「第19話 その2」


 小太郎が目覚めたとき、彼は毛布でぐるぐる巻きになって紐で縛られ、身動きが取れなくされていた。彼はぎょっとしてじたばたともがく。その時、彼に声がかかる。声の主は、彼の脇に立っていた青年だった。

「起きたか。だがもう少し静かにしていろ。怪我をしている上に、とんでもない高熱を出していたんだぞ。」

 その声と共に、小太郎の口の中に何かが押し込まれる。硬い棒のような物だった。

「噛み砕くなよ。体温計だ。」
「むー、むーー!」
「何か言いたい事があるのはわかるが、とりあえず熱を測るまでじっとしていろ。」

 青年はそう言って、彼の傍らの床に座りこんだ。しばらくすると、ピピッピピッと体温計が鳴る。青年は小太郎の口から体温計を引っ張り出すと、表示を読む。彼は頷いた。

「熱は下がったな。」
「ちょ、オイ!なんで俺はこんな風に縛られとおねん!」
「高熱のせいか、錯乱して暴れたからだ。もう暴れないと言うなら、ほどいてやる。」

 小太郎はあまりよく納得はしていない様だったが、一応頷く。青年は、小太郎を縛っていた紐を解き、毛布を外してやる。すると小太郎は驚く。自分が素っ裸だったからだ。

「ちょ、なんか着るもん!」
「一応そこに用意してある。パンツとシャツはお前が寝ている間にコンビニで子供用を買ってきたが、上着とズボンは俺ので我慢しろ。ベルトをきつく締めて、袖や裾を折れば、なんとかなるだろう。」

 グ〜〜〜。

 小太郎の腹が鳴った。

「……それとなんか食い物。……腹へってもうあかん。」

 青年――始は苦笑して、小太郎をダイニングへ誘う。手っ取り早く衣類を身に着けた小太郎は、始の後に付いていった。





「さて、俺の名は相川始と言う。お前のことは何と呼べばいい?」
「はぐ、もぐむぐ。ぷはっ!俺は小太郎、犬上小太郎や。コレ、美味いな!相川の兄ちゃんって料理人か?」
「いや、俺は写真家だ。……今まで倒れてたのに凄い食欲だな。おかわり、いるか?」
「おう!」

 始はキッチンへ行き、雑炊のおかわりをどんぶりにいっぱいよそって持って来た。小太郎はそれを受け取り、かきこむように啜る。やがて、ようやく一息ついた頃合を見計らって始は小太郎に問い掛けた。

「ところで小太郎。なんで雨の中倒れていたんだ?」
「えっ……。」

 小太郎は答えに詰まる。何やら必死に考えているようだ。だがしばらくして、肩を落すと言葉を漏らした。

「……わからん。」
「?」
「なんや、頭の中に霧がかかったみたいになっとって、何も思い出せんのや……。」

 始は眉を顰める。

(高熱のせいで、一時的に記憶喪失にでもなったか?)

 始はそう考えた。小太郎は腕組みをして、うんうん唸っている。彼はぽつりと漏らした。

「なんや……なんや俺、大事な用があったような気がするんやけど……。」
「……ネギ、と言う名前に覚えはないか?お前は熱でうなされている間、『ネギが危ない』だの『ネギに伝えなければ』だのうわ言を漏らしていたぞ。」
「う〜〜〜ん……。なんやどっかで聞いた気もするんやけど……。」

 小太郎は汗を流して悩む。始も困っていた。小太郎が目を覚ませば事情が解るかと思ったのに、まったく事態が進展しないからだ。
 始は小太郎に言う。

「……とりあえず、風呂に入って来い。雨の中倒れていたのと、寝汗をかいたので、体中汚いからな。」
「お、おう。わかった。……う〜ん。何やほんまに大事な用があったような……。」
「お前がうわ言で言っていたネギと同一人物だと思うんだが、俺の知り合いにもネギと言う子供がいる。お前と同じぐらいの年頃の、な。本人に会ってみれば、何か思い出すかもしれん。明日になったら、会いに行ってみるか?」
「おう……。」

 腕組みをして、深い考えにはまり込んでしまった小太郎を、始はバスルームへ追いやった。その後、彼は再度ネギへと電話をかけてみる。だがやはりまだ電波の届かない所――エヴァンジェリンの『別荘』の中にいるらしく、携帯は繋がらなかった。





