「湖の神殿」


 夏の日差しが眩しい季節、フィー達はガッシュの帝国はアレトスカ族領地内の港、タイオーナの街にようやくの事で到着する事ができた。ここまで1ヶ月の間、船室の中に閉じ込められていたハリアーとシャリアも、ようやくの事で外に出られるのである。ちなみに彼女らが閉じ込められていた訳は、船乗り達の宗教上の理由であった。
 本来ガッシュの帝国人達は、女性を船に乗せない。だがどうしても乗せなければならない場合は、出航前に女性達に禊の儀式を行い、更に彼女らに肌の露出が少ない服を着せた上、航海の間中船室に閉じ込めるのである。その戒律をもしも破れば、女性を嫌う海神アマルポスの怒りを買い、船は嵐に襲われて、必ず沈められてしまうと言うのだ。
 船から桟橋にかけられた渡し板を渡り、フィー達一同は彼らの馬を連れて港へ降り立つ。ちなみにあの杭『パイ・ル・デ・ラール』は、フィーの馬にくくりつけられていた。1ヶ月の船旅は、彼等に取っても流石に応えた様で、皆一様に疲れた顔をしている。特に1ヶ月間ずっと船室に閉じ込められていた女性陣は、2人ともかなり憔悴していた。ちなみに彼等の馬も、あまり元気が無い。
 シャリアは伸びをする。

「ん〜!はぁっ……。ようやっと陸地に着いたわね〜。やっぱり……。」
「しゃ、シャリア!」
「周りの目を気にしろって!ここは俺達アハル人の土地じゃあねえんだ!」

 フィーとブラガが、焦った様に言う。シャリアは言われて、きょろきょろと周囲を見回す。すると周囲の人々――皆、ガッシュの帝国の民族であるフェルム人だ――が、胡散臭そうな目つきで彼等、特にシャリアを見つめている。シャリアは慌てて口元に手をやり、愛想笑いをする。

「ど、どうも失礼しました。おほほほほ……はぁ〜。」
「……まあとにかく、港の役場に行かないと。入国手続きしないといけないからね。」
「また金を絞り取られるのか。溜息が出るぜ、ったく。」

 フィーの言った事に、ブラガが反応した。彼等はこの船旅で、強欲なアレトスカ商人である船長から、何かにつけ色々と金を絞り取られていたのである。そんな彼等を尻目に、仲間の1人であるクーガは、聖刻教会の僧である女性、ハリアーを気遣っていた。

「……大丈夫かね、ハリアー。つらいなら、手につかまりたまえ。」
「ありがとうございますクーガ。大丈夫です、このぐらいなら……。それにようやく陸に上がれましたからね。」

 ハリアーはにっこり微笑んで見せる。クーガは相変わらず無表情だ。そこへフィーが声をかけてくる。

「クーガさん、港の役場に行きましょう!」
「ああ、今行く。」

 彼等は連れ立って、港の役場へと歩いて行った。



 フィー達一同は、港の役場で入国税を納めた後、街の外に作られた、他所者用の旅客街にある宿へと腰を落ち着けていた。

「くそ……。全員分で、10,000ゴルダも取られるとは、思っても……。いや、思ってはいたけどよ、強欲なアレトスカ族の港街なんだし。しかし痛い出費だぜ。」
「何にしても、法外よね。」

 ブラガの愚痴に、シャリアも疲れた様な口調で同意した。フィーが溜息混じりに言う。

「アハル人の土地に帰ったら、何処かで稼がないといけませんね。運良くエルセ・ビファジールを貰えたりして、総合的には黒字なんですが……。修理代とかで、現金が少なくなって来てます。一応まだありますけどね。それに加えて、今回の入国税。困ったもんです。」
「それだけでは済まないとも、フィー。この土地では、宿の宿泊費から酒代に至るまで、地元民と旅行者では違う価格が付けられているとの前情報だったろう。実際宿代も高かった。聞いた話を総合すると、他所者用の値段は、大体1.5倍から3倍程度だ。」

 クーガの台詞に、一同は天を仰いだ。だがブラガが気を取り直して言う。

「まあ、何だ。金がかかるのは覚悟してたからな。それよか俺達が行く予定の、エズラ湖北端の様子、聞けるようなら聞いとかにゃならん。どれ、酒場回りでもして、情報を集めてくるか。」
「あ、俺も行きますよ。シャリアはどうする?」
「あたしは今回はいいわ。あんまり人前に出て、ボロを出したく無いし。」

 フィーの言葉に、シャリアは否を返す。うかつにここガッシュの帝国内で、女が能動的、活動的な行動を取ったら、色々と面倒な事になりかねないからだ。フィーは頷く。

「わかった。じゃあブラガさん、行きましょう。」
「おう。」

 フィーとブラガは連れ立って出かけていった。シャリアは溜息を吐く。

「あ〜あ。はやくアハル人の土地に戻りたい。」
「まあまあシャリア、私達はすぐに人の殆どいない土地に出かけるんですから……。そうしたら、少しは気楽になりますよ。」

 ハリアーが、シャリアを宥める。クーガはその間、我関せずとばかりに、何やら書き付けを読んでいた。



 フィーとブラガの2人は、何軒目かの酒場に来ていた。まだ日が高いと言うのに、1軒毎に軽く引っ掛けて噂話や伝承などを聞き、他の店に移ると言う行動を繰り返した2人は、碌に情報が無い事に疲れていた。フィーが愚痴を言う。

「はぁ……。何処へ行っても、噂話と言えば海洋関係ばかり、伝承も同じく……。内陸部に関する情報は、殆ど皆無ですか。」
「仕方ねえだろな。ガッシュの帝国は海洋国家だ。陸地はたまに帰る場所ぐらいにしか思ってねぇのが大半だ。いや、帰るって意識も薄いだろうな。奴らは海に『行く』んじゃなくて、海に『帰る』って感覚だろ、たぶん。」

 ブラガも疲れた様に言った。フィーは溜息を吐く。

「はぁ……。もう戻りませんか?これ以上粘っても、収穫は無さそうですよ。」
「そうだ、な。こうなったら、ぶっつけ本番しか無ぇか。」

 ブラガは立ち上がった。フィーも同じく立ち上がると、店主に勘定を払う。やはりここの酒代は高かった。彼等は肩を落として店を出る。フィーとブラガは、とぼとぼと宿への帰り道を歩いて行った。
 だが、彼等が宿への道を行く、その途中の事である。人通りが少ない道に入った時、突然フィーに何かがぶつかって来た。それは見た所子供の様だ。その子供は叫ぶように言った。

「ごめんよっ!」

 そして子供は急いで走り去ろうとする。だがその襟首を、フィーの手が伸びてがっしと掴んだ。子供は襟が締まって、うめき声を上げる。

「ぐぇっ!な、何するんだよ!」
「何をするとは、こっちの台詞だよ……。掏り取った財布、返してくれないかな。まあ、流石に全財産は入れてないけどね。」

 子供はぎくりと身を振るわせる。ブラガは目を見張った。

「俺でも気付かなかったってのに、やるなあフィー。」
「偶然ですって。……さ、返してくれるかな?」
「……ちくしょう!」

 子供はフィーから掏り取った財布を、フィーの顔に投げつけた。フィーは思わずそれを掴み取り、そのために子供を放してしまう。子供は脱兎の如く逃げ出した。だが今度はブラガがその襟首を掴んだ。子供は再びうめき声を上げた。

