制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
公開
2004-12-06
改訂
2004-12-12

文體について

文語の文體

漢文體
漢文そのまゝではないが、漢文の形式を取つて書かれた日本語の文章を指して言ふ。近世の公式文書は、漢文體が正式なものであつた。
漢文訓讀體
漢文を書き下したやうな文體。平安時代に成立した。中世の説話集で良く使はれてゐる。形式的に整へられたのは近世以降の事である。明治時代の堅い評論に良く見られる。
和文體
漢語を用ゐないで、やまとことばによつて文章を記述する文體。平安時代に、貴族の日常會話を基にして、主に女流作家の手によつて成立した。後には男性によつても用ゐられるやうになつた。當時の口語文であるとも言はれるが、源氏物語のやうに、作者によつて多くの語が「創作」されてゐると見られる和文體の作品もある。
擬古文體・(近世)雅文體
中世以降に書かれた、和文體を模した文體の事。宣長等、江戸時代の國學者が好んで用ゐてゐる。
和漢混淆文體
流麗な和文體と、力強い漢文訓讀體とを、適宜取混ぜた文體。平安時代から中世にかけて、軍記物や隨筆で使はれてゐる。
候文體
敬語の「候」を文末の切れ目に用ゐた文體。平安末期から書簡で屡々用ゐられた。
雅俗折衷文體
和漢混淆文體に俗語を交へた文體で、江戸時代の讀み本等に見られる。雅文體と江戸時代の俗文體との折衷であると云ふのが建前。
明治二十年代に一時期復興し、山田美妙や尾崎紅葉らが用ゐた事がある。樋口一葉の小説の文體も雅俗折衷である。明治三十年代以降は廢れた。

口語の文體

言文一致文體
話し言葉に書き言葉を一致させようとする言文一致運動によつて提唱された文體だが、特に初期の文章に見られるものを指して言ふやうだ。
會話に口語の表現を用ゐた例は、既に江戸時代にある。また、明治初年頃には既に口語的な表現を用ゐる傾向も見られた。だが、小説の内容と表現とを一致させる作家の意識的な態度としての言文一致は、二葉亭四迷が「だ調」の表現を用ゐたのをもつて嚆矢とする。一方、山田美妙は「です調」を用ゐた。その後、尾崎紅葉が「多情多恨」(明治二十九年)で洗練された「である調」を用ゐた。明治四十年代以降の近代小説では、言文一致體が一般化した。白樺派の作家逹によつて完成されたものとされる。
歐文直譯文體
所謂飜譯調で、英文、佛文、獨文を直譯したやうな文章の文體の事。抽象名詞を主語や目的語とする文章や受動態の文章は、本來の日本語の文章には見られなかつたもので、明治以來の飜譯に由來する。
準口語文體
文語的要素を一部に殘した口語文の文體。大正から昭和初期の哲學書や評論、或は詩にも見られる特徴のある文體である。一往「準口語文體」と呼ぶが、一般に認められた名稱ではない。
口語文體
戰後、一般的に用ゐられてゐる文體を、漠然と指して口語文體と呼ぶ事がある。色々な文體の要素を含んでをり、一概にどのやうなものであると定義する事は出來ない。