月明りに照らされた草原に、人形のような赤い着物の少女が一人立っている。
いや違う。赤い着物などではなかった。白装束の下の清浄な体には無数の傷が付けられていた。全身から流れ出る鮮血に染まっていたのだ。
少女の顔は蒼白で、もはや死は確実であった。しかし気丈にも──というよりはもはや気力のみによって──彼女は立ち続けている。
少女はゆっくりと宙に手を差し伸べた。空に輝く星々を見上げる瞳には、もはや何も映ってはいない。
「さらば、愛しき星たちよ……」
その口から、呪詛の文句が静かに流れ出た。
「われは逝く──だが、われは復讐を望まんとす。このわが身を代償に。わが母なる一族に禍あれ!」
高らかに叫ぶと、少女は草の上に倒れた。月の光が少女を照らす。
次第に辺りからざわめきが起りはじめた。互に囁きを交わしながら、人々が少女の死体の周りに集ってくる。