靜なる日の海 山本露葉 ふかどよむ海かこは──手力のこは海か 漂蕩の白流 さやさやと鳴り來てはうち開く海の胸 けざやかに目覺めたり くら海のほの白み、伏し沈む寂しさを ひたひたと搖るがしぬ 朝やげに浮く花藻、貝の葉も笑みまけて 碧瑠璃の若よそひ ほのぼのと日をまとひ銀の立姿 海姫のけやけさや 淺緑敷き展べて遠き世の靜けさに 溶けてゆけ朝潮も 底凪げる海の胸濃情のどよめきや 夢みるか、淡々と 夏の日のいきざしも朝じめるものゝ香も 戀うて來ぬ──その胸に 法音の海の音に吾が靈をさそへかし 日は照るや燦くや 淺緑、深緑、白光や、金色や 吾が生を埋めかし