「はじまった挑戦」


 フィー達は、デン王国は首都サグドルの、いつも彼等が宿泊している酒場兼宿屋に戻って来ていた。ちなみに、フィーはかなり機嫌が良い。
 彼は先程まで、鍛冶組合に狩猟機ジッセーグ・マゴッツの修理を頼みに出向いていた。その際に彼は、彼が持つ古代の操兵仮面用に機体を新造してもらうための、その代価となる物品各種を査定してもらったのだ。その物品とは、狩猟機や従兵機の仮面が取り混ぜて10枚ほど、それにカット済みや原石のままの物を合わせた聖刻石がかなり大量に、である。
 鍛冶組合にそれらの物品を提示した所、鍛冶組合の渉外係から、操兵を造るか否かの審査に入るとの旨が告げられたのだ。勿論、審査に落ちると言う事も考えられるが、今まではその審査に入るどころか、それ以前の問題だったのである。審査に入ったと言う事は、大きな1歩前進であった。
 ブラガがそんなフィーに話しかける。

「フィー、随分とご機嫌だな。だが、まだ審査に通ったわけじゃあ無ぇんだろ?」
「そりゃそうですけど……。でも、今までは代価不足のせいで審査にすら入れなかったんですからね。これで上手くいけば、あの仮面用に機体を造ってやれますよ。」
「審査ってぇのは、いつまでかかるんだ?」
「それは……。普通の場合、最低でも2週間、長ければ半年だって聞いてますけど。」
「かーっ、気の長ぇ話だな。」

 ブラガはごろりと自分の寝台に寝転がる。フィーはそんな様子に苦笑した。
 と、その時彼等が居る部屋の扉を叩く音がした。そしてクーガの声がする。

「私だ。ハリアーが話したい事があるそうだ。入るぞ。」
「あ、どうぞ。」

 彼等の部屋――男用の部屋として、この酒場兼宿屋から借りている――に、クーガを先頭に、ハリアーとシャリアが続けて入って来た。ハリアーの表情は緊張に硬くなっている。シャリアはそんなハリアーに、心配そうな視線を送っていた。ちなみにクーガはいつも通りの無表情である。
 フィーはハリアーとシャリアに声をかけた。

「どんな話ですか、ハリアーさん。シャリアはもう内容、聞いてるのかい?」
「ううん、あたしもまだ聞いてない。ただ、クーガは聞いてるみたい。」

 ブラガとフィーの顔が、クーガに向く。クーガは頷いた。

「私は一応ざっとした内容を聞いている。だが、やはりここはハリアーから話すべきだろう。ちなみに場合によっては、我々の今後に深く関わる内容だとは言っておこう。」
「おいおい、そりゃただ事じゃねーな。……例の、あの宝珠がらみ、か?」

 ハリアーは小さく頷く。彼女は話し始めた。

「あの宝珠、『オルブ・ザアルディア』が8つ存在する、と言うのは聞いていましたよね。」
「ああ、あのモニイダスのタサマド師、だったわよね。あの僧正様が言ってたわよね。」
「ええ。あの後、私も八聖者からの啓示を受けたのです。このアハーン大陸西方を滅ぼす、『意志ある力』が存在する、と。そしてその意志ある力は、8つに分かたれているそうです。同時に私は、アハーン大陸西方南部域に散らばる、8つの『オルブ・ザアルディア』の位置を知りました。……おそらく、ですが8つの『オルブ・ザアルディア』に、その意志ある力は宿っているのではないか、と思います。」

 フィー、ブラガ、シャリアの3人は絶句した。あの宝珠の恐ろしさは十二分に分かっているつもりだったが、西方を滅ぼす力とは、あまりにも規模が大きすぎて、ぴんと来なかった。
 少し間を置いた後、ブラガがようやくの事で言葉を絞り出す。

「な、なあ。あの宝珠、そんなヤバい代物だってのか?いや、今までの事で充分にヤバい代物だってこた、分かってたけどよ。」
「はい、八聖者の啓示です。間違いは無いでしょう。」
「ならよ、今のうちになんとか壊しちまった方がいいんじゃねーのか?ほれ、タサマド師の話だと、例のあの杭で宝珠を打ち抜くとか言う話だったろ?」

 ハリアーは首を左右に振る。彼女は話を続けた。

「僧正様の話では、8つの宝珠を1つに合体させて、それを打ち抜くと言うことでした。そして、私に与えられた啓示でも、八聖者は仰っておられました。意志ある力は1つに集まろうとする、と。そしてそれは危機でもあるが、好機でもあると。集まった力は、強いけれど脆いそうなのです。
 おそらくは……あの宝珠8つを1つ所に集め、そこであの杭を使わねばならないのでしょう。そうしなければ、あの宝珠の脅威を完全に取り除く事は、叶わないのでしょう。ただ、八聖者は『危機でもある』とはっきり仰っておられました。宝珠を集める事で、何が起きるかわかりません。」

