オブジェクト指向は、現在のコンピュータの世界における潮流(トレンド)である。OSやアプリケーションの設計において一般化し、プログラミング全般で推進されてゐる。例へば、PCに於るOSは、DOSからWindowsに移行し、デヴァイスやリソースの抽象化が進みつつある。
W3CはHTML 4.0以降、オブジェクト指向に基いた形でHTMLを再定義してゐる。「Strict」と呼ばれるHTMLでは、要素の抽象化が推進されてゐる。HTMLとCSSの分離は、「構造と見榮えの分離」と稱されるが、寧ろ、抽象化・オブジェクト化されたHTMLと、ユーザインタフェイスの分離であると言つて良い。
直接ブラウザのレンダリング機能を操作する、HTML 3.2以降公式に認められた「物理マークアップ」が、屡々HTMLソースの混亂を惹起し、可讀性を損ねてゐるばかりでなく、HTML文書を記述しづらいものとしてゐる事實は指摘されてゐる。
HTML 2.0が、HTML文書の出力・整形に關して特に考慮された規格でなかつた事は確かである。HTMLの記述で直接レンダラを制御する方式が一般化したのも、當然と云へば當然であつたとは言へる。DOS時代には機能の低いDOSに代つてアプリケーションが直接ハードウェアを制御したものであるが、ウェブでも同じ傾向が出現したのである。
本來のHTMLの規格は、記述し易く、見易いソースを記述出來るやうなものであつた。それは無自覺に定められたもので、原始的ながら自然なものであつた。HTML 4.01 Strictに適合するHTML文書とHTML 2.0の文書が類似するのは、偶然に過ぎない。しかし、無意識のうちに作り上げられた規格であるHTML 2.0に、より自然な形でHTMLを記述する爲の規格であるHTML 4.01 Strictが結果として似たものとなつた事は、「Strict」なHTMLが自然なものであり、正しい性格のものである事を證明してゐると言へよう。
さて、現在の高速化され、オブジェクト指向化されたコンピュータシステム環境で、HTMLのオブジェクト指向化を進める事には、以下のやうな利點がある。
HTML文書の記述をする際には、出力結果を一切考慮する必要が無い。或は、考へたまま自然に文書をマークアップする事で、すぐに公開可能なHTML文書を記述・制作出來る。
個々の文書にかかる手間が減る爲、情報の更新頻度を上げる事が出來る。
オブジェクト化の最大のメリットが、實績のあるパーツを再利用可能であると云ふ事である。
文書を論理的にマークアップする事は、極めて容易なので間違ひも少く、また文書自體の誤りも發見し易い。さらに、豫めスタイルシートを用意しておく事で全ての文書で共通したデザインを使用する事が出來、見榮えに關して一々の文書で試行錯誤する必要がなくなる。試行錯誤の囘數が減る事は、エラーを發生させる機會を減らすのに役立つ。
「物理マークアップ」では同じやうな表現をしたい場合でも、毎囘一から記述する必要がある爲、エラー發生の機會が多くなる。また、個々の文書やサイト全體で、デザインを統一する事が不可能となる。情報の修正も困難である。また、マークアップ自體で意味を示す事が出來ない爲、誤讀や曲解の誘發を阻止出來ない。
抽象化された意圖、オブジェクト指向化された記述の再利用により、HTML文書の保守(メンテナンス)を最小限に出來る。
オブジェクト指向化されたStrictなHTMLでは、閲覽環境の變化に限らず、表示スタイルの變更は豫期されてゐる。必要に應じて表示に關するモジュールであるスタイルシートを交換すれば、HTML自體を更新する事なしに、HTMLの表示を變更出來る。
論理的なマークアップによつてデータのカプセル化を行ふ事は、Perlのやうなテキスト操作ツールによる機械的で全體的な更新を行つたり、HTML自體がSGMLアプリケーションである事を利用したデータベース的な處理を行つたりする際に、極めて有利である。「物理マークアップ」のなされた混亂したソースは、一括置換處理も、データを對象にした集計處理も不可能である。
HTML 4.0(4.01)以降のHTMLでは、各國語サポートが本格的に行はれてゐる。
現状、縱書きは「物理マークアップ」を驅使して擬似的に實現されてゐる。さうした「裏技」的な手法が、HTML文書の再利用を阻害し、特定のレンダラに依存してしまふ缺點は屡々指摘される。
しかし、今後の國際化對應HTMLでは、HTML(或はその要素)に「縱書き」の指定をするだけで、縱書きのレンダリングを指示する事が出來るやうになる。データの再利用が出來、特定のレンダラに依存せず廣汎な環境に對應出來ると云ふ點で、論理的でオブジェクト指向的なマークアップはすぐれてゐると言へる。
また、オブジェクト指向的には、HTML文書の文字コードを明記する事が求められる。全てのHTML文書で文字コードが明記されれば、各國語で記述されたHTML文書間を行き來する際の文字化けが解消される。ただし、文字コードの指定は原則としてhttpヘッダでなされるべきものであり、HTML文書のhead要素内にmeta要素の屬性として埋め込まれるのはイレギュラーであると言はざるを得ない。
本質的にデータベース記述言語であるSGML/XMLの仕樣に基いてHTMLの記述を行ふ事は、HTMLに基いて構築されてゐるウェブを巨大データベースとして再生する事に繋がる。
同時に、關聯データの論理的なグループ化や文書間での要素・クラスの共用は、サイト全體或はサイト間でのデータの整合性・一貫性確保に有用である。
シンプルな本來のHTMLと、論理マークアップのみによつて記述されたオブジェクト指向化されたHTML(StrictなHTML)とは基本的に互換性がある。最新の仕樣であるXHTML 1.0 Strictで記述されたHTML文書であつても、オブジェクト指向的に正しくマークアップされてゐるならば、その文書はMosaicやlynxと云つたレガシーなユーザエージェントで閲覽する事が十分可能である。
「物理マークアップ」に依存したMozillaClassic系のブラウザでも、閲覽者は最新の仕樣に基いたHTML文書を、内容を誤解する事なく讀む事が出來る。スタイルシート解釋に問題を抱へてゐるNetscape Navigator 4.xであつても、完成度の低いスタイルシート機能をオフにする事で、必要な情報を正確に得る事が可能となる。
W3Cのオブジェクト指向に基いたHTMLの規格は、ウェブサイト制作者の生産性・HTML文書の品質、ウェブの即時性・速報性を高める。これは商業サイトや學術サイトに限らず、一般のサイトにも當嵌る。ただし、規格としての「Strict」なHTMLの仕樣に適合するからといつて、その文書がオブジェクト指向的な文書となつてゐるとは斷定出來ない。重要なのは、論理マークアップの爲のタグセットを機械的に用ゐる事ではなく、文書を論理的にマークアップする事である。
CSSの解釋に優れたInternet Explorer 4/5が市場の八割のシェアを占有し、またMozilla.orgが次世代ブラウザであるMozilla Browser(Seamonkey)の實用化に向け、着々と開發を進めてゐる事實がある。斯る現状を見る時、HTMLのオブジェクト化は急務と言つて良い。
レガシーな物理マークアップに基いたHTMLに固執するのは、ウェブの進歩を止め、ウェブに停滯を齎す事にほかならない。DOS時代「Windowsは非現實的」と言はれながら、現在Windowsが主流となつてゐる事實を見れば、HTMLのオブジェクト化、Strict化はいづれ主流となる事が理解されよう。