(注)本作品では結局横島は悪者です。とことん覚悟した上でお読みください。
(前回のあらすじ)
南海の孤島は美神家のプールでのんびり過ごす国際救助隊の面々だが、優雅なひとときはいつまでも続かなかった。
宇宙ステーション・サンダーバード5号に常駐している通信員おキヌから、緊急連絡が入ったのだ!
それはまず間違いなく、世界で国際救助隊の助けを必要とするほどの大事故、大災害が発生したことを意味している。
国際救助隊のメンバーは、大急ぎで水着のまま司令室へと走る。
だが、彼らは『ある事実』を知る由もなかった。
その大災害は、世界征服を企む稀代の大悪党横島忠夫が全て裏で糸を引いていたのである!
国際救助隊のサンダーバード・ロケット各機に備わっている自動カメラ探知機は、既に彼の暗躍により破壊されてしまっている。
このままでは、国際救助隊の秘密が彼の手で白日の元に晒されてしまうのだ!
どうする国際救助隊!!
国際救助隊 出動せよ! その3
「…詳しく説明してちょうだい、おキヌちゃん」
「はいママ!」
司令室に掛けられている家族写真…いつもは普段着の写真だが、この部屋がリビングから司令室へとかわる際にはサンダーバードの制服姿へと変わる…の一枚が、更にTVスクリーンへと変化する。
そしてそこには、宇宙ステーション・サンダーバード5号の内部を背景に、通信員であるおキヌが映し出されていた。
「今回は2箇所で同時に事故が発生しました。片方は、ロンドン空港から出発した原子力旅客機ファイヤーフラッシュ、もう片方は南アメリカの地下原子力発電所です」
おキヌの報告を聞いた美智恵の顔色が変わる。
普段の救助作戦では、まずサンダーバード1号を現場に先行させて、詳細な情報収集を行う。
本部では、5号からの通信で聞いていた事故の内容を検討して、2号に最適と思われる装備を搭載して現地に向かわせる。
そして1号で現場に急行していた令子が『移動司令室』を設置し、現地で収集した情報をもとに指揮を行うのだ。
だが、2箇所で事故が起きてはどちらかを後回しにするか、あるいは装備、人員を二手に分けるしかない。
「事故の内容は?」
「まず、ファイヤーフラッシュ号の事件ですが…」
「ちくしょう!だめだピート!」
「こっちもです伊達機長!」
原子力旅客機ファイヤーフラッシュ号の操縦席では、機長である伊達雪之丞と、副操縦士ピエトロ・ド・ブラドーが決死の努力を続けていた。
ファイヤーフラッシュ号は最新鋭の超音速旅客機であり、強力な原子炉を搭載してそのありあまるパワーでヨーロッパ・アメリカ間を極短時間で飛行する。
だが、その最新旅客機が突如航路を外れ、操縦不能に陥ったのだ。
更に機体は暴走とも言えるほどの加速をひねり出し、既にまともな飛行機では追いつけない速度で飛んでいる。
「く、くそ。だめだ全然出力が落ちねぇ…」
「操縦装置がまったく反応しません。これはきっと、どこからか強力な誘導電波で妨害を受けているんです!」
「…お約束な展開だけどよ。なんで、ンなことが理解るんだピート」
三白眼を点目に変えて絶句する雪之丞を後目に、ピートはおもむろに窓の外を眺めた。
その彼の様子が一変する。
ピートは血相を変えて叫んだ。
「ああっ!変な飛行機がぴったり後をくっついてきていますっ!そうかっ!あの飛行機が妨害電波を出しているんだなっ!?」
「…だからなんで理解る。それになんとなく棒読み調なのは何故だ…」
ピートは画面外のどこかから双眼鏡を取り出して目に当てる。
その顔が強張った。
「ああっ!?操縦席には変な機械がいっぱいで、人間が乗ってませんよっ!?」
「………」
「く、くそっ。原子力旅客機ファイヤーフラッシュには反対派が多いけど、こんな妨害をしかけるなんて、なんて酷いことをっ!」
雪之丞の顔が曇る。
それは多分展開の露骨さに、ではない…ない、と…そう思いたい。
ピートは続ける。
「ああっ!このまま原子炉のフィルターを取り替えられなければ…あと2時間で乗客が放射能におかされてしまうううぅぅぅっ!!」