 その頃、ネギは『別荘』から出てきていた。始が電話をかけて繋がらなかった、ちょうど直後の時間である。非常にタイミングが悪かったと言えよう。
 ネギを始めとした、3−Aの生徒達はエヴァンジェリンに別れの挨拶をする。

「「「おじゃましましたー!」」」
「うひゃー、スゴイ雨や。」
「カサ1本しかないですね。」

 ネギと女生徒達は、きゃーきゃー言いながら雨の中を走っていく。それを見送りながら、エヴァンジェリンは疲れた様子で愚痴を漏らす。

「やれやれ、やっとうるさいのが行ったか。」
「楽しそうでしたが?マスター。」

 茶々丸が無自覚に突っ込む。だがエヴァンジェリンはそれには応えず、ふと右眉を上げた。

「……。ん……?」
「どうかしましたか……?」
「いや……。気のせいか……。」

 エヴァンジェリンの表情は冴えない。その様子を、茶々丸が心配そうに見守っていた。





 女子寮の入り口で、ネギは女生徒達の大半と別れた。別れ際に、朝倉和美がネギに向かって言う。

「何かあったらいつでも呼んでよ、協力するからさ、ネギ君。」
「は、はいー。」

 和美達は寮の中へ駆け込んでいく。残ったのは、明日菜と木乃香、それに刹那だ。その他の少女達を見送ったネギは、はーっと息をついた。それを見て、明日菜が妙な顔をする。

「どうしたのよネギ?」
「いや、皆さんとっても優しい人達だなあって。僕の6年前の事を知っても、恐がらないで力を貸してくださるって言うんですから。」

 ネギはエヴァンジェリンの別荘の中で、6年前に自分の身に起こった事を魔法を使って明日菜に教えていた。6年前、ネギの住んでいた村は、無数の悪魔達によって焼き討ちされたのである。
 その村は、ネギの父親であるサウザンドマスター、ナギ・スプリングフィールド故郷の村である。それ故、ナギに恨みのある者あたりが悪魔を召喚して村を襲わせた物と思われた。村人達は全て悪魔の力により石化されてしまい、ネギも窮地に追い込まれる。
 だがその時、ネギを救った者があった。死んだと思われていた、ナギ・スプリングフィールド――サウザンドマスターである。サウザンドマスターは、その膨大な魔力で悪魔達を蹴散らした。だがそれでも、彼が救えたのはネギとその姉代わりをしていたネカネだけであった。村の顔役であったスタン老人も、ネギを守るために爵位級の上位悪魔と戦って、相打ちの形で相手を封印したものの、石化されてしまったのである。
 そしてサウザンドマスターは、ネギを救うと自身の杖をネギに譲り渡した。曰く「俺の形見」だとのことである。そして彼はふわりと天へと昇って、その姿を消した。
 そしてその事件は、ネギの心に深い傷を残した。彼は、自分が「ピンチになったらお父さんが助けに来てくれる」と思い込んでいたせいで、村が壊滅するようなピンチに追い込まれたのではないかと、子供心に思い込んでしまったのである。無論、理屈にもなっていない変な考え方である。変な考え方ではあるが、幼い子供という物はそうしたところがあるものだ。
 そう言った彼の過去の記憶を、ネギは魔法を使って明日菜に見せていたのである。が、それを宮崎のどかの読心術用アーティファクトを使って覗き見されてしまい、結局はその場にいた全員がネギの過去を知る事になってしまったのである。

「もしかしたら、6年前の事をお話した事で付き合いを考え直されるかもしれない、って事も覚悟の上だったんですけどね。あたっ!」

 そう言ったネギを、明日菜は軽く小突く。ネギが見ると、彼女は怒って頬を膨らましていた。更に見回すと、一緒にいた木乃香や刹那も眉を顰めている。明日菜は言った。

「あんたねえ!あたしらを見くびるんじゃないわよ!そりゃあんたの周りに居れば、色々厄介ごととかがめぐって来るかもしんないわよ!?でもねえ、それがどうしたのよ!そんなこと、もうはなっから承知の上なんだから」
「アスナさん……。」
「そうです、ネギ先生。うまく言えないかもしれませんが、私はネギ先生の事を助けたいと思っています。いざと言うときには、呼んで下さい。いつでもお手伝いします。」
「そうやよ、ネギ君。ネギ君のお父さんかて、きっと見つかる。うちらに手伝える事があったら、ちゃんと言って。」
「刹那さん、このかさん……。あ、ありがとうございます。」

