「第13話」


 修学旅行3日目、今日も始はネギを見張っていた。もう京都に来ていることがネギ達にばれたのに、彼らの前に出ないのは、自身の行動を自由にしておく為だ。そのネギはと言うと、朝からとても張り切っていた。カモを肩に乗せ、彼は呟く。

「よーし。みんなも自由行動だし、今日こそ親書を渡しに行けるぞー。」
「よーやくってカンジだな。」

 ネギは彼を探す女子生徒たちの目を掻い潜ると、ホテルの裏口から脱出した。始もこっそりその後を付いて行く。始の耳に、ネギの声が聞こえた。

「早いとこ関西呪術協会の本山に向かわないと。このかさんは刹那さんに任せてあるし、他の班の事は長瀬さんに一声掛けてあるし、万全だね♪
 さて……。きっとこの親書渡せば、東西が仲良くなるんだよ。」
「そー簡単にいくかな。」
「がんばらなくっちゃ。」

 始は今聞いた台詞の内容について、考える。

(なるほど、ネギ少年に課せられた任務とは、東から西への親書を携えて使者になる事だったのか。東の関東魔法協会理事、近衛近右衛門と、西の関西呪術協会の長、近衛詠春は義理の父親と婿の関係。簡単な任務だと思ったのだろうが……あの呪符使いの女だけならまだしも、あの白髪の少年の様な化け物レベルが妨害に加わるとは思わなかったのだろうな。
 いや……どちらかと言えば、奴らの狙いは親書の妨害よりも近衛木乃香の誘拐と、その『力』の悪用、か。どちらにしても、見通しが甘いと言わざるを得ん。もっと防備を強化すべきだったのだ。ネギ少年の成長を願っての試練であるならば――それでも俺としては面白くないが――陰からでも、もっと護衛を付けるべきだったのだ。西の長その人が味方側、学園長からすれば娘婿だから安心していたのやも知れんが……。
 まあ愚痴を言っても仕方あるまい。俺は頼まれた通りネギを守るだけだ。)

 始が見ていると、ネギとカモは雑談をしながら、明日菜との待ち合わせ場所へ向かっていた。だが、待ち合わせ場所に着いても、明日菜の姿は見えない。どうやら彼女はネギとの約束に遅刻しているらしい。
 ネギは明日菜の姿を探してキョロキョロしている。それを離れた所から見ていた始は、ネギの後から一団の女生徒達が近付いていくのに気付いた。その中には、ネギが探していた明日菜の姿もある。彼女らはネギに声を掛けた。

「ネーギ先生(はぁと)」
「え?」
「へへー。」
「わあ〜〜〜っ、皆さんかわいいお洋服ですねー。」

 その一団は、明日菜以下5班のメンバー達だった。皆、可愛らしく着飾っている。ネギは彼女等の服装を褒めた後で、我に返り、小声で明日菜に詰め寄る。

《なな何でアスナさん以外の人がいるんですか〜〜〜っ!?》
《ゴメン、出掛けにパルに見つかっちゃったのよー。》

 ネギ達は右往左往した挙句、とりあえずは仕方無しに一緒に行動する事になったようだった。大方、後からネギと明日菜は他の面々を撒くつもりなのだろう。わいわいがやがや騒ぎながら、その一団は一塊になって歩いて行く。始は、不自然では無い様子を装って、少し離れてその一行の後を付いていった。





 ネギ達一同は、ホテル近隣のゲームセンターへ来ていた。始は同じゲームセンターへ入り、対戦3D格闘ゲームの台に座って、彼らの様子を見る。彼の鋭い耳は、カモの囁くような声を捉えていた。

《姐さん、兄貴、チャンスだぜ!とりあえず何かゲームでもやって、スキを見て抜け出そうぜ。》
「う、うん。」
「そうねー。」

 ネギ達は5班の面々が集まっている所へ歩いていった。それを始はさりげなく視線だけで追う。無論、彼等がこっそり抜け出す様なときは同じくこっそり付いて行くためだ。
 彼らはどうやら、魔法使いになって戦う、対戦型カードゲームのゲームセンター版をやる様だ。ネギは初心者ながら、なかなかの腕前を見せているらしい。と、そこへ対戦の挑戦者が現れた。どうも地元の子供の様だ。彼はやや深目につばの無い帽子を被っていて、学ランを気崩している。ギャラリーと化している5班の面々は、ネギに声援を送った。

