「第6話」


 麻帆良学園の学園長室、そこに10名ほどの教師、生徒達が集まっていた。彼らはこの麻帆良学園に所属する、魔法先生、魔法生徒達である。部屋中央寄りの窓際近くに置かれた重厚な机に座していた老人――その後頭部は異様なまでに長く特徴的であった――が口を開いた。

「皆、今日はわざわざ集まってもらって御苦労じゃったの。今日集まってもらったのは、他でも無い、『仮面ライダー・カリス』を名乗る人物についての事じゃ。」

 学園長、近衛近右衛門の言葉に、周囲の教師、生徒達は目を交し合う。学園長は言葉を続けた。

「最近、警備に当たっている者達から、その『仮面ライダー』について報告が上がっておるのじゃ。曰く、『敵対勢力の襲撃にあって、窮地にあるところを救われた』だの『だがその後、敵対勢力の工作員を攫っていかれた』だの、色々との。
 しかし持っていかれた刺客や潜入工作員は、次の日かそのあたりにグルグル巻きにして返してよこしている。そやつらに魔法も使って尋問した所『仮面ライダー』に、我々魔法協会や、関西の呪術協会、その他の魔法使い組織に関する情報を色々と根掘り葉掘り尋問された、と言う事が分かっておる。」
「と言うことは、『仮面ライダー』は我々「裏」の世界の事を「知ってはいるがよくは知らない人物」と言うことになりますね、学園長。そしてだからこそ、そう言った情報を集めている、と。」

 そう言ったのは、タカミチ・T・高畑と言う30がらみの男性教諭である。麻帆良学園の中でも、1〜2を争う指折りの実力者だ。ざわざわと周囲の者達がざわめく。
 その中で一人の魔法生徒、佐倉愛衣が言葉を発する。愛衣はこの世界ではじめてカリスに救われたその当事者でもあった。

「あ、で、でも少なくとも悪い人では無いと思います。私も危ない所を救われましたし、それに私が聞いた限りでは情報源として襲撃者とかを確保する事よりも、危機にある麻帆良の魔法使いを保護する事を優先しているみたいですし……。」
「だがね、魔法使いの秘密がばれるかもしれないんだよ?注意を払って置くに越した事はないんじゃないかと思うがね。」

 黒人教師、ガンドルフィーニが冷静に意見を述べる。愛衣はぐっと言葉に詰まった。そこへ高畑が口を挟む。

「だが、魔法バレに関してはそこまで警戒しなくてもいいかもしれないよ。既に情報は充分集まっているはずだ。なのに何のアクションも相手は起こしていない。つまり「彼」の目的は別の所にある、と言っている様な物だね。それに『仮面ライダー』なら自分の正体を隠したいはずだから、目立つ行動は避けるだろうさ。」

 この世界にも、子供向けSFアクションドラマとしての『仮面ライダー』は存在している。それ故の台詞である。高畑は続けて愛衣に問うた。

「ところで愛衣君。『ライダー』について他に気付いた事は無いかな?どんな戦い方をするかとか、どんな武器を使うかとか。」
「あ、はい。武器は弓とも剣ともつかないような……弓のアーチ……なんと言えばいいんでしょうか?弓の握りの部分を除いた……弦を留める部分も含めた、バネ状の部分。」
「リム、よ愛衣。」
「あ、はいお姉さま。弓のリムの部分が刃になった剣のような武器を使っていました。更にそれを本当の弓としても使って、光の矢を射ていました。」

 ガンドルフィーニはそれを聞いて不審そうな顔になる。

「「魔法の矢」かね?」
「いえ。詠唱も無しで、しかも魔力が全く感じられませんでしたから、違うと思います。けれど威力は一般的な「魔法の矢」よりも強い様でした。
 それとカードの様な物を使って、チョップの威力を強化していました。ただこれも魔力は感じませんでしたので、どういう仕組みなのかは分かりませんでした。けれどチョップの威力は、人の3倍もあるオーガを一撃で仕留めるほどでした。」
「魔力が感じられない!?」