「ぐっ!」
「おい、まだ行っていいたぁ言ってねぇぞ。」
「うん。それに財布だけじゃなく、できれば中身も返して欲しいな。」

 ブラガの台詞に続き、フィーも子供に言葉をかける。彼は空の財布をひっくり返して、ひらひらと振っていた。子供は観念したかの様に、胡坐をかいて座り込む。良く見るとその子供は、身なりの良くないボロ服を纏った、見るからに浮浪児と言った風体だ。歳の頃は、10〜11歳程度か。と、ブラガがある事に気付く。彼はフィーに耳打ちした。

「おい、こいつアハル人とフェルム人の混血だよ、多分。」
「へぇ……。やっぱり苦労してるんでしょうね。」
「混血だからって、何が悪いんだ!」

 子供は耳聡くブラガの声を聞き付け、叫ぶ。ブラガはしゃがみこんで視線を子供の目と合わせると言った。

「別に悪かぁねーさ。ただ、フィーの財布を狙ったのは運が悪かったな。こいつぁこう見えても、歴戦の腕利き山師なんだぜ。」
「……。なあ頼むよ、見逃してくれよ。妹が病気なんだ。お金が無いと、薬師にも見せられないんだよ。」
「おい、古い手だな。」
「ほんとだって!ウチには親もいないし、たった1人きりの家族なんだよ!」

 子供は必死に言い募る。ブラガは子供の目をじっと睨みつける。子供は視線をそらさず、しっかりと見返した。しばらくして、ブラガは溜息をつく。

「どうするフィー?たいした額は入ってなかったんだろ?」
「銀貨、銅貨合わせて50〜60ぐらいですね。結構な額だとは思いますが……。」

 フィーは口ごもった。一般の都市生活者の平均月収がゴルダ銀貨で5枚程度である。また、物々交換の頻度の高い農村部などへ行けば、貨幣での収入は更に減る。それからすれば、フィーの財布に入っていた金はとんでもない額になる。
 だがしかし、である。たとえその金額全てをはたいたとしても、見習い程度の腕前を持つ医者に1回見せれば、それだけで全額が飛んでしまう。医者でなく、薬師であっても同じ様な物だ。彼らの扱う薬草は、かなりの値段がするのだ。病気と言うからには、1回や2回薬師に見せただけでは快癒するまい。フィーが口ごもったのは、そんな理由からである。
 しばらく考えてから、フィーは言った。

「ハリアーさんやクーガさんに相談してみませんか?」
「一々こんな事で、か?」
「袖振り合うも多生の縁と言いますからね。なあ、ほんとに病気の妹がいるんだな?俺の仲間には、良い腕の医者や薬師がいる。診せてみる気はあるかい?」

 フィーの言葉に、子供は驚いた様に目を瞠る。ブラガは子供の手を取り、立たせた。

「まったく、お人よしなんだからな。おら、行くぞ。」
「あ、う、うん。」

 子供は小さく頷いた。



 街の外側に作られている旅客街、更にその外れにあるボロ小屋が立ち並ぶ区域に、フィー達一同はやって来ていた。フィーの財布を掏った子供……ミッカの言う事によると、この辺にはミッカの様な親のいない子供、親に捨てられた子供が沢山住み付いているそうである。フィー達は、その崩れかけたボロ小屋の1軒に入る。小さなその小屋は、ミッカを合わせて6人もが入ると一杯になってしまった。いや、正確には7人である。小屋の奥には、ボロ布に包まれて、ミッカと同じ年頃の少女が横たわっていたのだ。どうやらミッカとその少女は双子らしい。
 シャリアがハリアーに問う。

「どう?助かりそう?」
「待ってください。……かなり酷いですね。」
「ひ、酷いって……。リッカは助からないのかよ!?」

 ハリアーの台詞に、ミッカは叫んだ。だがハリアーは首を左右に振ってみせる。

「大丈夫。酷いは酷いですが、この程度ならなんとでもなります。ただ……。」
「ただ?」

 ハリアーはミッカに問いかける。

「あなたはアマルポス神の信徒ですよね?」
「神様?神様が何をしてくれるって言うんでい!あた……俺達は自分達の力で生きてきたんだ!神様なんか、俺達みたいな貧乏人にゃ、何もしてくれないじゃないか!」

 ハリアーは悲しげな顔をミッカに向ける。彼女は諭す様に言った。

「そうではありません。神様は何もしてくれない、などと言う事は無いんです。……私が言いたかったのは、他の宗教の僧侶による癒しでも、あなた達が受け入れてくれるかどうか知りたかったのですよ。」
「そ、僧侶?あんた医者じゃなくて、坊さんだったのか?アマルポス以外の?」

 ミッカは驚く。ハリアーは頷くと、八聖者に一心に祈り、招霊の秘術を使うための祈念に入った。やがて彼女の両掌に聖霊の光が宿る。彼女はそれを横たわる少女……リッカに押し当てた。暖かい癒しの光がリッカを包む。そして彼女はその瞼を開けた。ミッカは驚きリッカに駆け寄る。

「リッカ!」
「あ……。お姉ちゃん。」
「「お姉ちゃん!?」」

 フィーとブラガは驚く。クーガが呟く様に言った。

「なんだね。気付いていなかったのかね。」
「お、おめえは気付いていたのかよ!」
「当然だとも。男と女では、骨格が違ってくる。」

 クーガの台詞に、ブラガは開いた口がふさがらなかった。



 フィー達は、ミッカとリッカの双子としばらく何でもない話をした後、彼女らと別れて宿に戻った。別れ際、ミッカはハリアーに何度も礼を言うと共に、フィーとブラガに謝罪し、掏った金を返してきた。だがフィーはその金を受け取らず、ミッカの手に握らせてやった。
 宿に戻った彼等は、宿の1室で、明日からの行動について相談を始める。ブラガが、今回の情報収集が失敗に終わった事を残念そうな顔で報告した。フィーも一緒になって小さくなっている。

「……と言うわけでよ。内陸部に関する情報は、噂話すら拾えなかった。すまねぇ。」
「それは仕方ない事だろう。そこまで済まながる事は無い。」

 クーガがブラガとフィーに慰めの言葉をかける。彼は続けて言った。

「しかしそうなると、完全にぶっつけ本番と言う事になるな。やむを得ない仕儀とは言え、避けたかった事態でもある。」
「そこがどんな地形か、すらも分からなかったんですよね。この旧王朝に居る時に手に入れた、大まかな地図ぐらいしか頼る物は無いと言う事ですか……。」

 ハリアーも眉を顰めつつ、言葉を発する。一同は深く溜息を吐いた。
 と、シャリアが唐突に全然関係ない話を持ち出す。

「……あの子ら、大変だろうね。特にこの男尊女卑の激しい土地じゃあ……。」
「そうだね。女の子だとは思っても見なかったけど、女の子じゃあ船にも乗せてもらえないし、仕事は限られるだろうね……。」

 フィーは婉曲な表現を使ったが、仕事が限られるなどと言う物ではない。女の子でアハル人とフェルム人の混血、しかも浮浪児となれば、行く末は決まった様な物だ。この土地柄から言って、シャリアの様に女戦士の道を選ぶ事すらできないだろう。この土地では、戦士とは同時に船乗りでもあり、男の仕事なのだ。
 ブラガが、そんな彼らの会話に口を挿む。