 ハリアーはそこで言葉を一度切った。そして一同の顔を見渡す。彼女の仲間達は、彼女の顔をじっと見つめていた。ハリアーは再び話しだす。

「私は八聖者より命じられました。意志ある力に先んじて、その所業を妨害せよ、と。そしてその意志ある力を滅ぼせ、と。……私は命に換えてもその使命を果たさねばなりません。
 ……ですが、皆さんにそれを強要することはできません。皆さんが、否と言うなら……。」
「ハリアー!」

 その時、シャリアが叫んで、ハリアーに詰め寄った。彼女の眉はつり上がり、彼女の怒りを如実に表している。彼女はハリアーに向かい、言った。

「あんた、水臭いわよ!たとえどんな危険があるかも知れないけど!それでも!
 あたし達、今まであんたに何度助けられたと思ってるのよ!?それでいて、今度は危険だからどうしろって?あんた見捨てて逃げろとでも言うつもり?冗談じゃないわよ!そうでしょ、皆!」
「そうですよ、ハリアーさん。俺は嫌だなんて、一言も言ってませんよ。勝手に決めないでくださいね。俺にも協力させてください。」

 フィーはにっこりと笑って言った。そして一同は、ブラガの顔を見る。ブラガは溜息をつく様に言った。

「俺は……正直言って、恐ぇ。西方全部を滅ぼす様な、そんな力を持つ代物と直接対決するなんざ、たまんねぇ……。
 ちょいと待った、最後まで聞け。だけどよ、もし西方から逃げ出して、俺だけ助かっても、それでどうする?一生、悔いて生きて行くなんざ、それこそたまらねぇ。それに俺だけ逃げ出して、お前らの活躍で事が無事に終わったとしてよ。そうなっても、結局俺ぁ、負け犬のまんまだ。そんなのは、もっとゴメンだ。
 こんなコソ泥風情に、何ができるか分かんねぇが……。俺に出来る事だったら、させて貰うぜ。」

 フィーとシャリアは、ほっとした様に、笑みを浮かべる。ハリアーは嬉しそうに言った。

「ありがとうございます、皆さん。本当に……。」
「ちょっと待って。クーガは最初から話、聞いてたのよね?あんたはどうなの?もう返事はしてるんでしょ?」
「私はハリアーに協力する。それが最善だと思うからな。」

 クーガは無表情のまま、そう答える。シャリアがそんな彼を、肘で突いた。

「かっこ付け過ぎよっ!」

 一同に笑いが広がった。



 フィー達一同は、西方南部域の地図を広げて相談していた。もっとも、この地図はかなり大まかな物である。緻密な地図と言う物は、軍事情報としても価値があり、非常に高価な代物であるのだ。
 ハリアーは、地図を指差しながら言う。

「私が啓示で見た映像によれば、『オルブ・ザアルディア』の位置は、旧王朝内に2、モルアレイドに2、ガッシュの帝国に1、スカード島に1、ファインド森林に2、存在しています。
 そのうちまず1つ目は、モニイダス王国にありました。……もっともこれは、我々が持っていた物だと思われます。その時既に、僧正様……タサマド師のおかげで封印状態にあったためか、他の物よりも光は弱かったと思います。」
「2つめは何処なんです?旧王朝地域内に、もう1つあるんですよね?」

 フィーが描画用の木炭で、地図に印を付けながら尋ねる。ハリアーは答えた。

「はい、旧王朝地域内にある2つ目は、西の方にあるリギノス古王朝と、トゥシティーアン王国、それにソーダルアイン連邦の3国が接する辺りに見えました。」
「このあたりか。……次に近いのは、モルアレイドの2つですね?」
「ええ。1つはセルゲイですね。そしてもう1つはリムトスだと思います。」
「次はスカード島、っと。真ん中あたりですか?」
「いえ、西海岸付近だったと……。」

 ハリアーの答えに従い、フィーは地図に印を付けていった。
 と、ブラガが少々困った様な顔で、言葉を発する。

「次はガッシュの帝国、か。まいったな。」
「何がまいったのよ?」

 シャリアの台詞に、ブラガが答える。

「いや、な。あそこは徹底した男尊女卑なんだわ。女だてらに剣振り回したりしてると、目をつけられるんだよな。他にも、色々と文化の違いってヤツがあってよ。やり辛い場所なんだわ。」
「げ。ここら辺でも、女戦士ってだけで変な目で見られるのに、それ以上なの?」
「おう。」

 シャリアの嫌そうな声で放たれた問いに、ブラガは肯定の意を返す。シャリアは渋面になった。フィーはハリアーに尋ねる。

「ガッシュの帝国の、どの辺なんですか?」
「丁度、このエズラ湖のあたりでした。」
「アレトスカ族の居住範囲、だな。モルアレイド大森林の終わりの所だ。さて、どうやって行くか……。」

 クーガは眉を顰める。ブラガがそれを見て、宥める様に言った。

「おいおい、そっちに行くのはまだまだ先の話だろ?もう少し間近になってから考えようや。」
「……うむ。そうだ、な。」
「ハリアー、後はファインドの大森林だったな。そこの、どの辺でぇ。」

