太宰治全集第十一卷より

書簡

四百八十五

 拝復 ただいまはありがたうございました。御元気の御様子、何よりでした。私は東京でマゴマゴしてゐるうちに、三鷹の家はバクダンでこはされ、甲府の女房の実家に逃げて行つたら、ここはまた焼夷弾で丸焼けになり、仕方なくこちらへまゐりましたら、すぐ終戦。ただいまは冬将軍の来襲で、ユウウツこの上ありません。五月頃までには、小田原の下曽我あたりにでも住み着きたいなど空想してゐますが、家は無いでせうね。それとなく、心掛けて置いて下さいまし。このごろはまた文壇は新型便乗、ニガニガしき事かぎりなく、この悪傾向ともまた大いに戦ひたいと思つてゐます。私は何でも、時を得顔のものに反対するのです。原稿、とてもしめきり迄には間に合ひさうもなく、春にして下さい。編韓部の方へも、あやまりのハガキ出しました。どうかそちらお大事に。

不一。