制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
公開
2001-07-01

『日本語の文法 古典篇』

目次

文法を学ぶ意味──序に代えて
第一部 文法の基本を教える
第一講 文法の芸雄知誌
  • 一 文・文節・単語
  • 二 自立語と付属語
  • 三 活用と活用形
  • 四 修飾
  • 五 接頭語と接尾語
  • 六 品詞の転成
  • 七 品詞
第二講 形容詞と形容動詞
〈形容飼〉
  • 一 形容詞の基礎知識
  • 二 形容詞の活用の成立
  • 三 形容詞の活用
〈形容動詞〉
  • 一 形容動詞の基礎知識
  • 二 形容動詞の成立
  • 三 形容動詞の活用
〈形容詞・形容動詞の音便〉
  • 一 音便とは
  • 二 形容詞の音便
  • 三 形容動詞の音便
第三講 動詞
  • 一 動詞の基礎知識
  • 二 正格活用
  • 三 変格活用
  • 四 勤詞の音便
  • 五 自動詞と他動詞
  • 六 補助動詞
第四講 助動詞1
助動詞の基礎知識
  • 一 自発・可能・受身・尊敬・使役の助動詞(る・らる す・さす・しむ)
第五講 助動詞2
  • 二 完了と過去(回想)の助動詞(つ・ぬ り・たり き けり)
第六講 助動詞3
  • 三 推量の助動詞(む・むず らむ けむ らし まし べし めり なり)
第七講 助動詞4
  • 四 打消・打消推量の助動詞
  • 五 断定・希望・比況の助動詞(なり たり)
  • 六 上代の助動詞
第八講 助詞1
助詞の基礎知識
  • 一 格助詞(の・が に と より にて して)
第九講 助詞2
  • 二 副助詞(だに すら・そら さへ し・しも)
  • 三 係助詞(は も ぞ なむ こそ や〈やは〉 か〈かは〉)
第十講 助詞3
  • 四 接続助詞(ば が・に・を つつ で ながら)
第十一講助詞4
  • 五 終助詞(そ ばや なむ)
  • 六 間投助詞(や よ を)
第十二講 名詞・代名詞・連体飼・副詞・接続詞・感動詞
  • 一 名詞
  • 二 代名詞
  • 三 連体詞
  • 四 副詞
  • 五 接続詞
  • 六 感動詞
第十三講 敬語
  • 一 敬語動詞・補助動詞の種類
  • 二 敬語の基本の理解
  • 三 主要な敬語動詞と補助動詞
  • 四 特殊な敬語動詞・補助動詞
  • 五 二方面・三方面に対する敬意
  • 六 最高敬語
第十四講 修辞
  • 一 枕詞
  • 二 序詞
  • 三 掛詞
  • 四 縁語
  • 五 本歌取り
  • 六 隠題と折句
  • 七 句切れと五七調・七五調
  • 八 季語
  • 九 切れ字
第二部 Q&A 文法の疑問に答える
文法の基礎知識
  • 文法をなぜ学ぶか
  • 歴史的仮名遣いについて
  • ハ行音の読み方
  • なぜ「ハナハダ」か
  • 長音の発音のしかた
  • 撥音・促音・拗音の表記と発音
  • 昔の発音を調べる方法
  • 上代語の音韻について
  • 文と文章
  • 文節の分け方
  • 複合語の範囲
  • 品詞の転成
  • 「御」の読み方
  • 代名詞を一品詞とするか
  • 副詞と接続詞
  • 品詞分類の基本
用言
  • ク活用の語とシク活用の語の相違
  • 形容詞の成立
  • 形容詞の未然形の「く」と補助活用
  • 形容詞の補助活用とは
  • 終止形「多かり」について
  • 「…を…み」の「み」は接尾語か
  • 形容動詞否定説
  • 形容動詞の識別
  • 形容動詞を認めない辞書の説について
  • 活用形の成立
  • ラ変・ガ変に属する語
  • 下一段の「蹴る」について
  • 「射る」「鋳る」について
  • 「おはす」はサ変か
  • 文語の可能動詞は?
  • 自動詞と他動詞
  • 補助動詞と助動詞の違い
助動詞
  • 助動詞の連接と意味との関係
  • 「る・らる」の四つの意味の成立
  • 「る」の動詞語尾との識別
  • 尊敬の「す」「さす」「しむ」
  • 「き」「けり」の呼び方
  • 「き」「けり」の違い
  • 「つ」と「ぬ」の使い分け
  • 強意か・確認か
  • 完了の「り」の接続
  • 完了の「り」の已然形接続説
  • 完了と過去
  • 「つ・ぬ」の意味
  • 「たり」と「り」がある理由
  • 完了と存続の違い
  • 推量の助動詞の意味の識別
  • 「ま」は「む」の未然形か
  • 「めり」「なり」の接続
  • 終止形への接続
  • 断定の「に」の語源
  • 断定の「に」の識別
  • 助動詞の活用形の不備
  • 例示の「ごとし」
助詞
  • 各種の助詞の機能
  • 格助詞と係助詞の違い
  • 「源氏物語」の「が」
  • 「の」は連休形で結ぶ?
  • 「が・に・を」の格・接続の識別
  • 係り結びの起源
  • 「こそ」の係り結び
  • 「なむ」の用法
  • 係助詞が文末にある特
  • 「なむ」「ぞ」「こそ」の訳し方
  • 主格を表す「が」の成立
  • 「は」と「が」の違い
  • 「ずは」か、「ずば」か
  • 「なくは」か「なくば」か
  • 係助詞の分類
  • 「し」は何助詞か
  • 準体言とは?
諸品詞・敬語・修辞
  • 形式名詞
  • コソアドの休系とは?
  • 日本語の人称代名詞
  • 連体詞の基準
  • 「いさ」の品詞
  • 「あるひは」はなぜ誤りか
  • 日本語は敬語が多い国語か
  • 敬語の複雑さの原因
  • 敬語の盛衰
  • 「犬に餌をあげる」は正しいか
  • 掛詞について
  • 日本語の文の構造
参考文献
索引