 ハリアーはブラガの台詞に、指でその場所を示して行った。

「デーズ湖畔のこの辺……ニナ・デーズの近くですね。そこと……このファインドの南端近く……。この辺ですね。」
「ニナ・デーズって、たしかハリアー、その辺の出身じゃなかったっけ?」
「ええ、ニナ・デーズのフォトニ国出身です。」

 ハリアーはシャリアの言葉に答えて、にっこりと笑った。フィーが地図に印を付け終えて、言葉を発する。

「さて、これで全部ですね。何処から行きますか?」
「一番近ぇ所からで、いいんじゃねぇか?」

 ブラガの台詞に、ハリアーは頷いた。

「そこからでよろしいでしょう。啓示で見せられた映像で、一番光が強いのがその旧王朝内にあるもう1つの光点でした。おそらくは、その力を発動しているか、発動間近なのだと思います。」
「!……そ、そいつは大変だ。急いで行きましょう!」

 フィーは泡を食って言う。シャリアも頷くが、ブラガが待ったをかける。

「ちょい待ち。まだ操兵の……ジッセーグの修理が終わってねえだろ?ソレはどうするんでぇ。いざと言う時、ジッセーグが使えねぇっつーのは、痛いぜ?」
「フィー、ジッセーグの修理が終わるまでには、どれだけかかるのだね?」

 フィーはクーガの問いに、指折り数えつつ答えた。

「ええと……3週間って所、ですかね。」
「……時間がかかるな。」

 クーガは顎に手をやり、考え込んだ。だが、すぐに彼は顔を上げる。

「修理を待ってはおられんな。幸いな事に、我々にはもう1台、ガウラックがある。フィーには今回、ガウラックを使ってもらおう。シャリア、済まんな。」
「ううん、別にいいわよ。フィーの方が操兵に関しては腕が上なのは、当たり前だもんね。」
「では準備に明日1日かけて、明後日に出発しよう。皆、それでかまわないかね?」

 クーガの台詞に、一同は頷いた。そのとき、ハリアーが少々何か言いたげな様子をする。クーガは彼女に問うた。

「……何か問題かね?ハリアー。」
「いえ、そうでは無いのです。ただ出発の前に、どうしてもやっておきたい事がありまして。」
「それは一体?」

 フィーの問いに、ハリアーは答える。

「ケイルヴィー爵侍様の事です。」



 翌日、フィー達一同はケイルヴィー爵侍の屋敷を訪ねていた。彼等はすぐに応接間へ通され、そこでしばし待たされる。ケイルヴィー爵侍の妻であるナスターシャが、彼等の相手をしてくれた。

「ごめんなさいね。夫はもうすぐ来るはずですから……。」
「いえ、お気遣いなく、爵侍夫人。」

 フィーが代表してナスターシャに応える。クーガはいつも通り泰然自若としていたが、シャリアとブラガは居心地が悪そうだった。そんな中、ハリアーだけは何時になく緊張している。
 やがてケイルヴィー爵侍がやって来た。一同は立ち上がって礼をする。ケイルヴィー爵侍は片手を軽く上げて、それを制する。

「いつも通り、楽にしてくれて構わない。ところで、今日は一体何用かね?何か私に、頼みたい事でも?」
「あの……あなた。私は外した方がよろしいでしょうか?」
「おお、そうか。では……。」

 ケイルヴィー爵侍が、ナスターシャを退席させようとする。だが、それを止める者がいた。ハリアーである。

「待ってください。ぜひ奥方様も、ご一緒にお願い致します。」
「?」
「どうしたのかね?妻も一緒に、とは?」

 ナスターシャと、ケイルヴィー爵侍は不思議そうな顔をした。だが、次のハリアーの話で、顔色を変える事になる。ハリアーは言った。

「私達が本日参りました訳は、娘さん……エリシア様に関する事ですので……。」
「!……え、エリシアの事ですって!貴方がた、一体……!」
「落ち着きなさい!」

 ケイルヴィー爵侍は、度を失った妻を叱りつけた。そして、厳しい表情でハリアーに向かって問う。

「娘の件に関しては、君達も知っての通りだ。それで?」
「はい。私はあれ以後、修行を積み重ねて参りました。そして今なら、もしやするとエリシア様にかけられた呪いを解けるのではないか、と思った次第です。
 どうか、私にそれを試す機会を下さいませんでしょうか?」
「……本当に解けるのであれば、これほど喜ばしい事は無い。だが……本当に解けるのか?」

 ケイルヴィー爵侍は、半信半疑の様だった。そう、彼の娘エリシアは、彼の政敵が彼を脅迫するためにかけた呪いの犠牲になって、重症の病に陥っていたのである。ハリアーは言葉を続ける。

「上手く行くかどうかは、おそらく五分五分でしょう。ですが、失敗してもこれ以上悪くなる事はありません。どうか私に、試させていただけないでしょうか。」

 ケイルヴィー爵侍は、この異教の僧侶に機会を与えるべきかどうか、思い悩む。しかし彼は既に、異端の魔導師である練法師の力を借りた身だ、と言う事を思い起こした。毒食らわば皿まで、と彼は決断する。

