「第24話 前編」


 時間は午前7時丁度、まほら武道会の本戦会場である龍宮神社は、早朝にも関わらず賑わっていた。始は丁度今、ここに着いたばかりである。彼は周囲を見回した。

(……ほう。昨夜の予選会よりも、更に観客が増えているな。)

 始は小太郎経由で手に入れたチケットを、入り口でモギリをしている少女達に渡し、半券を返してもらう。彼はそのまま会場内へと足を運んだ。ちなみに彼は、昨夜から小太郎とは会っていない。小太郎は昨夜はエヴァンジェリン宅に泊まると、そう連絡があった。

(この辺で観戦するか。おや?)

 始が陣取った場所は、実況・解説席のすぐ側だった。そして実況・解説席には茶々丸が座っていたのである。始は茶々丸に挨拶をする。

「おはよう絡繰。そう言えば、アナウンサーをすると言っていたな。」
「おはようございます、相川さん。」

 見ると、彼女の隣の解説者席はまだ空席である。始はその事について、茶々丸に訊ねてみた。

「絡繰、解説者がいない様だが……。」
「先程一度いらしたのですが、所用で席を外してらっしゃいます。」
「どんな人物だ?」
「昨日の予選会にも出ていらしたのですが、惜しくも敗退なさった方です。知識が豊富だと言う事で、超より依頼されて解説を引き受けてくださったそうです。」
「ほう。」

 彼等がそう言っていると、当の解説者が席に帰って来た。髪形をリーゼントに固め、古風な学ランを着用した青年である。彼は茶々丸と話している始に軽く会釈をすると、解説者席に着いた。始もまた、彼に軽く会釈を返す。
 解説者の青年は、しかし一瞬怪訝そうな顔になる。そして次の瞬間、目を見張った。彼はおそるおそる、と言った風情で始に声をかける。

「あ、アンタ……なんでこんな所に居るんだ?本戦出場者じゃあ無いのか?」
「む?」
「あ、いや失礼。俺は豪徳寺……豪徳寺薫と言うもんだ。アンタ、ただもんじゃ無いだろう。」
「豪徳寺さん、お分かりになるのですか?」

 茶々丸の言葉に、豪徳寺は頷く。

「ああ、身体の心、動きの心にブレが無い……。立ち居振る舞いの隙の無さ……。一見並の人間っぽく見せてるが、実力を隠しているって言われた方が、しっくり来るぜ……。」
「……そうですか。いや、ただ単に目立つのを好まないだけなんですがね。相川始です、豪徳寺さん。」
「相川さんは大会に出て無いのか?」
「ええ。今回は観戦と、身内の応援ですよ。」

 豪徳寺は残念そうに頷く。

「そうか……。アンタが出てたら、この大会の台風の目になってたろうな。」
「買い被りですよ。」

 始は苦笑して見せる。一方の豪徳寺は、何やら感心した様な、勿体無い物を見る様な、そんな顔だ。
 彼等はその後も駄弁りながら、大会の開始を待っていた。





 時計が午前8時を指す。試合会場である龍宮神社内の能舞台に、予選会から引き続き司会者をやっている少女の声が響き渡った。

『ご来場の皆様、お待たせ致しました!只今よりまほら武道会、第一試合に入らせて頂きます!』

 ポン、ポンと花火の音がする。満場の観客の歓声が上がった。審判を兼ねた司会者の少女が、選手を紹介する。

『かたやナゾの少年忍者「犬上小太郎」選手!!かたや中2の少女「佐倉愛衣」さん!!しかしその実力は予選会で証明されています!!』
(小太郎の出番か。しかし相手が少女となると……。小太郎は戦えるのか?いつも女は殴れんとか言っているが……。)

 始は観客席で心配顔になる。だがその心配は無用だった。小太郎は試合開始直後、瞬動術で愛衣のふところに潜り込むと、その胴体めがけてアッパーカットの様に掌を振るった。傍から見れば、鳩尾に掌打を見舞った様にも見えただろう。だが実際は当たっていない。小太郎は掌打の風圧のみを彼女に当てたのだ。
 凄まじい風圧は、愛衣の身体を上空へ運んだ……それはもう軽々と。十数mの高さに放り上げられた愛衣は、リングになっている能舞台の外側を囲む池へと落下、派手な水飛沫を上げて着水した。と、ここで愛衣側のとある問題が発覚する。

