「無料ホームページ」と言つて、ユーザにサーヴァのスペースを提供してゐるホスティングサーヴィスがあります。Yahoo!ジオシティーズや無料ホームページ作成 レンタルサーバー - infoseek iswebが有名です。ほかにもいろいろあります。
この手の「無料サーヴィス」は皆、廣告收入でサーヴィスを維持してゐます。それで儲かつてゐるのかどうかは知りません。が、この「廣告收入」を得る爲に、ユーザが文書をFTPでサーヴァに置くと、サーヴィス提供者は廣告をブラウザに表示させる爲の記述をその文書に挿入します。
サーヴィス提供者側の説明では一般に、廣告表示に關して「制作者がHTML文書を記述する際には全く氣にする事はない」と云ふ事になつてゐます。
しかし「正しいHTML文書」を公開するポリシーを持つサイト制作者は、さう云ふ説明を鵜呑みにしてはいけません。
制作者は、「制作者によるHTMLの記述と、實際にサーヴァからローカルに送出されるHTML文書とが異るものになる」と云ふ點に注意して、HTML文書を記述しなければなりません。と言ふか、HTML文書の本文ではなく、DOCTYPE宣言の部分の記述ですが。
無料サーヴァは、HTML文書をローカルに送る際、文書の冒頭や末尾に廣告を表示する爲の記述を追加します。その爲、サイト公開時には必ず、制作者の意圖しないコードがHTML文書に入り込みます。
ですから、制作者はサーヴァの挿入する廣告表示に關するコードを考慮する必要があります。具體的には、いかなる文書型(DOCTYPE)宣言が適切かを考慮しなければなりません。制作者がHTML 4.01 Strict準據の積りで書いたHTML文書も、バナー廣告が入つた瞬間にHTML 4.01 Transitional準據のものとなるかも知れません。
文書型宣言でHTML 4.01 Strictを宣言しても、そのHTML文書はせいぜいHTML 4.01 Transitionalの文書にしかなりません。無料サーヴァを利用する際には、HTML 4.01 Strictの宣言をしても、結果として「嘘吐き」と云ふ事になり兼ねません。
サーヴァがユーザの文書に插入する「バナー廣告に關する記述」は、HTMLの觀點から見ると不正なものである事が多いやうです。サーヴィス提供者側はHTMLに關して無知である事が極めて多く、時として「正しいHTML」の概念そのものを否定するやうな思想を持つてゐる事があります。廣告を「殺す」ユーザへの對策で「異常な記述」をせざるを得ない場合もあり、一概にサーヴィス提供者を非難できる訣ではないのですが、大雜把な傾向として「サーヴィス提供者は多くの場合、不正なHTML文書を結果として送出してしまふやうにサーヴァを設定する事が多い」と言へると思ひます。
「正しいHTML」を志向する制作者にとつて、この手のバナー廣告の存在は、頭の痛い存在です。無料サーヴァで「正しいHTML文書」を公開する事は不可能であると、制作者は諦めるしかありません。ユーザの要望があつても、サーヴィス提供者が頑に「不正な記述」の插入に固執した、と云ふ事例もあるやうです。
正しいやり方でバナー廣告を表示させたいユーザは、サーヴィス提供者もそれなりの手段を提供してくれれば良いと思ひます。
しかし、サーヴィス提供者の側が、正式のやり方でサーヴィスを利用してゐるユーザと、不正なやり方でサーヴィスを利用してゐるユーザを一々區別する事が出來ないからです。
現實問題として、無料サーヴィスの提供者は儲かつてゐません。儲からないので、サーヴィスの質をぎりぎりにまで下げ、コストを削減してゐます。だから、ユーザの質をサーヴィス提供者が一々チェックする事など出來ません。提供者側としては、最低レヴェルのユーザを想定して、サーヴィスを提供します。
サーヴィス提供者が、「正しいHTML」について偏見を持つてゐる場合は何うしやうもありませんが、きちんとした理解を持つてゐる場合にも現實問題として對應し切れない事が考へられます。バナー廣告に關しては「どうにもならない」と云ふ風に考へておくのは仕方がない事でせう。
正しい記述をし、正しいやり方でバナーを表示させてゐるユーザの爲に、正しいコードを提供する、專門の無料サーヴィスがあれば、實にありがたいとは思はれます。しかしながら、さう云ふ「正しいサーヴィス」に、正しいやり方を志向するユーザが集まるのも、或意味危險です。そのサーヴィスが倒れると、全員が共倒れになるからです。
要するに、どうする事も出來ない訣です。ただ「正しい事は存在すべきである」と云ふ信念だけは捨ててはならないと思ひます。「實現不可能である」事は「その理想が間違つてゐる」事の證據にはなりません。世の中をより良いものにするのは、より良いものを求める精神だけです。理想主義者は現實に妥協こそすれ、現實追隨主義者みたいに現實に屈服する事はありません。
當座、「バナー廣告の記述が插入される事を見込んで、HTML文書のDOCTYPE宣言でHTML 4.01 Transitionalの宣言をしておく」と云ふ「テクニック」が屡々利用されて來ました。實際には、插入される記述に據つて文書がどのDTDに適合するやうになるかは、事前に判斷が出來ません。
HTML 4.01 Transitionalレヴェルでも不適合となり、全體として不正なHTML文書になるのは良くある事です。が、サーヴァ管理者の都合や考への變化、その他の事情により、插入される記述は變化します。その全ての變化を豫想出來るユーザは、この世に存在しないでせう。「HTML 4.01 Transitionalの宣言をしておく」事は、飽くまで「當座」の「テクニック」に過ぎません。
敢てサーヴァに據つて插入される既述を無視して、制作者の意圖した文書の形態に基いて、宣言を書いておく、と云ふのも、制作者の見識の一つです。が、大概の場合、それは結果として「嘘吐き」になります。
「嘘吐き」として非難されるリスクを背負ひ込むか、非難されない爲にさうした不正な記述の插入されないサーヴィスに移るかは、制作者の都合で決定して下さい。
實際のところ、どのウェブサーヴァの管理者にも、サーヴァに置かれたHTML文書を送出する時、何らかの記述を紛れ込ませる事は可能です。その點、有料サーヴィスと無料サーヴィスとで違ひがあるものではありません。無料サーヴァではユーザに最初から「バナー廣告の記述を插入するよ」と豫告され、その通り、實踐されてゐる、と云ふだけの事でしかありません。