公開
2003-12-08
最終改訂
2006-06-09

福田恆存『現代の英雄』

敗戰後、潰れかけた上場企業の社長が、起死囘生を期して大手企業相手に打つ大博奕を描く。主人公の言ふ大言壯語や我が儘を、周圍の人間は、信用出來ないし迷惑だとも思ひつゝ、完全に否定し切れない。結局「博奕」は失敗し、主人公の社長は破滅する。それに卷込まれる人間が出るものの、誰も主人公を恨めない。

福田氏の一聯の喜劇には狂人が續出するが、この御芝居の主人公・浪花梅吉は「古いタイプ」の「常識的」な日本人で、福田氏の喜劇における主要な登場人物としては極めて例外的。近代以前の存在である「俗惡」な浪花が、現代の時流に乘れず、「英雄」として沒落して行く悲劇を描いたのがこの「現代の英雄」と云ふ喜劇である。

「現代的な存在」として狂人を登場させてきた福田氏だが、この御芝居では税務署員の墨田と云ふ男を登場させてゐる。墨田は毎日正確に同じ時刻に現はれ、全く同じ作業を繰返し、無言で立ち去つて行く。「古いタイプ」の浪花その他の人物と對照的な「現代人」である。

參考