- 制作者(webmaster)
- 野嵜健秀(Takehide Nozaki)
- 公開
- 2000-06-06
- 改訂
- 2012-06-14
正かなづかひ早分り
- 概要
- 「現代仮名遣い」を常用してゐる人が正假名遣(歴史的假名遣)へ移行する際の手引きです。
- 新假名と正假名とで表記が異る語・文中に頻出するので覺えておくと良い語を列擧しました。
- 注意
- 全ての語について解説した「網羅的な假名遣のリスト」である訣ではありません。
- 取敢ず正假名遣を使へるやうになる爲の「實用的なガイド」です。正假名遣の原理・法則を體系的に説明した記事ではありません。
「現代仮名遣」と異る書き方をする語
取敢ず「書ける」やうになる爲には、假名遣の全ての規則を一氣に覺える必要等ありません。
- 字音假名遣については當座、委しく覺えておく必要はありません。漢字で書けるものは漢字で書くやうにすれば、殆どの字音假名遣は覺えないでも大丈夫です。
- 新假名で語頭が「わ」の語は、正假名でも「わ」と書きます。一方、新假名で語頭以外が「わ」「い」「う」「え」の語は「は」「ひ」「ふ」「へ」になる事が多いのですが、さうならない例外だけ覺えておいて下さい。「お」が「ほ」になる例は意外と少い(やうな氣がする)。
- 新假名でも助詞の「は」「へ」「を」には正假名の規則が適用されてゐます。當然正假名でも助詞の「は」「へ」「を」は「は」「へ」「を」のままです。
「五段動詞」→「四段動詞」
用言の活用語尾に關しては、規則で覺えられるでせう。
未然形(「〜ない」「〜う」に附く)は「あ列」に統一
- 買わない/買おう→買はない/買はう
- 行かない/行こう→行かない/行かう
- 走らない/走ろう→走らない/走らう
- 遊ばない/遊ぼう→遊ばない/遊ばう
※良からず-良からう
※あろう→あらう、だろう→だらう、でしょう→でせう、ましょう→ませう
あわ行五段活用→は行四段活用
※「言わない/言おう」「言います」「言う」「言う時」「言えば」「言え」→「言はない/言はう」「言ひます」「言ふ」「言ふ時」「言へば」「言へ」
指示代名詞
※「かうして」「さうして」
※「この」「ここ」「その」「そこ」は變らず
※「ああ」「どう」(以下略)は變らず
ぢ・づ
ぢ
- お(怖)じる→お(怖)ぢる
- と(閉/綴)じる→と(閉/綴)ぢる
- は(恥)じる→は(恥)ぢる
- よ(攀/捩)じる→よ(攀/捩)ぢる
※「閉ざす」-「閉ぢる」は要注意。
※ちち(父)-ぢぢ(爺)、はは(母)-ばば(婆)
- あじ(味/鯵)→あぢ(味/鰺)
- くじら(鯨)→くぢら(鯨)
- あじさい(紫陽花)→あぢさゐ(紫陽花)
※字音假名遣「はなぢ(鼻血)」「ぢめん(地面)」
づ
※出づ-出でよ
- わず(僅)か→わづ(僅)か
- しず(静)か→しづ(靜)か
※みかづき(三日月)-さかづき(酒杯)
は行の語
は
- あわ(淡)い→あは(淡)い
- つた(伝)わる→つた(傳)はる
※つた(伝)える→つた(傳)へる
※かわら(川原)→かはら(川原)
※しわ(皺)はしわのまま。
ひ
ふ
- お(追)う→お(追)ふ
- か(買/飼)う→か(買/飼)ふ
- きょう(今日)→けふ(今日)
- きのう(昨日)→きのふ(昨日)
- おととい(一昨日)→をととひ(一昨日) ※「をち(遠/彼方)のひ(日)」から
※ひ(日)-けふ(今日)
へ
- かえ(帰/返)る→かへ(歸/返)る
- か(変/替/代)える→か(變/替/代)へる
- かんが(考)える→かんが(考)へる
- た(堪/耐)える→た(堪/耐)へる
※た(絶)やす-た(絶)える
- あえ(敢)て→あへ(敢)て
- いえ(家)→いへ(家)
- うえ(上)→うへ(上)
- さえ(助詞)→さへ
ほ
- なお(猶)→なほ(猶)
- しお(塩)→しほ(鹽)
- とお(遠)い→とほ(遠)い
