(注)本作品ではやっぱり横島は悪者です。あらかじめ覚悟の上でお読みください。
(前回のあらすじ)
世界征服を企む希代の悪人横島忠夫は、血の繋がった祖父であるカオスが国際救助隊の隊長である美神美智恵の執事を務めている事を利用する事にした。
彼は邪悪な魔術でカオスの意識をあやつり、サンダーバード・ロケットに搭載されている『自動カメラ探知機』を、外からではわからないようにこっそり破壊することに成功したのだ!
しかも彼はカオスのもとへロンドン経由であやしい荷物を送り込んでいる。
このままでは国際救助隊の秘密が、悪漢横島のものとなってしまう。
あやうし国際救助隊!
国際救助隊 出動せよ! その2
国際救助隊の面々は、南海の孤島にある美神家のプールで、優雅なひとときを過ごしていた。
このプールが、いざというときはサンダーバード1号の発進口となるなどとは、知らない人間には思いつきもしないであろう。
もっとも、巨大ロボットの発進口ではないかなどと思う人間は、誰かいるかもしれない。
どこかの誰かさんも、昔自分が通っていた学校のプールを見て『ここの底が割れて巨大ロボットが出てきたりしたらなぁ…』などと思ったものだ。
閑話休題。
宇宙ステーションに常駐しているおキヌと、エアコンの効いた司令室…普段はリビングに偽装されている…で涼んでいるワルキューレや小竜姫を除いた者たちは、このプールで楽しく遊び呆けていた。
3号機パイロットであるシロと、4号機艇長であるタマモは水の中で楽しげにじゃれあっている。
これがそのうち、いつのまにか本気の喧嘩になってしまったりすることもままあるが、基本的に二人はそこそこ仲が良い。
もっとも彼女らは、自分たちではそれをけっして認めないが。
ちなみに彼女らの水着はGS原作に出てきたときとは逆に、シロが競泳用に近い形のワンピース、タマモがセパレートのビキニである。
どこかの誰かさんは、スク水が似合うのは本当に小さな頃だけだと固く信じているので、このぐらいに育った娘達にはけっして着せようとしないのである。
それはおいといて。
隊長である美智恵と前線部隊のリーダーである令子は、プールサイドに立てたパラソルの下でのんびりと昼寝をしていた。
ちなみにマリアとカオスは彼女らの傍らで給仕をしている。
「平和ね…」
「そうね…」
「ところで令子…先日の出動のことだけど」
美智恵がボソッと言った一言に、令子の肩がピクリと震えた。
だが彼女は口では平然と美智恵に応える。
「なぁにママ?あの高層ビル火災でしょ?あたしの指揮に何かまずい点あったかしら。事後のブリーフィングでも評価はAくれたじゃない?」
「ええ。救助活動はね」
美智恵はふーっと溜息をつきながら、傍らのテーブルから飲み物を取る。
齢に似合わぬ白魚のような手が、青く透明なカクテルに映えて美しい。
滴が黒地に赤でワンポイントをあしらった水着の胸に落ちる。
男なら誰でも見惚れてしまいそうな情景だが、あいにくと令子は女でありなおかつ美智恵の娘である。
その美しさに嫉妬の視線を送りこそすれ、目に『はぁとまぁく』なんぞ浮かべて視線釘付けになるようなことは無い。
…いや、ちょっと待った。
令子はたしかに見惚れてはいなかったが、嫉妬の視線も投げかけてはいない。
それどころか、その目は恐怖の色をありありと浮かべている。
彼女の顔色は蒼白であった。
「ま、まま…」
「あのね令子。この国際救助隊の活動はあくまでボランティア…慈善事業なのよ。美神家が儲け過ぎた分の還元ってやつね。もう私たちは十二分にお金は持ってるの」
美智恵はフルーツに手を伸ばし、真珠のような歯でカリッ!とかじり取る。
令子は汗をだらだらと流した。
「…で、ね?あなたが助けた人やビルの管理会社にふっかけた救助代金だけど…」
令子は生きた心地もしなかった。
美智恵はにっこりと笑う。
「カオスさんにお礼をいいなさいね?あなたが指定した振込み口座から跡をたどられて、国際救助隊と美神の家が関係していることがバレる所だったのよ?カオスさんが色々四方八方立ち回って問題の口座とウチとのつながりをうまく断ち切ってくれたからよかったものを」
「…」
「国際救助隊のサンダーバード・メカの秘密は、これが世間にバレると世界の軍事バランスを崩しかねないほどの物なのよ?注意なさいね?」
美智恵のにっこりとした微笑みに、令子もおずおずと笑い返す。
だが令子の目は、美智恵のこめかみに浮き出たぶっとい血管を見逃さなかった。
ちなみにマリアとカオスは話の内容がヤバさげな方向へ逝き始めた時には、既にプールサイドのシロタマ達の方へ行って、飲み物をサービスしている。
令子は孤立無援でこの強敵に立ち向かわねばならなかった。
だがそのとき、突如意外な援軍があらわれた。
「隊長、いやママ…」
「ワルキューレ!」
「宇宙ステーションのおキヌから緊急連絡だ。すぐ司令室へ戻ってくれ」
ワルキューレはこのプールサイドでもビシッ!と軍服で決めている。
…というか、国際救助隊の制服は軍服ではないのでコレはあくまで私服なのだそうだ。
難儀な人である。
美智恵は瞬時に、困った娘をたしなめる(?)母親の顔から隊長の顔へと変わった。
「みんな!至急司令室へ戻って!」
「ええわかったわ!」
「了解でござる!」
「はい・わかり・ました」
「やれやれ、何がおこったんじゃろうのう」
各自一斉にプールから司令室へと駆け出していく。
そんな中、令子はひとり小さく呟いていた。
「…次からは、いつもニコニコ現金払いね…」
宝石や美術品、証券類、小切手などは現金化するときのルートで足がつきやすい。
それでは前回の二の舞である。
ナンバーの揃っていない古い紙幣での現金払いが、やはり運べるかさに限界はあるとは言えど一番安全なのだ。
…懲りない女である。
マレーシアのジャングルの奥…古代の寺院では、かの大悪人横島忠夫が闘戦勝仏像を前に高笑いを上げていた。
「はーっはっは、はーっはっはっはっは。さあ、既にサンダーバード各機の自動カメラ探知機は破壊した!いずれは損傷が発見されて修理されてしまうだろうが、なにそんなヒマはやるもんかっ!まっていろ国際救助隊、今俺がおまえらに相応しい舞台を用意してやるわっ!ひゃーっはっはっは…げほげほ」
どうやらムセたらしい。
…しまらない男である。
なにはともあれ、横島忠夫の暗躍により世界ではなにやら事件が起こっているらしい。
だが国際救助隊の誰一人として、彼の悪巧みには気付いてすらいないのだ!
どうする、国際救助隊!
あとがき:
サンダーバードは昔の作品だけあって、けっこうツッコミ所が多いんですよね。
でも、特撮とかは今の作品よりも丁寧に作ってあったりもするんです。
そういえば、新しいサンダーバードの映画も、なかなか素晴らしそうですね。
一応見ておいた方がいいかなあ。
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