制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
公開
2001-01-14
改訂
2001-09-08

「論理的」なマーク附けと「物理的」なマーク附け

HTMLの理念に關する議論。

マークアップとは何か

HTMLとはHyperText Markup Languageの略である。我々は簡單に「マークアップ言語」と言ふ。しかし、テキストをどのやうにマークアップする事が正しいマークアップであるかについては意見がわかれる。

「物理マークアップ」と「論理マークアップ」

圖式的に解り易い事もあり、一般には「物理マークアップ」と「論理マークアップ」と云ふ二つの「マークアップ」のやり方がある、と單純化されて理解されてゐる。「物理マークアップ」「論理マークアップ」と云ふ言ひ方は、さう言はなければならない譯ではないし、さう云ふ用語が規格化されてゐる譯でもないのだが、大體さう言へば世間では通じるので、便宜上ここではさう呼ぶ。

この兩者の確執(?)はかなり以前から存在する。しかし一般には昨今(2000年春から夏にかけて)の「スタイルシート論爭」によつて認知されたのだと思はれる。

「物理マークアップ」

メーカが基本的なスタイルをブラウザに實裝し、ウェブ制作者はブラウザのスタイルをダイレクトに呼出す「タグ」をHTMLに記述する、と云ふマークアップの仕方を俗に(或は野嵜はここで)「物理マークアップ」と呼ぶ。

例へば、強調したい文字列を「fontタグ」で赤く表示させて目立たせ、段組を行ひたい文章をtableで整形する、と云ふやり方である。

このやうな、ブラウザのスタイルとタグの記述を一對一對應させる「マークアップ」のやり方(或は思想)を、俗に「物理マークアップ」と呼ぶ。もつともこれは「論理マークアップ」に對する言ひ方である。

「物理マークアップ」の概要は以下の通り。

「物理マークアップ」には幾つも缺陷がある。

ただし、正しく「論理マークアップ」(後述)がなされた上で、補助的に用ゐられるのならば、屡々有益であるとされる。

もつとも、本來完全である筈のブラウザのデフォルトスタイルが時として完全でない爲、「物理マークアップ」を使用せざるを得ない、と云ふのが現状である。將來、XHTMLでは多くの「物理マークアップ」用の要素が破毀される。

「とほほマークアップ」

これは「物理マークアップ」の特殊な「進化」例である。上記の「物理マークアップ」と似てゐるが、さらに急進的な「マークアップ」法である。俗に(或は野嵜はここで)「とほほマークアップ」と呼ぶ。

例へば、ul、ol、dlやblockquoteを「インデント」の爲に用ゐたり、tableを段組等を行ふ目的で用ゐたりするやり方である。

概要は以下の通り。

メリットは無い譯ではない。

その爲、多くのサイトがこの「とほほなマークアップ」を用ゐてゐる。

デメリットは勿論存在する。

文章とは、人間が渾沌とした思考を整理し、意識的に再構築した結果である。文章の構造を明示し、制作者の意嚮をより明確に表現する事は、人間が文章を書く目的に適つてゐる。HTMLはさう云ふ目的に叶ふやう、仕樣が決められてゐる。

「とほほなマークアップ」はさう云ふHTMLの目的を否定する。結果として、人間が文章を書くと云ふ行爲自體をも否定してゐると言へる。

「論理マークアップ」

ウェブ制作者が、文書の或部分の意味をダイレクトに明示するマークアップの仕方を俗に(或は野嵜はここで)「論理マークアップ」と呼ぶ。

例へば、或文字列を強調したいからem要素として、或文章が段落であるからp要素として、或段落が引用であるからblockquote要素としてマークアップする、と云ふやり方である。

「論理マークアップ」の利點は、以下の通り。

ブラウザは全て、完全なデフォルトスタイルシートを持つ事が期待されてゐる。言換へれば、レンダリング制御の爲の要素を一切使つてをらず、文書構成上の機能的意味に基いた要素のみを使用したHTML文書を、全てのブラウザは完全に整形しなければならない。

W3CHTMLの抽象化を進める一方で、User AgentのレンダリングエンジンにHTMLの整形に關する指示を出す「スタイルシート」の概念を提唱、具體的にはCascading Style Sheetsを勸告してゐる。スタイルシートは、User AgentとHTML文書の間に挟まるクッションの役割を果す。

XHTMLの理念

W3CはXHTML 1.0を2000年1月26日に勸告した。W3CはXHTML 1.0で、SGMLベースであつた從來のHTMLを、改めてXMLベースで再定義してゐる。

即ち、XHTML準據の文書はXML文書となる。その結果、幾つかのメリットが生ずる。プログラム處理上のメリットは以下の通り。

同時に、「空要素」と云ふマークアップに於る矛盾を解消してゐる。(別項)

XHTML 1.0の仕樣は以下の通り。

但し、XHTML 1.0はHTML 4.01の方針をそのまま生かしてをり、基本的に「物理マークアップ」も「論理マークアップ」も並行して殘されてゐる。

將來のHTML

W3Cは2001年春現在、XHTMLの次ヴァージョンである1.1を勸告してゐない。が、既に仕樣のドラフトを公開してゐる。ドラフトには將來HTMLの進化すべき方向が示されてゐる。

豫定されてゐるXHTML 1.1の大雜把な内容は以下の通り。

XHTML 1.1では、HTMLの見榮えを特定のブラウザに直接指示する「物理マークアップ」の爲の要素が大量に破棄される。center、font、frame Frameset、iframe、isindex、menu、noframes、object、s、strike、uと云つた要素がUnsupportedとなる。また、幾つかの要素のalign屬性やheight、width屬性の一部が變更となる。

XHTML 1.1は、文書構造上の(或は、文書に於る機能を直接指示する)要素のみを認める。さう云つた要素のみによつてマークアップされたHTML文書を、User Agentはスタイルシートを使つて適切に整形し、クライアントプログラムはデフォルトの擧動によつて適切に處理する筈である。

解説

ウェブの歴史の中で、HTMLの多くの要素が「文書の中での機能」を表はすやうに定められてきた。HTMLの規格化を通して、W3C等の規格化團體は意識的に各要素及び文書フォーマットを再定義し、ウェブ用文書の進化をはからうとしてゐる。

言葉を用ゐて文書を作成する事、或文書をマークアップと云ふ作業によつてHTML文書に仕立て上げる事は、全て意識的な行爲である。HTMLの規格化とは、文書を記述する意識的な行爲を反省し、改めて再意識化するものである。