「あんまり気にすんな。やれる事ぁ、やったんだ。主にハリアーが、だけどよ。それともナニか、あの娘っ子どもをモルアレイドでも旧王朝でも、アハル人の土地まで連れてくか?……俺達が最後まで、面倒をきちんと見てやれるわけでもなし、向こうで放り出しでもしたら、かえって迷惑だろうさ。
 ……向こうの土地にだって、孤児や浮浪児は沢山いる。それこそ両手じゃぁきかねえぐれぇにな。話によれば、こっちは貧しくとも飢える奴ぁ居ねぇらしい。ゴーンの海の漁獲量が大層多くて、最下層に居るやつらにまで満遍なく行きわたってるんだとよ。だから、あいつらは大丈夫さ。返ってアハル人達の土地の方が、その面厳しいかも知れん。」

 全員が押し黙る。盗賊と言う社会の底辺で年月を重ねて来たブラガの台詞には、重みがあった。
 クーガが徐に言葉を発する。

「さて、結論は出たな。と言っても、出たとこ勝負、だが。だがそれしか方法が無いと言うのなら、押し通るまで。そうだろう、諸君?」
「ええ、そうですね。じゃあ明日は道中の食料を買い込んでから、即刻出立しましょう。」
「だぁな。じゃあ今晩は早く寝るか。」

 フィーとブラガは、あえて元気な声で喋る。ハリアーとシャリアも小さく笑い、女用に取ってある部屋へ戻るため立ち上がった。

「それでは皆さん、私達は部屋に戻ります。おやすみなさい。」
「目的地までは大体10日の道のりだったっけ?しっかり休んでおかないとね。おやすみ!」

 男達は、女性陣に軽く手を振る。そして彼等も就寝する事にした。



 次の日の朝、彼等は朝食を摂ると、出発前に保存食などの買い出しに出かけようとした。すると宿の前に誰かが居るのに気付く。フィーが相手の名前を呼んだ。

「ミッカじゃないか。リッカも一緒に。どうしたんだ?」
「ちと、リッカを助けてくれたお礼がしたくてさ。あんたら、エズラ湖の北まで行くんだろ?でもそこら辺の情報が全く無いって困ってる。そうだろ?」

 フィーは頷く。それを見て、ミッカとリッカは顔を見合わせると、にっと笑った。

「だから、あたしら伝手を頼って、女衆に話を聞いてきたんだ。男衆は海の上ばっかに興味取られてるけど、女衆は陸に居るもんだからね。だから陸の上の事は、女衆の方が詳しいんだよ。」
「……!!」

 ブラガはあっけに取られる。言われてみれば、その通りだ。女達は男達が海に出ている間も、陸の上で生活をしているのである。陸の上の事は、女達の方が詳しいのは当たり前だった。
 ミッカは話し始める。

「よく聞いてよ。エズラ湖の北には、エズラ湖本体とは切り離された、小さな湖があるんだ。名前は付いてないんだけどね。そこには湖の中に沈んだ、大昔の神殿があるって伝説があるそうなんだよ。その神殿、アマルポスの大神のじゃ、ないらしいけどね。」
「「「「!!」」」」

 一同は驚きの声を上げた。そうでないのはクーガぐらいだ。ミッカは続ける。

「で、ね。注意して欲しいのは、竜だかトカゲだか知らないけど、そんな感じのでっかい奴が神殿に行く途中の道を遮ってるって。火を吹くやつが。だから神殿には行っちゃいけないらしいよ。……ま、伝説って言っても、お伽噺の類なんだけどね。」
「いや、それでも助かった。ハリアー?君が啓示で見た映像には、その小さな湖とやらはあったかね?」

 クーガの台詞に、ハリアーは興奮気味に言った。

「ええ、ありました!たしかに『オルブ・ザアルディア』の光はそこにあったと思います!」
「俺の持ってる地図には、そこまで正確には描いてありませんね。エズラ湖の北の、小さな湖までは。」

 フィーは荷物から地図を取り出して確認していた。クーガはハリアーに頷く。彼は言った。

「地図に載っていない小さな湖について言及されているとなれば、その伝説に信憑性はあるだろう。ただ、火を吹く竜かトカゲと言うのが気になる。まかり間違えば……亜竜の類かも知れん。」
「亜竜……ですか?」

 ハリアーがよくわからないと言った顔をする。仲間達も、皆同じ様な顔だ。クーガは説明する。

「亜竜とは、竜の出来損ないだと思えば良い。竜についてはお伽噺等で聞いた事もあるだろう。ただ、出来損ないとは言え、下手をすれば操兵でもかなわない程の力を持っている事は確かだ。更に亜竜は不死身で、殺す事ができない。一度殺しても、しばらくすれば蘇ってしまうらしい。
 対処法は2つ。相手が嫌になるほど痛めつけて、逃げ出すのを待つか、それともこちらが逃げ出すか、だ。」

 全員が絶句する。だがクーガは一同を安心させる様に言った。

「だがそれ程恐れる事も無いだろう。私とハリアーがいれば、逃げ出す事は決して不可能ではないはずだ。それにこの化け物は、本当にいるかどうか疑わしいとまで言われているぐらい目撃数が少ない。何かもっと対処の容易い、別の化け物である可能性も高いのだ。」
「……本当ね?」

 シャリアが恐る恐る言う。クーガは頷く。

「ハリアーの術があれば、おそらくは大丈夫だ。」
「そこまで買っていただいて嬉しいのですが、万が一の作戦を説明しておいていただけませんか?クーガ。」
「後ほど説明しよう。」

 ハリアーの言をクーガはさっと流した。その理由を問いかけようとした彼女に、クーガは視線でミッカとリッカの方を指してみせる。彼女らに、クーガが練法師である事を知られるわけにはいかない。その事を理解したハリアーは、問いかけるのを止めた。
 フィーはミッカに礼を言う。

「ありがとう、ミッカ。このままでは何の情報も無いまま出発しないといけなかったよ。本当にありがとう。」
「い、いいよ、いいよ。これは本来、あたしらがお礼の意味でやった事なんだからさ。ね、リッカ。」
「うん、そうだよ、お兄さん。お礼を言うのはこっちの方。」
「そっか……。」