「ネギ君がんばれー♪」
「地元の子なんかに負けるなー!関東の意地、見せてやれー。」
「よ、よーし。」

 声援を受けて、ネギもその気になっていた。それを離れた所から眺めていた始だったが、その視線はキツい物になっている。視線の方向は、今はネギではなくその地元の少年に向いていた。始は不審に思う。

(あの少年からは、人間以外の感じがする。あの刹那とか言った少女とはまた別の『物』だが……。『今』こんなときに、そんな者がネギ少年に近付いて来るなど、偶然なのか?……いや、疑ってかかった方がいいだろうな。)

 『地元の少年』はそのゲームでネギを下した。残念がるネギにその少年は意味ありげな台詞を言い放つ。

「なかなかやるなあ、あんた。でも……魔法使いとしてはまだまだやけどな。」
「え……。うん……どうも。」

 その台詞は、その『魔法使いになって戦うゲーム』の事だと思えばどうと言う事はない。だが、ネギが魔法使いだと知っている者にとっては、疑おうと思えば疑える台詞だ。なおかつ、始はその『少年』が只者で無さそうな事に気付いている。
 その『地元の少年』は、ネギとの対戦を終らせた後、小走りでゲームセンターを出て行こうとした。その時、彼はたまたま宮崎のどかとぶつかって、互いに尻餅を突いてしまう。少年の帽子が脱げた。

「!……やはり、か。」

 それを見ていた始は呟く。帽子の下からは、一瞬だけだが髪の毛の間から、犬の耳の様な物が飛び出していたのである。少年は帽子を被りなおし、のどかに軽く謝ると、ダッシュでゲームセンターを走り出て行った。
 始は少々迷う。勘に従いあの『地元の少年』の後を追うか、それとも方針変更をせずにネギに付いて行くか。だが彼は、やはり自分の勘を信じることにした。いくら何でも、あの少年は外連味がありすぎる。始はすっと音も立てず、自分の座っていた椅子から立ち上がると、素早くゲームセンターを出て行った。どうせネギ達の行く先は知っている。関西呪術協会本山の場所は、一応住所程度なら知っているから、始は行こうと思えば行けるのだ。何故住所を知っているかと言えば、今まで彼がカリスとして捕らえた相手から、尋問の結果聞いているからである。何はともあれ、始はあの少年の後を追った。





 『地元の少年』――犬上小太郎は、一寸した偵察を終えて仲間の待つ路地裏まで戻ってきた。一応周囲を警戒しながら来たが、附けられた様子はなかった。少なくとも小太郎には、そのような気配は感じ取れなかった。彼は仲間の親玉――天ヶ崎千草に短く報告する。

「やっぱ名字、スプリングフィールドやて。」
「フン。やはり……。あのサウザンドマスターの息子やったか……。それやったら相手にとって不足はないなぁ。」

 千草は嘲笑するように微笑む。

「ふふ……。坊や達……。一昨日のカリは……。」
「まって。」

 千草の台詞を、傍らに立っていた白髪の少年が止める。彼は路地の入り口の方を向いて言った。

「そこに隠れているのはわかってる。でてきたまえよ。」
「……。」

『チェンジ』

 電子音声が響いた。路地の入り口から、1人の人影が歩み入ってくる。黒を基調とした身体に銀色のプロテクター、紅い複眼……カリスである。カリスは白髪の少年に向かって言葉を発した。

『……隠行には自信があったんだがな。』
「……熱源感知の簡易結界魔法だよ。体温を持つ生き物に反応する。」
『そうか。』

 それっきり2人とも黙って睨み合う。だが沈黙に耐え切れなり、かつ無視される形になった千草がいきなり切れる。

「な……なんや、なんやのアンタはぁ!こら新入り!ウチはあの坊や達だけやなく、こいつにもカリがあるんや。でーっかいのが、な!」
『借りはこちら側……と言うよりも、学園の生徒達、特に近衛木乃香やネギ・スプリングフィールド達の方が多いと思うぞ。お前達のは「借り」でもなんでもない。無法を働いた結果の、ただの自業自得だ。』
「な、なあ。あいつ誰や?なんやヒーローかぶれの格好しよってからに。」

