「第1話」
夜の闇の中、突如虚空に漆黒の『穴』が開いた。そしてそこから次々と数十枚のカードが飛び出してくる。そして最後に黒と緑の人型に近い物が吐き出されると、『穴』は閉じ、跡形も無く消え去った。
人型の物は、昆虫と人間の中間のような形をしていた。そう、JOKERである。JOKERは頭を振りながら立ち上がった。
(何故……俺は封印から解放されている?)
JOKERは周囲を見渡した。そこは何処とも知れぬ深い森の中であった。周囲には、アンデッドを封印したカードが散らばっている。彼はカードに向けて手を差し伸べた。するとカードはくるくると宙を舞い、その手に収まる。
JOKERはカードを数えた。そこにはもう1枚のJOKERをはじめ、53枚のカードが全て揃っていた。
(解放されたのは俺だけ……か。同じJOKERである剣崎は開放されていない。だが、俺だけが解放されている状態であるのに、『大破壊』が起こった様子がない……。
モノリス自体に何かあったのか?)
彼がいくら考えても、答えは出なかった。彼はとりあえず1枚のカード――ハートの2を取り出し、ベルトのラウザーにラウズする。
『スピリット』
電子音声が響き、長方形の光の壁が現れる。JOKERはその壁を潜り抜ける。すると彼の姿は人間――相川始へと変身した。
(ここでこうしていても仕方が無い。とりあえず周囲を調べてみよう)
始は感覚を研ぎ澄ませ、丹念に周囲の気配を探りながら歩いていった。すると彼の感覚に何やら引っかかる物があった。
(……殺気?いや殺意?……何かが戦っているのは間違い無さそうだが)
始はそちらの方へと走り出した。
佐倉愛衣は窮地に陥っていた。彼女は麻帆良学園都市の女子中等部に在籍する魔法使い、いわゆる魔法生徒である。愛衣はパートナーである高音・D・グッドマンとペアで、夜間の警備任務に就いていた。
麻帆良学園都市は、裏では関東魔法教会の中枢と言える存在である。そしてこの学園には貴重な魔道具や魔術書が数多く保管されている。また重要人物も多数、この学園の保護下にある。それらを狙ってくる賊は、後を絶たない。そこでこの学園都市に所属する魔法使い達――魔法先生や魔法生徒たちは、職務としてこの麻帆良学園都市の守りに就いているのである。
だが今回は相手が悪かった。賊の中に腕利きの魔法使いらしき者がいたのである。その「悪い魔法使い」は、数多くの化け物を召喚し使い魔として、麻帆良学園に対する襲撃を行ったのだ。
更に言えば、高畑やガンドルフィーニなどの腕利きの魔法先生が出張で出払っていた事も災いした。と言うより、賊はそれらの情報をあらかじめ得た上で今夜の襲撃を敢行したのであろう。
愛衣は奮戦したと言えるだろう。彼女の得意とする火の魔法は、数多くの敵を焼き尽くした。しかし一向に減る気配を見せない化け物どもに、ペアを組んでいた高音と切り離されてしまう。更に彼女の魔力もそろそろ底をつきそうになっていた。
「お、お姉さまーっ!もうもちそうにありませーんっ!」
「くっ!愛衣、なんとか下がりなさいっ!」
離れたところから高音の声が響く。だが下がろうにもこう化け物が押し寄せていてはどうにもならない。救援を求める連絡は既にしたものの、いつやってくるか分からない。愛衣は追い詰められようとしていた。
『チェンジ』
電子音声が響いた。
その瞬間、愛衣は目を疑う。黒い影が彼女と化け物達の間に立ち塞がったのだ。
ザンッ!ザンッ!ザンッ!ドシュッ!ドシュッ!ドシュッ!
