「第15話 後編」


 カリスはフェイトを『スピニングダンス』で湖に蹴り落すと、ネギ達の元へ歩き出した。彼はネギ達――正確には明日菜と刹那に話しかける。

『……しかし、追いついて来いとは言ったが、追い抜かれているとは思わなかったぞ。』
「あ〜それは一寸ね。それより……。」
『待て。』

 カリスは明日菜の台詞を遮ると、ネギの方へ近付いて行った。そして彼の右腕を取る。明日菜と刹那はそれを見て驚く。ネギの右腕は、肘から先が完全に石化していたからである。カリスは訊ねた。

『これはどうしたんだ?』
「あ、いえ……。あの白髪の少年の魔法を避け損ねて……。」
『治るのか?石化は進行しているようだが。』
「明日の、いやもう今日か。今日の昼に着く応援部隊なら治せると思うぜ。兄貴だけじゃなく、本山にいる石にされた連中もな。
 ……兄貴も1回全部石になっちまうかもしんねーけど。」
『そうか……。』

 カリスは今度はリョウメンスクナノカミに向きなおる。スクナの肩の所にいる千草は、どうやら木乃香を介してのスクナの制御に手一杯で、こちらを気にしている余裕は無さそうだ。もっとも、リョウメンスクナノカミと言う絶対的な力を手に入れた今、こちらなど塵芥にしか見えていないのかも知れない。何かをするなら今の内だろう。
 カリスは呟いた。

『さて、あのデカブツの相手は俺がするが……。その前に、近衛木乃香を救い出さねばならんな。戦闘の巻き添えになりかねん。』

 彼はハートの4、『フロート』のカードを取り出す。空を飛んで、木乃香を救いに行くつもりだ。だがそれを止める者がいる。刹那だ。

「待って下さい。貴方はあの巨人を何とかできるのですか?」
『たぶんな。』
「なら、貴方はあの巨人に専念して下さい。お嬢様は私が救い出します。その方が確実でしょう。」

 カリスは刹那にその真紅の複眼を向ける。刹那の顔には、決意の色が見て取れた。カリスは彼女に問う。

『……いいのか?隠しておきたかったのだろう?』
「!!……貴方は……気づいて……?」
『俺も似たような『者』だからな。薄々感づいていた。』

 カリスと刹那が言ったのは、刹那の「正体」の事である。カリスは刹那が「混じり者」である事に、アンデッドとしての超感覚で、出会った当初から気が付いていた。
 刹那はカリスの言葉に、少々戸惑ったような様子を見せたが、すぐに決然と頷く。そして彼女はネギと明日菜に向かい、言葉を発した。

「ネギ先生、明日菜さん……。私……。二人にも……このかお嬢様にも秘密にしておいたコトがあります……。この姿を見られたら、もう……お別れしなくてはなりません。」
「え……。」
「でも……。今なら。あなた達になら……。」

 刹那は腕を自分の体を抱くようにすると、前かがみになる。シャツの背中が捲れ、そしてその下から白い――本当にどこまでも白い純白の翼が広がった。彼女は寂しげに言う。

「……これが私の正体。奴らと同じ……。化け物です。
 でもっ……。誤解しないでください。私のお嬢様を守りたいという気持ちは本物です!……今まで秘密にしていたのは……この醜い姿をお嬢様に知られて嫌われるのが怖かっただけ……!私っ……。宮崎さんのような勇気も持てない……。情けない女ですっ……!」

 ゴン。

「痛っ!?」

 突然カリスが刹那の頭を軽く小突いた。彼は刹那に向かって言う。

『そんな事を言われたら、本物の化け物である俺など、立つ瀬が無い。
 ……化け物であっても、受け入れてくれる奴は受け入れてくれる。俺にも、そう言う友が居た。
 近衛木乃香は、お前にとってそう言う奴では無いのか?』
「ええっ!?カリスさん人間じゃなかったんですか!?」

 ネギが驚きの声を上げる。カリスはネギに顔だけ向けると、諭すように言った。

『普通、人間がこんな力を持っているわけがない。』
「てっきり強化服とか、そう言う物でパワーアップしてるんだと思ってました……。」
『本当の姿を見せてやってもかまわんが……。飯が食えなくなるぞ。』

