福田恆存はD.H.ロレンスから強い影響を受けてゐる。ロレンスは、システマティックな態度を當然の事とする現代の文明の中に、人間の活き活きとした生を取戻さうとしたイギリスの文學者である。
「現代表記」が機械的で無機的な「統一」を志向するものである以上、福田恆存は絶對にそれを認めるわけには行かなかつた。どんな言ひわけをしようとも「現代表記」は所詮、言葉を殺すためのものでしかない。
歴史的かなづかひや正字體が持つてゐたダイナミックな「もの」を、「現代表記」は徹底して排除してゐる。「現代表記」は「整理」と云ふ名の下に言葉の去勢を行なはうとした。「現代表記」は「現代」のものであり――それゆゑ絶對に許されない。
俺は新潮社版の福田恆存著作集を讀んで正かなづかひに轉向した。