 小太郎の疑問に答えたのは、やはり白髪の少年だった。

「……仮面ライダー・カリスを名乗る人物。麻帆良学園都市に巣食う謎の存在。だがその実力は『仮面ライダー』を名乗るに相応しい、と言うよりも非常識なレベル。僕のツテで分かったのは、このぐらいだね。」
「ええ歳して、ライダーごっこかいな!?ヒーローかぶれも程々にせんと、痛い目遭うえ!?」

 千草が嫌味ったらしく言葉を紡ぐ。その眼差しはきつい。千草が攻撃的になっている理由は、やはり前回殺気をぶつけられた事で、怯えてしまったのが自分自身腹に据えかねる、と言ったわけだろうか。だがその千草の前に、ひらひらした服を着た眼鏡の少女が、すっと音もさせず、守るように立ちはだかる。千草は怪訝そうに問うた。

「月詠はん?」
「油断したらあきまへんえ〜。この方、格好はふざけとりますけど、できますえ〜。」

 少女――月詠は何処からとも無く取り出した二刀を、油断無く構える。眼鏡越しの視線は全く油断が無い。いや、強敵と殺りあえる喜びすら、若干見て取れる。だが彼らを止めたのは白髪の少年だった。彼は仲間に向かって言う。

「貴方達は、作戦通りネギ・スプリングフィールドの足止めと近衛木乃香の奪取に向かって下さい。ここは僕が彼と戦います。」
『……。』
「そ、そやけど新入り……。」
「行って下さい。」

 白髪の少年は冷たい声音で言う。千草達は一見不承不承ながら、その『意見』に従った。千草達はカリスの横を通り過ぎて、路地裏から出て行く。白髪の少年と睨み合っているカリスは、それをあえて見逃す。

「新入り!そいつギッタンギッタンにしてやりぃ!」
「了解。」

 彼は千草の捨て台詞にも律儀に返す。そんな彼に、カリスが尋ねる。

『名前を聞いておこうか。』
「……フェイト・アーウェルンクス。良かったのかい?行かせてしまって。」
『止めようとしたら、お前が魔法を使っていたはずだろう。仲間を巻き込んでも、な。』

 白髪の少年――フェイトは、人形の様な無表情ながら、感心したような様子を見せる。一方のカリスは、続けて言った。

『それに……。一番足止めしたかった奴は、残ってくれたしな。
 ……見た目通りの年齢じゃないな?それに……。それに真っ当な人間とは違う感覚がある。』

 カリスのアンデッドとしての感覚は、フェイトのその姿から違和感を感じ取っていた。その見た目の年齢、人間型でなおかつ少年型のその風貌――フェイトから感じる力や空気は、それらを大きく裏切っている。
 フェイトはカリスの問いかけ……と言うより確認をあっさりと無視すると、自然体で立った。一方のカリスは、醒弓カリスアローを白兵戦用の武器として構える。2人はしばらく動かずに睨み合っていた。
 カリスの見立てでは、他の連中はネギ達でどうにか相手になる。だがこの少年、フェイトは無理だ。他の連中を逃がしてしまっても、フェイトを足止めできるなら――あるいは倒してしまえるなら――お釣りが来ると言う物だ。
 突然フェイトが動いた。

「足止め?僕は君をここで倒すつもりなんだけどね。」
『!……ほう。』

 フェイトは一瞬にして、瞬間移動のように間合いを詰めると、拳を放つ。だがカリスはそれを見切って小手返しで落した。フェイトは地面に叩きつけられる前に身をひねり、しゃがむような姿勢で着地、そのまま素早く足払いを放つ。だがその足払いは、カリスの足のプロテクターにぶち当たると、金属的な音を響かせただけで終る。フェイトからすれば、まるで大樹でも蹴ったかのような感覚だったろう。
 次にカリスが動いた。予備動作無しで、思い切りフェイトを殴る。だがその拳は、魔力の障壁に阻まれ、フェイトまで届かない。フェイトは呟く。