 カリスはそう言うと、再び刹那に向き合う。

『そんな化け物の俺でも、それを知った上で仲間になってくれた人間が居た。そう言う奇特な奴も人間の中には居る。ましてやお前は外見が人間にも受け入れられ易い。俺からすれば羨ましいぐらいだ。
 明日菜、近衛木乃香については、俺は詳しく知らん。この中ではそこの刹那を除けば一番詳しいのはお前だろう。近衛木乃香はどんな奴だ?刹那のその姿を見たからと言って、嫌悪するような、そんな奴か?』
「まっさかぁ!このかがその位で誰かの事を嫌うわけ無いじゃん!刹那さん、あんたこのかの事ずっと見守って来たんでしょ?あんたさぁ、言い方は悪くなっちゃうけど、このかの事見くびり過ぎ。
 だいたい、背中にこんなの生えてくんなんてカッコイイじゃん。カリスさんの言うとおり。他人に……このかに受け入れられないなんて、んなわけ無いでしょ。」
「え……。」
『……だ、そうだ。安心しろ。』

 カリスはそう言うと、再度リョウメンスクナノカミに向き直った。彼は1枚のカードを取り出す。そのカードはかつてエヴァンジェリン戦で使いかけたハートのK、『エヴォリューション・パラドキサ』だ。カリスはそのカードを、己の腰にあるベルトのバックル部分、カリスラウザーにラウズした。
 電子音声が響く。

『エヴォリューション』

 その瞬間、ネギ達は目を見張った。カリスの周りをハートのスートのカード13枚が輝きながらひらひらと舞い、カリスの身体に吸収されて行ったのだ。そしてカリスの姿が変わる。赤を基調にした身体に金のプロテクターを纏い、その顔面には緑の複眼。『王』の風格をもつ戦士――これがワイルドカリスである。
 ワイルドカリスは言葉を発する。

『何をしている。さっさと近衛木乃香を救いにいけ。……俺がデカブツを潰すのに、巻き込まれるなよ。』
「は、はい!」

 刹那はそう言うと、翼を羽ばたかせ飛翔した。目的はリョウメンスクナノカミの肩の所に居る、木乃香と千草である。それを緑の複眼で捉えると、ワイルドカリスは徐に醒弓カリスアローにベルトのバックル部分――カリスラウザーをセットした。本来であれば、彼の必殺技であるワイルドサイクロンを使うには、カリスアローに醒鎌ワイルドスラッシャーをセットするはずなのだが。
 彼は心の中で呟く。

(「ワイルドサイクロン」でも良いんだが……。威力では問題無いが、破壊範囲が狭いからな。狙い所を間違えると無駄射ちになりかねん。今回は「こちら」にしよう……。)

 ワイルドカリスは、カードホルダーから5枚のカードを取り出す。そして順番に、そのカードをラウザーにラウズして行った。
 次々に電子音声が響く。

『スペード6』『ダイヤ6』『ハート6』『クローバー6』

 彼は最後の1枚をラウズする前に、一寸躊躇した。彼は呟く。

『剣崎、力を借りるぞ。』
(ああ。あんな危険な物、放っておけない。放っておいちゃいけない。)

 ワイルドカリスの耳に、幻聴とも思える声が聞こえて来た……ような気がした。いや、彼の心には、確かにその声が届いていた。彼は最後のカードをラウズする。
 電子音声が厳かに響き渡る。

