福田恆存が推薦文を寄せてゐる。
日本人は、概して保守的な民族なのですが、「ことば」の問題となると、奇妙に進歩的になる。おそらく、だれもが、日本語に対して、多かれ少なかれ劣等感を抱いてゐるからでせう。そのため、「大衆のため」「子どものため」と称しては、不合理な表記法改革をする。何のことはない、「子ども」「大衆」といふかくれみのをつけた、劣等感の育成にすぎません。こんなへっぴり腰の教育観で、子どもを教育してゐるのが現状です。最近、水道方式とか、プログラム学習とか、学習の能率化が、世の母親の間に大はやりといふのも、こんなことが原因なのでせう。でも、私なら、さういふ学習方法以前の問題として、学習の基本となる国語教育に、効果が証明ずみの石井さんの漢字学習法をお勧めします。はるかによい成績がをさめられるでせう。幸ひ、本書には、個々の漢字の教へ方まで、親切に書かれてをります。母親の最もよい手引となることは疑ひありません。(歴史的かなづかひによる)
ほかに大岡昇平と宇野精一の推薦文がある。
いままで、むずかしい漢字というと、字画の多い、字形の複雑な漢字がそうだと考えられていました。したがって、やさしい漢字というのは、字画の少ない、かんたんな字形の漢字ということになっていました。しかし、これは、すでに申しあげましたように、だれでもそう考えやすいことではありますが、まったくちがっています。
子どもの生活に、もっとも縁の深いもの、子どものもっとも興味や関心をもつものを表わした漢字が、字画に関係なくよく覚えます。しかも、この点に同じ条件であるなら、字形の複雑なもののほうが、覚えやすいようにさえ思われます。