都会人種  わたしは鉄橋の露台で、公園の夜の椅子の上で 又は川蒸気船や古い寺院の裏の紫の露地で 生ける幽霊の如く死の美に纏ひつかれし 蒼き男女の朦朧たる多くの群れを見た  かれ等は彩られたる都会の死霊である  かつてかれ等の父も母もその祖父母も あたらしい都市の開拓者であり代表者であつた しかし生活しつくしたその子等はもう力の太陽をもたない その故郷の回想もはげしい土地の愛情も持たない かれ等は変化を飾る凄艶なる花骸骨である  はれやかなる秩父の西風も東京湾の南風も かれ等の暗い生活やその本能や生霊を 洪水や泥や罪の街路をもつて隠蔽し 都市の幾夜の花火で燃しつくしてしまつた  かれ等は美しい夜と焔の人身御供養者である  市の代表者はあたらしくもむくつけき田舎の情熱で 街を占領し彼等を古風な裏街へ圧迫し 新都市計画の旋風をもつて横行するけれど かれらは夢と情熱の古風な月夜の露地しかもつてゐない  かれ等は化粧したる過去の怨霊である  わたしはかつてかれ等を愛しかれ等と美の生活を欲した しかし新都市の力の生活が生長し星を飾り はるかなる遊星とならむで旅行するためには 哀れなる人工美と無性格のかれ等と一緒にはゐられない かれ等は今燃えつくしたる都会の星肩である