この補正資料は、將來「当用漢字」を補正する際の基礎的な資料とすべく、国語審議会が審議し、報告したものである。
建議機關の第1期の国語審議会(昭和24年6月〜昭和27年4月)において、新聞方面から出された要望が檢討されるやうになつた。その審議に當つたのが、新たに設けられた漢字部会である。
昭和28年2月、新聞社を代表する国語審議会委員の歩調を統一する必要がある、と云ふ理由を以て、日本新聞協會は16社に用語擔當者の出席を求め、東京で第1囘の新聞用語懇談會を開催した。その際、「当用漢字」の補正を審議會に具申する事となつた。
日本新聞協會事務局は、會員全社に對し「当用漢字」補正に關する意見の提出を求め、10社の意見を集計整理して国語審議会に提出した(「当用漢字補正に関する新聞社の意見の集計」)。それによると、当用漢字表より削除すべきものとして擧げられた漢字は51字、逆に補足すべきものとして擧げられた漢字は166字であつた。
第2期の国語審議会(昭和27年4月〜昭和29年4月)の漢字部会は、昭和27年7月から29年2月までに、26囘の部會を開いて、新聞方面からの要望を審議した。その結果を、3月15日の第20囘總會で「当用漢字表審議報告」を發表した。
このたび、漢字部会から当用漢字表に対する再検討の結果が報告された。これは、漢字部会が、当用漢字表を中心として広く社会に日常使用される漢字について二か年26回にわたり、熱心に審議した結果であって、将来当用漢字表の補正を決定するさいの基本的な資料となるものである。
思うに、当用漢字表の補正は、その影響する方面や範囲が広く深いので、この漢字部会の補正資料は、このさい一般の批判をもとめ、今後なお実践を重ねることによって、その実用性と適正さが明らかにされると考えられる。
この漢字部会の非常な努力によって、当用漢字表が全体的に妥当なこともわかった。この点についても同部会の労を多としたい。
なほ、この補正案の審議を始めるに當り、当用漢字表を、その制定当時の精神にそって守り抜く事を部会の基本態度として確認する
、と云ふ申合せが行はれてゐる。
28字が削られるべきである事、28字が追加されるべきである事が述べられゐる。
これらの「削る字」の「削る」理由は、以下のやうなものである。
- 一、かな書きにしてさしつかえない
- 且→かつ
- 但→ただし
- 又→また
- 二、他の字に置きかえられる
- 濫→乱
- 錬→練
- 附→付
- 三、簡単に言いかえられる
- 丹念→入念
- 弾劾→糾弾
- 煩雑→繁雑
- 遵法→順法
- 四、ほとんど使わないか、極く特別な時だけに使われる
- 朕
- 璽
- 謁
- 爵
「個」に「カ」の音を追加したのは、「箇」を削るが、「箇条書→個条書」「重要な箇所→重要な個所」の「カ」の音は保存するからであつた。「燈」を「灯」とし、訓讀み「ひ」を追加したのは、「灯」の字を追加して欲しいと云ふ要望に應へると同時に、「ひ」の訓讀みを追加して欲しいと云ふ要望に應へたものである。
この「補正資料」は、内閣告示とされず、「報告」のままで終つた。
日本新聞協會加盟の新聞社・通信社は、この「補正案」が發表されると即日、編緝委員會を開いてその實施を決定した。そして、昭和29年4月1日より一齋に實施する事とした(「新聞協会報」昭和29年3月22日)。