ボアはなんとなく有名になったが、デューベイは傷つき、全てを失った。
アニメを見る時は部屋を明るくして離れて見ましょう。
夜の街。わあああんんんんんとか電線が唸っている。
初代デューベイと英利の先祖が対峙していた。
「お前がわしの剣に倒れる最後の者になる」
そして初代デューベイは英利の先祖を睨んだ。すると、周囲の看板とかコギャルとかおやじとか飛降り自殺しかけていた眼鏡っ娘とかが英利の先祖の方にどーっと飛んでいった。
「御見事でございます、親方様」
と、脇から一人の少女が出てきて、初代デューベイの前に膝をつく。するとデューベイはどさっと倒れた。
死の床にあって初代デューベイが呟いた。
「わしが死ねばこのボア神陰流は絶えてしまう。ありす。そこでこのバッテン髪バンドを……」
「バッテン髪バンド?」
「そう。これをわしの技を受継ぐにふさわしい者に渡して欲しい」
わざとらしく苦しそうな咳をする。息が苦しいらしい様子を演じている。
「して、そのものの証は?」
「落ちていく、消えていく、溺れていく……」
「親方さまー!」
時は移り……私鉄車内。
電車の窓にもたれているのは菜の花玲音。
ぽつりと
「うるさいなー」
電波が耳に入ってくるらしい。
「黙ってられないの?」
その声に、座っていた少女が視線をあげた。
「み、見つけた……落ちていく、消えていく、溺れていく……そのまんまの電波娘……」
ありすだった。
電車の中でぼろぼろ涙をこぼして感激しているので電波娘──玲音より目立っていたが、ありすは気にしなかった。
道を歩くバンカラの番長タローと部下のマサユキ、ミューミュー。
「親分、今日もナビ、クラッシュしたんですか」
「てやんでい。男は時にはクラッシュしたハードディスクから、セクタをつなぎ合せてデータ回収しなけりゃならねえ時だってあるんだ」
マサユキとミューミューがひそひそ話。
「3日おきにクラッシュさせてるじゃんか」
「大体、ユーザデータなんて毎日2セット交互にバックアップとっておかないといけないのにね」
「何か言ったか。それからおれの事は親分でなくて番長と呼べ、マサユキ」
「へーい」
そんな3人の前を玲音が通った。
──好きだ。
なぜかタローは玲音に惚れてしまった。電波が飛んできたのかもしれない。
そのうち、電柱が林立する訳のわからない所に玲音は入り込んで迷ってしまった。
そこに、どういう訳か知らんが、学生服の少年が現れた。
玲音を見て少年は思った。
──好きだ。
少年も電波が飛んできていたらしかった。
とりあえず声を掛けてみた。
「きみ、どうしたんだ」
玲音は無視した。
「ぼくは英利政美、ワイアードの第6世代プロトコルを作って有名になった神だ、いや、決して自慢しているんじゃないんだが」
うるさいなー──玲音は思ったが、道だけきいてさっさと学校に行ってしまおうと考えた。
「道に迷ったんです」
「学校は反対の方だ。一緒に行こう」
しかたがないので玲音は英利政美と一緒に歩きはじめた。
玲音はサイベリア学園に着いた。今日この学園に転校してきたのだが、保護者には来ないでほしかったので黙って来てしまった。
「校長室はどこ?」
「ああそれは……」
英利が案内した校長室はなぜか地下にあった。階段を降りていく変な構造だが玲音は気にしない事にした。
「じゃあ、ぼくはワイアードでいつでもきみを待っている」
「ありがとうございます、先輩」
「英利政美だ」
玲音は記憶から英利の事をデリートした。
中に入ると校長と教頭がいた。脇にはナビが置いてあった。
校長(その名はJJ)が声を掛けた。
「きみが転入する菜の花玲音くんか? なんか前この学校で見た事あるような気がするな」
「……それ、あたしかもしれない」
「?」
玲音はもう一人の自分がサイベリア学園に出没する噂をきいていた。
教頭が言った。
「きみの事はお父さんの康男さんからさっき、チャットで伺った。なんか徹夜明けで寝てないとか言っていらっしゃったが」
玲音はうんざりした。
突然ナビがパラサイトボムにやられて、ぼーんと音をたてて破裂した。
水道管が壊れたらしく、天井から水がしたたり落ちてきて、玲音はびしょ濡れになった。
「それ、冷却用の液体窒素だ。大丈夫か」
教頭の言葉は嘘だった。
着替えがないので玲音は熊パジャマを貰って着て、教室でクラスメイトに紹介された。
ぼけーっとしていたタローは急に元気になって飛び出してきた。
「ナンパしていいッすか?」
どこがバンカラなのかというつっこみはなし。
ちなみに担任の名はねずみといった。なぜかヘッドマウントディスプレイをつけたまま授業をはじめた。
授業が終ると、着替え中でスリップ一枚のレインの所に樹莉と麗華がやってきた。
