「第8話 前編」


 麻帆良学園は年2回、設備の一斉点検を行う。そのため、春と秋の2回、学園都市全体が停電となる。今回は本日の夜8時から深夜12時までの間、停電となる予定である。
 その停電に乗じて、とある者が悪巧みをしていた。言わずと知れた「闇の福音」「不死の魔法使い」「人形使い」エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルである。彼女は己が従者である絡繰茶々丸を引き連れて、ここ麻帆良学園女子中等部の電算機室へやって来ていた。
 エヴァンジェリンは茶々丸に問いかける。

「……どうだ?」

 茶々丸は己が右手指に仕込まれたUSB端子をパソコン前面に接続し、左手でキーボードを高速で打っていた。やがて茶々丸は答えを返す。

「予想どおりです。やはりサウザンドマスターのかけた「登校の呪い」の他に、マスターの魔力を抑え込んでいる「結界」があります。
 この「結界」は学園全体に張りめぐらされていて、大量の電力を消費しています。」
「ふん、10年以上気付けなかったとはな……。」

 エヴァンジェリンは忌々しそうに呟く。そして少々呆れたように付け加えた。

「しかし……魔法使いが電気に頼るとはなー。え〜と……。ハイテクってやつか?」
「私も一応そのハイテクですが……。」
「まあいい、おかげで今回の最終作戦を実行できるわけだ……。な?」

 エヴァンジェリンは電算機室から出つつ、自分の従者に、確認するように問いかける。茶々丸は主の後に付き従いつつ、その問いに首肯した。

「そうです。」
「よし、予定どおり今夜決行するぞ……。フフフ、坊やの驚く顔が目に浮かぶわ。クククク……。
 ハハハハハ!あーおかしい、アーッハッハ!
そして呪いを解いた暁には、今度はカリスの奴だ!見ていろ、私を侮りおって!本当の私の力という物を思い知らせてやるっ!
 アハハハハハ、アーハッハッハッハッハ!」

 エヴァンジェリンは大型の室外機の上に乗って、高笑いした。茶々丸の表情は変わらない。だがその挙動はおどおど、もぞもぞと、何か心配事でもあるかのようだ。エヴァンジェリンはそれに気付くと、茶々丸に問いかける。

「……どうした茶々丸。何か気になることでもあるのか。」
「いいえ、特にありません。ですが……ネギ先生のパートナーはどう致しますか?」
「ふん、今日の作戦が成功すれば、そんな事など関係ない。
 ……まあ、おまえが神楽坂明日菜を抑え込んでいれば、私と坊やの1対1だ。万が一にも負ける要素なぞ無いよ。」
「はい。」

 だが茶々丸は、相変わらず何かが不安そうな様子を見せていた。エヴァンジェリンはそれを少々訝しんだが、やがて踵を返した。

「開始まで、あと5時間だ。行くぞ、茶々丸。」
「あ、マスター。」

 エヴァンジェリンは室外機の上から屋根の頂点目掛けて跳躍した。いや、本人はそのつもりだった。だが魔力が封印されている今現在、彼女の身体能力は10歳の少女の物でしかなく、なおかつ飛行能力も無かった。
 結果、エヴァンジェリンは見事に屋根の端に足を引っ掛け、屋根に顔面を強打して盛大に鼻血を出した。そして彼女の不機嫌度は、今日もまた限界を軽々とブッチ切るのである。

「こ、これと言うのもスプリングフィールドの一族のせいだ!!見ていろ、今夜の作戦で、油断しきった坊やなど満月を待たずしてケチョンケチョンだ!!
 今宵こそ坊やの体液を絞り尽くして呪いを解き!!「闇の福音」とも恐れられた夜の女王に返り咲いてやるう〜〜〜っ!!」
「マスター、鼻血出てます。」





