太宰治全集第十一卷より

書簡

四百九十三

 拝復 泣きながらの(バカダネ)御手紙拝誦。原稿も拝見。いいところもありますから、あれを京都市東山区、新門前梅本町、「東西」編輯所の貴司山治氏にお渡しなさい。貴司さんには、私から君のことを言つて置きましたから。貴司さんとは私は逢つた事が無いけれども、安心できる人物のやうです。このごろ妙な事から、貴司さんと私と文通するやうになつたのです。なほまた原稿の事だけでなく、その他、生活の事でも貴司さんに何でも相談してみるとよろしい。親切にやつてくれると思ひます。また「東西」編輯所を中心とした芸術家のグループも、上品でのんきな人ばかりらしいから、きつとその中から君の話相手も見つかると思ふ。原稿は今日、別封書留速達で君あてに送りましたから、なほ誤字脱字など直しなさい。貴司さんと逢つても、かたくならず、太宰の失敗談など知らせて笑はせてやりなさい。

不一。