「無駄だよ。」
『そうでもない。』

 カリスの、自分の呟きに対する答えに、フェイトは目を見開く。カリスの拳は、フェイトの魔力障壁の強さを確認するためだけに放たれたのだ。カリスは蹴りでもフェイトの障壁には通じない、と見たのか、醒弓カリスアローで斬りつける。フェイトは体を躱す。いくら自分の障壁強度に自信を持ってはいても、相手がそれを知った上で繰り出してくる武器攻撃を受ける気は更々無かった。
 フェイトはカリスの懐に入り、体を入れた肘打ちを見舞う。だがカリスは身体を最低限動かしただけで、プロテクター部分で受ける。彼はカリスアローの切っ先を突くように使って、フェイトに一撃入れた。障壁が貫かれる。障壁を破るのに威力とスピードを大きく削がれた一撃を、フェイトは顔を逸らして回避した。
 続けて、カリスが相手を障壁ごと浮かせようと蹴りを放ったと同時に、フェイトは大きく跳び退る。丁度2人の行動が噛み合った形になり、フェイトの身体は予想以上に飛ばされた。彼はこれを好機と見たか、呪文詠唱を開始する。

「ヴィシュ・タル、リ・シュタル、ヴァンゲイト。小さき王、八つ足の蜥蜴、邪眼の主よ。時を奪う毒の吐息を。石の息吹。」

 だがカリスも同時に、カリスアローから光の矢を射ていた。これは単なるレーザー光なので、透明な障壁では防ぐ事はできない。フェイトは右肩に直撃を食らう。

「!……障壁で威力を減免できないとは。だが……!?」

 カリスは光の矢を射ると同時に、跳躍して建物の壁を使い、三角跳びの要領でフェイトの背後へと着地した。カリスのジャンプ力はひと飛び45mもある。この様な芸当は朝飯前だった。無論、発動した『石の息吹』の呪文の効果範囲に満ちる、石化の毒煙からはあっさりと逃れている。
 フェイトはうつ伏せに身を躱し、カリスアローの斬撃から逃れる。そのまま彼は前に身体を投げ出し、カリスと距離を取ったかと思うと、再び瞬間移動の様に動いて、カリスに鉄拳を叩き込もうとする。だがカリスの複眼の、驚異的な動体視力、解析力は、それを見切っていた。彼はカリスアローを振り切った姿勢から、そのまま回し蹴りに繋げる。瞬動術でカリスの眼前に飛び込もうとしていたフェイトは、カウンターで蹴りを喰らった。瞬動術にタイミングを合わせられた蹴りの威力は凄まじく、フェイトの強固な障壁も貫かれた。障壁により威力を減免させられているとは言え、回し蹴りがフェイトの顔面に炸裂する。彼は吹き飛んだ。
 フェイトはゆらりと立ち上がり、呟く。

「……身体に直接、蹴りを入れられたのは……初めてだよ。仮面ライダー、カリス……!
 ヴィシュ・タル、リ・シュタル、ヴァンゲイト……。」

 ギラリとカリスを睨むと、フェイトは呪文を詠唱し始めた。カリスはベルトのラウザーをカリスアローにセットすると、カードホルダーから3枚のカードを取り出す。カリスはそのカードを順番にラウズし始めた。

『フロート』『ドリル』『トルネード』

 3枚のカードのイメージが、立体映像の様にカリスの背後に現れ、カリスの身体に転写吸収されていく。電子音声が響いた。

『スピニングダンス』

 カリスの身体は、その周囲に発生した竜巻に飲まれグルグルと回転しながら宙に舞い上がる。カリスはそのまま、相手を幻惑するかの様にフェイトの周囲を舞った。フェイトは唱え終わった呪文をそのまま遅延呪文として保持し、いつでも発動できるように構えていた。
 そしてカリスは竜巻と共に高速回転しながら、急降下してフェイトにキックを放つ。フェイトは何とか惑わされる事無く、カリスの攻撃に合わせて魔法を解き放った。

「石の槍……!」

 フェイトの周囲の地面から何本もの石の槍が、『スピニングダンス』で突っ込んでくるカリスに向けて伸びていく。今回戦った場所が路地裏と狭かったためもあり、カリスはフェイトに確実にキックの軌道を読まれていた。石の槍が、カリスを貫かんと迫る。
 だが威力は『スピニングダンス』の方が遥かに高かった。カリスの必殺の回転キックは、「石の槍」をそれこそドリルの様に削り取りながら、フェイトに直撃した。フェイトの胴体が千切れ飛ぶ。
 しかしフェイトはその状態で呟いた。見ると、身体の轢断面は水になって弾けている。

