
 その仮面を着けた人物は、徐に両手を前に出すと印を組み始めた。朗々と術の詠唱をする声が響く。クーガもやや焦った様子で、同じように印を両手で組み始める。ハリアーは子供達を避けて、仮面の人物の所まで回り込もうとした。しかし配下の練法使い達は短剣を抜き、仮面の人物をかばうかの様に動いて彼女を阻んだ。
 その時、仮面の人物の背後の床が跳ね上がる様に開き、床下から男が飛び出してきた。その男は仮面の人物に小剣で斬りかかろうとする。その男とは、勿論のことブラガである。仮面の人物は慌てず騒がず、ブラガの攻撃を最小限の動きで躱した。床下からはフィーとシャリアとが次々に飛び出して来る。

「お待たせ!ハリアー!クーガ!」
「シャリア!その仮面を被ったやつをお願いします!」

 ハリアーは1人の下っ端練法使いをようやくの事で斬り倒しながら、シャリアに向かい叫んだ。シャリアは頷きつつ、フィーと共に仮面の人物に斬りかかる。フィーの剣はあっさりと躱され、地面を叩いた。だがシャリアの二刀流は、双方とも命中し、少なからぬ傷を相手に負わせた。

「……!」

 たまらず仮面の人物は、ハリアーとクーガに向けて放とうとしていた術を、新手の3人に向ける。不可視の力がシャリア、フィー、ブラガを襲った。3人は、己の身体が麻痺していくのを感じる。まるで肉体が石になったかのようだ。フィーとシャリアは、それに抗えずに硬直した。だが一人、ブラガだけはそれに何とか耐える。ブラガは必死の気迫で肉体の硬直を振り払うと、その手に握った小剣を、術を放ったばかりで体制が崩れている仮面の人物へと突き立てた。

「こぉの……野郎っ!!」
「ぐっ!!」

 仮面の人物はうめき声を上げる。その時、クーガが叫んだ。

「今だハリアー!」

 見ると、何が起こったのかハリアーと対峙していた残り2人の下っ端練法使い達は動きを止めていた。まるで身体が硬直しているかの様だ。いや、実際に硬直していたのだろう。ハリアーが斬りかかっても、まったく躱すどころか身動きもしなかったのだから。
 その様子を見て取るや、仮面の人物は小さく舌打ちを漏らすと、印を新たに組み始めた。また何か術を使う気だ。そうはさせじとブラガが小剣で突きかかるが、そう何度も当たる物ではなかった。ほとんど瞬時に術が完成する。ブラガは焦った声を漏らす。

「まじぃっ!」
「……いや、これは違う。」

 ブラガの叫びに答えを返したのは、やはりクーガだった。見ると、仮面の男の姿は空気に融け込むかのように消えていったのだ。クーガは呟く。

「……《瞬動》か。」
「な、なんだよそりゃ。まだそこいらに、姿を透明にして居るんじゃなかろうな?」
「いや、奴はここいらにはもう居ない。それより、残ったやつを片づけるぞ。それからフィーとシャリアの様子も見ないといかん。」

 そう言って、クーガは剣を抜くとハリアーの手助けをするべく駆け寄っていった。ブラガも釈然としない様子ながら、残り1人になった下っ端練法使いの後ろから斬りかかる。上司に見捨てられた下っ端練法使いには、もはや為すすべも無かった。



 下っ端練法使い達が放った術で火事になった廃屋を、一同は子供達を連れて脱出した。子供達は何らかの術にでもかかっていたのか放心状態で、連れ出すのに多少苦労したが、なんとか無事に全員助け出す事ができた。
 シャリアが、ふうっと溜息をつきつつ言う。

「いや、まいったわよ、あの妖術ってのには。最初は火だるまにされて、今度は体中かちんこちんに固められて。」
「そう言や、さっき言ってた《瞬動》てえのは何なんだ?クーガ。」

 ブラガが思い出したように問う。クーガは少々口籠るが、それに答える。

「練法……妖術師達の中でも、ああいった仮面を被っている奴らは特に達人なのだよ。そう言う連中は、空間を飛び越えて移動する術を使える事が多い。今しがたそこに居たかと思うと、次の瞬間には何十リートも、場合によっては何十リーも離れた場所に出現する事ができるんだ。
 奴が使ったのも、そう言う妖術だ。」
「ふええっ。妖術ってのは、えらく便利な物だな。」
「危険な物でもあるがね。」
「貴方が言いますか。」