- とお(通)り→とほ(通)り
- ほのお(焔/炎)→ほのほ(焔/炎) ※「火の穗」から
は行その他
- あお(煽)る→あふ(煽)る
- たお(倒)れる→たふ(倒)れる
- ほうほうの体で→はふはふ(這ふ這ふ)の體で
- さいわ(幸)い→さいは(幸)ひ
や行の語
※そのようだ→そのやうだ
わ行の語
ゐ
※おる(居る)→をる
※ゐる-しきゐ(敷居)
- ひき(率)いる→ひき(率)ゐる
- もち(用)いる→もち(用)ゐる
- くらい(位)→くらゐ(位)
- まい(参)る→まゐ(參)る
※まゐ(參)る-まう(申)す
※字音假名遣「ゐど(井戸)」「ゐなか(田舍)」
ゑ
- う(植/飢)える→う(植/飢)ゑる
- す(据)える→す(据)ゑる
※う(植)わる-う(植)ゑる。すわ(坐)る-す(据)ゑる
- え(笑)む→ゑ(笑)む
- ほほえ(微笑)む→ほほゑ(微笑)む
を
- おじ(叔父/伯父)→をぢ(叔父/伯父)
- おば(叔母/伯母)→をば(叔母/伯母)
- おさ(收/納/治/修)める→をさ(收/納/治/修)める
- おど(踊)る→をど(踊)る
※をこがましい-をかしい
※おしまひ=御+終ひ
- おとこ(男)→をとこ(男)
- おんな(女)→をんな(女)
ウ音便
- かりゅうど→かりうど
- 美しゅう→美しう
- ありがとう→ありがたう
- こうばしい→かうばしい ※「かぐはしい」から
複合技
- あじ(味)わう→あぢ(味)はふ
- そうじゃないか→さうぢやないか
※(「である」/「では」が訛つた、或は接續詞の)じゃ→ぢや
その他
- こうごう(神々)しい→かうがう(神々)しい ※かみ(神)の音便
- そうぞう(騒々)しい→さうざう(騷々)しい
- どうどう(堂々)たる→だうだう(堂々)たる
「現代仮名遣」と同じ書き方をする語
- 正假名も新假名も同じ表記の語は「書き分け」をしない事。
- 「正假名と新假名とで變化がない=『假名遣』が存在しない」と云ふ事になります。
や行に活用する動詞とその派生語
「悔い(る)」「老い(る)」「報い(る)」「消える」「見える」「越える」「聞こえる」
わ行の語
新假名で語頭が「わ」の語は正假名でも「わ」と書く。例外ナシ。
以下、覺えなければならない語。
- 「あわ(泡)」
- 「あわ(周章)てる」
- 「かわ(渇/乾)く」
- 「しわ(皺)」
- 「たわ(撓)む」
音便
形容詞
「面白い」「美しい」
※「面白し」の音便で「面白い」となつてゐる。
イ音便
「ございます」
※「ござります」の音便で「ございます」となつてゐる。
子供の言葉
※かく(隱)れんばう(坊)
その他
※「縅す」は「をどす」
誤用の例
※何でもかんでも「い」を「ひ」や「ゐ」に變へれば良いと云ふものではありません。
- 誤・ゐらつしやる→正・いらつしやる ※入らつしやる
- 誤・面白ひ→正・面白い ※形容詞(音便の一種)
- 誤・ござゐます→正・ございます ※音便
- 誤・首藤さんらしひ→正・首藤さんらしい ※音便「らしき」→「らしい」
- 誤・素性を探らふ→正・素性を探らう ※助動詞「う」(助動詞「む」の音便とも言へる)
※入らつしやる : お出でになる
參考
おまけ・俗語の表記
方言や俗語の表記の場合、「表音的」になる事も「あり」。「表音的」である事に意味がある、と考へる。
- そーゆーことで→さういふことで
- そりゃそうだろう→そりやさうだらう/それあさうだらう※それは→それあ/そりや
- off会は来週つう事で→off會は來週つふ事で ※ていふ→つふ
「闇黒日記」の記事から
平成14年4月27日
「正かなづかひ初心者」は、「い」を片端から「ひ」と書いてしまふ誤を冒しがちです。
- 形容詞の活用語尾「い」は「ひ」になりません。
- 音便の「い」は「ひ」になりません。
