一切存じ不申 緑雨醒客 R.R.殿に申上まゐらせ候貴君の眼大いか小さいか我之を知り不申候へども拙者めをとらへて何となくこそばゆき事御風聽被遊珍重過て困入り候北[ばう(篇が亡に大里)]散士の宇宙主義、大道を闊歩せらるゝ慷慨文は拙者めも豫てより感銘罷在たれども拙者嘲笑文を書いた覺えハ夜な夜な毎の現にも無之何が甚深ぢヤやら究理ぢヤやら根深か一文字か一向存じ不申却て貴君の御仁心と存候砂の中にもたまらぬ拙者めを、蓬の中にもあさましき拙者めを兔角仰せらるゝ事貴君がお名のアール怪き次第に候考ふるに貴君ハ我師正直正太夫と拙者めとを混じられしにハあらざる歟正太夫の所謂評註主義、これハ見ざまに依りてハ心肝より蒸發せる冷笑の影とも思はれ候ヘバ多分この間違ひかと存じ候果して然らバ甚深とかいふ勲章ハ改めて正太夫方へ御贈り被下度師も亦貴君の文讀で太く拙者の實無きに名あるを笑はれ死せる孔明生ける仲達を走らせし類ひぞと被申候拙者め正太夫の門にあるものゝ實ハ今より小説を書て獨樂自興の便法を恣まゝにせんと存候のみ不日「置炬燵」と題する温かい傑作を公に致候間それ見そなはして拙者めハそれだけの者と御承知被下度甚深及び嘲笑文〆て五文字ハまづまづ御手許へ御たぐり戻しの程願ひ上候拙者出世の妨げに付この段態々御斷り申上候也。