「……お頼みする、ハリアー殿。」
「あなた!大丈夫ですの!?」
「大丈夫だ。失敗しても、悪くなる事は無い、と彼女も言っているではないか。ここは賭けてみるべきだ。」
「はい……。」

 ケイルヴィー爵侍は、夫人であるナスターシャを説き伏せると、フィー達――正確にはハリアー――を娘の部屋へと先導した。
 その部屋は、フィー達が数か月前に訪れた当時のままだった。ベッドには、金属の像と化した、ケイルヴィー爵侍の娘エリシアが、まるで眠っているかの様に横たわっている。これは、呪いの進行を抑えるために、ケイルヴィー爵侍が練法師に頼んで、エリシアを金属化させたのである。僧侶であるハリアーと、練法師であるクーガには、この部屋の空気の中に漂う呪いの気配が、微かながらも感じられていた。
 ハリアーは〈聖霊話〉を用いて、周囲の大気に満ちる聖霊に問いかける。エリシアにかけられた呪いの強さを特定するためである。果たして、その呪いはとても強力であった。今のハリアーであっても、それを解除するには五分五分か、ややもするとそれ以上に分が悪いであろう。
 だがハリアーは、呪いの解除を試みる。彼女は手を前に組み、朗々と八聖者へ祈りを捧げた。一同は、その様子を見守る。そしてハリアーの、招霊の秘術が完成した。ハリアーは、術を解き放つ。
 その瞬間、ハリアーの精神に、恐るべき重圧がかかって来た。これはエリシアにかけられた呪いの強さそのものである。ハリアーはその重圧を払いのけようと、全身全霊を注ぎこんだ。永遠にも近い時間が過ぎる。実際は一瞬の事だったのだが、ハリアーにはそう感じられたのだ。そして何か、硝子が砕ける様な音が聞こえた気がした。同時に、部屋の空気から呪いの気配が消える。
 ハリアーは息をついた。彼女はケイルヴィー爵侍に告げた。

「エリシア様を蝕んでいた呪いは、解除いたしました。成功です。」
「おお!」
「ほ、本当ですか!」
「少々お待ち下さい。今、金属化も解除いたします。」

 驚愕しているケイルヴィー爵侍とナスターシャを宥め、ハリアーは再び術法解除の術を行使する。今度はそれほどの抵抗もなく、金属化の術は解除された。エリシアの肌が、金属光沢を無くし、普通の肌色に戻って行く。やがてエリシアは目を覚ました。

「……お母様?お父様?わ、わたし一体……。私、病気で……?」
「エリシア!」

 ナスターシャは、涙を流しつつエリシアを抱きしめる。エリシアは、何が何だかわからない様子だったが、母親の手に身をまかせていた。
 ケイルヴィー爵侍は、がばっとハリアーの足元に土下座すると、頭を床に擦り付ける。彼もまた、泣いていた。

「おお……。おお、ありがとうございます、ハリアー殿……。ああ、エリシアが、エリシアが本当に助かる日が来るとは……。ハリアー殿、感謝いたします……。」
「爵侍様、そんな、勿体無い!どうか顔をお上げ下さい!」

 ハリアーは狼狽して、ケイルヴィー爵侍に土下座をやめさせようとする。だがケイルヴィー爵侍は、一向に土下座をやめようとしない。ハリアーはただただ慌てふためくだけである。仲間達はそんな彼女の様子を、にやにや笑って見つめるだけだった。クーガだけはいつも通り無表情であったが。



 更に次の次の日の朝、フィー達一同はデン王国首都サグドルの南門前にいた。リギノス古王朝へ向けて出発するためである。フィーは従兵機ガウラックに搭乗し、残りの面々は馬に跨っていた。
 実の所、本来は前日に出発する予定であったのだが、ケイルヴィー爵侍が彼等――特にハリアー――を引き留め、盛大な宴を開いたのだ。流石に断り切れず、彼等は宴に参加せざるを得なかったのである。そして昨日1日かけて旅の準備を行い、今日ようやく出発と相成ったわけだ。
 ブラガが徐に口を開く。

「……まあ、めでたしめでたし、だな。ケイルヴィー爵侍様の件は、だけどよ。でも、爵侍様に聖刻石とか仮面とか、預かって貰えて正直楽になったな。」
『そうですね。あれだけの品物を常に持ち歩くってのは、気を使うだけじゃなくて、仮面とかは嵩張りましたからね。』

 フィーがブラガに同意を返す。彼等は、鍛冶組合に狩猟機機体製造の代価として支払う物品を、ケイルヴィー爵侍に預かってもらったのだ。今まではその全てを持って歩いていたため、正直な話かなり大変だったのは間違いない。
 シャリアが話に割って入る。

「いつまでもだべってないで、出発しましょうよ。」
「そうだな。」
『そうですね、行きましょう。』

 フィーの声に、ハリアーとクーガも頷きを返す。そして彼等はリギノスへ向けて旅立った。



 その日の夕刻、フィー達一同はシカムと言う宿場街へと到着していた。彼らがこの宿場街に来るのは2度目になる。以前、ウィザン・テイン・マーフィクス子侍と言う貴族の護衛をした際に、彼等はこの宿場街に泊まった事があった。その時は、夜にマーフィクス子侍の命を狙う暗殺者の襲撃を受けた。だがこの晩は、そんな心配をしなくとも良いと、フィー達はそう思っていた。
 だがその日の夜中、フィーとブラガはクーガに起こされた。

