制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
公開
2017-12-03

『世界の言葉――何を學ぶべきか――』より「タミル語」

『世界の言葉――何を學ぶべきか――』
慶應義塾大學語學研究所編
昭和十八年十月十一日初版發行
昭和十九年二月十一日第二版發行
慶應出版社

大野晋の日本語とタミル語の關係に關する説はだいぶ以前に提唱されたものだが、現状、素人が應援する程度で、專門家からは積極的に支持されてゐない。當方も頭から信ずるわけにも行かぬと態度を留保してはゐるが、しかし、專門家諸氏が言ふやうなバカバカしいだけの妄説とも極附けられない。

さう思ひながらいろいろな本を眺めてゐると、たまに妙に示唆的な記述にぶつかる事がある。以下は慶應義塾大學語學研究所編『世界の言葉――何を學ぶべきか――』で見附けたもの(pp.174-175)。

ドラヴィダ語族の他語族に對する親族關係に就いては未だ學界に定説なく、種々なる假説が提出されてをり、特に語順、文の構成法から見る時は、フィノ・ウグリア語群、更に一般にウラル・アルタイ語族と著しき類似性が認められるが、ドラヴィダ語の文獻にして西暦五百年以上に遡り得るもの無く、關係各語が印度語の如く完全に研究されてゐないため今日まで決定的なる説とすべきものは存在しない。また此等のドラヴィダ語が、思想表現の形式に於て我が日本語と驚くべき類似を示してゐる事實は、歴史的親族關係を別にしても、我々にとつて極めて興味ある所といはなければならぬ。

『世界の言葉』は大東亞戰爭の最中に出版された本で、卷頭の「序」には以下のやうに書かれてゐる。

本書は大東亞並びにこれに關係ある諸方の言語を紹介し、それ等言語の概括的知識を綜合的に示すことにより、初學者に何を學ぶべきか、如何に學ぶべきかを自ら知らしめる上に便宜を與へようとするものである。

戰時下の出版物であり、當時は萬事支障なきやう時節に迎合した序文が附されるのが普通であつた。よつて、大東亞云々は名目上の決り文句に過ぎない。續く以下のくだりにある通り、本書は實質的に世界の主要な言語を網羅して解説したガイドブックである。

大東亞及びそれに直接關係ある諸地方内に話され又は學ばれてゐる言語は世界の言語の大部分を占めてゐるのである。

執筆には魚返善雄、西脇順三郎、服部四郎、矢崎源九郎、渡邊照宏、等々、當時の慶應義塾大學外國語學校教師を總動員してゐる(渡邊を除く)。タミル語の紹介・解説を擔當したのは井筒俊彦である。