 そしてエヴァンジェリンの標的たる坊やことネギ・スプリングフィールドは、彼女の言葉通り油断しきっていた。何故こうまで油断していたか、と言うと、次のような事情がある。
 週明けの月曜日――つまり昨日であるが、エヴァンジェリンが風邪で病欠したのである。ちなみに茶々丸はその看病で欠席であった。エヴァンジェリンと話を付けようと意気込んでいたネギと明日菜――とカモ――は、拍子抜けした。せっかく中途半端だった仮契約の正式な更新まで行って、準備万端整えていたのに、対処すべきその相手が病欠だと言うのだから。真祖の吸血鬼であるエヴァンジェリンが病気だなどと、信じられなかった彼等は、エヴァンジェリンの家に押しかけた。そしてエヴァンジェリンが本当に風邪をひいていた事に驚いた。
 驚いたが、彼等は基本的に善人――カモを除く――である。大学病院に薬を貰いに行く茶々丸の代わりに、エヴァンジェリンの看病を引き受けた。そして紆余曲折――汗をかいたエヴァンジェリンを大騒ぎして着替えさせたり、脱水症状で衰弱したエヴァンジェリンにやむなく自分たちの血を飲ませたり、ネギ達がエヴァンジェリンの夢を覗いたり――あったものの、エヴァンジェリンの病状は快方に向かった。と言うか、ケロっと治った。
 そして次の日――と言うか今日、いつも授業をサボっているエヴァンジェリンだったが、昨日の借りだと言って授業に出席したのである。お人よしなネギたち――カモを除く――は、エヴァンジェリンが改心したものと信じて油断しきっていたのである。カモを除いて。
 その油断120%なネギはと言うと、停電が始まってから、麻帆良学園中等部女子寮の見回りを行っていた。

「う〜〜〜ん、真っ暗な寮って、なかなか怖いねーカモ君。」
「むむむ……!」
「どうかした?カモ君。」

 ネギは自分のペットの胡乱気な様子に訝しむ。カモはピリピリとした雰囲気を漂わせつつ言った。

「兄貴!!何か異様な魔力を感じねーか!?停電になった瞬間、現れやがった!!」
「えっ……。何か魔物でもきたの?」





 その数分前、エヴァンジェリン宅にて……。茶々丸がネットに接続したノートパソコンに向かい、一心にキーボードを打っていた。

「封印結界への電力停止――。予備システムハッキング開始……。成功しました。全て順調……。
 これでマスターの魔力は戻ります……。」





 再びネギ達である。カモはネギに向かって、己の抱いた疑問をぶつけていた。

「この魔力……かなりの大物だ。まさかエヴァンジェリンの奴じゃ……。」
「ええっ!?そんなまさか、彼女はもう更正して……。」
「だから兄気は甘いんだって、そんな簡単に奴があきらめるハズないだろ!」
「あ……あれ?あれは……。」

 その時、ネギ達の前に1人の人影が現れた。その人影は、少女の物である。少女は何一つ身に纏っていなかった。ネギは真っ赤になって叫ぶ。

「ま、まき絵さん〜〜〜っ!?なっなな、ダメですよ裸で外出しちゃ……。」

 その少女はネギの担任する生徒、佐々木まき絵であった。又の名をバカピンク、運動能力に優れる新体操選手である。まき絵はネギに語り掛けた。

「――ネギ・スプリングフィールド……。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさまが、きさまにたたかいをもうしこむ……。」
「えっ……。」
「10ぷんご、だいよくじょうまでこい。」

 まき絵の台詞を聞いて、ネギとカモの頭に浮かんだのは、カリスの台詞であった。

(……怒ったエヴァンジェリンは見境無く血を吸って、相手を吸血鬼にして下僕にしてしまうかもしれん……。)

「ま、まき絵さんっ!」
「じゃーーーね、まってるよネギくーん(はぁと)」
「まき絵さん!?」

 まき絵は展望テラスからバク宙で飛び降りると、何処からか新体操のリボンを取り出し雨樋や屋根の縁などに巻き付けて、ターザンの様に去っていった。その異様な運動能力は明らかに普通の人間の物ではない。
 カモが最初は弱々しく、けれど途中からは叫ぶように言葉を紡ぐ。

「に、人間技じゃぁねぇ……。半吸血鬼化してるぜ、あの姉ちゃん……。
 どーやったかはわからねぇけど、とにかくこの停電でエヴァンジェリンの魔力が復活したんだぜ!じゃねぇと噛んだ相手を下僕にすることだってできやしねぇ!
 マズイぜ兄貴!!」
(そ、そんな……!!エヴァンジェリンさんは、もう反省して学校に来てくれたんだと思ったのに……。しかもクラスメートのまき絵さんを操るなんて……!!
 僕の、僕の油断が生徒を危険な目にあわせてしまうなんて!!)