ピートの泣き言に、ついに雪之丞がブチ切れた。
「だああああぁぁぁぁっ!?どこが最新鋭旅客機だああああぁぁぁぁっ!!飛ぶたびにC整備並に原子炉いじるだとおおぉぉっ!?だいたい離陸後数時間しかたってねぇのに、あと2時間でフィルター交換しねぇと乗客があぶねぇだあああぁぁぁっ!?ンなもんに飛行許可出すなよおおぉぉっ!!」
「あああぁぁぁっ!?き、機長っ!?だ、だからコレは原作からあるファイヤーフラッシュの設定であって…」
「だああああああああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
美智恵は重々しく頷いた。
「…わかったわ。例外的な処置だけど、ファイヤーフラッシュの方には1号を単独で向かわせます。令子!」
「はいママ!」
令子は壁に掛かっている絵画の前に立つ。
すると、その絵がどんでんがえしのようにモーター音とともにひるがえり、彼女は壁の裏へと消えた。
壁の裏はサンダーバード1号の格納庫になっており、彼女の身体は電動のキャットウォークで1号の搭乗口へと運ばれていく。
令子が1号の中へと消えると、即座に1号の機体は巨大なレールの上を滑り、プールの下へ運ばれて行った。
そして、プールが横へスライドし、1号の発進口があらわになる。
ドゴオオオオォォォォ…!!
爆発音にも似た轟音と共に、1号は蒼空へと消えて行った。
司令室からそれを見送った美智恵は、再度5号内部が映し出されているスクリーンへと向き直る。
「おキヌちゃん、南米の原子力発電所事故について、詳細を教えてちょうだい。ワルキューレ、2号は今回、移動司令室抜きで救助活動に当ることになるわ。ジェットモグラ…5番装備を2号に積んでちょうだい。その指揮は5号経由で私が直接ここから取ります。おキヌちゃん、連絡の中継や現場についての事情聴取など、忙しくなっちゃうけどお願いね?」
「「はいママ!」」
二人は、はきはきとした返事で応えた。
ワルキューレは、先ほど令子が消えた絵画とは別の絵の前に立つと、また壁の向こうへと消えていく。
ちなみに絵の回転方向は、前回は回転ドアのような左右の回転だったが、今回はシーソーのような上下の回転だ。
ワルキューレはそのまま2号の格納庫へと自動的に運ばれていった。
美智恵は補助要員として2号への同乗を求めるため、シロへと向きなおる。
だが、おキヌの声がそれにストップをかけた。
「…!ママ!大変です!今度は米ソ(サンダーバード初回放映時にはソ連は健在でした)共同宇宙ステーションで事故です!更に他にも、そっちの基地の近海からも連絡が…」
美智恵の表情はこわばる。
彼女の額には、さすがに汗が浮かんでいた。
「…く、く、く。どうだ国際救助隊の諸君?俺の用意した舞台の数々は?」
横島忠夫はにやにや笑いながら、美味そうに食事の準備をしていた。
彼はおもむろに食器を置くと、手元の操作盤を見やる。
そこには『1』から『5』までの文字が書かれており、それぞれの文字の下には赤、緑、黄のランプが付いていた。
それらのうち『1』から『4』の下には赤ランプが、『1』の下にはさらに黄ランプが灯っている。
横島は満足そうに頷いた。
「ふん…。5号はまあこの場合やむをえまい。だが1号から4号までは…。ふ、ふ、ふ」
彼は手元から卵を取り上げると、食器の中へと割り入れる。
生卵はぷるんとふるえつつ、湯気を上げる料理の中へと落ちた。
横島は嬉しそうに料理のかおりを嗅ぐと、割り箸を割る。
豪勢なことに卵を奮発したカップラーメンから沸きあがった湯気が、闘戦勝仏像の姿を揺らめかせた。
あとがき:
さて、三話目でございます。
いや、今回はメインが国際救助隊だけあって、横島の出番も、ギャグシーンも少なくて少々残念でした。
でも、ちょっとばかりですがシリアス度は増しておりますっ!!
…この作品でシリアス度増してどーする俺様。
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