 驚くガンドルフィーニに対し、高畑は冷静だった。一寸した諧謔を飛ばす余裕まである。

「『仮面ライダー』となれば、改造人間だからね。科学の力、なんじゃないかい?」
「古いですね高畑先生。今の『ライダー』は強化服が王道ですよ。
 あ。それでもやっぱり科学の力か。あはは。」

 若い教師、瀬流彦が高畑の諧謔に乗る。生真面目なガンドルフィーニは眉を顰めた。
 学園長が会話を引き取る。

「ふむ、とりあえずは『ライダー』についての情報は、今後も集めるようにしてくれたまえ。ただし、下手に敵対しないようにの。今の所、かっ攫った敵対勢力の工作員達もこちらに引き渡しておるし、麻帆良学園に対して比較的協力的な立場を取っておる。危険な存在であるかもしれんが、藪をつついて蛇を出す事の無いようにの。では解散してくれたまえ。
 ああ、エヴァはちょーっと話があるんでの。しばらく残ってくれんか?」
「ちっ……。」

 学園長室の応接セット、そのソファに深々とふんぞり返って腰掛けていたエヴァンジェリンは、小さく舌打ちをした。『仮面ライダー・カリス』に対しての情報を、一番持っているのはおそらく彼女である。少なくとも、カリスがバイクで空を飛んだ所を見ているのは彼女しかいない。
 だが彼女はその事を言うつもりはなかった。その事を言えば彼女が吸血行為に及んでいる事も話さねばならなくなるからである。たとえ学園長や高畑が薄々その事に気付いていたとしても、だ。おそらく彼女が残るように言われたのも、それ故であろう。学園長は、彼女の吸血行為に対して釘を刺すつもりなのだろう。
 そう言う意味からすれば、彼女にとって学園側がカリスの件をとりあえず静観するとした事は幸いであった。万一カリスが捕らえられでもして、その口から彼女の吸血行為について漏れでもしたら、尚更に困った事になるからだ。だがカリスに対して少なからず敵意を抱いている彼女としては、カリスに対して有利となる学園側の対応は腹の立つ事でもあった。
 結果、彼女の不機嫌度はMAXをブッチぎるのである。



 その頃、当の仮面ライダー・カリス――相川始は何をしていたかと言うと……また猫の写真を撮っていた。彼の眼前では、絡繰茶々丸が猫溜まりの猫達に餌をやっている。茶々丸の周囲には、小鳥も集まっていた。
 始は茶々丸に問いかける。

「……制服が随分汚れているようだが?」
「この子を……。」

 茶々丸は、頭の上に乗っている子猫を指差す。

「この子が川で流されていたので、助けた時に……。」
「そうか。優しいな、絡繰は。」
「あ、いえ、その……。ありがとうございます。」

 始は猫や小鳥にピントを合わせ、シャッターを切る。茶々丸の傍にいれば、始が気配を消さなくとも猫も小鳥もリラックスして何の警戒も見せない。始は口元を綻ばせる。
 ふとその時、始は妙な気配を感じた。人間が2、何かわからない小さな知性体が1。人間はどうかわからないが、小さな知性体からは敵意を感じる。始は茶々丸に話し掛けた。

「……さて、フィルムも無くなった。餌ももう無いみたいだな。一寸今日は急ぐので、先に失礼するぞ。」
「あ、はい。ではまた後日……。」
「ああ。じゃあな。」

 茶々丸は、気のせいか少し残念そうに見える。表情がまったく変わっていないので、よくは分からないが。始はカメラをカメラバッグにしまって鍵を掛けると、猫達を驚かさないようにバイクを押して歩き出した。茶々丸の視線は、知らずその後姿を追っていた。





 ゴーン、と時計塔の鐘が鳴る。茶々丸は丁度、レジ袋に猫の餌皿と空き缶をしまい終えた所だった。と、人の気配に彼女は振り向く。そこには1人の少年と1人の少女が立っていた。茶々丸は律儀に挨拶をする。