 ネギは顔面蒼白である。カモは続けて叫んだ。

「アアア兄貴っ!と、とにかくアスナの姐さんを呼んで合流しよう!このままじゃ、かないっこねえ!!」
「う……。い、いや駄目だよカモ君。」

 ネギはカモの台詞に否定の言葉を返した。カモは驚く。

「な、なんだって!?まさか兄貴、自分ひとりでやろうってんじゃ……。」
「違うよカモ君。僕1人でやれるなんて思い上がっちゃいないよ。でもこのまま僕が遅れていったら、たぶん被害者が増える。だから僕は大浴場まで直行するよ。
 カモ君はアスナさんを呼んで来て!僕の魔力は辿れるよね!?なんとか合流できるまで、逃げ切って見せるから!」

 そう言いつつ、ネギは『VS.EVANGELIN』と書かれた大きな袋を物陰から引っ張り出す。カモは驚いた。

「ど、どこにそんなモンを……」
「カモ君!はやく行って!」
「わ、わかった兄貴!捕まんじゃねーぞ!!」

 カモは駆け出した。ネギは袋から取り出した武器や道具類――コレクションの骨董魔法具を身に着けて行く。やがて完全装備となったネギは、杖に乗って飛び出した。目指すは女子寮の大浴場、「涼風」である。





 やがてネギは「涼風」まで辿り着いた。彼は叫んだ。

「エヴァンジェリンさん!!……どこですか?まき絵さんを放してください……!」
「ふふ……。ここだよ坊や。」
「!!」

 大浴場の中に設置してある東屋、その屋根の上に数人の女性の影があった。中央に座する成熟した雰囲気を漂わせる、妖艶な金髪美女がネギに向かい声を発した。

「パートナーはどうした?1人で来るとは……フ、見上げた勇気だな。」
「あ、あなたは……!?」

 ネギは驚愕する。美女は微笑んだ。

「フ……。」

 そしてネギは叫ぶ。

「ど、どなたですか!?」

 すてーん。

 美女は愉快な擬音をたてて、すっ転んだ。ボンッと言う音と共に、美女の姿が10歳前後の少女に変わる。彼女――エヴァンジェリンは大声で叫んだ。

「私だ、私―――ッ!!」
「あーーーッ!!そ、そう言えばサウザンドマスターにやられたときも、最初はさっきの姿でしたね。」
「くっ……。
 ふ、ふん。満月の前で悪いが……。今夜ここで決着をつけて、坊やの血を存分に吸わせてもらうよ。」

 ネギは唇を噛む。エヴァンジェリンの周りには、メイド服姿の少女たちが居た。そのうちの1人は当然の事ながらエヴァンジェリンのパートナー、絡繰茶々丸。だがその他の4人は佐々木まき絵を始め、皆3−A所属の彼の生徒達であったのだ。
 あ、いやエヴァンジェリンと茶々丸も3−Aの生徒ではあるのだが。

(アキラさん、ゆーなさん、亜子さんまで……)

 ネギは決意の色を瞳に浮かばせて言う。

「……わかりました。でも、そうはさせませんよ。今日は僕が勝って、悪いコトするのはやめてもらい……ます……?」

 だがその言葉は尻窄みになる。エヴァンジェリンの様子が変だったからだ。エヴァンジェリンは一心に何かを考えていた。

「……ちょっと待て。サウザンドマスターにやられたとき?やられた……とき?待て……。もしや……。
 き……き……貴様やっぱり私の夢をーーー!?」
「ああーーーっ!しまったーーー!?」

 エヴァンジェリンの発する鬼気に耐えかねたネギは、すかさず180度展開して逃げ出す。エヴァンジェリンは顔を真っ赤にして叫んだ。

「お、追えーーーッ!!逃がすなーーーっ!!」

 彼女の叫びと共に、まき絵、アキラ、裕奈、亜子の4人と茶々丸が飛び出す。1テンポ遅れてエヴァンジェリン本人も蝙蝠の形のマントを広げて飛び出した。
 ネギは脱衣所を抜け、廊下の窓から空へ飛び出した。その後を4人の半吸血鬼と1人のロボ、それに親玉たる真祖の吸血鬼が追う。

「リク・ラク、ラ・ラック、ライラック!!氷の精霊17頭!集い来たりて敵を切り裂け!魔法の射手・連弾・氷の17矢!!」

 エヴァンジェリンが魔法を放った。ネギは杖に跨って空を飛ぶ。魔法の矢はネギを追尾した。ネギは急降下後、地表ぎりぎりで水平飛行に移り、魔法の矢をかわす。氷の魔法の矢は、2/3が地面に突き刺さり炸裂した。残りの1/3を、ネギは魔法銃の連射で撃ち落す。

「くっ、うううっ」
「ネギくーん!あそぼー!!」

 急に、彼の杖の上に誰かが飛び乗ってきた。ネギはその顔を見る。まき絵だった。まき絵はネギに蹴りを入れる。

「えい!!」
「わぁ!!」

 ネギは間一髪体を逸らしてそれを躱す。だがそのために、彼は魔法銃を弾き飛ばされてしまった。ネギは背面飛行をしてまき絵を振り落とそうとするが、まき絵は新体操のリボンを彼の杖に巻きつけて、落ちるのを防ぐ。が、別の伏兵がその工夫を台無しにする。