 ミッカとリッカは、言うべき事を言い終わると踵を返した。彼女等はフィー達に手を振る。

「じゃあね!ほんとにありがとう!」
「何やるんだか知らないけど、がんばれよ!」

 そう言って、彼女等は去って行った。フィー達は、しばらく黙って彼女等の去って行った方を見つめていた。



 その後フィー達は、保存食料を買い込み、タイオーナの街を出立した。ちなみに食料の値段は、旧王朝諸国やモルアレイド海岸諸国で買うよりもずっと高かった。しかしブラガがそこである事を思い出した。それは店主の髭を褒めると、アレトスカ商人はそれがお世辞だと分かっていても、幾らか値引きしてくれると言う噂だった。ブラガは試しに店主の髭を褒めて見た。すると確かに店主は喜び、商品を値引きしてくれた。それでも相場の1.5倍はしたのであるが。
 そしてフィー達一同は、10日の旅程の内8日を既に消化していた。彼等はエズラ湖の湖畔を湖岸に沿って旅をしていた。時には湖の浜辺を歩き、時には岸壁の上を歩いたりもした。旅の途中、確かに怪物等は出たが、幸いにもなんとか彼らで対処できる程度の敵しか出現する事はなかった。もっとも一度『毒吐き』と言われるトカゲの一種に出合った際は、追い詰めたと思った時に相手が毒を吐き出し、あぶなくシャリアがその毒にやられる所だったが。そう言う危ない場面も何度かはあったが、なんとか彼等は切り抜けていた。
 今、フィー達は、進行方向左手にエズラ湖を見ながら、北西に向けて馬を歩かせていた。そこは湖の畔ではあったが、碌に草も生えておらず所々に巨岩が転がっている、荒れ果てた地形であった。一応平地ではあり、馬を歩かすのには不都合が無い事が救いである。あと1日と少し程も行けば、エズラ湖の北にある小さな湖に到着するはずであった。
 と、フィーが何かに気付く。彼は仲間達に注意を促した。

「みんな!向こうの岩陰になにか居る!気をつけて!」
「げっ、また何か出やがったのか!?」
「何、大丈夫よ。あたしが……。」

 ブラガの声に応えて、シャリアが意気軒昂に言い放とうとしたその時である。進行方向にある巨岩の陰から、全長3リート(12m)近くはあろうかと言う、4つ足の巨大なトカゲの様な姿が現れたのだ。その背には、退化した小さな皮の翼がくっついている。そしてその額には、長さ20リット(80cm)ほどの半透明の角が生えていた。
 シャリアは引き攣った笑みを浮かべた。

「こ、こいつは流石に……。きつい、かな?」

 その時、クーガが叫んだ。その顔は、複雑な紋様の描かれた漆黒の仮面が覆っている。

「アグナス・ダ・カー!皆、こいつが亜竜、その1種だ!まともにやっては、一撃で殺されてしまうぞ!ハリアー、例の作戦で頼む!」
「!……わかりました。皆さんは少し下がってください!八聖者よ……。」

 ハリアーは馬上で祈りを捧げ始める。クーガはその隣に馬を進め、彼もまた術の結印を開始した。他の一同は、彼等よりもかなり後ろまで下がる。
 亜竜、アグナス・ダ・カーは、先頭に位置する事になったハリアーに噛みつき攻撃を仕掛けようとする。シャリアやフィー、ブラガの口から、作戦を分かってはいても、思わず悲鳴が漏れる。

「ひ……。」
「あぐ……。」
「う……。」

 だが、アグナス・ダ・カーの牙は、ハリアーに何の打撃も与えてはいなかった。アグナス・ダ・カーは、きょとんとした様子を見せる。これがハリアーの使った、招霊の秘術の効果である。ハリアーを中心に半径1リート(4m)の空間内では、ありとあらゆる打撃が効果を失うのだ。ハリアーは、不安そうに鼻を鳴らす馬を宥めた。
 アグナス・ダ・カーは、今度は長い尻尾を振りまわし、攻撃を仕掛けて来る。だがその打撃も、クーガとその馬に命中したとたん威力を失い、ぴたりと止まってしまった。アグナス・ダ・カーは訳がわからない様子で、それでも幾度も攻撃を仕掛けて来る。
 そしてクーガが結印していた術が発動する。アグナス・ダ・カーの足元が突如流砂と化し、亜竜を飲み込もうとした。アグナス・ダ・カーは泡を食って身を翻し、かろうじて流砂から逃れる。だがクーガは続けて同じ術を結印する。アグナス・ダ・カーは反転し、再びハリアーへ攻撃を仕掛けた。だがその攻撃は何の意味も為さない。亜竜は無駄な攻撃を繰り返すばかりである。そして再び、クーガの術が炸裂する。今度は間違いなく、アグナス・ダ・カーは流砂に飲み込まれ、動きが取れなくなった。
 ハリアーは叫ぶ。

「今です、皆さん!」
「よし皆、行くぞ!」

 ブラガの掛け声で、一同は一斉に馬を走り出させた。彼らの馬は、アグナス・ダ・カーから離れた場所を駆け抜けて行く。クーガとハリアーもまた、馬を疾走させてその場を離れた。
 だが、フィーが一瞬遅れた。彼は馬にあの杭『パイ・ル・デ・ラール』をくくりつけていたため、それが馬を操るのに邪魔になったのだ。そのため、彼の馬は一番遅れる事になる。アグナス・ダ・カーは、それを見逃さなかった。亜竜は流砂の中から長い首だけを伸ばし、フィーとその馬めがけて口から霧を吐いた。その霧は、たちまちのうちに炎の塊と化し、フィーとその馬を襲った。クーガが叫ぶ。

「躱せ!フィー!」
「えっ……。」

 だが躱し切れるはずもない。フィーは炎の塊に、馬ごと焼かれる。馬の悲鳴が響き渡った。アグナス・ダ・カーは再び炎を吐こうと、息を大きく吸い込む。しかしフィーは重傷を負いながらも、なんとか馬を操り、その場を離れる。彼は間一髪、炎の息の届く距離から逃れる事ができた。
 しばらく馬を走らせた後、彼等は馬を止めた。皆は馬を降りると、フィーの元へ走り寄る。シャリアが叫ぶ様に言った。

「ハリアー!お願い!フィーがひどい火傷!」
「今行きます!」

 ハリアーは素早くフィーの様子を診察すると、急ぎ治癒術を行使する。ハリアーの両掌に聖霊の光が灯り、それがフィーの身体に押し当てられた。たちどころに火傷の傷が癒えて行く。ハリアーは一息吐いた。

「これで大丈夫です。ああ、この馬も火傷をしていますね。癒してあげましょう。」

 ハリアーは馬の火傷も癒す。馬は人間よりもはるかに頑丈に出来ているので、同じ炎を浴びても、軽傷で済んでいた。そのため、フィーの火傷を癒した様な高度な術は使わずに済んだ。
 フィーはハリアーに礼を言う。

「ありがとうございます、ハリアーさん。」
「いえ、いいんですよ。」

 ハリアーは笑って応えた。そこにクーガがやってくる。彼は言った。

「大丈夫かね、フィー?」
「ええ、もうすっかり。けど、マントと衣類が……。街に帰るまで、我慢ですね。背負い袋は自分で背負わず馬に積んでたんで、馬の身体の陰になってなんとかなりましたけど……。しかしこの防具は凄いですね。炎自体は防げなかったけど、あれだけの炎に焦げひとつ無い……。
 けど、帰る時にもあの怪物をやり過ごさないといけないんですよねぇ……。」
「うむ……。」

 クーガはフィーの台詞に、重々しく頷いた。そこへブラガが軽い口調で言う。

「何、あんな伝説級の化け物に遭遇して、そんだけで済んだんだ。運がいい方じゃねーの?」
「ま、そうね。それじゃフィーの怪我もなんとかなったし、先へ進みましょ。」

 一同は再び馬に乗ると、先に進み始めた。



 そして次の日の朝方、彼等は目的の小さな湖へと辿り着いた。小さな湖とは言っても、それはエズラ湖と言う西方でも指折りの巨大湖と比較して言っているだけであり、直径7〜8リー(24〜32km)はある大きな湖だった。馬で1日ぎりぎりまで歩けば、なんとか1周を回りきれるだろうか。
 ブラガが呟く。