 ネギは感涙にむせぶ。その様子を見て、明日菜達も笑顔に戻る。明日菜はネギの頭に手を置き、ぽんぽんと軽く叩いた。

「ま、そんなトコだから。」
「そうやよ。うちらもできるだけの事はするから。」

 木乃香が後を続ける。刹那も笑顔でネギを眺める。ネギは微笑んで頷いた。

「はい!」

 だがネギは気付いていなかった。いや、ネギだけではない。明日菜や木乃香はともかく、神鳴流剣士であり退魔師でもある刹那ですら、その気配には気付けなかった。天井に開いた換気口の中に、何者かが潜んでいたのである。それは、海月を思わせるゼリー状の物体であった。だが、そのゼリー状の物体には、確かに知性の存在を感じさせる、光る2つの目が存在していた。





 その頃、小太郎はひたすら食っていた。始も呆れるほどの食いっぷりだ。

「おい、少し落ち着いて食え。胃に悪いぞ。」
「あぐ、はぐ、むぐ。んぐんぐ。ぶはっ!兄ちゃんおかわり!」
「聞いて無いな……。」

 始はご飯のお代わりを茶碗に大盛りでよそってやる。ついでに味噌汁も。小太郎は待ってましたとばかりに喰らい付く。
 やがて電子ジャーを空にして、ようやく小太郎の食欲は治まった。彼は一息つく。

「ぶはー、美味かったー。相川の兄ちゃん、写真家だって言うとったけど、料理人でもやっていけるんとちゃう?」
「何、家庭料理の範疇だが、年季が違うからな。」

 始はそう言うと、茶碗や皿を片付けていく。シンクにそれらの洗い物を放り込むと、始は徐に玄関へと向かう。そして靴を履き、急に雨の降りしきる外へと飛び出した。小太郎はあっけにとられる。だが彼も何かを感じたのか、始の後を追って外へと飛び出した。彼は履物が無かったので、裸足である。
 小太郎が始に追いつくと、彼は何やら正体のわからない、ゼリー状の物体と対峙していた。ゼリー状の物体は、うねうねと形を変えると、幼い少女の姿へと変わる。その物体は声を出した。

「まさか見つかるとは思ってなかったゼ」
「人の家を覗き見とは、いささか趣味が悪いな。何者だ?」

 始は動ぜずに、その少女の姿に変身した物体――生物を詰問する。だがその生物はくすくす笑うだけで答えようとしない。と、その生物の後から人影が現れる。裾がボロボロの黒のロングコートを着て帽子を目深に被ったその人影は、少女型の生物に声をかける。

「よくその少年を見つけてくれたね。ここはもう良いから、仲間と合流して作戦通り事を運びたまえ。」
「了解だゼー。」

 少女型生物は、再び姿を海月のように崩すと、水溜りの中へ消えていった。後から現れた人影――初老の男性は、小太郎に向き直る。そして彼は言葉を発した。

「やあ、狼男の少年。元気だったかね?」
「お……お前は!?」

 小太郎にはその男に見覚えがあった。その男を見た瞬間、まだ完全ではないが、失っていた記憶の断片が次々に浮かび上がってくる。

「さて少年。『瓶』を渡してもらおうかな?君は我々の仕事の目的とは違うが……。その瓶に再度封印されては元も子もないのでね。」

 そう言うと、その男はいきなり小太郎に殴りかかってきた。だが、始が割ってはいる。彼は殴りかかってきた男の腕を取ると、小手返しに投げ飛ばした。男はびしょ濡れの地面を転がって衝撃を受け流すと、離れた場所で立ち上がった。

「ほう……。やるね。何者かね君は。」
「……そう言う時は、自分から名乗るものだろう。だが、まあいい。俺は相川始と言う、しがない写真家だ。」
「これは失礼したね。私はヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵。伯爵などと言っているが、没落貴族でね。今はしがない雇われの身だよ。
で、何でその写真家がその少年を守るのかね。」

 初老の男――ヘルマンは不思議そうに訊ねる。始は答えた。

「何、なりゆきだ。」
「なりゆきで戦うのかね?」
「俺の信条もある。いきなり子供に殴りかかるような輩は、逆にぶん殴られて当然だと思うが、違うか?」
「ふむ、それはそうだね。だがこれも仕事の一環でね。やむを得ない仕儀なのだよ。」