「起きてくれ、ブラガ。フィーはもう起きたぞ。」
「……う……ん。なんだよ、まだ暗いじゃねーか……。」
「ブラガさん、敵だそうです。」
「うん?敵?……な、何っ!?」

 ブラガは、敵と言う言葉に反応して飛び起きる。クーガは既に身支度を整えており、仮面を被って長剣を佩いていた。フィーもとりあえず破斬剣だけを持って、立っている。ブラガは鎧を身につける時間は無いと見て、とりあえず兜だけでも被り、聖刻器の手斧と、これもまた聖刻器の小剣を身に着けて立ちあがった。クーガは言う。

「見張らせていた霊魂によれば、敵はシャリアとハリアーの部屋の窓を開けようとしている。フィーは彼女らを起こしに行ってくれ。私とブラガで外側から回り込む。ブラガ、『灯』を頼む。」

 そう言われたブラガは、左手にランタンを持ち、何やら呟いた。

「……ティッカーブン。」

 彼がその言葉を呟いたとたん、ランタンに火が灯る。これは彼らが以前、デン王国とミルジア山岳民国の国境付近にある古代遺跡から発掘した、聖刻器のランタンである。その名も『練炎の灯』と言うこの道具は、決められた命令語を唱える事により、練法の炎を灯す能力がある。普通のランタンよりも明るく、燃料もいらない。
 クーガは窓を開けると、外へと飛び出した。あわてて後をブラガが追う。フィーは言われた通り、シャリアとハリアーを起こしに、廊下へと駆けだした。



 その敵は、一見ただのごろつき風に見えた。全員男で、5人ほどいる。そのうちの1人が、シャリアとハリアーの部屋の窓を開けようと苦心している。だが突然、内側から窓が開き、その男は窓際から弾き飛ばされた。中からシャリアが双剣を構えて飛び出して来る。彼女は叫んだ。

「あんたら!女の部屋を夜に襲おうなんて、いやらしいわね!おしおきしてあげるわ!」

 だがその啖呵にも、男達は動じない。全員小剣を手に、身構える。窓の中からは更に、フィーとハリアーが出てきた。フィーはシャリアに向けて注意を促す。

「シャリア、灯りが無いから気を付けて!」
「大丈夫よ、ハリアーお願い!」
「わかりました。『光の鎚矛』よ!オーロールゥ!」

 ハリアーの唱えた合言葉に反応し、彼女の手に掲げられた鎚矛の頭部分が眩く光った。聖なる光が、周囲を照らす。ほぼ同時に、男達の後ろからランタンの灯りが現れ、その場を照らした。
 フィーが叫ぶ。

「クーガさん!ブラガさん!」
「……これならば、ランタンはいらなかったかもな。」
「そうでもありませんよ。こちらの灯りは長持ちしませんから。」

 ブラガのぼやきに、ハリアーが返す。と、その視線がきつくなった。男達の小剣の刃が、真っ黒くべとべとした粘液で覆われているのに気付いたからである。彼女は小さく叫んだ。

「こいつらの剣には、毒が塗られています!皆、気を付けて!」

 一同に緊張が走った。次の瞬間、男達は二手に分かれてフィー達に襲いかかる。フィー達も、各々武器を構えてそれを迎え撃った。
 クーガは何やら精神集中して念じる。そのクーガの前にはブラガが立ち、襲撃者の男達に対する壁になった。ブラガは心で念じて、兜の力を開放する。彼の周囲には、風の壁が出来て、彼を護った。そのブラガに、こちら側に来た男達3人が、一斉に襲い掛かる。だが彼等の剣は、風の護りに遮られてブラガに当たりもしなかった。
 一方、フィー達の方には男達のうち2人が走り寄っていた。フィーとシャリアは、ハリアーを護って前に立つ。男達2人は、フィーには攻撃せずに、まずは物腰から手強そうに見えるシャリアに集中攻撃を行おうとした。だが男達が攻撃をするより前に、シャリアの攻撃が1人を捉える。魔力を持った双剣の前に、男達の1人が血を吹いて倒れた。そしてそれに遅れる事ほんの僅か、フィーの破斬剣が閃く。もう1人の男は胸から腹にかけてを斬られて重傷を負い、一瞬動けなくなる。
 そしてクーガが、念じていた術を発動させた。その瞬間、襲撃者の男達の身体が硬直する。クーガの術で動きを封じられた男達は、あとはやられ放題であった。



 フィー達は、かろうじて生き残った1人の男を尋問していた。ちなみに、宿の主人には強盗だと言って、衛兵を呼びに行ってもらっている。宿の主人は、彼らがよく襲われると言って、驚いていた。どうやら宿の主人は、彼等が以前宿泊した時の事を覚えていた様だ。
 縛り上げた後、ハリアーの術で気絶から覚醒させたその男は、何も一言も喋ろうとしなかった。まるで口が無いかの様だ。フィーが溜息をつく。

