制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
公開
2002-01-03

「自動化」のデメリット

多くのウェブサイト運営者は、サイトを運営してゐるうちに手慣れてきて、CGIなどでダイナミックにサイトの内容を生成するやうになります。リンク集、データベース、ショッピングモール、ウェブ日記……。

しかし、さういふ「サイトの自動化」は、制作者の手間は減らすものの、閲覧者の手間を増やしてしまふものです。

事例・高原書店

高原書店は2001年になつて、リアルワールドでの店舗展開を縮小し、ウェブに「主戦場」を移すことにしました。BOOK OFFなどの大規模リサイクル古書店の攻勢に押されたためです。

ところが、ウェブの高原書店は、以前よりも、大分使ひづらくなつてしまひました。

以前の高原書店は、古書目録をテーマ別に、個別のHTML文書に編集して、公開してゐました。閲覧者は、整頓されたメニューから辿っていけば、在庫を確認できました。目的の本がなくても、「ウィンドウショッピング」感覚で、閲覧者は欲しい本を見つけ出せました。

現在、閲覧者は、フォームにキーワードを入れてデータベースを検索できるやうになつてゐます。なるほど、これは「便利」になつたとは言へます。しかし、CGIの検索には時間がかかります。何件かづつに出力件数が抑制されてゐるので、「次のページ」をロードするたびに待たされます。

また、従来のやうに、分野別にデータは分類されてゐます。しかし、それぞれの分野を選ぶと、CGIがデータを検索しにいきます。再び閲覧者は、待たされます。

仕様の変更された高原書店で、私は「古本屋の棚を見る」楽しみを失ひました。もつと早く検索ができれば、今の方式はそれ程悪いものではありません。しかし、CGIによる検索には、時間がかかります。今の高原書店の方式では、本を探しに行つた時も、漫然と在庫目録を眺めに行つた時も、CGIが検索をするたびに、一々待たされます。

特に切実な目的のない閲覧者は、「待たされる」検索を我慢して使ふ気にはなりません。目的のある閲覧者も、「待たされる」といふことが心理的なバリアとなつて、高原書店を使はなくなりかねません。

高原書店は、古書情報データベースを以前より拡大させました。それによつてサーヴィスを向上させようとしたのですが、逆に使ひ勝手を低下させてしまひました。今後、さらにデータを充実させて、閲覧者にアピールしてくるでせうが、良い結果を生むのかどうか、心配なところです。

事例・Yahoo!

個人サイト等で、リンク集をCGI化してゐるところがあります。閲覧者がリンク集にアクセスすると、サーヴァでCGIが一々ダイナミックにリソースを生成して、送出してゐるといふケースも多いやうです。これでは、十分なスピードを出せません。

有名な話ですが、Yahoo!/Yahoo! JAPANは、サイトの情報をデータベースで管理してゐるものの、閲覧者のアクセスするHTML文書は、定期的にデータベースから書出してstaticな状態にしてあるといふことです。

Yahoo!/Yahoo! JAPANに登録されてゐるサイトは、必ずしも良質である訳ではありません。しかし、とにもかくにも、ある程度実用になる早さで情報を得られるため、閲覧者はYahoo!/Yahoo! JAPANを便利に使ひます。質より量といつた感じのサイトになりつつあるYahoo!/Yahoo! JAPANですが、それでも今のスピードを維持しつづける限り、ユーザは離れていかないでせう。

一方で、Yahoo!掲示板は、以前、CGIが極端に遅くなり、ユーザが暴動を起しかけたことがあります。投稿が受附けられない、メッセージを読みにいつてもなかなか表示されない、などの不具合が数週間にわたつて続き、多くのユーザが不平を述べました。苦情のメールを送つたユーザも、かなりの数、ゐたやうです。

その後、Yahoo!掲示板は仕様を変更し、使ひ勝手を改善してゐます。しかし、掲示板サーヴィスは、CGIに依存せざるをえないため、どうにもならないところはあるやうです。

自動化と手間

多くのサイト運営者・制作者は、サイトの情報量が増えたために、データを管理する必要上、自動化の道を選択します。

いはば、制作者側の都合で、サイトの作りを変へる訳です。しかし、多くの場合、制作者が楽になる代りに、閲覧者はとまどふやうになります。サイトの情報量が以前よりも増えても、閲覧者が情報を得るのにかける手間は以前と同じになるやうにしておかなければなりませんが、多くの制作者は、そこまで考へてゐません。

ウェブサイトの自動化が、閲覧者の負担となるやうではいけません。

制作者がきちんと「必要な苦労」をすればするほど、閲覧者の負担は減る傾向があります。制作者がプログラムやスクリプトに依存すれば、そのつけが閲覧者にまはされます。いまのところ、ウェブ制作者・サイト運営者は、楽をしようとしないで、毎日、工夫をし続ける必要があります。