「あぶあぶ、わたっ……、あわっ……、泳げないんですー!」
『おおーっと!?溺れている、愛衣選手!?』

 当然ながら10カウントが宣告され、愛衣のリングアウト負けが決定する。小太郎はその後池に飛び込み、愛衣を救出した。会場からはその光景に、暖かい拍手が巻き起こる。

「ふむ、小太郎は何とかしたか。」

 始は独り言つ。その傍らでは、茶々丸と豪徳寺が今の試合について解説を行っていた。だが一瞬で試合が終わってしまったので、あまり解説する事が無い様だった。とりあえず豪徳寺は、小太郎が見せた瞬動術について色々と知識を披露している。彼が格闘技などについて知識が豊富だと言うのは、確かな様だった。
 一方の始は、眉を顰めて次の試合の選手を睨んでいた。その視線の先にいるのは、クウネル・サンダースである。クウネルは悠然と、自らの出番を待っていた。





 そして第二試合が開始された。対戦カードは、大豪院ポチ対クウネル・サンダースだ。大豪院は中国服風の衣装を着込み、おそらくは中国拳法の使い手らしい。一方のクウネルは、魔法使い風のローヴを着用し、そのフードで顔を隠しており、その戦法などは全く分からない。試合は当初、大豪院の圧倒的優勢で進んだ。いや、そう見えただけの事である。

(クウネルは遊んでいるのか?余裕か?……いや、違うか。実力を隠す目的かも知れんな。おそらくはラッキーヒットを装って攻撃を当てるつもりだろうな。)
「……クウネル選手の優勢ですね。」
「それはどう言う事でしょうか、解説の豪徳寺さん。大豪院選手のラッシュの前に、クウネル選手は手も足も出ない様に見受けられますが?」
「いえ、大豪院選手の攻撃は、一発もクリーンヒットがありません。全ての技が、上手く捌かれてしまっています。大豪院選手自身、それに気付いているはずです。一見すると、大豪院選手が押している様にも見えますが、このままでは只いたずらにスタミナを消耗……。あっ!」

 解説の豪徳寺が小さく叫んだ瞬間、クウネルの掌打が大豪院の鳩尾に、カウンターとして決まった。大豪院はどさりとリングの上に倒れ伏し、ぴくりとも動けなくなる。見事なK.O.勝ちだった。
 ふと始は、クウネルが何処か明後日の方向を見ているのに気付く。始はクウネルの視線を追ってみた。その視線の行き着く先は、選手席……正確には、そこに居る少年達だった。

(……小太郎に、ネギ?どちらを見ているのだ?小太郎だとしたら、次に当たる相手を品定めしていたとも取れるが……。)

 始は眉根を寄せて、クウネルの姿を見つめる。

(しかし奴は……。やはりあの身体は、本体では無さそうだ。わざわざ分身体などでこんな格闘大会に出て来るとは、何が目的だ?……奴が小太郎と戦う前に、小太郎に教えておいた方がよさそうだな。)

 何は置いても、被保護者の事を忘れない始だった。





 始はその後の試合を、ただ漠然とした感覚で見ていた。一応次の楓の試合だけは友人の試合と言う事で身を入れて見たものの、その次の龍宮真名対古菲と言った名カードも、更にその次の田中さん……麻帆良大工学部のロボット、T−ANK−α3対高音・D・グッドマン戦も、半分以上流して見ていた。理由はやはり、クウネルの事が気にかかっていたためである。
 だがその次の第六試合は、やはり身を入れて見る事になりそうであった。何故ならばその試合は、常日頃何かと気にかけているネギ・スプリングフィールドの試合だったからである。しかも相手はあのタカミチ・T・高畑だ。
 始の傍らで、実況・解説席の茶々丸と豪徳寺がこの試合について話をしている。

「――いえ……外見で判断してはいけません。あのネギ君と言う少年、かなりできます。」
「……豪徳寺さん。ネギせんせ、いえネギ選手に勝算はあるのでしょうか?」
「そうですねー……。まずは距離をとることです。あの高畑のヤロー……いえ、高畑選手は昨夜、近づく敵が片っ端から倒れていくというナゾの技を使っていました。」
「正体不明の技を使う敵には、距離を保って冷静に対処するのが常道です。」