『ジョーカー』
『ファイブカード』

 彼の眼前に、ドアぐらいの大きさの、5枚の光の壁が降りてきた。その光の壁の模様は、今ラウズした5枚のカードの模様だ。ワイルドカリスは一気にダッシュすると、次々とその光の壁を通り抜ける。通り抜けるたびに、彼の持つカリスアローにはカードの力が宿っていく。スペードの6で「雷」の力が、ダイヤの6で「炎」の力が、ハートの6で「風」の力が、クラブの6で「氷雪」の力が宿る。そして最後のJOKERの「混沌」の力がカリスアローの刃に宿った時、ワイルドカリスは高々と跳躍した。
 ワイルドカリスのジャンプ力は、一跳び60m。下半身が未だ大岩に埋もれている状態のリョウメンスクナノカミの頭の高さは30m強。ワイルドカリスは、スクナのはるか頭上へと跳び上がった。そして彼はカリスアローのリムの部分を刃として使い、落下しながらスクナの頭へと叩き付けた。
 光る刃が、熱したナイフがバターを溶かし斬る様に、リョウメンスクナノカミを頭から真っ二つにしていく。千草が何か叫んでいるような声が聞こえたが、よく聞き取れない。スクナは下半身が埋もれている大岩ごと、脳天から全身を真っ二つに斬り裂かれた。
 そしてリョウメンスクナノカミは、左右に斬り開かれた身体を、ゆっくりと別々に湖に倒れ込ませて行った。湖面に大波が立つ。スクナの身体は、切断面から光の粒子を散らして消滅して行った。
 ワイルドカリスは二つに裂けた大岩の上に降り立つ。彼は空を見上げた。本来であれば暗くてわからないはずであったが、彼の緑の複眼には、木乃香を横抱きにして空を舞う、刹那の姿がはっきりと捉えられていた。彼は呟く。

『……出てきたらどうだ。』
「フン、気付いていたのか。」
「どうもこんばんは、カリスさん。」

 ワイルドカリスの影の中から、ぬっと出てきたのは、エヴァンジェリンと茶々丸であった。エヴァンジェリンは棘のある口調で言う。

「これが貴様が隠していた力か。たいしたもんだな。」
『別に隠していたわけじゃない。今までは出す必要が無かっただけの事だ。第一、お前との戦いでは使おうとしていたろう。
 それにお前でもこのぐらいのエネルギー量は扱える、いや実際扱っていただろう。俺との戦いで。たしか「こおるせかい」だったか?』
「フン……。それにしても、なんだその姿は。それが貴様の本当の姿か?赤に金か、悪趣味だな。」
『別に本当の姿、と言うわけじゃない。本当の姿はもっと悪趣味だ。』

 ワイルドカリスは別な方向へ向き直る。そこは、先程リョウメンスクナノカミが左右に分かれて湖に倒れこんだときの波でびしょびしょに濡れていた。彼は水溜りの一つに向かって言葉を発する。

『……お前も出て来い。不意を打とうとしていたのだろうが、無駄だ。』
「まあ無駄だろうとは思ったけれど、ね。」

 そう言ったのは、誰あろうフェイトである。彼は水溜りを出口にして、すっと全身を現す。ワイルドカリスはカリスアローに、今度はカリスラウザーではなくワイルドスラッシャーをセットした。フェイトが何かしようものなら、「ワイルドサイクロン」を射つ構えだ。カリスは問うた。

『……で、どうする?』
「やめておくよ。そちらのほうはエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル……吸血鬼の真祖だろう?それに君があのスクナを一蹴する程の力を持っているとは思わなかった。それ程の相手を2人同時に相手にするのは論外だ。素直に敗北を認めよう。
 ……今日のところは、ね。」

 そう言うと、フェイトはバシャッと音を立てて、水になって消えた。エヴァンジェリンが呟く。

「幻像、か。逃げたな。」
『ああ。奴はやっかいだ。勝つのはそう難しく無いが、あの逃げ足の速さは異常だからな。倒すのは困難だ。』
「貴様がそう言うのなら、そうなんだろう。ところで奴は……何者だ?人間のようなのは外見だけだったが。」
『フェイト・アーウェルンクスと言う強力な西洋魔術師である事ぐらいだな。わかっているのは。石化の魔法が得意で、西の長、近衛詠春すらも歯が立たず石にされてしまうほどの実力者だ。』

 ワイルドカリスはふと妙な事に気付く。

『……所で茶々丸。たしかエヴァンジェリンは呪いのせいで真帆良学園都市からは出られないはずではなかったか?』
「何故茶々丸に訊く。」
「はい、それですが……。
 ネギ先生から緊急連絡を受けた学園長は、援軍としてマスターをこちらへ送る事を可能にするために、呪いの精霊を誤魔化すことにしたのです。強力な呪いの精霊をだまし続けるため、今現在複雑高度な儀式魔法の上、学園長自らが5秒に1回「エヴァンジェリンの京都行きは学業の一環である」という書類にハンコを絶えず押し続けています。」
『5秒に1回、か……。老体にはかなりこたえるだろうな。』

 ワイルドカリスはしみじみと言う。エヴァンジェリンは不愉快そうに眉を顰めた。

「なんだ?何か文句でもあるのか?」
『いや、無い。ただ、自業自得だ、と思っただけだ。今回の件は、真帆良学園側の見通しの甘さが招いた事だと言う面が多々ある。その責任者が事態の収拾と今後の対策に尽力するのは当然だろう。』

 エヴァンジェリンは、思っても見なかった理解ある台詞に目を見開く。ワイルドカリスは、そんなことはどうでも良いとばかりに、ただ立ち尽くしていた。

 ドサッ!ゴトン!