 始はもはや語る口は無しと、黙って構えを取る。ヘルマンもまた、始に向かって構える。だがそこに、割り込んだ者が居た。小太郎である。小太郎は吼える。

「何やっとぉねん!おっさんの狙いは俺やろ!?」
「よせ小太郎!」

 小太郎はいきなりヘルマン目掛けて突っ込んだ。始が制止するが聞く耳を持っていない。彼はヘルマンに向かって拳を放つ。ヘルマンは左腕でそれを捌くと、正拳の連打を小太郎に見舞う。小太郎は最初の数発は受け流したが、全ては捌ききれず直撃をくらう。小太郎は雨に濡れた路面を転がっていき、四つん這いに近い姿勢で体勢を立て直す。
 始はヘルマンと小太郎が離れたのを見ると、ヘルマンに向かって中段蹴りを放った。ヘルマンはそれを中腰になり、腕をクロスさせて受ける。すかさず今度はヘルマンが正拳突きの連打を始に浴びせる。始は綺麗にその拳を捌くが、実のところ流石に多少苦労している。威力も重く、まるで重機関銃のような連打だ。だが始はそんな中、機を捉えてヘルマンの腕を捕らえた。彼はその腕を捻りながらヘルマンの身体を投げ落とす。
 そこへ小太郎が飛び込んで来た。彼はヘルマンが立ち上がろうとした隙に、その懐に飛び込むことに成功したのである。小太郎はそこで勝負をかけた。少なくとも、そのつもりだった。

「これで……決まりや!!狗神!!」

 だが彼の右手からは、狗神は出なかった。本来であれば、黒い影の様な狗神が彼の手から出て、ヘルマンを打ち据えるはずだったのだ。だが彼の手からは何も出現する様子が無い。
 ヘルマンは小太郎のその右腕をがっしと掴んだ。ヘルマンは言う。

「……残念ながら、術が使えないことは、忘れたままだったようだね。おっと、動かないでくれたまえ写真家君。」
「む……。」
「は、放さんかいっ!!」

 小太郎を助けようとした始を、ヘルマンは牽制する。

「何、私はこの少年が持っているはずの『瓶』さえ手に入れば、それでいいのでね。それ以上君らに手出しはせんよ。」
「瓶、だと?」
「うむ。ああ、これだよ、これ。あった、あった。」

 ヘルマンは、小太郎の髪の中から一つの小瓶を取り出した。その瓶には、五芒星が描かれている。小太郎は騒ぐ。

「ああっ!何しよるんや!返さんかい!」
「ふむ、これで再封印されてしまう危険は無くなったわけだ。」

 ヘルマンは小太郎を放り出す。小太郎はうまく受身を取って起き上がった。すかさず彼はヘルマンに襲いかかろうとする。

「てめぇこの……。」

 だがヘルマンは、すっと体を躱す。そしてロングコートをマントの様に広げると、空中へと浮かんだ。ヘルマンの笑い声が周囲に響く。

「ふははははは!楽しかったよ小太郎君、写真家君。もしよかったら、また後日にでも遊ぼうじゃないか!はっはっはっはっはっはっは!」
「くそっ!」

 ヘルマンの姿は、雨が降り続く天空へと消え去っていった。小太郎は悔しげにアスファルトの路面を拳で叩こうとする。だが始が小太郎の腕を掴んでそれを止めた。

「よせ。悔しいのはわかるが、物に当たっても解決などしないぞ。拳を痛めるだけだ。それより、あの男の事を知っていたようだが、記憶は戻ったのか?」
「え、お、おう……。多分……。」
「なら家に入れ。話を聞かせてもらいたい。」

 2人は始の家に入ると、びしょ濡れになった身体を拭き、服を着替えた。小太郎は悄然としていたが、やがてゆっくりと話し始めた。

「俺、ネギっちゅーライバルがおるんや。」
「ネギ・スプリングフィールド少年か?」
「なんや、相川の兄ちゃん知っとるんか?実は俺、そいつが狙われてるって話、偶然聞いてしもて、いてもたってもおられんようになってしもたんや。それで懲罰くらって閉じ込められとった所から、逃げ出して来てん。
 あの瓶は、呪文を一言唱えるだけで奴らを封じられるハズの代物やったんやけど……。学園に来る前に、あのおっさんからかっぱらったんやけどな。かわりに魔法でやられたんや。記憶喪失はそのせいやったんや。
 でも、取り返されてしもたな……。」

