制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
初出
「闇黒日記」平成13年11月16日
公開
2001-11-24
改訂
2007-11-25

軍國主義をも利用した表音主義者マツサカタダノリ

時枝氏を「反動」に仕立て上げる勢力

「日本の植民地支配に、時枝誠記がどの位關はつてゐたか」「京城帝國大學にゐた時枝誠記の構想した『國語』とは何か」を論ずる人がゐる。かうした批判の仕方は、明かに人格攻撃であるのだが、一向に減らない。

2005年になつても、やり方は變つてゐない。例へば雜誌「現代思想」で組まれた「思想」の特集における、時枝氏の採上げられ方である。植民地政策に關する時枝氏の意見に、例によつて論者の關心は集中してゐた。

何とかして時枝氏を「反動」に仕立て上げなければ氣が濟まない人がゐるのである。臆測を甚だ逞しうした「論文」を集めた本が、左翼系の出版社から刊行されてゐる。

表音主義者と軍との關係

「現代かなづかい」「当用漢字」を制定した戰後の国語審議会をリードしたのは、言ふまでもなく表音主義者である。戰前、積極的に國策に協力してゐたのは、實は表音主義者の方であつた。

マツサカタダノリは、戰前から戰後にかけて活動した、有名な表音主義者である。マツサカが戰前、どのやうな論文を書いてゐたか。彼の論文を見れば、軍と表音主義者との深い關係はすぐに判る――タイトルだけ見てもすぐ判る位、關係は明瞭である。

軍國主義の日本で、大東亞共榮圈の標準語として日本語を採用する事は、決定的であつた。さう云つた情勢下で、表音主義者は「植民地向けの日本語の形態」として「表音的な表記」を採用すべきであると主張し、日本政府に強く働きかけてゐた。この邊の事は、ちよつと調べれば誰にでも判る。ところが、さう云つた事に、時枝氏を批判するやうな人は決して觸れない。

「軍と關係した」表音主義者・左翼の後ろめたさ

表音主義者は戰中、表音的な表記を採用するやう陸軍に働きかけてゐた。實際、一部ではあるが、陸軍はさうした表記を採用してゐた。(多仁安代『大東亜共栄圏と日本語』を見よ)本格的な國語の表音化は、福田恆存『私の國語教室』でも觸れられてゐる通り、實施されなかつたが、何時でも實施出來る状態にまで「整備」されてゐたのである。

戰後直後、國語改革で實施された制限漢字と表音的假名遣は、表音主義者が戰中に作り上げてゐたものを、そつくりそのまゝ採用したものである。表音主義者は、「当用漢字」「現代かなづかい」について、「戰爭に負けてから、短い間に、好い加減に作られたものではない」と屡々説明する。實際その通りであつて、「当用漢字」も「現代かなづかい」も、「軍國主義體制下、植民地支配に供される爲に作り上げられてゐたもの」なのである。

日本語の表音化と云ふ目的の爲には、表音主義者は方法を選んでゐない。彼らは、戰前・戰中には軍隊を利用し、戰後にはアメリカの進駐軍を利用してゐる。

そして、自分逹が目的の爲に手段を選ばないのだから、敵對者も同じであらうと、彼らは信じ込んでゐるし、彼らのイデオロギーに親近感を覺える最近の左翼も信じ込んでゐる。否、彼らにして見れば、「表音主義」と云ふ「崇高」な目的は、手段を「聖化」し得るのである。

表音主義者は「決して誤を冒さない」――共産主義の指導者がさうであつたやうに。そして、自らの犯した誤を、彼らは決つて「敵」に押附ける。「人は自らを否定すべき文句で以つて敵對者を罵る」。しかし、かうした彼らの行動は、實は、彼らの覺える「後ろめたさ」が反動的に現はれたものなのではないか。「逆切れ」の一種である。

外部リンク

川島正平のページ
時枝誠記の「国語」政策論について