予ハ贊成者にあらず 正太夫 義損小説發行の廣告出づ、予を賛成寄稿者の内に加へしハ太だ不服なり 尾濃地方震災の慘状ハ予能く之を知れり然れども之れが爲めに小説を作つて其賣上金を義損すと云ふが如きハ大いに誤まり居れり極言すれバ義損小説の擧ハ強ひて我等に文を賣らしめんとするものなり 予ハ初め春陽堂主より寄稿の請ありしにより全く同堂主の義擧に出でたるものとのみ思ひて其擧の香ばしからぬを知りつゝも其志の篤きにめでゝ一文を草し遣りたるなり決して贊成者にあらず 然るに廣告に據れバ春陽堂主ハ特別贊成者にして別に發起者あり補助あり恰も天保度に行はれたる書畫會の「ちらし」を見るが如し 發起者得知予に一言の挨拶なし補助三昧亦予に一言の挨拶なし而して漫りに予を贊成寄稿者の内に加ふ、予ハ啻に不服なるのみならず彼輩の爲めに甚しく侮蔑せられたるものなり 怪む、予ハ逍遙露伴二子の如きが斯る分別なき企てに驅られて贊成寄稿者の内に列し居れるを。怪む、予ハ彼發起者補助等が友樂館一日の借賃幾干なるやを問合さゞりしを 水平は古襯衣を義捐したり眞宗徒は古足袋を義損したり義損小説の發起者ハ小説を以て古襯衣古足袋と同一視せんとする乎何ぞ街頭に立つて各自がカボチヤ頭を糶賣せざる 畢竟するに義損小説の連名附ハ或一二人の極めてきたなき名聞のために犠牲に供せられたるものなるを予ハ疑はず彼廣告をよみて吐息するを知らざる者ハ吐息を人界の虚飾物と心得たる者のみ、噫