黒い影は、弓の様な形をした剣らしき物を振るって、異界から召喚された化け物達を切り伏せていく。かと思えば、その弓形の剣を今度は本当に弓として使い、光の矢で化け物を追い散らしていく。驚くべき事に、その光の矢からは一切の魔力を感じなかった。つまりはその光の矢は魔法によるものではなく、純粋な物理現象だと言う事だ。
愛衣はその黒い影に話しかけようとする。
「あ、あの……」
『無事か』
「え?あ、は、はい」
『なら下がっていろ』
その黒い影は、ぶっきらぼうに言い放つ。声からすると、成人程度の男性のようだ。と、その隙を狙ってひときわ巨大なオーガが鎚矛を振りかぶった。愛衣は叫ぶ。
「あぶない!」
だが、黒い影はそのオーガに一蹴りくれて弾き飛ばす。そしてベルトの脇に付いているカードホルダーから、1枚のカード……ハートの3を取り出した。黒い影――カリスは醒弓カリスアローに付けたカリスラウザーに、カードをラウズする。
『チョップ』
カリスの右手へ、エネルギーが集中していく。そしてカリスは、光る手刀を巨大なオーガへと突き立てた。
『ぐああああああぉぉぉぉぉっ!!』
断末魔の叫びを上げて、オーガは消滅する。オーガが倒されると共に、魔物達は逃走を始めた。どうやら高音が司令塔である術師を仕留めたらしい。
愛衣はカリスに問いかける。
「あ、あの……貴方が学園長の手配してくれた増援の方ですか?」
『いや……。俺は通り掛かっただけだ。人間が……地球上に残っていたとは……。
それにあの化け物……。アンデッドではないようだったが……。』
「は?あ、え、あ、あの……。地球に人が居るのは普通じゃないかと……。じゃなくて、ええと……。」
愛衣は半分パニックになって、しどろもどろになる。その隙にカリスは踵を返すと、森の奥へ消えていった。
やがて高音が慌てた様子で愛衣の所へやってくる。片手にはボコにした「悪い魔法使い」を引き摺っていた。
「愛衣、無事ですか!?怪我はありませんか!?」
「あ、は、はいお姉さま。へ、変な人に助けてもらったんです。」
「変な人?どんな?」
「あ、はい……まるで……まるでどこかのヒーローみたいな人でした。」
「ヒーロー?」
このとき、高音の頭には胸にSマークをつけた青いタイツ姿に赤マントの某米国産ヒーローの姿が浮かんでいたらしい。
数日後、始は麻帆良学園の食堂棟でコーヒーを飲みながら、現在の状況について考えていた。ちなみにお金は麻帆良近郊の街で、手頃なヤクザ屋さんを襲撃して手に入れている。彼は手元に置いた新聞の日付を見ながら、思いに耽る。
(2003年……か。1000年近い時間遡行……。人間が地球上に残っているわけだな。
いや、それだけじゃない。俺の記憶ではこの時期に埼玉にこんな麻帆良学園などという学園都市は存在していなかった。時間移動だけなら、こいつの……)
彼は手元のカードを見る。そのカードはスペードの10、『タイム・スカラベ』だ。このカードに封印されているアンデッドは、時間の流れを一時的にストップさせる事ができる。
(こいつの力の暴走だとも考えられるが……。平行世界への移動、か。そうなると、まったくわけが分からん。
この麻帆良学園近郊の森の中に現れたのが偶然でないとしたら、何者の意図によるのかを探らなければ。ここ麻帆良から離れるわけにはいかんな。
それに俺だけが封印から解放された理由も、俺だけが解放されているにもかかわらず『大破壊』が起きていない理由も、まるでわかっていない。)
始はコーヒーを飲み干す。
(まずは生活基盤の整備からだな。とりあえず戸籍やら何やらの偽造から、か。)
始は伝票を持って立ち上がり、レジへと向かう。その眉間には、深い皺が刻まれていた。
あとがき
というわけで、仮面ライダーカリス……始は麻帆良の地に降り立ちました。今後彼は基本的に麻帆良で活動をしていく事になります。となると、やはり魔法使い達との接触は避けられないわけですね、これが。これからの彼の活躍に、乞うご期待です。
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