「このままじゃ、衛兵が来ますよ。そしたら、引き渡さないといけなくなります。」
「わかっている。術を使うしかあるまい。」

 クーガはそう言うと、男の前に立つ。そして小さな声で詠唱を始め、両手を複雑に絡み合わせて術の結印を行った。そして彼は男の肩に手を乗せる。彼は男に問うた。

「お前が我々を狙った目的はなんだ?」
「……。」
「ふむ。お前を送り込んで来たのは誰だ?」
「……。」
「お前達以外に、我々を襲う命令を受けている者はいるのか?」
「……。」

 クーガの質問に、男は何1つ答えようとはしなかった。男は、クーガによって自分の心が読まれ、質問の答えが筒抜けになっているなどとは気付かなかったらしい。いくつかの質問が終わった後、男は押っ取り刀で駆けつけて来たこの宿場街の衛兵に引き渡された。衛兵も宿の主人同様、以前宿泊した時の事件を覚えていたらしく、あんたらは良く狙われると言って、訝しんでいた。
 衛兵が生き残った男を連れて帰った後、クーガは襲撃者の心を読んで得た情報を皆に開示した。

「奴はトオグ・ペガーナの下部組織の人間だ。」
「!?……そうでしたか。」
「やっぱり……。」
「ちっくしょ、そうだったか。」
「と言うか、それしか無いわよね。」

 全員が驚くと共に、納得した。クーガは説明を続ける。

「奴らは我々を殺害し、あの『杭』と『宝珠』を奪い取る命令を受けていた。杭を従兵機に付けておかないで、部屋に持ち込んでいて良かったな。そうでなければ、今頃持ち去られていた可能性が高い。
 ……ただ奴らは、上から命令を受けていただけで、大した事は知らなかった。ただただ狂信的に上の命令に従うだけの、暗殺者だ。一応、奴らを送り込んで来た人間の名前もわかったが……。ウィグン・デモスとか言うらしいが、表の名前では無いだろうからな。あまり分かっても意味が無い。」
「クーガ、他に同じ命令を受けて、私達を狙っている者はいるのですか?」
「すまない、それも分からなかった。奴が知らなかったのだよ。奴らの上は徹底しているな。知らない情報は、引き出し様が無い。」

 クーガはハリアーの言葉に、平板な声で返事をする。ハリアーは残念そうな顔をした。フィーはそんな2人に声をかける。

「それじゃ、やっぱりこれからは交代で不寝番を立てましょう。あと、シャリアとハリアーさんには悪いけれど、一緒の大部屋で寝泊まりしましょう。大部屋がある宿屋の場合ですけど。」
「そうね。そうしましょ。済まながる必要は無いわ、フィー。命には代えられないもの。」

 シャリアがフィーに向かって言う。残りの皆も、フィーに向かって頷いた。と、ブラガが苛立たしげに言葉を吐く。

「しっかし……。俺たちゃ完全に、トオグ・ペガーナの連中から敵視される様になったな。……ま、今さら、か。」

 その台詞に、フィー、シャリア、ハリアーは顔を引き締めた。クーガはいつも通り無表情だったが。



 次の日から、彼等は十全に気を引き締めて旅を続けた。いつトオグ・ペガーナの息のかかった組織の人間に襲われても、不思議ではないのである。彼等はネルデ丘陵国に入り、そこから西進してリギノス古王朝へと向かった。ネルデ丘陵国内で1泊し、更にその次の日の夕刻にはリギノス古王朝へと入る。あと1日ほど森の中の旅程を行けば、リギノス古王朝の首都、シラクであった。
 隊列の先頭に立つブラガは、気楽そうに言葉を発する。

「今日の夕刻には、シラクに入れるな。1国の首都なら、警備も治安も十全だし、そしたら一息つけるな。」
「まだ着いたわけじゃあ無いのよブラガ。」
「わかってるって。……お?」

 シャリアに生返事を返したブラガは、遠目に気になる物を見つけた。それは1騎の従兵機である。川にかかった橋の袂に、それは駐機していた。フィーが今乗っているガウラックは従兵機である。それ故に、感応石は搭載されていない。そのために、今まで発見できなかったのだ。
 フィーは溜息をついた。

『橋の袂で待ち構えるとは……。古風だなあ……。』
「フィー!あいつもトオグ・ペガーナの仲間じゃあないの!?」
『その可能性も高いね。注意しよう。』
「あの従兵機は……。ふむ、アズ・キュードの様だな。若干改造が施されている様だが。」

 フィー達は、そちらに近づいて行く。勿論、充分に注意をしながら、だ。と、その従兵機……アズ・キュードから声が上がる。

『やあやあ、我こそはリギノスにその人ありと知られた操手、デニム・ルサンドの一番弟子にして後継者、キース・ハウルなるぞ!この橋を渡らんとするならば、我との決闘に勝利すべし!』
『な、なんて古風な……。あー、すまないけど俺達は重要な仕事があるんです。決闘は勘弁してくれませんかね。』
『否!この橋を通らんと欲するならば、我を倒して行け!』