 しかし始は、その作戦が愚策だと知っている。高畑の技、居合い拳の射程距離は10mはある。高畑がリングになっている能舞台の中央近くに立てば、どう距離を取ったところで10mは稼げないのだ。

(……予選会が終わった後にでも、高畑の技について教えておけば良かったか?今さら手遅れだが……。)

 始はしばし黙考する。だが試合開始直後、ネギは観衆の予想を良い意味で裏切る行動に出た。彼はいきなり瞬動術で高畑との間合いを詰めると、接近戦を挑んだのである。観客達は騒ぐ。彼等が知る中でも最強の学園広域指導員、デスメガネ・高畑に対し、年端もいかないネギが真正面から戦いを挑み、しかもあろうことかネギが高畑を押しているのだ。ネギは奇抜な中国拳法の技を次々に繰り出し、高畑を押しまくる。そしてネギはとうとう高畑に、必殺の一撃を決めた。
 高畑はまるでトラックに撥ねられでもしたかの様に吹き飛び、能舞台を囲む池の中に激しい水煙を上げて突っ込んだ。観客から怒号の様な歓声が上がる。

(いや、まだ決まっていない。)

 しかし始は眉根を寄せていた。彼の感覚は、高畑が五体満足であり、水煙の中でその体勢を立て直したのを、しっかりと察知していたのだ。果たして高畑は無事な姿を現す。おまけに彼は池の水面に、しっかりと立っていたりした。
 そこから高畑の反撃が始まる。高畑は能舞台に一足飛びで戻ると、ネギと凄まじい高速戦闘を繰り広げた。ネギは必死に食い下がるが、ひと蹴り喰らって距離を離されてしまい、居合い拳の連打を受けた。
 この頃になると、解説の豪徳寺にも高畑の技が解った。

「やはりそうか……。」
「何かお気づきに?豪徳寺さん。」
「高畑選手の使う技の正体は、刀の居合い抜きならぬ拳の居合い抜き、「居合い拳」と思われます。」

 豪徳寺は、高畑の居合い拳について詳しく解説して行く。ちなみにこの技については、豪徳寺自身文献では見た事があるそうだが、実際にやっているバカを見たのはこれが初めてらしい。
 豪徳寺が解説している間も、試合は続いていた。続いてはいたが、動いてはいなかったと言うべきだろうか。ネギの取った対策はすべからく高畑に効果が無く、ネギは高畑にほぼ封殺されていたのだ。
 高畑がネギに話しかける。その声は、せいぜい能舞台上のネギに聞こえる程度であったが、始の目にはその唇が読めていた。

「――さすが僕の憧れたナギの息子……。こうでなくてはね。」

 始の右眉が、ぴくりと上がる。今の高畑の一言が癇に障ったのだ。だが彼はその気持ちを、とりあえず抑えた。
 そして高畑はその本気の一端を表す。気と魔力を融合させ、爆発的な力を生み出す究極技法である咸卦法……それを用いて放つ、豪殺居合い拳だ。高畑はそれをネギめがけて連打する。しかも彼は時折通常の居合い拳も攻撃に混ぜ、隙を無くしていた。
 やがてついにネギは豪殺居合い拳の一撃を喰らう。破壊された能舞台の上に横たわり、動こうとしないネギの姿に、審判を兼ねた司会者の少女はカウントも取らずに高畑の勝利を宣言しようとした。だが高畑はネギに言葉を投げかける。

「――これで終わりかい?ネギ君。あきらめるのか?君の想いはそんなものか?」

 選手席や観客席から、ネギの仲間達が声を上げる。

「ネギーーーッ!このバカネギ!!何やってんのよ、立ちなさいよーーーっ!!ネギ!!」
「ネ……ネギ先生しっかりーーーっ!!」
「ネギ坊主―――ッ!まだいけるアル!」
「ネギ先生!!」