「引っ掛かったね。」

 そして地面に降り立ったカリスの死角から、呪文詠唱が響いた。

「ヴィシュ・タル、リ・シュタル、ヴァンゲイト!小さき王、八つ足の蜥蜴、邪眼の主よ!その光、我が手に宿し、災いなる眼差しで射よ!石化の邪眼!」

 何者をも石化させる光線が、背後からカリスに迫る。だが、電子音声が響く方が若干早かった。

『引っ掛かったな。』

『リフレクト』

 カリスの身体が一瞬、鏡面になる。光線は、その鏡に跳ね返ったかのように、放ったフェイト目掛けて直撃した。フェイトの身体は石化を始める。彼は不審そうに呟いた。

「……どうして?」

 これは、どうして自分の思惑に気付いたのか、と言う意味である。カリスの反射技、『モスリフレクト』は、あらかじめフェイトの作戦を知っていなければ間に合うタイミングでは無かった。
 フェイトは必殺魔法である「石の槍」を、カリスが倒せればそれでよし、倒せない場合でもカリスの最大限の攻撃を偽者相手に引き出すための、囮技として使ったのである。そしてカリスが必殺技を放った直後の隙を見計らい、本番である「石化の邪眼」を満を持して使用した。これでカリスは今度こそ石化するはずであった。
 だがカリスは、反射技と言う反則すれすれの防御技を持っていた。持っていただけでなく、あらかじめ使えるように用意していたか、あるいは心構えができていた事になる。フェイトはその事が不思議であった。そんなフェイトに、カリスは答える。

『……戦闘中、気配が分裂した。偽者……いや幻覚か?それにも本物そっくりの気配を持たせる技量はたいした物だ。だが俺には通じん。』

 カリス――JOKERが姿を借りている、本来の「カリス」はカテゴリーAにして、カテゴリーKにすら匹敵する強力なアンデッドである。特にその超感覚や解析能力は、恐ろしく優れた物がある。カリスは、目の前の「石の槍」の中心にいたフェイトが偽者であり、自分の死角――とフェイトは思っていた――に隠れた方の気配が本物のフェイトである事を、あらかじめ見抜いていたのだ。
 だがカリスが急に『スピニングダンス』の相手を変更しては、下手をすると「石の槍」に撃墜されかねない。だから着地後すかさずハートの8、『リフレクトモス』のカードを使用したのだ。言わば『スピニングダンス』は囮技、本命は『モスリフレクト』の方であったと言える。奇しくもそれは必殺魔法を囮技に使った、フェイトの作戦に似通っていた。
 フェイトはこの場での敗北を認める。彼は胸まで石化しており、今なおその石化は進行中だ。彼は自分自身の石化魔法に全力でレジストしながら、カリスに見えないように自分の足元に水を撒く。

「……分が悪いようだね。退却させてもらうよ。」
『……。』

 カリスは黙って、カリスアローから光の矢を射る。フェイトは射抜かれる直前、足元から立ち上った水に取り込まれて、その場から消えていった。





 カリスはハートの2のカードを取り出す。そしてそのカードを、ベルトに戻したラウザーにラウズする。

『スピリット』

 電子音声が響き、ドアほどの大きさの光の壁が現れる。彼がそれを潜り抜けると、カリスの姿は一瞬にして始に変わっていた。始は考える。

(逃げられたか……。まあいい、あの様子では少なくともしばらくちょっかいを掛けては来れないだろう。自分で石化魔法を使えると言うことは、石化解除の方法も持っているのかも知れんが。まあ、しばらくは時間が稼げたろう。倒してしまえれば良かったんだが……。まだ『切り札』を残していた方が良い様にも思ったしな。
 さて、ネギを追うか。さすがにもうゲームセンターには居ないだろう。先回りする事になるかも知れないが、関西呪術協会の本山へ向かうとするか。)

 彼はバイクを取りに、一度ホテルへ戻って行った。


あとがき

 さて、いよいよ今回はアクション編です。対戦カードはフェイト対カリスです。
 ちなみに今回は3日目の朝から昼前ごろです。フェイトが出てくると、やっぱり緊迫度が増しますね。カリス(通常形態)の方が強いとは言え、一応カリスになんとか通用する技を色々持っている相手ですので。
 ところでもしも感想を書いていただけるのでしたら、掲示板へよろしくお願いします。


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