(注)本作品では一応横島は悪者です。そこそこ覚悟した上でお読みください。
(前回のあらすじ)
一度に二箇所で発生した緊急事態に、国際救助隊隊長である美神美智恵は部隊を二手に分けることで対処しようとした。
だがそのとき、突如としておキヌから追加の報告が入る。
更に宇宙と海の二箇所で、新たな緊急事態が発生したのだ!
美智恵の額に汗が光る。
だが…その事件は、世界征服を狙う稀代の悪人たる横島忠夫が、国際救助隊をおびき出すために起したものだったのだ。
このままでは国際救助隊の秘密が漏洩してしまう!
大ピンチだ!国際救助隊!
国際救助隊 出動せよ! その4
5号からの通信は続いていた。
「そちらの近海での事故なんですが、某国の新型潜水艦が海中で爆発事故を起し、タンクを破損して浮上できなくなったそうです。このままでは酸素が…」
「宇宙の方は?」
美智恵は冷静に問う。
おキヌはスクリーンの中からその目を見つめると、はっきりとした声で報告をした。
「米ソ共同宇宙ステーションでは…」
「…おい」
「はい?」
「俺はついさっきまで、原子力旅客機ファイヤーフラッシュ号の操縦席で、操縦機能を回復させようと努力していたような気がするんだが」
米ソ共同宇宙ステーションに乗り組んでいる日系ロシア人の宇宙飛行士、ユキノジョウ・ダテ中佐は同僚であるイタリア系アメリカ人飛行士、ピエトロ・ド・ブラドー少佐に話し掛けた。
彼の疑問を、ピート少佐は笑い飛ばす。
その笑顔がわざとらしいのは、たぶん彼らが直面している深刻な事故のせいであり、おそらくはけっしてダテ中佐が触れてはいけない事に触れようとしたせいではないはずだ。
「は、ははは、はははははは。き、気のせいですってダテ中佐。それより作業を急ぎましょう」
「あ、ああ…」
彼らは今、このステーションの動力源である原子炉を緊急停止させ、炉心部を耐圧殻の中へ収める処置をしていた。
今、彼らがいる宇宙ステーションは非常用脱出船のエンジンが突如大爆発を起したために真っ二つに折れて千切れ飛んでいる真っ最中だ。
現在無人の前半部は、物理的にそれが正しいのかどうかはまったく裏づけも無く軌道計算などもしていないが、それがストーリー的に何となくかっこよさそうだという理由ではるか宇宙の彼方へと消え去っている。
そして彼らがいる後半分は、あと一時間ちょっとで地球の大気圏へと落下するコースへと乗っているのだ。
無論お約束として、進入角はおもいっきり深いので、ステーションの居住ブロック等はあっというまに燃え尽きてしまうだろう。
脱出船が爆発した以上、彼らにはこの窮地を逃れる術は無い。
せめて地球に放射能や有害核物質などをばら撒く事が無いように、彼らは像が踏んでも壊れない上に100人乗っても大丈夫な耐圧殻の中に炉心を収めて、その部分だけでも無事地上へと降ろそうとしているのだ。
「…また原子炉かよ」
「?…どうかしましたかダテ中佐?」
「あ…いや。なんかデジャビュを感じてよ。…しっかしなぁ…な〜んかひっかかる。さっきまでファイヤーフラ…」
ダテ中佐はグチグチ言いながら、ピート少佐は口数少なく、それでも必死でこの絶望的状況下で作業を進める。
まさに人々を守る軍人の鑑であった。
「…やっぱ、な〜んか変だ」
「それはいいですから作業を急ぎましょう」
「………」
美智恵は難しい顔で考え込んだ。
だがそれも一瞬のこと、彼女は机に取り付けられているインターホン…普段は置物に偽装されている…に向かって叫んだ。
「ワルキューレ!5番装備中止!4番装備を搭載して!」
『え?4番装備はサンダーバード4号ですが?』
「そうよ。比較的近場の海中で潜水艦の事故が起きたの。そちらに4号を投下したら大至急帰還して、今度は5番装備を搭載して本来の現場に向かってちょうだい!」
『…!はいママ!』
そのまま美智恵はシロとタマモに向き直る。
二人は顔を引き締めた。