また「じ」「ぢ」、「ず」「づ」の遣ひ分けは、連語等で「し」「ち」「す」「つ」が濁る場合はわかりやすいのですが、さうでない場合(詰り、語の決りとして「じ」「ぢ」、「ず」「づ」と書かなければならない場合)には覺えておかなければなりません。
結城さん、正かなづかひに挑戰。
- 形容詞等の活用語尾
- 「賢ひ」→「賢い」
- 「なひ」→「ない」(無)
- 音便
- 「續ひて」→「續いて」
- 「なさひ」→「なさい」
- 「つひて」→「ついて」
- 語の決り
- 「はぢめる」→「はじめる」
平成14年4月9日
DAC日記2002年4月分を見て。
- 「た(だ)」「て(で)」に接續する四段動詞の連用形は、屡々音便の形をとります。例へば、「繼ぐ」「解く」などは「繼いだ」「解いた」になります(イ音便)。「いただく」も「いただいた」になります。「いただひた」にはなりません。
- 「現代仮名遣い」で「アワ行五段動詞」と呼ばれる動詞は、全てハ行四段動詞です。「言ふ」「買ふ」「使ふ」「思ふ」「食ふ」など。餘談ですが、文語や方言では「言うた」「買うた」「使うた」「思うた」「食うた」と言ふ事がありまして、正假名としてはそれも正解ですが、標準語の口語で言ふやうに「言つた」「買つた」「使つた」「思つた」「食つた」と書いてしまつて構ひません。
- 「強い」「難しい」「善い」は形容詞なので「強ひ」「難しひ」「善ゐ」になりません。
- 「〜してしまふ」「とはいへ」「とりあへず」
- 「とる」-「とらふ」-「とらはれる」-「とらへる」
平成14年4月7日
初學者が迷ふであらう事柄。めも。
- 〜して「いる」は常に「ゐる」にしてしまつて構ひません。「間違つてゐる」「さうなつてゐる」
- 助動詞「う」「よう」は新かな・正かなとも「う」「よう」です。助動詞「ない」と同樣、「う」「よう」は用言の未然形に接續します。「書かない」「書かう」、「言はない」「言はう」、「葬り去らない」「葬り去らう」。「言つてみよう」「書いてみよう」。
- 「〜のやうだ」の「やう」は形式名詞で、「樣」の字音假名遣です。「〜を試してみよう」の「よう」は助動詞で、「言ひやうがない」の「やう」は形式名詞です。間違へ易いのですが、「説明のしやうがない」の「しやう」は「仕樣」(名詞)で、「説明しよう!」の「しよう」(さ變動詞の活用語尾「する→し」+助動詞「よう」)とは異ります。
- 「よう」か「やう」か迷つたら、取敢ず未然形接續の「ない」を附けてみて、意味が通るかどうかで判斷すると良いでせう。「説明しない。/説明しよう。」「ない」が附けられる時は「よう」。
- 所謂「こそあど」に屬すると云ふ事で「そう」と書きがちですが、「さう」が正解です。ちなみに「こそあど」と言つてゐますが、「これ」「それ」「あれ」「どれ」はともかく、「かう」「さう」「ああ」「どう」は、新假名でも「こう」「そう」「ああ」「どう」で、揃つてゐません。
- 「みたい」「正しい」を「みたひ」「正しひ」と書くミスは、假名遣の原理を理解してゐない人がやらかしがちです。形容詞の活用語尾は、イ音便ですから、は行にはなりません。
- 「位」は「くらゐ」です。「ゐる」の關聯語です。
- 「或は」は「あるいは」で、「あるひは」は正しくないさうです。
感動詞・間投詞の書き方
旧かなだと「あぅーっ」は「あふふつ」って書かなきゃいけないもんかと思ってたんですが。
歴史的假名遣では「あ行」を全て「は行」で書かなければならない(或は、書けば良い)、と勘違ひしてゐる人が、なぜか非常に澤山ゐるのですが、そんな馬鹿な話はありません。
この手の、非常に表音的な表現は、表音的に表記しておいて良いのではないですか。無意味な文句なのだから、意味に基いて表記を決定する事など出來ない譯ですし。或いは「感動詞・間投詞は表音的に表記する事に意味がある」と解釋する。
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外部リンク