公開
2006-02-27

福田恆存『一族再會』

喜劇一幕。題名は言ふまでもなくT.S.エリオットの同題の御芝居から。「文學界」昭和三十二年七月號に掲載。以下は「新劇」昭和三十三年臨時増刊號に再録された時の解説。

「文学界」昭和三十一年五月発表。

作者は昭和二十三年、奇しくも三島氏と同年に劇作家のスタートを『最後の切札』で始め、『竜を撫でた男』の傑作を代表に、数々の戯曲を発表している。批評家でもある彼は「戯曲は行動する形式」と規定した。従って、読者は作者の方式を逆行し、戯曲の分析綜合に依り、作者の観念を把握しえる。観客は俳優の行動を媒体として二重の操作を強いられる。『一族再会』はその意味で恰好な材料だ。即ち楽二・ゆり子、五郎・文子の平行的二平面間に、楽ニ―文子、ゆり子―五郎と対応させ、四極間に一立方体、戯曲的空間を構成し、耳飾りを触媒に、一族再会に発展し、幕開き状況に戻るという、四極の順列租合せ的状況の変遷過程に作者の観念が析出させる。本誌中で、所謂シチュエーション・ドラマ(状況劇)と呼びうる唯一の作だ。然し文体が、状況変化の知的面白さ程の魅力は無く、人物を活かしきってはいない。俳優の存在性が薄いのである。

參考