 始は小太郎に尋ねた。

「何故ネギ少年が狙われているんだ?」
「仮面ライダーカリスや。」
「!?」

 始は驚く。小太郎は、それに気付かずに話を続ける。

「聞いた事あるか?仮面ライダーがほんまにおる、て。」
「ああ……。聞いた事は、ある。」
「その仮面ライダーをおびき出すために、ネギを人質にしよーとしてるらしいんや。
 なんや仮面ライダーはネギが京都旅行しとるときにわざわざ京都まで来て、ネギを助けるような動きしとったから、おそらくはネギの近くの人間が正体なんやろうって。そんでネギを襲えば出てくるやろうって。」
「……。」

 始は唇を噛む。彼自身が原因で、ネギが狙われる事は想定していなかったわけではない。だが、現実に起こるとなれば、やはりその衝撃は大きい。彼は携帯を取り出して、この日何度目かの電話をネギに入れた。





 ネギはその時、自室――明日菜と木乃香の部屋でくつろいでいた。ちなみに今日は刹那も遊びに来ており、木乃香とおしゃべりに興じている。
 その時、ネギは何やら異様な魔力の変動を感じたような気がした。気のせいかもしれないが、万が一と言うこともある。彼はカモを頭に乗せ、その魔力の変動を調べに出ることにした。彼は女子寮の玄関前に出る。外はまだ雨が強く降っていた。彼は傘を差す。
 そこへ、携帯電話の着信音が鳴った。ネギは懐から携帯を取り出し、電話に出る。相手は始だった。

「はい、ネギ・スプリングフィールドです。」
『よかった、通じたか。ネギ少年、俺だ。相川だ。』
「ああ、先日はどうも相川さん。」
『挨拶はいい。緊急の用事なんだ。ネギ少年、今何処だ?』

 切羽詰ったような始の口調に、ネギは訝る。だが、一応彼は素直に答えた。

「寮の前ですけれど。」
『犬上小太郎と言う子を知っているな?』
「あ、はい?なんで相川さんが小太郎君の事を?」

 ネギは不思議に思った。始は用件を早口で言う。

『今、その彼がここに来ているんだ。ネギ少年、急いで守りを固めろ。小太郎の話によると、何者かにお前が狙われているらしい。俺もその一味と思われる奴とやりあったが……。』

 そのとき、道路の路面にできた水溜りから数本の透明なゼリー状の触手が伸び、ネギとカモを捕らえる。ネギは反射的に魔法を使おうとするが、触手のうち1本がネギの魔法の杖を取り上げてしまう。傘と携帯が地面に転がった。

「ああっ!?」
「兄貴っ!!」
「目標確保しまシタ……。」
「あとは万一に備えて、ネギ・スプリングフィールドの従者達を攫えば任務完了ナ」
「楽な仕事だゼ。くくくくく。」

 そして次の瞬間、触手はネギを絡め捕ったまま、水溜りへと吸い込まれるように消えてしまった。





 始は携帯を耳に当てながら、じっと立ち尽くしていた。小太郎が声を掛ける。

「あ、相川の兄ちゃん……。ネギは……。」
「やられた。おそらくは攫われた。」
「なんやて!?そしたら……。」
「ああ、助けなければ。」

 始の手の中で、携帯電話が軋む音を立てた。


あとがき

 さて、いよいよヘルマン伯爵の登場です。今回ネギ君、あっさりと拉致されてしまいました。そう、ヘルマンの目的は原作通りのネギと明日菜の戦力調査ではなく、仮面ライダーカリスの方だったんですね。まあ京都ではネギもあまり派手には活躍しませんでしたし、明日菜が「完全魔法無効化能力」を持っている事もばれませんでしたからね。
 さて、ヘルマンと始の初対決は決着つきませんでした。始もカリスにはなりませんでしたし、ヘルマンの方も決して本気を出してはいませんでしたからね。決着は次回以降に持ち越しです。カリスとヘルマン伯爵の戦い、ご期待下さい。
 ところでもしも感想を書いていただけるのでしたら、掲示板へよろしくお願いします。


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