「ネギ!ちょ、ちょ、ちょっとっ!」
「兄貴っ!?」

 その時、突然何か倒れるような、何か重たい物が床に落ちるような、そんな音がした。それとほぼ同時に明日菜とカモが叫ぶ。3人――エヴァンジェリンと茶々丸、それにワイルドカリスはそちらを向いた。
 そこにはネギが倒れ伏していた。明日菜がそれを抱き起こしている。3人は急いでそちらへ駆け寄った。

「ど、どど、どうしたぼーや!?」
「ネギ先生!?」
『……脈拍異常。呼吸も正常ではない。意識も無い。……おいカモ、何が起きた。』

 ワイルドカリスが言う通り、ネギの息は荒く、満面に汗を浮かべていた。その右半身は石化が進み、もう殆ど身体の半分近くが石になっていた。
 女生徒達の声が聞こえる。

「ネギくーーーん!」
「ネギ先生!」

 これは先程助け出された木乃香と、助けた刹那の声だ。更に他にも声がする。

「どうしたでござるか!」
「楓さん!夕映!」

 小太郎を下した楓と、一緒にいた夕映、それに負けを認めた小太郎が一緒になって森から走り出てきていた。皆、湖の上を渡された橋を駆けて、祭壇の所までやって来る。そしてやって来た皆が皆、石化しかけたネギを見て驚愕した。
 カモがわかる事を必死で説明しようとする。もっとも分かる事はそう多くないのだが。

「いや、普通ならこのまま全身が石になるだけなんだよ。西の長みてえに。それなら昼にやって来る応援部隊なら石化を解除できる。なんとかなるハズだったんだが……。」
「何が起こっているのかといいますと……。」

 茶々丸が説明の後を引き継ぐ。その間に、真名と古菲も合流してきた。彼女らもネギの様子に驚きを隠せない。

「ネギ先生の魔法抵抗力が高すぎるのが原因です。そのため、石化の進行速度が非常に遅いのです。このままでは首まで石化した時点で呼吸ができず、窒息してしまいます。
 ……危険な状態です。」
「オイッ!しっかりしろよネギ!」

 小太郎が慌てた様子でネギを励ますが、ネギの意識は失われたままだ。目を覚ます様子は無い。それどころか、じわじわと石化が進行していくと共に、容態は悪化の一途を辿る。
 明日菜がエヴァンジェリンに、叫ぶように訊ねた。

「……ど、どうにかならないの、エヴァちゃん!!」
「わっ……わわ私は治癒系の魔法は苦手なんだよ。不死身だから。」
「そんなっ……。せっかく来たのに役に立って無いじゃないアンタ!」
「なっ!なんだと貴様ぁっ!」
「喧嘩してる場合じゃねーよ姐さん達っ!応援部隊が着くのは昼だ……。間に合わねぇっ。兄貴……。」

 ワイルドカリスが茶々丸に聞いた。

『中途半端に石化しているのが問題なのだな?』
「はい。」
『そうか。』

 ワイルドカリスはそれを聞くと、速やかにカリスアローにカリスラウザーをセットした。そして1枚のカードを取り出す。そのカードはダイヤの7、『ロックトータス』だ。それを見た明日菜は焦る。

「ちょ、ちょっとっ!?まさかアンタ、ネギが助からないから一思いに止めを、とか考えて無いでしょうねっ!?」
「「「「ええっ!?」」」」
『違う。このカードには相手を石にする能力がある。中途半端な石化が命の危険を及ぼしているのだから、ネギを一度完全に石にしてしまう。そして石化解除ができる応援部隊を待つ。』