 そしてネギは気力を振り絞り、立ちあがった。

 ミシッ……。

 始が立っている観客席で、何かが軋む音を立てた。音を立てたのは、始が手を置いている観客席の手摺だ。始が手摺を握りしめるその握力に耐えかねて、軋み音が発生したのである。だが始はそれに気付くと、手摺から手を放した。硬い木製の手摺は、始の手の形に凹みがついている。始は小さく溜息を吐いた。
 さて、試合である。なんとか立ちあがったネギは、果敢に高畑に戦いを挑むも池に落とされてしまう。しかし数瞬後池から飛び出したネギは、石灯籠の上に立ち、高畑に最後の勝負を挑んだ。それは無詠唱魔法の矢を9本身に纏った、体当たりである。しかも一瞬の風障壁で高畑の豪殺居合い拳を防ぎ、豪殺居合い拳を打った直後の隙に体当たりを当てると言う作戦であったのだ。高畑は見事にその一撃を喰らう。そして更にネギは駄目押しとして、遅延呪文による9本の無詠唱魔法の矢を拳に纏わせた崩拳を、高畑に見事に叩き込んだ。
 これにはさしもの高畑も、たまらずにダウン。そのまま10カウントを聞き、この試合はネギの勝利となった。
 それを見届けると、始は観戦していたその場所から、姿を消した。





 高畑は、刹那の作った式神であるちびせつなと共に、まほら武道会の裏で超鈴音達が企んでいる事を調査するために、龍宮神社の裏手へと歩いていた。と、その時、彼はいつか感じた物と同じ気配を背後に感じる。それは突然、その場にドラゴンでも出現したかの様な、強大な気配だった。高畑は、身構えそうになる身体を、全身全霊の努力をもって抑える。この相手と、万が一にも敵対はしたく無いからだ。
 高畑は、ゆっくりと息を吐きだしてから振り返る。

「やあ、また会ったね。仮面ライダーカリス。……今日は何の用だい?」

 そう、そこに居たのは黒い身体、銀色のプロテクター、赤い複眼……仮面ライダーカリスであった。ちびせつなは、その場の濃密な威圧感に、空中で右往左往している。カリスは不機嫌そうな口調で高畑に言った。

『……先程のネギとの試合内容自体は、特に言う事は無い。』
「……。」
『だが、お前の発言や行動には、少し言いたい事がある。お前にとって、ネギとは何だ?』
「……歳の離れた友人、のつもりだけどね。僕は。」

 カリスは肩を竦める。

『俺にはお前が、ネギを「英雄の息子」と言う色眼鏡で見ている様に思える。……違うか?』
「!!」
『歳は離れていても、ネギを「友人」と呼ぶのなら……ネギに「英雄サウザンドマスター」を重ねて見るのは止めてやれ。ネギ本人を見てやれ。』

 高畑は一言も無い。どうやら、激しく自省している様だ。その目には力が無かった。その手が愛用の煙草、マルボロの箱を探しかける。そして彼はかろうじて喫煙を思い止まった。この話は、大事な話だ。煙草などに頼って気持ちを落ち着かせるのは、相応しく無い。
 カリスは話を続けた。先程からの威圧感はやや和らぎ、その声には微かな優しさがある。

『……それが難しいのは、百も承知の上だ。お前はもっと若い頃から、彼の英雄達を間近で見て来たらしいからな。お前にとって、大事な人間だったのだろう……。
 その英雄の忘れ形見を前にしたお前の気持ちは、分かるとは言えんが慮る事ぐらいはできる。だがそこをあえて言う。いや、あえて頼む。ネギはお前を信頼している様だ。そんな人間だからこそ、ネギを「ネギ」として見てやってほしい。』
「……。そうだね、僕は間違っていたのかもしれない。そうなれるよう努力しよう、仮面ライダー。」
『……今はそれで充分だ。』

 高畑は踵を返す。

「仕事があるので失礼するよ、仮面ライダー。行こうか、ちびせつな君。」
「あ、はいー。失礼しますカリスさん。あー、まってください高畑せんせいー。」

 カリスは彼等を見送ると、彼もまた踵を返した。





 始が元の場所に戻った時には、第七試合は終了していた。ちなみにその試合は神楽坂明日菜VS桜咲刹那と言う対戦であった。漏れ聞こえて来る周囲の会話によると、どうやら神楽坂明日菜がついうっかり?刃の付いた大剣を試合に用いたために、反則負けとなったらしい。
 始が見遣ると、観客席には2人の少年がやって来ていた。ネギと小太郎である。始は彼等に声をかけた。

