制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
公開
2002-01-03
改訂
2014-01-18

現代かなづかい(昭和21年11月16日内閣告示)

概要

戰後の國語改革で、一般には、「当用漢字」よりも普及したと言はれるのが、この「現代かなづかい」である。

「当用漢字」は當初、單なる漢字制限だつた。字體の改革が遲れた爲、その存在は必ずしも強くは實感されなかつたやうに思はれる。『サザエさん』に、「魚」を「さかな」と讀めなくて困る魚屋のエピソードがあつたと記憶するが、その程度の「微笑ましい」制限としか庶民には認識されなかったのではないか。昭和30年代初頭くらゐまで、新字體の活字は意外に使はれてをらず、「舊字體」で「新かなづかい」の書籍が結構あつた。字體改革については別項。


この「現代かなづかい」が「新かなづかい」と呼ばれた爲に、從來のかなづかひが對比的に「旧かなづかい」と呼ばれるやうになつた。しかし、現在知られてゐる形態の「旧かなづかい」の「成立」したのは昭和10年代終盤であり(橋本進吉らの研究による假名遣の確定作業は、昭和初期になつて漸く進められるやうになつた)、昭和21年制定の「現代かなづかい」に比べてそれほど古いものではない。

矛盾だらけの内容

この「まえがき」に表はれてゐる通り、「現代かなづかい」の「原則」は、大体と云ふ言葉が附けられたり、除外例が大量に含まれてゐたりするなど、一貫しないものである。

一方、この「現代かなづかい」は從來の假名遣の改訂と云ふ體裁で記述されてゐる。内容も、飽くまで從來の假名遣による表記を書換へる際の指針である。

即ち、本質的に「現代かなづかい」に原則は無い、と言へる。さう云ふものを、現代人の表記の準則としてゐるところに、「現代かなづかい」の運用に無理が生ずる所以がある。

基本的に、「現代かなづかい」は、現代日本人の音韻意識に基いて表記する、と云ふ原則になつてゐるが、「は」「へ」「を」をはじめとする語意識に基く表記の決りも平行して採用してゐる。また、字音と和語を區別せず「同じ日本語の表記」と考へる立場から、「現代かなづかい」は漢字の音も訓も區別せず、全てを表音的に表記する事を命じてゐる。

はつきりとは謳はれてゐない「制限」と云ふ性格

意外な事だが、「現代かなづかい」の實施に當つて發表された内閣訓令では、この「現代かなづかい」に強制力は無いかのやうな言ひ方がされてゐる。

国語を書きあらわす上に、従来のかなづかいは、はなはだ複雑であって、使用上の困難が大きい。これを現代語音にもとづいて整理することは、教育上の負担を軽くするばかりでなく、国民の生活能率をあげ、文化水準を高める上に、資するところが大きい。それ故に、政府は、今回国語審議会の決定した現代かなづかいを採択して、本日内閣告示第33号をもって、これを告示した。今後各官庁においては、このかなづかいを使用するとともに、広く各方面にこの使用を勧めて、現代かなづかい制定の趣旨の徹底するように努めることを希望する。

「国民はこのかなづかいを使わなければならない」と云ふ命令ではなく、「政府は善意に基いて国民にこのかなづかいを提供しています、ぜひ使って下さい」と云ふ希望の形を採つてゐる事に注意する必要がある。言葉の上では「強要」ではないが、それだけに「善意の押賣り」と言ひたいくらゐの押しつけがましい印象を受ける文言である。

餘談だが、この内閣訓令にある、もとづいて、と云ふ語が、のちのち国語審議会を惱ませる事になる(「現代かなづかいの適用について」昭和30年11月10日総会)。

「現代かなづかい」において、「ぬかずく」「ひざまずく」が「ずく」であるのに、「もとづく」が「づく」であるのは、いかにも一貫性に缺けてゐると言へるが、この内閣訓令が原因なのである。

制定の經緯

假名遣主査委員會は昭和21年6月11日より9月11日までに12囘の會議を開き「現代かなづかい」を制定し、9月21日の國語審議會第11囘總會に提出した。その主査委員は、以下の20名であつた。

同案に贊成したものは、委員70名中53名(うち委任状12名)であつた。

「當用漢字表」と同時に、「現代かなづかい」は昭和21年11月16日、内閣訓令・告示により實施された。

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