「でかいなあ……。どこが小さな湖だ……。」
「そうですね……。」
「エズラ湖に比べれば、どんな湖でも小さいわよ。」

 フィーとシャリアが応える。クーガがそんな彼等に向かい、言葉を発する。

「さて、いつまでもこうしていても仕方あるまい。この湖の周りを周回して見よう。」
「そうですね。湖の中に潜らなくてはならないかも知れないですけれど、何はともあれ場所を特定しなくては。」

 ハリアーがクーガに賛成する。フィーとシャリア、ブラガにも文句は無かった。彼等は馬で湖の周りを移動し始めた。やがて陽が中天に差し掛かった時、それは見えた。
 シャリアが叫ぶ。

「見て!湖の中に、何か見えるわ!」
「ああ、俺にも見えた。何か建物みたいだけど……。」

 フィーもそれを見つけた様だ。いや、その時には既に全員がそれを見つけている。フィー達一同は頷き合うと、馬をその場に繋ぎ、湖岸へと下りて行った。そこの湖岸は砂浜になっており、泳ぐのに適している。砂浜に着くと、シャリアは鎧を外し、上着とズボンを脱ぎ始めた。フィーは慌てる。

「ちょ、ちょっとシャリア!」
「何よ。これから泳ぐんだからしょうがないでしょ。ハリアー、あんたも僧服のまま潜るつもり?」

 ハリアーも顔を赤らめると、仕方が無しに鎧を外し、僧服を脱ぎ始める。フィー達も服を着たままでは泳ぎづらいと理解したのか、鎧を外して衣類を脱ぎ始めた。
 だがクーガは、衣類を脱いで下着姿になった後、鎧――聖刻器のパッド入り皮チョッキ――を再度着用した。無論、仮面は被ったままである。更に彼は触媒の入った袋各種を『無限袋』に納め、その口を固く縛った。その上、腰には長剣をぶら下げている。
 ブラガはクーガに問う。

「おい、物々しい装備だな。戦闘になる可能性を考えてやがんのか?」
「うむ。その可能性は、決して捨てるべきではない。」
「むう……。」

 ブラガも下着の上から皮鎧を着用し、愛用の手斧と小剣を身に付け、兜を被った。フィーも自分の操手用防具を一式、下着の上に着用して自分の破斬剣を腰に着けた。それを見たハリアーは、自分の鎚矛を腰に下げる。シャリアもまた、自分の双剣を腰に下げた。しかしこの2人の防具類は、頑丈過ぎて泳ぎの邪魔になる様な代物であるため、彼女等は身に着ける事を諦める。
 そしてフィー達一同は、湖の中へと潜って行った。



 フィー達は、空気中にいた。クーガを除く全員が、唖然としている。フィー達一同は水中に潜り、そこに沈んだ古代の神殿に到達したのだが、そこの神殿を包む様に空気の巨大な泡があり、内部には新鮮な空気が満ちていたのである。神殿内部はあまり明るくなかった。ブラガが聖刻器のランタンを灯す。クーガは言った。

「この古代の神殿には、何らかの結界が張られている様だな。なおかつ、その結界の中に空気を溜め込み、なんらかの方法で浄化している様だ。だがしかし……。」
「ええクーガ。この神殿内の空気から、邪悪な気配を感じます。」

 ハリアーがクーガに応える。ハリアーは早速〈聖霊話〉を試してみる。そして言った。

「あちらに邪悪を感じます。おそらくは負の生物です。あと、この神殿内に幾つか、聖刻の波動を感じました。それと……どうなっているのかは分かりませんが、あの『オルブ・ザアルディア』も感知しました。しましたが……どうも変なのです。何か力を抑えられている様な……。場所は負の生物がいる場所の向こうです。」
「行ってみれば、わかるだろう。」

 クーガは徐に言った。



 彼等は、古代の水中神殿を歩き回った。その結果わかった事は、ここは神殿は神殿だが、あくまで『元神殿』であり、古代のある時期からとある古代の練法師達が接収していた事が分かった。情報源は、あちこちに散乱していた聖刻語による書き付けである。そして元々はどんな神の神殿だったのかと言うと、ザアルと言う、今は知られていない忘れられた神の神殿であった事がわかった。
 そのザアルについての情報は、さほど多くは無かったが、ただ1つ、見過ごしにできない1文が発見された。それは、『ザアル神はジアクス神の剣であり盾であり僕である』と言う1文だった。ジアクスとは、あの邪教トオグ・ペガーナの御本尊である魔神の名だ。
 フィーは小さく呟く。

「とんでもない物が、出て来ましたね。」
「もうひとつ、予想……と言うか憶測の類だが、考えられる事がある。あの宝珠『オルブ・ザアルディア』とザアル神になんらかの関わりがあるのかも知れない。」

 クーガが前方を見遣りつつ言う。一同は深く考え込んだ。
 情報以外の収穫品も、また存在した。ブラガがある部屋にあった罠と鍵のかかった櫃を開け、中に納められていた幾つかの装飾品を見つけ出したのである。ハリアーが言うには、それらは皆、聖刻器の類であるらしい。一緒に納められていた書き付けによれば、それらは各々、『増気の腕輪』『魔力視の指輪』『遠話の首飾り』『魂の指輪』と言うらしい。
 『増気の腕輪』は文字通り、気闘法を強化するための腕輪で、これはシャリアが持つ事になった。『魔力視の指輪』も文字通り、命令語を発する事により魔力を感じ取れる様になる指輪で、『遠話の首飾り』は、《遠話》と言う長距離間で通話をする為の練法を使う事のできる首飾りであった。これらは2つとも、ブラガの手に入る事になった。最後の『魂の指輪』は、持ち主の精神力を強化する能力を持っている事がわかった。これが聖刻の力を使った道具でさえ無ければ、ハリアーに相応しい物品であったのだが、聖刻の力による品であるため、ハリアーは遠慮した。そのため、術師であるクーガの手に渡る事になった。
 また、聖刻器でこそ無かったが、あちこちの部屋で彼等は宝飾品の類を多量に発見している。ハリアーが〈聖霊話〉で確かめた所、なんら呪い等はかかっていなかったため、これは現金が少々心細くなってきた彼等に取って、貴重な収入となった。
 しかし、肝心の『オルブ・ザアルディア』へと至る道は中々発見できなかった。方向と大体の距離自体はハリアーの〈聖霊話〉でわかっているのだが、一向にそちらへ行く通路が見つからないのだ。フィー達は、ここが水中であるために筆記用具は持ってきていなかったため、床に適当な石片で地図を描きつつ検討する。
 ブラガが呟く様に言った。

「さっぱり分からねえ。行ける所は全部行ったはずだ。」
「元神殿と言うのに、祭壇がありませんよ。礼拝堂にあたる場所も。」

 フィーも自分の疑問点を口に出す。ハリアーは〈聖霊話〉の結果から、負の生物や『オルブ・ザアルディア』を感じた方向の行き止まりを指差した。

「こちらの壁に、何か仕掛けはありませんでしたか?」
「何も無ぇんだわ。それがよ。」
「……一度、入口から丁寧に調べ直すしか無いか。」

 クーガの台詞に、一同はうんざりした。だがそれしか方法は考えられない。何か見落としが無いかどうか、フィー達はこの神殿を最初から調べ直す事にした。
 結局の所、それが正解だった。ブラガは疲れた様な口調で言う。