「……こんにちは、ネギ先生。神楽坂さん。」

 そこに立っていたのは、茶々丸の担任教師であるネギ・スプリングフィールドと、クラスメートである神楽坂明日菜である。先日、茶々丸と彼女のマスターであるエヴァンジェリン・A・K・マクダウエルはネギといざこざを起こしていた。その経緯は以下の様なものである。
 15年前、「闇の福音」の二つ名で知られる真祖にして悪の大魔法使いであったエヴァンジェリンは、ネギの父親である「サウザンドマスター」ナギ・スプリングフィールドに敗北した。そして彼女は変な呪いをかけられて魔力を極限まで封じられ、学園の中学生兼警備員としてこの15年間ずっと能天気な女子中学生と一緒に中1から中3までを繰り返し繰り返ししていたのである。
 その呪い「登校地獄」を解除するには、サウザンドマスターの血縁者である、ネギの血液が大量に必要なのだ。それ故に、エヴァンジェリンはネギを狙っていたのである。だが、先日はあと一歩でその目的を達せられる、と言う所で、今ネギの隣に立っている神楽坂明日菜――ちなみにネギは今現在、明日菜とそのルームメイトの部屋に居候している――の妨害を受け、その時はネギの血を断念せざるを得なかったのだ。
 そしてネギ達は今、一人になった茶々丸を急襲し、エヴァンジェリン一党の戦力漸減を目論んでいたのである。茶々丸はネギ達に向かって言葉を発する。

「……油断しました。でもお相手はします……。」

 茶々丸は、頭の後に付いているゼンマイ巻き用のハンドルを外し、戦闘態勢に移行する。ネギは茶々丸に問いかけた。

「茶々丸さん、あの……。僕を狙うのはやめていただけませんか?」
「……申し訳ありません、ネギ先生。」

 茶々丸はペコリと頭を下げ、続ける。その言葉は、ネギの申し出に対する拒否であった。

「私にとって、マスターの命令は絶対ですので。」
「ううっ……、仕方ないです……。
ア、 アスナさん、じゃ、じゃあさっき言ったとおりに……。」
「うまくできるか、わかんないよ?」

 ネギと明日菜は改めて茶々丸に向きあう。

「……では茶々丸さん。」
「……ごめんね。」
「はい。」

 茶々丸はレジ袋を落すと、外したハンドルをその上に放る。

「神楽坂明日菜さん……。いいパートナーを見つけましたね。」

 ネギは叫んだ。

「行きます!!契約執行10秒間!!ネギの従者『神楽坂明日菜』!!!」
「んっ……。」

 ネギから明日菜へ魔力が流れ込む。明日菜は快感ともなんとも言えないような感覚を味わった。彼女は一気に茶々丸へ向かってダッシュする。
 ネギは続けて呪文詠唱を開始した。

「ラス・テル、マ・スキル、マギステル!」

 茶々丸は左掌を突き出す。が、明日菜の右手がその拳を弾いた。弾かれた左手は高く上がる。
 明日菜は更に左手で茶々丸の頭を狙う。茶々丸はスゥエイバックしつつ右手で明日菜の左手を捌いた。凶悪な威力を秘めたデコピンが、茶々丸の額を掠る。茶々丸はその目に驚きの表情を浮かべつつ呟いた。

「はやい!素人とは思えない動き。」
「わたたっ。」
「光の精霊11柱……。集い来りて……。ううっ。」

 明日菜はネギの魔力で強化された動きで、茶々丸を押しまくる。だが茶々丸もロボットならではの冷静さで、その攻撃を捌きまくる。だが茶々丸は、ネギの様子にも気付いていた。気付いてはいたが、明日菜の攻撃を捌くのに手一杯であった。
 ネギは呪文を完成させつつある。彼は少々躊躇したが、ためらいを振り捨て、叫んだ。魔法が発動する。

