第0話:消滅
戦いの舞台は、中原の砂漠に移っていた。
二騎の古操兵は、彼らの故郷を灰燼に帰し、この辺境の地に至ってもなお戦い続けている。
砂丘に立つ漆黒の操兵《ダルグ・ゴ・ヴェラギル》から愚痴が聞こえた。
『…いいかげん飽きたな。そろそろ終りにしないか?私にもおまえにも、もう護るべき物は無くなってしまったんだし…』
『ははは、私にはまだ護るべき物があるぞ!それは誇りだ!貴様ごときが我と並び称されるなど絶対に許容できぬわ!』
空中に浮かぶ黄金と白銀の豪奢な操兵《シャイア・ソーラム》から、狂ったような叫び声が上がる。
『ふははは、だが『終わり』にしようというのは不本意ながら同感だな!そろそろわが眼前から消えてもらおうか!永久に!』
『…まったく。…陽門出身はコレだからな…』
溜息とともに《ダルグ》は飛んできた光弾をかわす。
だが次の瞬間、着地したその両足はいきなり砂の中に沈んでいた。
『何っ!?』
『ククク…はーっはっはっは!愚か者めが…。自らの門の術で破れる気分はどうだ?』
《シャイア》から罵倒の声が響く。
しかし《ダルグ》の操手は平然とした様子を崩さない。
『…いや、そう言われてもな。まだ負けたと決まったものでもないが』
《ダルグ》は剣を腰に戻すと、おもむろに結印を始める。
しかし数秒後、その操兵の拡声器からは溜息が漏れた。
『なるほど、転移系の練法はあらかじめ封じてあるのか。
…秘装練法ですら転移できんとは…用意周到だな』
その言葉に対する応えはなかった。
なぜならば、《シャイア》もまた結印と呪句の詠唱とに忙殺されていたからである。
『げっ…正気か!?…私と《ダルグ》を消すためだけに『異界放門浪』を使うなど…。
そう言えば奴の第二門は水門だったな。く、派手好きめ…』
《シャイア》の操手槽で、仮面をかぶった男が錫杖をかかげる。
次の瞬間《ダルグ》を中心に純白の大爆発が起こり、おそろしい冷気が吹き荒れた。
そして砂漠が直径10リート*1の球形にえぐりとられ、空間に『穴』が開く。
その『穴』は異世界への『門』であった。
『…ふむ…跡形も無く消滅しおったわ…。
ふ、ふふふ、ふはははは!これで、これで我こそが、ぐがっ!?』
狂喜の笑声を上げていた《シャイア》の右腕が、突如背後から切り落とされる。
そこには今しがた消滅したはずの《ダルグ》が浮遊していた。
《ダルグ》は返す刃で《シャイア》の左腕、右足、左足を次々に切り落とす。
仮面を狙わなかったのは、さすがに《シャイア》ほどの強力な古操兵の仮面は尋常ではない強さの高位術法で護られているためだ。
それほどの護りを撃ち砕くには、術自体の力を刃に乗せるか、あるいは強力な気闘法が必要なのである。
『な…何故…だっ!?』
《シャイア》の操手は泡を食って感応石に目をやった。
そして彼は、そこに表示されている『力』の表示に愕然とする。
『せ、聖霊力だと!!』
彼は《ダルグ》の操手が行ったペテンに気づいた。
相手は転移系の『練法』が封じられていること、そして《ダルグ》の動きを封じる術を《シャイア》側が狙っていることを最初から気づいていたのである。
それ故に《ダルグ》の操手は、なんらかの聖刻器…招霊衡法の力を秘めた祭器の類であろうが、それを用いて聖霊力による転移術を行使したのだ。
ここで断っておくが、練法に用いられる『魔力』と招霊衡法に用いられる『聖霊力』は、反発し打ち消しあう性質を持っている。
この二種の力は、本来どちらも精霊界よりもたらされる力がもとになっているが、この世界では相反する存在なのだ。
魔力で命を与えられた存在である操兵…《ダルグ・ゴ・ヴェラギル》も、魔力を行使する存在たる練法師であるその操手も、無茶な招霊術の行使で大きなダメージをこうむっているはずである。
しかし《ダルグ》側にとって、それだけの犠牲を払う効果はあった。
本来《ダルグ》は格闘性能こそかなり高いものの、術法の行使という面では《シャイア》に若干ながら及ばない。
中距離から遠距離での術法戦闘では、《シャイア》の側が圧倒的有利であったはずなのだ。
その有利不利をひっくり返したのは、明らかに操手の差である。
《シャイア》の操手にとって、それを認めることは屈辱以外の何物でもなかった。
『…み、認めん、認めんぞっ!』
『往生際が悪いな。私も疲れた…さっさと死んでくれ』
《ダルグ》は剣を振りかぶり、強力な『気』を練り始めた。
そのとき《ダルグ》の操手に油断が無かったとは言えない。
《シャイア》はその一瞬の隙を突いた。
『なっ!?』
《ダルグ》から狼狽の声が上がる。
その瞬間、四肢を失いもはや為す術もなかったはずの《シャイア》から、凄まじい魔力が発せられたのだ。
『認めん!貴様がっ!貴様ごとき下郎がっ!我より上を行くだとっ!?そのような事っ…。
断じて、断じて認めん!!認めええぇぇええぇぇん!!』
絶叫とともに《シャイア・ソーラム》の仮面が砕けた。
そして機体と操手を構成する全ての物質、更には操手の魂そのものが凄まじいまでの光と熱と衝撃波に変じる。
二騎の古操兵は跡形も無く消滅した。
*1:10リート=40m
あとがき
今回、はじめてエヴァンゲリオンのファン・フィクションに挑戦してみました。
まあ純粋なモノではなく半分ワースブレイドなんですが(笑)
このプロローグ編は、純粋にワースブレイドですけどね(笑)
まあワースブレイドのアハーン世界と、エヴァンゲリオンの世界をどうやって結び付けようかな、と考えまして、アレぐらいしか方法ないかなあ、と。
そんな思惑込みの第0話でした。
ちなみに主人公操兵、本番前に消滅!
どうしたもんでしょうね。
さて、読んでいただけましたら、ぜひ一行でもけっこうですし、お叱りでもかまいませんので感想などよろしくお願いします。
改訂後あとがき
えー、最近多少文体が変わってきたので、それにあわせて語尾とかを改訂いたしました。
あと、説明不足な所とかを多少追加したりとか。
ま、全然変わってないと言えば変わってないんですけどね(苦笑)
今、最新話も書いてますので、近いうちにお届けできるかと思います。
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