「なんでこんな入り口から入ってすぐの所に、地下への隠し階段があるんだ……。」
「構造的に見て、当初は隠し階段では無かった様だな。後から工事をして、階段を隠した様だ。」

 クーガがざっと周囲を調べて言う。だが後から隠し階段になったにせよ、最初からそうだったにせよ、疲れた事は間違い無い。一同は溜息を吐いて階段を降りようとする。そこへハリアーが注意を促した。

「おそらく地下を抜けたなら、上へ再度上がる構造になっていると思われます。そこには負の生物が存在しているはずです。皆さん、気を抜かないでください。」
「そうだな。地下を潜って上に出たら、戦いが始まると思って良い。準備を怠らない様にしよう。」

 そう言ってクーガは、両手を胸元に構え、いつでも印を組める様にする。他の一同も、武器を抜いて構えたり等、いつでも戦闘に入れる様に準備した。だがシャリアが少々不安げに言う。

「けど、あたしとハリアーは鎧、無いんだよね。大丈夫かな。」
「俺が前に出ない事にして、俺の鎧貸すか?」

 ブラガが尋ねる。だがシャリアは断った。

「ううん、いいよ。きっと大丈夫、大丈夫。」
「ならいいんだが。」

 ブラガは軽弩を巻上げて準備しつつ言った。やがて彼等は地下道を進み始める。地下道は真っ直ぐで、しばらく行くと上り階段に突き当たった。上り階段の先は、両開きの壮麗な扉に通じているのが見える。ハリアーは言った。

「あの向こうですね、負の生物の気配は。」
「ブラガ、念の為に扉を調べてくれるかね。」
「まかせろクーガ。」

 ブラガは先に立って階段を上り、扉を調べた。彼は言う。

「鍵はかかって無ぇ。大丈夫そうだ。開けるからフィー、シャリア、突入の準備をしてくれや。」
「わかりました。」
「わかったわ。」

 一同は、扉の前で身構える。そしてブラガが扉を開け放ち、その左右からフィー、シャリアが剣を抜いて突入した。果たしてそこには負の生物が存在していた。クーガが叫ぶ。

「死操兵!それに死人食らいが2体に骨人が3体か!それと……幽霊か!」

 そこは広いホールの様な場所だった。天井には窓が開いて、そこから少々上の湖面を通して光が入り込んで来ている。そして床の上には幾多の練法陣が描かれ、その中に幾体もの負の生物が封じられていた。ホールの奥には祭壇があり、そこに何やら巨大な装置が設えてある。そしてその装置の中枢と思われる場所に、ぼんやりとほのかに光を放つ物体が据え付けてあった。宝珠『オルブ・ザアルディア』である。
 侵入者を感知したのか、練法陣に封じられていた負の生物達が動き出す。ハリアーはクーガに向けて言った。

「クーガ!死操兵は任せてください!使える術があります!」
「……わかった。なら私は幽霊を引き受けよう。フィーは骨人を、ブラガとシャリアは魔力の込められた武器を持っているから、死人食らいに当たってくれ!」

 クーガが指示を出す。各々は、その指示に従い散開した。
 まずハリアーは、死操兵の足元まで走ると、そこで招霊の秘術を使うべく祈念を始める。そうこうする内に、死操兵は動き出し、腰から巨大な剣を抜いてハリアーに斬りかかった。だがハリアーの身体にその攻撃が当たった瞬間、その強烈な打撃は殺されて剣はぴたりとその位置で止まる。これは先日も亜竜アグナス・ダ・カーに用いた、ありとあらゆる打撃の効果を失わせる秘術である。
 そして彼女は徐に腰の袋から素焼きの瓶を1本取り出すと、その栓を開けて中身を死操兵へとぶちまけた。中身は、モニイダス王国はデル・ニーダル市の聖刻教会僧正、タサマド・カズシキが清めた聖水である。聖水は見事に死操兵の脚から胴体にかけてを濡らした。彼女はすぐさま次の術を使うための祈りを捧げ始める。その間にも死操兵は彼女へ攻撃を繰り返すが、何の効果も無い。そして聖霊が彼女の祈りに応え、術が効果を発揮する。死操兵の身体にかかった聖水が、閃光を発する。次の瞬間、死操兵は消滅していた。と、がらんと音を立てて何かが床に落ちる。それは死操兵の被っていた面当てであった。
 一方クーガは、霞の様な人影に見える幽霊に向かい、小走りで駆け寄っていた。幽霊はその霞の様な腕でクーガに触れてくる。床の石畳に躓き、躱すのに失敗したクーガだったが、その強靭な精神力で幽霊の攻撃に耐えた。彼は一瞬念じただけで死霊払いの術を発動させると、腰に着けた袋から、一掴みの塩を取り出して幽霊に投げつけた。幽霊の怨念の力と、クーガの精神力がぶつかり合う。だが最終的にはクーガの精神力が勝利した。幽霊はその霞の様な身体を土の粉に変じさせ、ぱらぱらと崩れ去っていった。
 フィーは3体の骨人相手に破斬剣を振るっていた。フィーの技量は、度重なる戦いを通してかなり向上しており、骨人程度では3体もいた所で、ほとんど相手にすらならない。彼はひらりひらりと骨人の振るう剣を躱し、逆撃で骨人達を葬って行く。時折石畳に蹴躓く場面もあったが、そんな時は敵の攻撃を躱す事に専念し、終始有利に戦闘を進めていた。
 シャリアとブラガは、各々1体ずつ死人食らいを相手にしていた。死人食らいは攻撃の威力こそ、そこそこ強力であるが、動き自体は鋭く無い。いや、既にかなりの実力を身に着けた彼等と比べれば、鈍いと言っても良いだろう。彼等は死人食らいを圧倒する。特にシャリアはその双剣と『気』の力で、あっと言う間に自分の受け持った死人食らいを倒してしまい、ブラガの手助けに回った程である。そうなってしまっては、最早死人食らいに勝ち目は無かった。
 戦いが終わり、一同は互いの健闘を称え合う。シャリアはフィーの力量の向上を褒めた。

「フィー、やるようになったじゃない!1体3だってのに落ち着いた戦いぶりを崩さないし!最初会った頃のへっぴり腰が嘘みたいよ!」
「そ、そうかな。」
「そうよ。ブラガも敵の攻撃を回避する事にかけちゃ一流に近いわね。それだけに限れば、あたしより上手いくらいよ。」
「まあ逃げる事なら得意だな。」

 ブラガも褒められて、悪い気はしない様だ。そんな時、クーガがフィーを呼ぶ。クーガはハリアーと一緒に、消滅した死操兵の残した物を調べていた。

「フィー、これを見てくれ。」
「どうしました?……これは、操兵の面当て、ですね?」

 操兵の面当てとは、操兵の仮面を保護するために機体の顔部分に装着する、操兵用の防具の1種である。だがこれを装着すると、仮面の力を阻害して操兵の力が若干落ちてしまうので、嫌って装着しない者も多い。
 クーガはこの面当てについて説明する。

