喜劇三幕五場。自らは何者かであらうとし、何者かにならうとする男しか愛せない――と云ふ、そんな億萬長者夫人が主人公の喜劇。
題名はショーの戲曲から。
ところで、この『億萬長者夫人』といふのは同題のバーナード・ショーの作品から凡その筋を借りたものである。しかし、主題は勿論、人物の性格など全く私の創作であり、その點、『解つてたまるか!』が現實の事件に大體の筋書を借りてゐながら、やはり主題、性格など全く私自身のものであるのと同樣である。實は兩者共、筋も最後に近附けば近附く程、元と違つて來る。殊に幕切れにおいてそれが顕著である。そこに私の主題や性格が現れてゐるからである。『解つてたまるか!』を單に文化人批判の風刺劇と見られるのは甚だ迷惑である。ここに登場する文化人はその爲にのみ風刺劇を書くに値しない。
福田の戲曲にしては珍しく、誰も死なず、誰も氣が狂はない(怪我人は出る)。落ちも氣が利いてゐる。しかし、それだけに、却つて現代的な「悲劇」なのかも知れない。