 それを聞いて、慌てて止めたのはエヴァンジェリンである。

「待て待て待て!石化と言うのは一種の呪いだ。呪いの重ね掛けと言うのは問題があるぞ?互いの呪いが下手に干渉しあえば、下手をすると解ける石化も解けなくなって、坊やはこのまま永久に石のままと言うことになりかねん。」
『なら代案はあるのか?このままだとネギは死んでしまう。代案が無いならば将来的に石化が解ける方に賭けて、ネギを石化させるぞ。』
「む……。それは……。」

 エヴァンジェリンは言葉に詰まる。その時、木乃香が口を開く。

「あの……。代案はあるえ。ウチが……ネギ君にチューするんや……。」
「ちょ、このか!何言ってんのよこのか、こんな時に!」
「あわわ、ちゃうちゃう。あのホラ、パ……パクテオーとかいうやつや。」
「え……。」

 明日菜ははっとする。木乃香は続けた。

「みんな……。ウチ、せっちゃんに色々聞きました。……ありがとう。今日はこんなにたくさんのクラスのみんなに助けてもらって……。ウチにはこれくらいしかできひんから……。」
「……そうか!仮契約には対象の潜在力を引き出す効果がある。このか姉さんがシネマ村で見せたあの治癒力なら……。」
「ハイ。」

 カモの言葉に刹那が頷く。ワイルドカリスはパクティオー――仮契約が何なのかとか、話が見えていなかったが、どうやら木乃香の秘められた魔力を活用するようだと当たりをつけ、黙っていた。
 カモが魔法陣を書き終えると、木乃香はネギを抱きかかえる。

「ネギ君。しっかり……。」

 そう言って、彼女はネギの唇に口付けた。その瞬間、周囲に光が満ちる。周囲数キロに渡って、暖かい癒しの光が降り注いだ。身体の半分が石化していたネギは瞬時に元の姿に戻る。それどころか、彼等は今はまだ知る由も無いが、関西呪術協会の本山――木乃香の実家で石になっていた者達も元に戻っていた。更には明日菜達が負っていた軽傷も、跡形も無く消え去っている。とんでもない程の癒しの力だった。
 ワイルドカリスは呟く。

『なるほど。これが近衛木乃香の力か。狙われるわけだな。』
「フン、まあおかげで坊やは助かった。」
「良かったですね、マスター。」
「な!……わ、わわ私は別にだな!坊やの事など心配は……。」

 ぽん、とワイルドカリスがエヴァンジェリンの頭に手を置いた。そしてそのまま撫でさする。エヴァンジェリンは爆発した。

「私を子ども扱いするな!」
『そうか、悪かったな。』

 そう言いつつも、彼は撫でる手を止めようとはしない。エヴァンジェリンはその手を振り払おうとするが、押せば引き、引けば押してきていっこうにその手は彼女の頭から離れない。彼女は叫んだ。

「だーーーっ!やめんかーーーっ!」
『ああ、すまん。』

 ようやくワイルドカリスは手を離す。エヴァンジェリンは沸点ぎりぎりだ。と、ワイルドカリスは踵を返す。エヴァンジェリンは問うた。

「待て、どこへ行くつもりだ。」
『ネギも助かった。ここにはもう俺がいる必要は無いだろう。ホテルに戻る。』
「……フン、勝手にしろ。」
「カリスさん、どうもお世話様でした。」
『茶々丸もな。ではな、エヴァンジェリン、茶々丸。ネギ達によろしく言っておいてくれ。』

 彼は湖の祭壇から岸へ渡る橋を歩き出した。その背に声がかかる。

「か、カリスさん!どうもありがとうございました!」

 ネギの声だった。ワイルドカリスは振り向かずに、右手を挙げて応えると、一人その場を去っていった。


あとがき

 さていよいよ後編です。ワイルドカリス、満を持して登場です。当初から、スクナ戦ではワイルドカリスを出そうと思っていました。それと「ファイブカード」も。剣崎セリフちょっとだけ。
 今回ちょっと心残りだったのは、エヴァの出番をごっそり削った事ですね。どうしてもカリスを活躍させるとスクナ戦ではエヴァの出番を横取りしなくてはならなくなってしまいます。その辺の調節がどうだったかなあ、と少し心配ですね。
 思い切ってバッサリと出番を切る事にするまで、ずいぶん時間がかかってしまいましたし……。
 ところでもしも感想を書いていただけるのでしたら、掲示板へよろしくお願いします。


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