「死操兵が着けていた物だ。だが何か特殊な力がある物と見られる。彫金で彫り込まれている聖刻語を解読した限りでは、どうも仮面の力を増幅する様なのだが、はっきりしない。しかし……掘り出し物かも知れんぞ。」
「それは……凄い物かも知れませんね。わかりました、持って行きましょう。操兵の仮面よりも一回り大きいぐらいですし、運べなくは無いですね。」

 操兵の仮面は普通、人間用の盾ほどの大きさを持っている。その上に被せる物なのだから、面当ては人間の上半身をすっぽり覆い隠す、大型の盾ほどの大きさだ。フィーは面当てを背負う。
 その後、フィー達一同は全員で、奥にある祭壇にやって来た。そこには、前述した通り巨大な装置が設置してあり、その中枢部に宝珠『オルブ・ザアルディア』が取り付けられていた。見た所、『オルブ・ザアルディア』の輝きは、心なしか鈍い気がする。巨大な装置からは様々な太さの管が出て、壁や天井、床に潜り込んでいた。明らかにこの装置は後付けである。
 クーガはこの装置を子細に調べた。そして1つの結論を出す。

「……おそらくは、この装置はこの湖底にある神殿の動力の様な物だ。この装置によって、ここの神殿全体に結界が張られ、空気が満たされ、なおかつその空気が浄化されているのだろう。
 そしてその動力源となっているのが、この『オルブ・ザアルディア』だ。これを暴走させずに力だけを利用するとは、恐るべき技術力だな。ただ、そうやって利用するために『オルブ・ザアルディア』はこの装置によって、随分と力を抑え込まれている様だ。この装置から外したら、何が起きるかわからないぞ。それに、これを外せばその瞬間、神殿に張られた結界は失われるだろう。ここに水が流れ込んで来るぞ。」

 そう言いつつクーガは、あの『神力遮断布』を『無限袋』から取り出して手に持っていた。
 ハリアーは言う。

「封印のための札は、濡れたら駄目になってしまうので、陸上に置いてきました。ここはとりあえず、その神力を遮断する布地で包みこんで、陸上まで持って行きましょう。
 水が流れ込んで来るのは仕方ないでしょう。ただ、水が流れ込んで来る時は相当な激流になるはずです。建物の奥へ押し流されては、湖面まで出るだけの息が続かず窒息してしまうでしょう。……何かに掴まってしばらく耐えて、ここが水でいっぱいになったら湖面まで泳ぎ上がるしかありませんね。」
「何か浮きになる物があれば良いんだけど。」

 シャリアはそう言って、周囲を見回す。だがこの部屋には特に、何も無かった。だがクーガが言う。

「全員で激流に耐える事もあるまい。皆は神殿の入り口から出て結界の外へ行き、泳いで湖面へ上がりたまえ。私がここに残って、『オルブ・ザアルディア』を外す。」
「クーガ!貴方1人で危険を冒すつもりですか!?」

 ハリアーの声に、クーガはしれっと言い返す。

「何、危険にすらならんよ。私1人なら、最大限に空間跳躍の術が使える。誰かを連れて空間跳躍する術は、手間がかかる術である分、どうしても距離が短くなるからな。多分私1人であれば、湖の岸辺の砂浜まで空間跳躍できるだろう。」
「「「「あ。」」」」

 全員が納得する。クーガは言った。

「さあ、神殿の入り口まで付き合おう。君達はそこから泳いで上へ上がりたまえ。」



 クーガを除く一同は、神殿の入り口から外へ出て、結界の際から水の中へ飛び込んだ。クーガはそれを見届けると、神殿の中へと戻って行く。フィー達4人は、急いで湖面へ泳ぎ上がった。

「……ぷはっ!め、面当てが重い……。し、沈む。」
「ちょっとフィー、しっかりしなさいよ!」
「おら、俺達が支えてやるから。」
「あ、ありがとう2人とも。」

 フィーはあの拾って来た操兵用面当ての重みで、再び水中に沈みかけた。しかしシャリアとブラガの手助けで、なんとか浮いている事ができた。続いてハリアーが湖面に上がって来る。

「……ぷあっ!み、皆さん大丈夫ですか?岸まで行きましょう。」

 彼等は一生懸命泳ぎ、ようやく湖岸の砂浜まで辿り着く。4人はかなり疲労していた。彼等は一斉にへたり込む。

「ふう、クーガさん大丈夫かな。」
「クーガの事だもの、大丈夫よ。」

 フィーがクーガの事を心配して言った言葉に、シャリアが応える。ハリアーも何か言おうとしたその時、湖面に渦が巻いて泡が沸き立って来た。ブラガが叫ぶ。

「クーガが宝珠を外したんだ!」

 次の瞬間、空気から滲み出る様に、クーガの姿が彼等の前に現れる。彼は仲間達に手を上げて、自分が健在である事を示した。そして彼はハリアーの前に歩いて行くと、『神力遮断布』に包まれた宝珠『オルブ・ザアルディア』を差し出す。

「ハリアー、疲れている所済まないが、さっさと封印をしてしまおう。」
「はい、そうですね。……御苦労さまでした、クーガ。」
「何、大した事は無い。君達こそ、御苦労だった。」

 ハリアーは、クーガから宝珠を受け取った。そして浜辺に置いておいた荷物から、封印のための札を取り出す。そして浜辺に宝珠を置いて、その包みを解いた。
 と、その時、宝珠から光の柱が天に向かって立ち昇った。クーガが叫ぶ。

「いかん!宝珠が目覚めた!ハリアー、早く封印を!」
「は、はい!」

 ハリアーは札を宝珠へと貼り付けた。そして八聖者へと祈りを捧げ、聖霊の秘術を使うための祈念を行う。直後、ハリアーの術が完成し、宝珠の機能を狂わせた。宝珠の力が弱まった瞬間、封印札が力を発揮し、宝珠を封印する。その時、その場に居たフィー達一同は、何か断末魔の叫び声の様な物を聞いた気がした。そして宝珠から立ち昇っていた光の柱は消滅し、宝珠自体もあっと言う間に曇って光を失った。
 ハリアーは溜息を吐く。

「……あぶない所でした。」
「ほんと、何が起きるかと思っちゃった。」

 シャリアも頷く。ブラガはしみじみと言った。

「ま、何も起きなかったからいいんじゃねぇか?」
「待ってください!」

 フィーが叫ぶ。彼は破斬剣を構えていた。クーガも身構えている。一同は、彼等を狙う殺気に気が付く。彼らの周囲に、一斉に現れたものがあった。それは、小さな野ネズミである。ただしその数が尋常ではない。彼等は無数の野ネズミに、完全に取り囲まれていた。おそらくは封印される前に、宝珠が呼んだのである。
 クーガは低位の練法の術を念じる事だけで発動させた。それは一時的に精神か肉体を回復させるための術である。彼はこの術を用いて、疲弊した精神力を一時的に回復させたのだ。そして彼は、続けてもう1つ低位の術法を念じるだけで発動させる。突如として空中に、直径10リット(40cm)ほどもある炎の球が浮かび上がる。クーガはそれを野ネズミの群に向けて叩き付けた。爆炎が上がり、野ネズミの群はその一角が焼き尽くされる。
 ブラガが自分の聖刻器の手斧を構えて、その力を解き放つための合言葉を叫んだ。

