月(B)

ほんのりした空中の窓よ
あざやかな時間の運轉者が
せつせと月を洗ひ淨めてゐるよ
旅行者よ 農夫よ 航海者よ
その頭の中に燈火をつけよ
日光をもたない囚人もぬす人も
いそいで美しい松明をともすがよい
月は自然の幽靈であるから
一つの眼のうちにこもつた幽情を
地上へ映しながら光と陰の文字をかくよ
きよらかな、清らかな
寂寥と光明の今宵の晴れに
ほんのりした空中の窓は開いてゐるよ