「小太郎。ネギ少年。こんな所でどうした?選手席に行かなくていいのか?」
「あ、始兄ちゃん。ここに居たんか。なんや凄い人だかりで、医務室から選手席戻れんかったんや。」
「それでこっちに来て、試合を見てたんですよ。」
「ネギ先生、お知り合いですか?」

 ネギの右隣にいた、眼鏡をかけた釣り目気味の少女が訊ねる。ネギは始の事を紹介した。

「ああ、千雨さんは初めてでしたね。こちらは相川始さんと言って、動物写真家の方です。こっちのコタロー君といっしょに住んでるそうです。」
「相川だ、よろしく。」
「相川さん、こちらは長谷川千雨さんです。僕の生徒です。」
「長谷川です。……?どこかでお会いした事、ありませんか?」

 千雨は首を傾げる。その様子に、始も記憶を掘り返してみた。

「……ああ、思い出した。京都の旅館で、ロビーで正座させられていた子だったな。」
「え゛っ!あ゛っ!あ、あんたあの時、ネギ先生の偽者をやっつけてた……。あ、あー、失礼しました。その節はどうも、恥ずかしい所をお見せして……。」
「お。次の試合、始まるで。」

 小太郎の声で、一同の注意は試合会場に向けられる。審判兼司会の少女の声が、会場全体に響き渡った。

『それでは続きまして第八試合!「3D柔術」の使い手、山下慶一選手対麻帆中囲碁部、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル選手!!』

 観衆からは、笑い声や、カワイーだの大丈夫?だのと言う声が発せられる。それも無理はあるまい。エヴァンジェリンの外見は、まるで西洋人形の様な可愛らしい少女に過ぎないのだ。だが対戦相手の山下は、まったく油断していない。彼は警戒しつつ、気合いを高めている。

『それでは第八試合!!ファイト!!』

 山下はまったく油断していなかった。油断はしていなかったのだが、力量の差がありすぎた。彼は試合開始直後、可憐な姿のエヴァンジェリンの一撃を鳩尾に受けて、能舞台に倒れ伏した。そしてその一撃で彼は、完全に戦闘不能となり、敗北の10カウントを聞く事になったのである。
 小太郎やネギは感嘆の叫びを上げる。

「おお!」
「さすが師匠!」
「な……。あいつも!?」

 一方の千雨は、感嘆どころではなく愕然としていた。このまほら武道会では、彼女の常識を引っ掻き回し、ひっくり返す出来事ばかりが起こっている。彼女の顔は、引き攣っていた。
 始は試合が終了すると、小太郎の肩を軽く叩く。

「?」
「ちょっといいか?クウネルについての追加情報だ。……実の所、あまり良く無い話だが。」
「……どんな話や?」
「今は高度に作られた分身体だと思う。つまり奴をどれだけ叩いても、本体にはダメージは無いと言う事だ。」
「なんやて!?そやったら……。」

 始は頷く。

「奴を倒すには、圧倒的な攻撃で奴を消し飛ばすか……もっとも、そんな事をしたら大事になってしまうがな。あるいはなんとかしてダウン10秒を狙うか……。もしくは優勢に試合を運び、時間切れを待って観客によるメール投票で勝ちを拾うか、だな。」
「……そか。そやったら、ダウン10秒あたりを狙うっきゃ無いな。他の手段はどうもいまいちや。」

 小太郎の話を聞きながら、始はおそらく小太郎がクウネルに勝てないだろうと思っていた。残念ながら基本的な力量が違い過ぎる。

(心が折れてしまわねば良いが……。)
「コタロー君、何話してたの?」
「ん、ちょっと次の試合の対策や。始兄ちゃんからアドバイス貰っとったんや。」

 始は語り合う少年達の姿を見ながら、眉を顰めて考えに沈んだ。


あとがき

 さて、とうとうまほら武道会本戦です。今回始(カリス)の口を借りて、一寸ばかり高畑に苦言を呈してみました。彼は良い人ではあるんですが、それでもやはり気になる点はあるもんですね。まあ完璧な人間なんて、いませんが。それとクウネル関係が少しばかり。
 あとは豪徳寺薫君ですか。彼、いいキャラですよね。まあネギま!本編で一線を張れる人材でないのが惜しまれます。
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