「ヴァーズバン!この畜生どもめ!」

 強烈なカマイタチ現象に巻き込まれ、野ネズミの別の一角が吹き散らされた。クーガは皆に叫ぶ。

「荷物を拾うんだ!次の一撃を合図に、逃げ出す!」

 一同は荷物を急いで拾った。クーガは新たな術を念じ、凄まじいまでの烈風を呼び起こした。彼から幅50リット(2m)、長さ5リート(20m)に渡って、野ネズミが吹き飛ばされる。野ネズミの集団の中に、道が開いた。彼等は必死でその道を走る。クーガは最後尾に立って、時折襲いかかってくる野ネズミを術で吹き飛ばしていた。
 やがてフィー達一同は野ネズミの群から逃げ切り、馬の所までやって来た。彼等は急いで衣類を身に纏うと、馬に跨りその場を離れる。野ネズミの群が追って来ていないとは言い切れないからだ。シャリアが疲れた声で泣きごとを言う。

「あんなの反則よ。あんなん相手じゃ、剣もまともに役に立たないじゃない。」
「それでも今回はまだましな方だよ。発動も途中で抑えられたし。もし完全に宝珠が発動してたら……。」

 フィーの台詞に、その万が一の光景を想像した一同は、身震いをする。ブラガが言った。

「あー、やめやめ!縁起でも無ぇ事言ってんじゃねーよ!なんとか宝珠を封印できた!それでいいじゃねぇか!」

 だが、その封印は所詮一時しのぎにしか過ぎない。その事にあえて彼等は触れず、ひたすらに馬を走らせた。



 その後フィー達一同は、港街タイオーナへの帰途についた。帰り道の途中、彼等は再びあの亜竜アグナス・ダ・カーと遭遇した。どうにかして流砂から脱出したらしい亜竜を、以前と同じ方法で煙に巻き、なんとか彼等は逃走に成功する。幸いにも、今度は誰も怪我を負う事は無かった。やがて湖底の神殿から4つ目の宝珠『オルブ・ザアルディア』を手に入れてから10日後、フィー達一同は港街タイオーナへと到着する事ができた。
 彼等は旅客街の宿屋で1晩ぐっすりと休んだ。そうして次の日、彼等はアハル人の土地であるモルアレイド海岸諸国へ帰るための船を探すついでに、ミッカとリッカの姉妹に礼を言いに出かけた。ミッカが教えてくれた伝承の情報が無ければ、この探索行はもっと時間がかかっており、場合によっては亜竜アグナス・ダ・カーによって全滅していた可能性もある。彼等からすれば、お礼を言うのは当然の事であった。
 突然訪ねて行った彼等を、ミッカとリッカは歓迎してくれた。もっとも彼女らのボロ小屋には、持て成しに使えるお茶などの代物は無かったが。フィー達の話を聞くと、ミッカは少々寂しそうに言った。

「そっか。もう地元に帰るのかー。」
「ああ、目的は達したからね。」

 フィーは笑って言う。そして懐から銀貨、銅貨取り混ぜて合計1,000ゴルダ余りを取り出す。彼はそれをミッカとリッカの前に置いた。姉妹は驚く。

「わあ!こんなにお金が沢山!」
「ちょ、ちょっと!これどうすんのさ!」
「何、今回の分け前さ。」

 ブラガが笑って言った。彼等は今回の探索で、例の宝珠や幾つかの聖刻器の他、多数の宝飾品を手に入れていた。これはその宝飾品を換金した物の一部である。シャリアが後を続ける。

「あんたたちの情報のお陰で、今回は随分と助かったからね。分け前を渡すのは当然でしょ?」
「い、いいの!?」
「ちょ、こんなに……。貰い過ぎじゃねーの?」

 リッカは驚くばかりだ。ミッカは少々気後れした風である。フィーは微笑んで言う。

「いいとも。君の情報には、それだけの価値があったからね。本当に、助かった。」
「でも……。あれはリッカを助けてもらったお礼みたいなつもりだったし……。」
「いいから貰っとけ。地面に穴でも掘って隠して、大事に使うんだぞ。」

 ブラガが注意をする。リッカは激しく何度も頷いた。ミッカも未だ躊躇していたが、やがてこっくりと頷く。やがてミッカは小さな声で言った。

「あの……。ハリアーさん?」
「はい?何でしょう。」

 ハリアーはミッカに歩み寄る。ミッカは問うた。

「あの……。聖刻教会の教会って、何処にあるの……かな?」
「ええとですね……。フィーさん、地図出してくださいませんか?」
「ああ、はい。」

 ハリアーはフィーが出した地図を見せて説明する。

「ここがエズラ湖ですから、ここらへんがこの港街タイオーナですね。そしてこちらがファインド森林、ここが旧王朝諸国です。ここ、ファインド森林を通って、旧王朝諸国まで通じているのがカグラと言う大きな街道なんですが、聖刻教会の教会はこのカグラの道沿いに、ときたま点在してます。ちなみに私が修行をしたのは、ここファインド森林のフォトニ国と言う小さな国ですね。」
「……随分遠いんだな。」

 ミッカは戸惑った様に言うが、しばし間を置いて、はっきりと言った。

「決めた!あたし、いつになるか分からないけど、お金貯めてそっちに行く!行って、聖刻教会に入信して僧侶になるんだ!ハリアーさんみたいに!」
「あ、お姉ちゃん!?あたしも一緒にいく!」

 ミッカの決意に、ハリアー始め一同は驚く。クーガが厳しい声音で言葉を発した。

「……とても大変だよ?渡航費用だけで非常に沢山のお金がかかる。」
「うん!覚悟してる!」
「向こうは下手をすると、こちらよりも君等には暮し辛い世の中だが?」
「うん!それも聞いた事ある!」
「冬など、飢え死にする子供達も、少なくないのだよ?」
「それでも……決めたんだ。あたしは、リッカを助けてくれたハリアーさんみたいな僧侶になりたい!」
「あたしもそうです!」

 クーガは子供2人の決意する姿を眩しそうに見つめる。彼はハリアーへ促す様に頷いて見せた。ハリアーは2人に言葉をかける。

「そうですか……。信じて進めば、必ずや道は見えるでしょう。八聖者の加護が、貴女方にあらんことを……。」

 そしてハリアーは2人を相手に説法を始めた。ミッカとリッカは、それを神妙に聞いている。クーガ、フィー、シャリア、ブラガの4人は、その様子を優しい眼差しで見つめていた。


あとがき

 今回は、情けは人のためならず、と言うお話でした。フィー達の親切が、めぐりめぐって彼等の助けとなってくれました。ただミッカとリッカが最後に聖刻教会に入信しようとする下りについては、最後までどうしようか悩みましたけどね。アハル人の土地は、冬場などは特に貧乏人には厳しい土地です。ガッシュの帝国では、海の恵みが豊かなので、貧乏人にまで食料が回ってくるのですが、アハル人の土地ではそうはいきません。それ故に、貧民である彼女等がガッシュの帝国領を出て行くと言う事は、とても大きな危険を意味するのです。なので、彼女らを聖刻教会のシンパにしてしまっても良い物か、書き終えるまで悩んでました。
 結局は、そうしちゃったんですけどね(笑)。
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