「文法を学ぶ意味」より

 まず最初の間題点は、生徒の、「なぜ文法なんかやるんだ」という疑問です。「文法なんかなくったって、学ばなくたって、ちゃんと話せるじゃないか。だから、文法なんて要らないじゃないか」と考える生徒は、もちろんたくさんいると思います。そういう生徒に対しては、こう答えたい。

 インドでは、字を知らない人のほうが多い。字を知っている人は人口の二割しかいない。十人のうち二人は字が読めるけれど、あとの八人は字が読めないという状態です。アメリカでは人口の二割が文字を読めないといわれています。では、その人たちは文字を知らなければ言語生活を営むことができないかというと、そんなことはない。現にちゃんと大人になって、いろいろな日常の会話をし、日常の生活をやっていますから、何も文字など学ばなくてもいいと考えられるでしょうか。

 しかし、すぐおわかりのように、文字が読めれば新聞を読むことができる、新聞を読むことができれば、世界の情勢に関するいろいろなデータを見て考えることができるし、内容を忘れたときにはもう一度持ち出してきてそれを見て、自分の判断を形づくることができる。もちろん本が読めることによって、物事を詳しく認識する、あるいは推理する。その材料を読むことができる。字が読めなくても日常生活ができるから、字を読む必要はないとは言えない。これは日本ではどなたでもおわかりになると思います。

 では、文法を知らなければ言語は理解できないのかという問題があります。それについてちょっと考えてみます。例えば我々が文法を習わなくても、日記を書くことはできるし、場合によれば手紙を書くことだってできる。では文法を学ぶとはどういうことか。さっきの英語の例をとってみれば、英語の文法では英語の文章を理解する時に、こういうバターンがあるということを知っていることによって、自分にとって難解な文章をちゃんと読むことができるということがある。文章を書く場合にも、そういうセンテンス・パターンを覚えていて、それに従って書けば、文法に外れない文章を書くことがかなりできるようになるということがある。だから、日本語のセンテンス・パターンを文法によって学ぶ。そして、そういうことを知った上で文を見れば、ああ、日本語の文章というのはこういうふうにできているのか、英語とはここが違うんだということがわかる。それぞれの人がそういう勉強をしていれば、文章をきちんと組み立てることができるし、人の文章をきちんと読み解くことができやすくなる。また、古文の文章を読もうとした場合、文法に従って読むとわかるというふうになり得るはずなのです。つまり文字を知れば多くの知識を正確に得られるように、文法を学ぶことで、文章の理解が確実になるわけです。

だが、殘念な事に、日本語の文法は、現代文であつても古文であつても、確立せられてをらず、文法を教へる側の國語教師も文法を信頼してゐない、それゆゑ生徒もまた、文法不信に陷つてゐる、と大野氏は書いてゐる。

參考

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