 ゴン。バキ。ドガ。

「「わあああっ!?」」
「ひとり占めはズルいよー!!」
「そーそー!」

 裕奈のバスケットボールと、亜子のサッカーボールがネギとまき絵に直撃する。ネギとまき絵はバランスを崩した。と言うより撃墜された。ネギの乗った杖は、まき絵ごと地上へ墜ちていく。

 ガシッ。

「つかまえた……。」
「わ、わあああぁぁぁ!アキラさんッ!」

 ネギの身体をアキラが捕まえていた。ちなみにまき絵は地面に激突して気絶している。
 ネギは反射的に、コートの裏に装備していたワンドを振るう。ワンドに封じられていた「眠りの霧」の術が発動した。アキラはくらくらとなって、その場で眠り込んでしまう。

「ごめんなさい、まき絵さんアキラさん。あとで……わぁっ!?」
「すみませんネギ先生。」

 茶々丸のロケットパンチがネギの目の前を行き過ぎる。と言うか、鼻を掠った。ネギの鼻から鼻血がたらりとたれた。そこへエヴァンジェリンの氷の魔法が炸裂する。

「リク・ラク、ラ・ラック、ライラック!!氷の精霊17頭!集い来たりて敵を切り裂け!魔法の射手・連弾・氷の17矢!!」
「うわああああっ!ラス・テル、マ・スキル、マギステ……あうっ!」

 対抗して呪文を唱えようとした所へ、亜子のサッカーボールが飛んできた。それを躱そうとして、思わず呪文が途切れてしまう。ネギはぎりぎりで地面に転がった自分の杖を掴むと、再び空へと舞い上がった。躱された魔法の矢が弧を描いて戻ってくる。

「ラス・テル、マ・スキル、マギステル!風の精霊17人、集い来たりて……魔法の射手・連弾・雷の17矢!」

 ネギの放った魔法の矢が、氷の魔法の矢を相殺した。空中に爆炎が上がる。ネギはその隙に魔法薬を投擲した。

「風花・武装解除!!」
「きゃあああっ!?」
「ひゃああん!!」

 裕奈と亜子を対象に、武装解除が炸裂する。2人のバスケットボールとサッカーボールは、2人のメイド服と共に千切れ飛んだ。

 ゴスッ!バキッ!

 その隙を突いて、何者かが裕奈と亜子の後頭部を全身全霊の力を込めてぶん殴った。半吸血鬼化しているとは言えど、流石に2人ともこれには耐え切れずぶっ倒れる。乱入者の肩に乗っていた小動物が声を発した。

「兄貴いぃっ!助けに来たぜぇっ!!……しっかし姐さん、すげえ力だな。契約執行してなくてコレかい。死んでねぇだろな?」
「うるさいエロオコジョ!ネギ、あんたねぇ!こ、こんなえ、え、エッチな魔法、使うんじゃないわよ!!」

 明日菜とカモだった。ネギは喜びの声を上げる。

「アスナさん!カモ君!」
「リク・ラク、ラ・ラック、ライラック。来たれ氷精、大気に満ちよ。白夜の国の凍土と氷河を……凍る大地!」

「「「わあああっ!」」」

 2人と1匹は、あぶない所でその魔法を避けた。と言うかカモの尻尾の先が凍り付いていたりする。ネギは叫んだ。

「アスナさん、戦術的撤退ですっ!」
「え、えええっ!?あたし来たばっかで逃げるの!?」
「逃げるんじゃありません、戦術的撤退ですって!体制を立て直しますっ!」

 ネギとアスナ――とカモ――は、一斉に遁走した。エヴァンジェリンと茶々丸は、その後を追う。エヴァンジェリンは呟いた。

「少しはやるじゃないか、坊や。」
「マスター、相手の戦意の無さが妙だと思われます。何か罠の可能性が……。」
「罠なら罠でもいいさ。わざと嵌って、罠ごと踏み潰してやろうじゃないか。」
「了解……。」





 ネギ達は学園都市の端まで来た。学園都市と外の街を繋ぐ橋が大きな湖に掛かっている。ネギ一行はその橋の上に出た所で、エヴァンジェリン達に捕まった。

「氷爆!!」
「わあああっ!」
「きゃああああっ!」
「ほげぇ!!」

 エヴァンジェリンの呪文は、ネギ達を吹き飛ばす。ネギはなんとかレジストし、明日菜とカモをその背後にかばった。そのためだろうか、明日菜はなんとか踏みとどまった。だが、カモは条件が同じだと言うのに、何故か吹き飛んだ。

