制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
初出
當サイトオリジナル記事
イーエスブックスみんなの書店「書肆言葉言葉言葉」より一部轉載
公開
2001-06-19
改訂
2018-02-21

『我々だけの自衞隊』

惹句

多くの部隊を訪ねて、自衞官の本音を實名で紹介

自衞隊を我々だけの軍隊として、なぜ處遇しないのか。その六年餘におよぶ交遊を振り返り、いんちき軍事評論家が跋扈するのは自衞隊の知的怠惰でもあると、自衞隊に媚びず、自衞隊のために辯ずる、類例のない國防論。

目次

  1. 軍隊を虚假にする馬鹿
  2. 掃海艇派遣は商賣である
  3. 負け犬根性を捨てよ
  4. 軍隊がなぜ必要か
  5. 陸上自衞隊富士學校
  6. 航空自衞隊第三航空團
  7. 航空自衞隊熊谷基地
  8. 航空自衞隊航空救難團
  9. 陸上自衞隊富士教導團
  10. 航空自衞隊第十七警戒群
  11. 海上自衞隊第二航空群
  12. アメリカと戰ふのか

内容紹介

最近になつて、自衞隊の活動が一般に「容認」されて來た。しかし、本當に我々は自衞隊の事を知つてゐると言へるだらうか。あなたは自衞官と、話をした事があるだらうか。國防問題や政治問題について、語りあつた事があるだらうか。文藝評論家である著者は、「政治の爲の道具」としてではなく、同じ人間として自衞隊と附合ひ、その實態を描き出す。防衞白書や兵器カタログの數字からはわからない、現實の自衞隊を知りたい人に、一讀をおすすめする。


松原氏は自衞隊と長年附合つた日本で唯一の批評家である。多くの部隊を訪ねて行つても、自衞官が隱せば眞の自衞隊の姿は明かにはならない。しかし松原氏は自衞隊と本氣で附合つた。氏は、自衞隊自身の知的怠惰をも批判する。さう云ふ氏を信頼するから、自衞官は自分達の本當の姿を見せる。

自衞隊は日本で冷遇されてゐる。左翼には「税金の無駄使ひ」と非難され、右翼には「自衞隊では日本を守れない」と嘆かれる。だが、自衞隊が訓練をするのにさへ苦勞してゐる事實を、自衞隊を批判する手合は知らない。その結果として自衞隊の訓練は「戰爭ごつこ」にしかならない。にもかかはらず、「戰爭ごつこ」を自衞隊は眞劍に行ふのである。その哀れを、左翼はいざ知らず、右翼ですら氣にしない。日本人に、我々だけの自衞隊を本氣で愛する者はゐないのか。

自衞隊の實情を知らないから、自衞隊や國防問題に就いて日本人は右も左も好き勝手を言ふ。もつと「我々だけの自衞隊」である事を、我々は意識すべきである。自衞隊の事を、他人事みたいに考へてはいけない。そして、自衞隊も、自分たちの本當の姿を國民に見せて、國民を説得する努力をしなければならない。


「反米」を主張する右翼・保守派の人々は、本書の最後の章で示されたアメリカと戰ふのかと云ふ問ひかけについて、是非とも眞面目に考へて貰ひたい。

アメリカをなめてはいけない。アメリカと戰へば、日本は再び負ける。だから日本はアメリカに逆らつてはならない。

――政治が當座、國民を生延びさせる事であるならば、我々は「負ける戰」を判つてゐて仕掛けるべきではない。もちろん、我々に何うしても讓れない正義があるならば、戰はなければならない時はある。が、我々日本人に「何うしても讓れない正義」の類は存在するか。「反米保守」の人々はそれを決して考へない。

先づ生きてゐなければ、人は道徳的に生きる事も出來ないのであつて、だから國家は國民の生命を守らなければならない。道徳は大事であるが、政治も大事である。それゆゑ軍隊もまた必要である。だが同時に軍人もまた人間なのであつて、人間ならば個人として道徳的に生きねばならない。

斯うした葛藤までも念頭において、松原氏は防衛の問題を論じてゐる。氏が評論家として「異色」と言はれる所以である。