太宰治全集第11卷より

書簡

四百九十

 拜啓 その後も高田で御元氣の樣子、心強く存じます。「文藝冊子」は、東京の民主主義踊りの新型便乗(ニガニガしき限りなり)などより、どんなに高級かわかりません。内山泰信先生の女談、痛快でした。名僧智識の如し。偉い坊主だ。「唇寒し」朝鮮人に遠慮せぬところ、これまた痛快。私はこのごろ保守派になつてゐるのです。

「桜の園」を忘れる事が出來ません。いま最も勇氣のある態度は保守だと思ひます。私はバカ正直ですから、態度をアイマイにしてゐる事が出來ません。私は、今度は社會主義者どもと、戰ふつもり。まさか反動(ファッショ)ではありませんが、しかし、あくまでも天皇陛下萬歳で行くつもりです。それが本當の自由思想。

不一。