「魔法の射手、連弾・光の11矢!!」
「……!!追尾型魔法、至近弾多数……。よけきれません。」

 茶々丸は呟いた。

「すいませんマスター……。相川さん、もし私が動かなくなったらネコのエサを……。」
「!」

 ネギはその呟きを聞いた。彼を慙愧の念が襲う。

「や……やっぱりダメーッ!戻……。」

『メタル』

 電子音声が響いた。黒い影が茶々丸とネギの間に割り込む。光の魔法の矢は、11矢全て、その黒い影に直撃した。
 黒い影は勿論のこと、カリスである。

『……この程度か。なら『メタル』のカードに頼らなくても、なんとかなったな。』

 光の魔法の矢、一発のダメージは達人級の武術家の一撃にほぼ等しい。その程度ならばカリスが言った通り、彼の耐久力から見てスペードの7――メタルのカードを使わなくともなんとかなった筈である。彼は達人が子ども扱いに見えるほどの化け物揃い、いや化け物その物のアンデッドとの戦いに勝利してきたのであるから。
 少年少女達は驚いて大騒ぎになる。

「あ、あなたはっ!?」
「な、何っ!?何なのよ一体っ!」
「カリス……さん。」

 カリスは茶々丸に向かって立ちあがると、声を掛けた。

『大丈夫か?茶々丸……だったな。』
「はい……。損傷ありません。」
『そうか。それは良かった。』

 そしてカリスは振り向くと、ネギの方へ向かって歩き始めた。その姿は、異様なまでの迫力、威圧感に溢れている。ネギは凍りついた。明日菜はあわててネギとカリスの間に割り込もうとするが、足がもつれて転んでしまう。彼女も自分では気付いていなかったが、カリスの迫力に、威圧されていたのだ。
 カリスはネギの前に立つ。その仮面?越しの視線は、ネギを射竦めて放さない。ネギは怯えるばかりだった。

「あ、あわわ……。」
『……。』

 カリスは突然しゃがみ込んでネギと視線を合わせると、コツン、と右裏拳で軽く、本当に軽くネギの頭頂部を叩いた。

「へ?」
『こら。悪ガキ。何をやっている。』
「は?あ、え、えーっと。」

 カリスは続けて言った。

『……自分でも、魔法の矢を戻そうとしていたからな。自分が悪い事をしていると分かっていたんだろう。
 悪い事をしたなら、何をしなければいけない?』
「あ、え、その。」
「ちょ、ちょーっと待てぃ!そこの黒っちぃの!兄貴は悪かねーぜっ!元はと言えばそこのロボがエヴァンジェリンと一緒になって、兄貴を襲ったんだ!悪いのはそっちだぜっ!」

 そこに、白くて尻尾の先だけが黒い小動物が割り込んできた。口は悪い。カリスは、すっと無拍子でその小動物を掴み上げる。小動物――オコジョは逃げる余裕も無かった。いや、何か反応する隙も無かった。ネギが叫ぶ。

「か、カモ君っ!」
『なるほど……。この坊やを唆したのは、お前か小動物。少し黙っていろ。』
「ぎゅ〜〜〜!!中身出る、中身出るって〜〜〜!!」

 オコジョ――カモはカリスの手の中でじたばたと暴れる。カリスはそれには構わず、ネギに話しかける。

『少年。自分がした事の、何が悪かったと思う?』
「は、はい。茶々丸さんは僕の生徒ですし、いくら狙われてても傷つけようだなんて……。それに茶々丸さん、いい人ですし……。その……。」
『40点。』
「は?」

 カリスはふっと雰囲気を和らげる。彼は続けて説明をした。

『まあまあ合格点だが、な。赤点ぎりぎりだぞ。
 茶々丸はエヴァンジェリンの従者で、しかもロボットだ。主であるエヴァンジェリンに逆らう事などできるわけがない。これはわかるな?』
「は、はい……。」
『だがお前は茶々丸に『狙うのをやめてくれ』と言った。茶々丸としてはエヴァンジェリンの命令に逆らう事は『物理的に』不可能だ。ロボットなんだから。それなのにお前は、茶々丸に断られたことを理由に、自分を納得させたろう。『説得してだめなんだから、仕方ない』と言った所か?茶々丸に無理を強いておいて、それを理由に使うなんて、男らしくないと思わないか?』
「あ……。そ、そうで……す。」
『少年、お前が『狙うのをやめてくれ』と交渉すべきは茶々丸ではなく、エヴァンジェリンだったんだ。相手を間違えてはいけない。』