 キースと名乗る男は、どうしても決闘をする気の様だ。フィーは困り果てていた。と、シャリアが声を上げる。

「あんた、あたし達を狙ってるトオグ・ペガーナの連中の仲間じゃあないの!?」
『なんだと!よりにもよって、我をあの邪教、トオグ派などの走狗と言うか!こうなったら、何が何でも決闘だ!』
『最初からやめる気なんて無かったくせに……。』

 フィーの溜息に似た愚痴が、従兵機ガウラックの拡声器から漏れた。彼は已む無くガウラックに長槍を持たせ、構えさせた。キースのアズ・キュードは星球棍を構え、突進して来た。フィーのガウラックは、アズ・キュードの一撃をかろうじて躱す。

『く、我の一撃を躱すだとっ!?』
『お返しだ!』
「いいわよ、やっちゃえフィー!」

 フィーはガウラックを操り、長槍を突き出させる。アズ・キュードは、先程のフィーと同じく、かろうじてと言う感じでその長槍を避けた。

『ふ、ははは。やるな、お主。』
『別にあんたなんかに褒められたくありませんよ。』

 フィーは腹立ちまぎれに言い放った。どうもこのキースと言う男は、フィーとは相性があまり良く無いらしい。と、その時である。ハリアーが叫んだ。

「フィー!新手です!それも操兵が3体も!強い敵意を感じます!」

 ハリアーは決闘が始まる前から精神を集中させ、〈聖霊話〉で周囲の状況を探っていたのである。その甲斐あって、敵襲に気付く事ができたのだ。
 そしてフィー達の後ろ側の森の中から、3台の従兵機……形式不明だが、軽装で高機動型と見える機体が姿を現した。その手には、鎚矛を構えている。3台の従兵機は、フィー達に向かって来た。ブラガはあわてて叫ぶ。

「森の中に入るんだ!障害物があれば、操兵の攻撃も躱せるかもしんねえ!」

 フィーを除いた一同は、馬を操り森の中へと踏み込ませる。フィーはキースのアズ・キュードに向かって言い放つ。

『やっぱりお前は、トオグ・ペガーナの手の者だったんだな!?』

 フィーはそう言いつつ、キースのアズ・キュードと新手のどちらを迎え撃とうかと、一瞬悩んだ。その時、キースのアズ・キュードが動いた。フィーは思わずそちらへ攻撃をしようとした。
 だがキースの目標は、フィーのガウラックでは無かった。彼のアズ・キュードは、新たに現れた高機動型の従兵機に攻撃を仕掛けたのである。彼は吼えた。

『トオグ・ペガーナ等と言う邪教の輩と一緒にされるなど、言語道断!増してや神聖なる決闘の邪魔をするなど、許してはおけん!』
『ありゃ?』

 思わずフィーの口から、間抜けな台詞が漏れた。そんなフィーを、シャリアが叱咤する。

「呆けてる場合!?フィー!しっかりしなさいよ!」
『あ、ああシャリア済まない……。よおし、やってやる!』

 フィーはガウラックに長槍を振るわせて、キースのアズ・キュードと並んで戦い始めた。
 ハリアーは、空を仰いで天候を確認する。彼女は悔しそうに言った。

「駄目です、一片の雲もありません。雨雲が近くに無いと、雷は落とせません……。」
「私もあのキースとか言う男が居ては、派手な術法は使えないな。練法師である事がばれてしまう。」

 クーガはそう言うと、派手ではない術でフィーを援護すべく、心の中で術を念じ始めた。そしてその効果は即座に現れる。敵の操兵1台が、まるで凍りついたかの様に動きを止めたのだ。これがクーガの術の効果である。彼は一定範囲内の敵を金縛りにする、と言う術を、敵従兵機がその範囲内に収まる様に使ったのだ。従兵機は狩猟機や呪操兵と異なり、術法に対する抵抗力は持っていない。それが低位の術法であっても、である。そのため、従兵機では操手を術法から護る事はできず、操手が金縛りになったのだ。クーガは引き続き、他の従兵機も金縛りにすべく、同じ術を心の中で念じ始めた。
 フィーは1台の敵従兵機が動きを止めたのを見て、これがクーガの援護である事をすぐに察した。彼はその隙を逃さず、ガウラックの長槍でその高機動型従兵機を串刺しにする。串刺しにされた敵の従兵機は、四肢がばらばらに飛び散り、胴体も分解していった。そこへ別の敵が攻撃を仕掛けて来る。だがその様子をしっかり確認していたフィーは、上手くその攻撃を躱した。そしてその敵もまた、凍りついた様に動きを止める。フィーはクーガに感謝しつつ、ガウラックに長槍を振るわせた。



 やがて、全ての敵が倒れて、残るのはフィーのガウラックと、キースのアズ・キュードだけとなった。ちなみにキースのアズ・キュードは何度か攻撃を受けてダメージが積み重なっていたが、フィーのガウラックはクーガの援護のお陰もあって無傷であった。
 フィーはキースに問う。