「タマモちゃんは急いで2号格納庫に向かって。現場海域で4号のコンテナを海に投下したら本部に連絡をちょうだい。シロちゃんは3号で…この事件はいくらなんでも単独じゃ無理ね。誰が…」
「マリア・が・行きます」
「いってくれる?ありがとう助かるわ。シロちゃんとマリアは3号で落下中のステーション後半部へ!二人の飛行士をなんとしても救ってちょうだい!」
「はいでござるママ!」
シロはマリアとともにリビングのソファに座ると、なにやら操作した。
即座に彼女らとともに、ソファが床下へ沈み始める。
このソファはそのまま格納庫のサンダーバード3号内部へと運ばれるのだ。
そして、彼らの座ったソファが沈みきると即座にかわりの瓜二つのソファが床下からせりあがってきた。
一方タマモは既に2号格納庫へと走り出している。
しばらくして、滑走路前の崖に偽装されていた2号格納庫の扉が開き、巨人輸送機サンダーバード2号が姿を現す。
滑走路脇の椰子の木が、2号の発進を邪魔しないように左右に倒れた。
2号はそのまま発進位置までゆっくりとタキシングする。
時をおなじくして、爆音とともに3号が発進した。
円環状の展望室の中央部が、3号の発進口になっているのだが、そこから巨大な朱のロケットが炎と煙を噴き出しつつ大空へ上っていく。
また、2号も滑走路に隠されたカタパルトから、青空へと舞い上がっていった。
もっとも2号は4号を投下したら、即座にとんぼ返りして今度は5号装備を積んで南米へと飛ばねばならない。
時間的には、ぎりぎりの計算だ。
美智恵隊長は唇を噛む。
「…南米の発電所には、ワルキューレだけでは…小竜姫、もうしわけないけれど行ってくださらないかしら?」
「ええ了解しました美智恵さん。ただ…」
「ええ…」
天才エンジニアである小竜姫は、単に工学技術以外についても頭が回る。
だが美智恵も彼女が言いたいことについては、とっくに理解していたようだ。
「…いくらなんでも都合が良すぎるわ。同時に4箇所で緊急事態発生…しかもご丁寧に、1号から4号まで、宇宙ステーションである5号を除く全てのサンダーバード・メカに活躍してくれと言わんばかり…」
「やはりサンダーバード・メカの秘密を探らんとする何者かのしわざでは」
「そうね小竜姫…。ただだからと言って、起きてしまった事故を見過ごすわけにはいかないわ。各自充分に注意するよう通達しておく必要があるわね。貴女は2号格納庫へ行って、2号が帰ってくるのを待っててちょうだい?」
小竜姫は頷いて司令室を去って行った。
残された美智恵は、悔しげに歯をかみ鳴らした。
「ふっふっふ、はーっはっはっは。まあ流石に気付くわな。だが気付いたところでどうしようもねーわいっ!自動カメラ探知機は壊してあるし、俺様の秘密装置も既にカオスの手で…」
世界征服を狙う男、稀代の悪人横島忠夫は闘戦勝仏像の前で嬉しげに笑っていた。
彼の前の操作盤では、『1』から『4』までの数字の下に赤と黄のランプが灯っている。
赤ランプは、サンダーバード1号から4号までに対応した事件が進行中ということであり、黄ランプはそれぞれのサンダーバード・メカが発進したということなのだ。
「くく、だが青ランプは…別に事件解決したという意味じゃぁねーぞ?こいつは俺様の秘密装置が、国際救助隊の秘密を見ン事とらえたというしるしなのだ!さ〜ぁ、はやく点け。はや〜く点いてくれ〜ぃ」
楽しげに歌うように操作盤に語りかける横島だった。
だが、その姿はなんというか…どこか逝っちゃっているヒトみたいで物凄く恐い。
闘戦勝仏像の額に付いた水滴が、まるで大粒の汗のように見えた。
あとがき:
今回の米ソ共同宇宙ステーションの事故は、完璧に私の創作です。
ファイヤーフラッシュみたく原型がある話じゃありません。
そのためか、今回もちょびっとギャグが少ない気がしますな。
う〜ん残念。
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