 カリスは続ける。

『まだあるぞ。小動物、お前も聞け。茶々丸をここで再起不能にしたとする。そうするとエヴァンジェリンをやっつけるのは楽になるか?』
「ぎゅ、ぎゅうう〜〜〜。き、きまってら……」
『違う。
 エヴァンジェリンは、茶々丸をやられて怒るだろう。そうしたら、手段を選ばなくなる。間違いなく、な。手負いの獣ほど、恐ろしい物はないぞ。
 今まではエヴァンジェリンは吸血した相手を吸血鬼にはしていないようだ。だが、茶々丸がやられてみろ。怒ったエヴァンジェリンは見境無く血を吸って、相手を吸血鬼にして下僕にしてしまうかもしれん。戦力増強とお前らに対する圧力の意味も込めて、な。そうなればどうなる?戦力差が広がるだけでなく、被害も幾何級数的に広がるぞ。』
「「「あ!!」」」

 カリスはカモを放してやった。カモはへろへろになりながら、ネギの陰に隠れる。ネギは悄然としていた。カリスはその頭を撫でてやる。

「あ……。」
『まあ、そこまで考えろと言うのは難しいからな。お前にはそこまで要求はしない。まだお前は子供だからな。
 ただ、お前が今回悪い事をしたのは、わかるな?』
「はい……。」
『なら、悪い事をしたなら、まず迷惑を掛けた相手に、しなければならない事があるだろう?』

 そこまで言えば、聡いネギには何を言われているかすぐわかった。彼はちょこちょこと茶々丸の方へ歩いていくと、ぺこりと頭を下げる。

「その……どうもすいませんでした!茶々丸さん!ごめんなさい!」
「あ……。いえ、こちらこそ先生の頼みを聞けなくて……。すみません。」
「あー、そのー、茶々丸さん、私もごめん。考えが浅かったわ、ほんとに……。」

 明日菜も茶々丸に詫びる。茶々丸は、かえって恐縮してしまい、オロオロしている。カリスはその様子をじっと見詰めていた。
 やがてカリスは、一段落付いたと見ると茶々丸に話し掛けた。

『そろそろ帰らないと、エヴァンジェリンが爆発しかねんだろう。途中まで送っていこう。』
「あ……。はい。ではネギ先生、神楽坂さん。小動物さん。」
「カモでいっ!!」

 カリスと茶々丸の姿が街角を曲がって消える。ネギ達はそれを見送った。ネギがぽつりと呟く。

「明日菜さん。カモ君。僕、週明けにでもエヴァンジェリンさんに直接当たって見るよ。駄目元で、ね。」
「そう……。そんときはあたしも付いてくわ。あの黒っぽいの……ええと、カ、カ、カ……なんだっけ?」
「……なんでしたっけ。」
「まあいいわ!黒っぽいのが言った通り、あんたはまだ子供なんだから、一人で無理なんかしちゃダメよ!」

 明日菜とネギが話していると、突然カモが呟いた。

「……兄貴。姐さん。ちょっと思ったんだけどよ。あの黒っちぃのに、もしかして魔法、見られたんじゃなかったか?」
「「!」」
「記憶消さなくて良かったのか?せめて口止めとかよ!」
「あ、わ、わあああぁぁぁ〜〜〜!!そ、そうだった、どーしよーーー!!」
「アンタねぇ!そう言う事は早く言いなさいよっ!」
「な、なんだよっ!おれっちのせいじゃねーだろっ!」

 子供らがわーわー騒いでいるうちに、日は暮れていった。





 ネギ達の居る広場からかなり離れた所で、カリスは立ち止まった。彼は茶々丸に話しかける。

『……俺はそろそろ帰る。ではまたな、茶々丸。』
「あ……」
『何だ?』

 茶々丸は少々戸惑ったが、意を決して顔を上げる。彼女は口を開いた。

「ではまたお会いしましょう。相川さん。」

 カリスは一瞬動きを止めた。どうやら驚いたようだ。だが、彼はすぐに我を取り戻す。

『誰の事だ。』
「……言葉の抑揚が相川さんと全く同じです。それと声紋が、かなりの変調が掛かっていたので解析には時間がかかりましたが、逆変調を掛けた所、99.89%一致しました。」
『……。』

