「量産マルチは笑わない」
今日、大学のサッカー部の練習が終わった後、帰り道で僕は一体のHM−12を見た。
HM−12は、手から買い物袋を下げて、スーパーへ買い物に行く途中らしかった。
その時、小学校低学年くらいの男の子がひとり、自転車で転んだ。
男の子は、火がついたように泣き出した。
僕はあわてて男の子に駆け寄ろうとした。
けれど、それより早くそのHM−12が男の子を抱き起こしていた。
「大丈夫ですか?」
HM−12は抑揚の無い調子でそう尋ねる。
男の子は泣き止まない。
どうやら膝を擦り剥いたようだ。
HM−12は少し考え込んでいた。
ちょっと見には、まるでHM−12がフリーズしたかのようだ。
そして、HM−12は傷口にその口を当てた。
男の子はしゃくりあげる。
HM−12は男の子の傷口の汚れをそっと舐め取っていく。
「純水ですから、汚くはありません」
そう言って、HM−12は懐からハンカチを出して、男の子の擦り剥いた膝を縛った。
そして、その男の子の頭を自分の胸に抱え込んで、そっとその頭をなで続けた。
しばらくすると男の子は落ち着いたようで、泣き止んだ。
HM−12は倒れたままになっていた自転車を起すと、そのハンドルを男の子の手に握らせた。
「よろしければ、お家までお送りいたしましょうか?」
HM−12の言葉に、男の子は頭を振る。
「ううん、もうへいき。ありがとうロボットのお姉ちゃん」
そう言って男の子は自転車にまたがった。
そして、HM−12にむかってニッコリ笑う。
HM−12は無表情のまま頭を下げる。
「それではお気をつけて。もう暗いので、ライトをお灯けになった方がよろしいかと存じます」
「ありがとう、バイバイ!」
男の子はそのまま自転車で走り去った。
HM−12は、何事も無かったかのようにスーパーの方向へ歩き出す。
僕はちょっとの間、呆けていた。
けれどすぐ我に返って、自分の家目指して歩き出した。
正直、意外なものを見た…と思った。
けれど、あれが浩之の家にいるマルチだったら、当然だとも思う。
いや…やっぱり、あれはあれで当然なんだろう。
あのHM−12も、あのマルチの『妹』なんだし。
『だけど、あのHM−12も、ああいうときは笑えばいいのにな』
僕はそう呟いた。
あとがき
このSSは、松屋本舗さんから頂いた暑中見舞いのお礼に、「To Leaves」に寄贈した物です。
えー、今回は量産マルチにスポットを当ててみました。
まあ、このパターンも使い古されていると言えば言えるんですが…でもやっぱり『心が無い』とされている彼女らにも、実は心があるんだ…っていうのはやっぱり…なんていうのかな。
いい感じがしますよ。
ええ。
同じパターンはセリオにも言えますけれどね。
セリオの話も書いてみたくなったなあ…でも、セリオ物はHM−12物以上に出回ってるから、ちょっと困難だなあ。
そういえば、LF97でマル・セリ・HM−12の3人(3ロボ?)組がヒーローショーを見て『かっこいいですぅ〜』『…(かっこいいと思っている)』『…(かっこいいと思っている)』というシーンが印象に残ってます。
あの3人(3ロボ?)は、やっぱり根は同じなんですよね。
だけどクサい話っていうのはやっぱりいいですよね。
クサい話を書くのは恥ずかしいですし、巧く書けなかったときは悲しくなりますが。
でも、クサい話は今後も滅びないと思いますね。
なんか、馬鹿にされる傾向がありますし、時代遅れだとか言われる事もよくありますが、結局流行ってる作品には努力・友情・愛などのクサさがたっぷりちりばめられてますし。
そんなクサい話を書けるようになりたいものだと思いつつ、今回はこのへんで。
あと、もしこのSSの感想など書いていただけるのでしたら、mail To:weed@catnip.freemail.ne.jp(スパム対策として全角文字にしていますので、半角化してください)へメールで御報せいただくか、あるいは掲示板へ書きこみをよろしくお願いします。