『どうするんだ?まだ闘るのか?』
『……いや、やめておこう。下賤な輩に水を差されて、興が殺がれた。……しかしお主、なかなかやるな。名前を聞いておこうか。』
『……フィー。ただのフィー、だ。』

 キースはその答えを聞いて、楽しそうに笑った。

『そうか、フィーよ。お主を我の好敵手と認めるぞ。今日の所はこれでお別れするが、またいつか必ずや、雌雄を決せん。』
『迷惑な……。』

 フィーはガウラックの機体を道の行く先へと向き直らせると、歩きだそうとした。そこへブラガの声がかかる。

「おーい、待てよフィー!まだ敵の従兵機の、仮面を剥ぎ終わってねえんだ!クーガ達も、敵の生き残りの尋問が終わってねえし!」

 それを聞いて、キースが慌てる。

『ま、まて、フィーの従者よ!1台は私が倒したのだから、そいつの仮面は置いていけ!』
「だ、誰が従者だっ!」
『違うのか?』

 キースの言葉に、フィーが答えた。

『違う、従者じゃない。大事な仲間、だ。皆、俺の大事な仲間だ。』
『そうか……。失礼をしたな。許せ。』
「誰が許すかっ!」

 ブラガの叫び声が、周囲の森に響き渡った。



 キースと別れたフィー達一同は、その日の夕刻にはリギノス古王国の首都、シラクへと入る事ができた。彼等はこれから、ここシラクに拠点を置いて、様々な事柄に付いて調査を行う予定だった。
 ハリアーが八聖者の啓示により見せられた光点――宝珠『オルブ・ザアルディア』の位置――は、ここシラクより更に南西へ、馬や操兵の足で1日ほど行った所である。そこはこのリギノス古王朝と、ソーダルアイン連邦、それにトゥシティーアン王国と言う3つの国が国境線を接している場所だ。そこに何があるのか、の情報収集を、彼等はここシラクにて行おうとしていた。
 ブラガが伸びをして、吐息混じりに言葉を吐き出す。

「ん〜っ!ああ、やっと着いたな。さあて、宿を探すとするか。これから少々の間逗留するんだ、あまり安っぽい所は勘弁な。」
「安っぽい所は、防犯もしっかりしていません。最初から候補にも入ってませんよ。ああ、重い。」

 フィーが半リート(2m)はあろうかと言う杭を担ぎながらブラガに応えた。ブラガは頭を掻きながら続ける。

「しかし、明日から忙しいな。まずはソーダルアインやトゥシティーアンとの国境付近に、何があるのか、はたまた何も無ぇのか、確認しておかなくちゃなんめえ。って言うか、情報収集は俺の仕事か。」
「国境付近だと言う事は分かっているのですが、その3国のどれに『宝珠』があるのかも分かりませんからね……。」

 ハリアーが溜息混じりに言った。フィーは呟く様に言葉を発する。

「……また、何か古代遺跡の中に隠されていたりするのかなあ。」
「それはどうだろうな。もしかしたら、既に誰か人の手に渡っているのかもしれん。……もしそうなっていたら、入手するのが困難だな。だがそうと決まったわけでもない、か。まだ何の情報も無いのだからな。」

 クーガがフィーの呟きに返す。フィー、ハリアー、ブラガは、何の手がかりも無いも同然の状況に、少々意気消沈する。だがシャリアが力強く言った。

「だから何よ!少々の困難は承知の上でしょ!それにどんな事が待っていたって、やるべき事は決まってるんでしょ!」
「そうですね、シャリア。少々弱気になっていました。断じて行えば鬼神もこれを避く、ですよね。」
「……ゴメン、ハリアー。その言い回し、わかんない。」
「……きっぱりと決意して実行に移せば、それを妨げることのできるものはない、と言う意味だ。」

 クーガがハリアーの言った言葉の意味を解説する。周囲の面々は、尊敬の視線をクーガに送った。何はともあれ、彼等一同の気持ちは上を向いた。目標は宝珠『オルブ・ザアルディア』である。フィーが言葉を発した。

「じゃあ、明日から頑張りましょう!」
「おう、まかせとけ。」
「あたしも頑張る!」
「皆さん、よろしくお願いしますね。」
「……うむ。」

 皆がフィーの声に頷く。彼等は、明日からの行動に思いを馳せ、気持ちを引き締めた。


あとがき

 仲間達が、ハリアーの『探索』に力を貸す決意をしました。ハリアーも、心残りであったケイルヴィー爵侍の件を片付けて、やる気満々です。ただ宝珠『オルブ・ザアルディア』は、西方南部中に散らばっているので、集めるのは非常に大変なのですが。
 ところで、もし感想を書いていただけるのでしたら、weed★hb.tp1.jp(スパム対策として全角文字にした上、@を★にしていますので、半角化して★を@に変えてください)へメールで御報せいただくか、もしくは掲示板へよろしくお願いします。どちらかと言えば、掲示板の方が手軽ですが、どちらでもお好きな方をご利用ください。


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