「カモ君!」
「ふ……。なるほどな。この橋は学園都市の端だ。私は呪いによって外へ出られん。ピンチになれば学園外へ逃げればいい、か……。
 ……意外にせこい作戦じゃないか。え?先生。」

 エヴァンジェリンと茶々丸が橋の上に降り立つ。ネギは膝を突いて、必死にエヴァンジェリンを睨み返した。明日菜はネギをかばう様に立ちはだかる。カモのは橋の端で、必死に落ちないようにじたばたしていた。
 ネギはエヴァンジェリンへ言い返す。

「……いえ、外へ逃げるつもりなんか、ありませんよ。」
「え?」

 妙な声を上げたのは明日菜である。ネギは落ち着き払って、指を鳴らした。その瞬間、エヴァンジェリンと茶々丸の身体は、道路上に浮かんだ魔方陣から伸びた光の帯の群に拘束されていた。エヴァンジェリンは呟いた。

「……なるほど、捕縛結界、か。以前よりこの場所に仕掛けていた、と言うことか。」
「やった兄貴っ!へへ、エヴァンジェリン!その結界にハマっちまえば、簡単にゃ抜け出せねーぜっ!」
「凄い!やったじゃないネギ!」
「油断しないでアスナさん!カモ君!」
「「え?」」

 ネギは厳しい目でエヴァンジェリンを見つめていた。片手で杖を構え、いつでもコートの下の魔法具を取り出せる様に身構える。

「……今回も、僕の油断で4人も生徒がひどい目に遭いました。だからもう油断はしません。ここに来たのも……。仕掛けたときは切り札のつもりでしたけど、今は仕切りなおしのための時間稼ぎぐらいにしか考えてません。ここに来たのも、学園都市内で暴れて被害を大きくしないためです。
 アスナさん、構えてください!」

 彼はそう言って、仮契約カードを構えた。いつでも契約執行ができるような体勢だ。言われて明日菜も身構える。顔には先ほどまであった油断は一切無い。
 エヴァンジェリンは一瞬驚いたような表情を浮かべるが、すぐに楽しそうに微笑んだ。

「……言うじゃないか坊や。見直したよ。確かにこの結界、我々には時間稼ぎ程度の意味しか無いよ。茶々丸!」
「ハイ、マスター。」

 茶々丸の耳の部品が展開し、小さく唸りを上げる。

「結界解除プログラム始動……。」

 エヴァンジェリンと茶々丸を捕らえていた結界の魔方陣と光の帯に罅が入り始める。
 ネギはエヴァンジェリンに向かって言った。

「……エヴァンジェリンさん。最後の交渉です。僕の事を狙うのはやめてくださいませんか?悪い事をもうしないで、ちゃんと授業にも出席してくださいませんか?」
「ふ、ムシがいいな先生。そうさせたければ、私に勝ってみるがいいさ。」
「……そうですか。『仕方が無い』なんて言葉は使いたくは無かったんですけど……。仕方ありません。アスナさん、お願いします。」
「うん……。」

 エヴァンジェリンと茶々丸の足元で、捕縛結界が砕け散った。ネギは仮契約カードを手に叫ぶ。茶々丸が明日菜に向けて疾走した。エヴァンジェリンも詠唱を始める。

「契約執行90秒間!!ネギの従……。」
「リク・ラク、ラ・ラッ……。」

 ビィーン!ビィーン!ビィーン!ビィーン!
 ドシュッ!ドシュッ!ドシュッ!ドシュッ!

 光の矢が4本、天から降り注いだ。そしてそれはネギ達とエヴァンジェリン達の中間に着弾する。爆炎が立ち昇り、アスファルトに4つの小さなクレーターが出来た。

「だ、誰だっ!?」
「い、いったい何処からっ!?」

 エヴァンジェリンもネギも、明日菜も茶々丸もあっけにとられ、上を仰ぎ見る。カモが叫んだ。

「あ!あそこだ兄貴、姐さんっ!」

 橋を吊っている主塔のうち、1本の天辺に、その影は立っていた。漆黒の身体、白銀の装甲、そして真紅の複眼……。
 紛れも無い、仮面ライダー・カリスであった。


あとがき

 今回は前後編に分かれています。前編では、ネギ君達の必死の戦いぶりを書いてみました。なけなしの力を振り絞って戦う少年少女。その奮戦ぶりが、少しでも表現できていれば良いのですが……。
 ところでもしも感想を書いていただけるのでしたら、掲示板へよろしくお願いします。


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