『スピリット』

 カリスはハートの2のカードを取り出してラウズした。光る壁が彼の傍らに現れる。彼はそれを潜り抜けた。カリスの姿は、一瞬にして始に変身した。
 始は問いかける。

「……いつから気付いていた?絡繰。」
「最初にカリスさんの姿でお会いした時からです。その時はまだ声紋の解析が終っていなかったので、確証はありませんでしたが。」
「……ロボットの目、いやこの場合耳か――を誤魔化すのは難しいと分かっていたつもりだったんだが。うかつだったな。
 それで?俺の事をエヴァンジェリンに告げるか?」

 だが茶々丸は首を横に振った。始は驚いて目を剥く。

「聞かれない限り、その事について答えるつもりはありません。聞かれれば話は別ですが。
 現在マスターは仮面ライダー・カリスに対してかなりの悪感情を抱いています。告げた場合、75%以上の確率で戦いになると思われます。ですが現在の状況下で、必要性の無い戦いは避けるべきだと判断致します。」
「……。」

 始はふっと笑みを浮かべた。聞かれない限り話すつもりは無い、と言うことは、エヴァンジェリンがカリス=始という疑いを持たない限りは話さない、と言うことと同義だ。彼は茶々丸の頭を撫でた。

「あ……。」
「そうか。一応礼を言っておく。」
「いえ、そんなつもりでは……。」
「それでも、だ。ありがとう絡繰。……それじゃあ俺は帰る。バイクとカメラを置きっぱなしだしな。」

 始はそう言うと、踵を返した。そして彼は歩き出す。茶々丸は、始の姿が見えなくなるまで、その後姿を見つめていた。





 ここはエヴァンジェリン宅。学園長の部屋から帰ってきたエヴァンジェリンは、苛立っていた。茶々丸がお茶を出す。エヴァンジェリンはぶつくさと呟いた。

「……じじいに桜通りの件を感づかれたようだ。釘をさされた。くそ、やはり次の満月までは派手に動けんな。
 そう言えば茶々丸。今日は特に何事も無かったか?」
「いえ、ネギ先生と戦闘になりました。」
「何!?」

 エヴァンジェリンは茶を吹いた。茶々丸は慌てず騒がず、ハンカチで主の顔を拭く。エヴァンジェリンは茶々丸に掴みかかる。

「それで!?」
「ネギ先生は、パートナーと仮契約を結んでいました。相手は神楽坂明日菜です。」
「ぬうぅ……。」

 エヴァンジェリンは唸る。しかしすぐに顔を上げ、不敵な笑みを浮かべた。

「……ふん、まあいい。急ごしらえのパートナーがいた所で如何程の事あらん。それにしても、茶々丸。よく無事だったな。」
「はい、カリスさんが助けてくださいました。」

 ゴン。

 鈍い音をさせて、エヴァンジェリンの顔が壁にめり込んだ。茶々丸は慌てず騒がず、主を壁から引き剥がす。

「な、何〜〜〜っ!?カリス〜〜〜!?」
「はい、カリスさんです。ネギ先生の魔法の矢が直撃する所を、身体でかばってくださいました。」
「なんだと!なんで奴がっ!うっがあああああぁぁぁぁぁ〜〜〜!!」
「ああマスター、鼻血が。」
「ぬあああああっ!!」

 その夜、エヴァンジェリン宅にはいつまでも某真祖の吸血鬼の叫び声が響いていたと言う。


あとがき

 今回いきなりカリスの正体が茶々丸にバレました。まあロボの目を、というか耳を誤魔化すのは難しい、と言うことで。さすが茶々丸、オーバーテクノロジーの塊ですね。
 ところでもしも感想を書いていただけるのでしたら、掲示板へよろしくお願いします。


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