 しれっと言ったクーガに、ハリアーが突っ込む。クーガは、何処吹く風と言った風情だ。
 そのとき、フィーが叫んだ。

「あああああぁぁぁぁぁっ!!君はっ!?」
「わあっ!と、突然何よフィー!」

 驚いたシャリアが、顔をそちらに向けた。フィーは、攫われていた子供達の一人に向かって、大声で話しかけていた。

「君、ロン君だろ!?エペトお爺さんの孫の!」
「……。」
「しっかりしてくれ!おい!」
「待ちなさいよフィー。」

 子供の両肩に手を掛けて、ゆさゆさと揺さぶっているフィーを、シャリアが制止する。フィーは肩を落として項垂れた。

「どうしたのよ一体。」
「この子、俺が人相書きを作った子供なんだよ。ほら、ちょっと前に……。」
「ああ!あの!」
「でも、この子どう見ても正気じゃあない。どうしよう……。孫が生きていたのはいいけど、これじゃあの爺さん、悲しむよ……。」

 フィーは悄然とした。ハリアーはクーガに尋ねる。

「クーガ、貴方はこう言う事に詳しいでしょう?どうにかならないですか?」
「おそらく薬か妖術か、たぶんその両方で正気を奪っているのだと思う。何、大したことはあるまい。本拠地に連れて行くまでの暫定的な処置でしか無いはずだからな。時間を置けば、正気に戻るだろう。
 何、戻らなくとも方法はある。ハリアー、君は毒消しの術を使えただろう。今すぐでなくとも、君が疲れが取れたらその術を使ってみてあげれば良い。妖術の方はそんなに長い時間、持つ物では無いからな。薬の効果が消えれば、正気に戻るだろうさ。」
「そうですか、良かった。」

 それを聞くと、フィーも安堵の表情を浮かべる。そこへブラガが口を挿んだ。

「さあて、じゃあ後はこのガキどもを役人に引き渡せば、一件落着ってやつだな。しかし今回は金にゃならなかったなあ。」
「そうね。でも、お金ならまだ沢山あるからいいじゃない。」
「何言ってやがる。種銭があるうちに次の稼ぎの事考えなきゃ、すぐに素寒貧になっちまわあ。」
「それもそうだけど……。」

 苦笑気味に、シャリアがブラガに同意する。ブラガは丁度良いとばかりに、話を切り出した。

「そう言や、どうでぃ。皆、考えてくれたか?」
「え?何を?」
「?」
「いや、よ。俺達が組んで、山師としてやっていかねえかって話!」

 ブラガは目を輝かせて、周囲の面々を見る。一同から、ああ、とばかりに声が漏れる。最初に返答をしたのはシャリアだった。

「前にも言ったけど、あたしは良いわよ。フィーは?」

 話を振られたフィーは、うっと一瞬詰まる。だが、彼もまた首肯した。

「俺も……。俺もいいですよ、ブラガさん。ただ絵師としての修行は続けますけど、それでいいなら。」
「おう!そんなのは個人の勝手だ、構わねえぜ!クーガとハリアーはどうでえ?」

 クーガはハリアーの方に顔を向ける。ハリアーは逆にクーガに問いかける。

「貴方はどうするんです?」
「私か……。私は……。ふむ、山師、か。いいかもしれんな。面白いかもしれん。」
「そうですか、貴方がやると仰るんでしたら、私もそうしましょう。貴方から目を放すわけにはいきませんからね。」

 クーガは、やれやれと言った感じで肩を竦める。ハリアーはにっこりと笑った。ブラガも彼らの返答を聞くと、大口を開けて笑う。

「はっはっは!これで話は決まりだな!んじゃ、このガキどもを役人の詰め所まで連れてこうぜ!」
「ええ、そうしましょう。事情の説明はどうします?」
「妖術師云々は言わない方がいいかもしれませんね……。突拍子も無い話ですから、信用してもらえないかもしれません。」
「そうだな……。単に、かどわかしの犯人が証拠隠滅を図って火を放ったと言う事にした方がいいかもしれん。」

 彼らは子供達を連れて、夜の道を歩いて行った。彼らの背後には、赤々と炎を上げる廃屋が、いつまでも燃えていた。


あとがき

 10年の歳月を経て、ようやく第2話です(笑)……笑い事じゃない年月が経ってしまいましたが。このシリーズを見捨てるつもりは更々無かったので、この度頑張って続きを書いてみました。
 ようやくキャラクター達が、正式にパーティーを組みました。ですがまだ色々と問題はあります。クーガがその正体をパーティーの皆に隠してることですね。唯一彼の正体を知っているハリアーも隠してくれてはいますが……。さて、いつ頃彼の秘密がパーティーメンバーにバレるでしょうか。それと、今回逃がしてしまった敵の親玉も問題になりそうですね。
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