漢字の神話は、発行後数ヵ月で発行所が倒産したため、わずか数千部を刊行しただけで廃刊になってしまいました。しかし、当時、かなり話題になるほど好評を得ていましたので、再刊を望む声も少くなく、著者としてもその気持が強かったのですが、その後新しい仕事に追われ、実現できないでいました。
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國語は実に何千年の歴史につながる民族の生命であり生き物である。吾等は之によって近代國家を形成し先進國に伍した。
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この本の著者は、戦後の國語問題の混迷のさなかに、信念によって、特に小學校の國語教育に挺身され、漢字で出来た言葉は、最初から漢字で教へる教育を実行された。私はその見識に尊敬の念を抱いてゐる。
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漢字は難しいといふ論がある。私は世界の文化語、例へば英語やフランス語の綴りに比べて、特に難しいとは思はない。併し難しからうが易しからうが、必要なものは覺えなければならないのである。
しかし従来、漢字の学習法に関しては見るべき研究もなく、進歩もなかった。是を遺憾として、著者は本書を著して体系的な学習法を発表されたのである。ここにいふ体系的学習法とは、漢字をその構成要素に分解し、分類して、それぞれの基本的意味を明かにし、漢字を連繋させて証明することによって、記憶に便利なやうにまとめたものである。その内容は、近来進歩した漢字の原始形や原始義に関する研究に負ふところがあるが、著者独自の研究も多く含まれる。従って多少の問題もあらうが、要するに記憶に役立ち、未知の文字への手懸りを与へるのが主眼なのである。但し当用漢字の新自体が、この効果を十分に発揮し活用することを妨げてゐる点のあるのを私は遺憾に思ふ。
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