「わてら転校生コンビや。よろしくな」
「コンビじゃない」
樹莉がなぜか大阪弁で喋ったが、このパロディ小説の作者は大阪弁には詳しくないので、この二人はこれからも出番がないだろう。
「これからは玲音も入れて、転校生トリオや」
「それやだ」
麗華が即、拒絶した。
「いけてる渋谷があるから、行こやんかー」
「何か樹莉の日本語、変」
「ありがと」
玲音、わらった。
「でも、帰ったら新しいナビにプシューケー、インストールしなきゃ」
「へー、すごいじゃん。そっかー、じゃ、明日でもいいや」
なんかよくわからんと思った樹莉は、急に腰が引けぎみになった。
「じゃねー」
さっさと帰って、ジェニー人形とお話しようと、熊パジャマのかわりに乾いた制服を着た玲音は思った。
帰り道、タローはマサユキとミューミューを連れて、玲音をストーカーしていた。
「なんで堂々と行かないんですか、親分」
「男は時にはストーカーまがいの事をしなけりゃならねえ時もある。それからおれの事は番長と呼べ、マサユキ」
そのうち玲音は、電柱だらけの場所でまた迷っていた。
もちろんタローたちも迷っていた。
迷う玲音の後ろからそっと近寄る影。
「お待ちくだされ」
振向く玲音。影はありすだった。
「やっと見つけましたぞ。300年間気合だけでこの美貌を保ってまいりましたがこのありす、やっと2代目デューベイ様を見つけもうした」
玲音は、ぼけーっとありすを見つめていた。
「さあ、このバッテン髪バンドをつけて下され」
「つければいいの?」
ありすの手からバッテン髪バンドを受取り、左の長く伸びたもみあげにつける。
その瞬間、ワイアードに接続しているユーザたちはみな、預言を受取った。のちにネットニュースにはこの異常現象に関する記事が掲載された。
おおお、と感激するありすをしらけた目で玲音は見つめた。
「いらなーい」
ぽーいと玲音はバッテン髪バンドを放り捨てた。
そこにねずみが現れた。
「わしはナイツ流クラッカー──ねずみ。2代目デューベイ殿とお見受けした。勝負せよ」
「あたしはデューベイじゃない、玲音だよ」
傷ついたように玲音は言った。ねずみは気にしなかった。
「さあ、勝負せい、デューベイ」
「あぶないっ、玲音!」
ありすはとっさに玲音を抱えて飛びすさった。
「玲音どの、このバッテン髪バンドをおつけください!」
ありすはとっさの間に、バッテン髪バンドを拾っていた。
しかし玲音はバッテン髪バンドをつけるのを拒否し続けた。
「このバッテン髪バンドをつければ、あなたには初代デューベイ様のデータがロードされて……」
「あたしを機械みたいに、言わないで!」
「このバンドをつけると2代目デューベイになれるんだね」
ありすは突然玲音の立場になって言った。
「そう、そして特権モードかスーパーユーザみたいになって自由にファイルにアクセス出来たりとかする」
「だからこんな時はバッテン髪バンドをつけた方が有利」
ありすの立場になって玲音は台詞を喋っていたが、おかげでいつの間にか玲音はありすに丸め込まれそうになってしまった。
ありすも必死だった。
「どうして早くこっちに来ないの?」
しかし玲音はあくまで嫌がった。そこにねずみの攻撃が直撃した。
どて、と倒れる玲音に近寄るありす。
「ごめん」
ありすはバッテン髪バンドを玲音の左の長く伸びたもみあげにつけた。
突然玲音は立上がった。
変身シーン。いや、変身といったって制服のままなんだが……玲音はふらふらよろけると人格がかわった。
かちかちかちかち、めもりーちぇっくぅ──
ちなみにBIOSは今時珍しいPhoenix BIOSだった。
「あーもう、どうだっていいじゃない」
きっとねずみを睨んで呟く。
「人はみんな繋がっているのよ……」
その声と同時に、周囲の電柱がバリバリひっこぬけてねずみに向かって飛んでいった。とどめにどぶの中に捨てられたねずみは哀れな最期を遂げた。
ちなみに電柱に繋がっていた電線がぐるぐる玲音に巻きついて玲音は感電した。
道に迷っていた三人組。
「玲音ちゃーん」
「携帯ナビで、マップ確認したらどうですかい、親分」
「ナビはクラッシュしたまんまなんでい、それからおれの事は親分でなくて番長と呼べ、マサユキ」
ありすと玲音は仲良くなって、ワッフルとか一緒に食べて、家に帰ったらしい。
玲音の家に帰ると、父康男と母美穂が濃厚なキスをしていた。玲音は思わず厭味ったらしく大嘘を言ってしまった。
「パパ、ママ、今日学校できかれたの、お前の両親は本当の両親かって。おかしいでしょ」
すると康男が真面目な顔で言った。
「お別れです、玲音さん。今までのは家族ごっこでした」
玲音はショックを受けた。
「嘘でしょ。どうしてこんな事になっちゃったんだろう」